METビューイング ベッリーニ『夢遊病の娘』 (平成21年4月17日)
NYメトロポリタン歌劇場上演日:2009年3月21日
アミーナ : ナタリー・デッセイ
エルヴィーノ : ファン・ディエゴ・フローレス
ロドルフォ(伯爵) : ミケーレ・ベルトゥージ
リーザ : ジェニファー・ブラック
指揮 : エヴェリーノ・ピド
演出 : メアリー・ジマーマン
美術 : ダニエル・オストリング
衣装デザイン : マーラ・ブルーメンフェルド
振付 : ダニエル・ベルジク
照明 : T.J.カーンズ
メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱
メアリー・ジマーマンの新演出の初演がメトで2009年3月2日です。 そして6日、11日、14日、18日と続き、この映像を撮影したのが21日、そして24日、28日、4月3日と上演されています。
ナタリー・デッセイとファン・ディエゴ・フローレスのコンビは昨シーズンの「連隊の娘」でもお馴染みの二人です。
このオペラは1831年3月6日 ミラノのカルカーノ劇場で初演されています。 舞台は19世紀初頭のスイスのある村ですが、新演出の舞台は携帯電話も出てくる現代に設定されています。
第1幕のアミーナのアリアでは結婚式のドレスの仮縫い、靴選び、カツラ選び等をやりながら歌います。 コロラトゥーラ・ソプラノの曲ですから細かいパッセージが満載で,
カデンツといってより華やかに超絶技巧的に聴かせる部分がふんだんにあるのです。 ちょっと声がパサつくところもありましたが、あのように動き回りながら歌うなんてすごい!の一言に尽きます。
コーラスも様々な動きのある中、テンポが少し遅れ気味だったり、ずれて聞こえるところなどもあって気にならないわけではありませんでしたが、一人一人の顔の表情や自然な動きがこのオペラの雰囲気を盛り上げていました。
フローレスは艶やかで柔軟性のある声を絶妙に転がして惜しげもなく聴かせてくれました。 高音も果てしなく自在に伸びてすばらしかったです。
第2幕の始めの合唱は動きのない中で歌われたので美しいハーモニーを聴くことが出来ました。
アミーナの夢遊病の有名なアリアは舞台の板の一部分がオケピットまでせり出してきて不安定に見える中、歌われました。 夢の中という表情で声の至難の技を披露するのですからすごいですね! 彼女の苦しみが胸にしみわたり切なくなります。
ドラマはエルヴィーノの誤解が解けてハッピーエンドになるのですが、歌いながらも跳んだり回転したり踊ります。 ドレスも着替えたり、靴を履き替えたり、髪に花飾りをつけたりと大忙しです。 次の音の出だしまでにそれらが整わなかったりすると、デッセイが指揮者に「ちょっと待ってね」と合図を送り、休符にフェルマータをつけて待っていてもらい、その後OKサインを出して音楽続行なんていうシーンもありました。 フィナーレの最後もダンサーに抱えあげられた中で歌ったりでまるでサーカスの曲芸のようでした。 スリムな二人なので出来たのでしょうが、それでも歌のほうは狂いもせず圧巻でした。 最後になってしまいましたが伯爵(ロドルフォ)役のミケーレ・ペルトゥージのバスの深い品のある歌声にも感銘を受けました。 こういう実力の持ち主が脇でしっかり支えているところにレベルの高さがわかるというものです。
またデッセイと『夢遊病の娘』の全曲録音もしている指揮者ピドは、オケの音をベッリーニの流麗な旋律を余すとこなく表現しとてもいい演奏をしていました。 それぞれすばらしい歌手の持ち味を最大限に生かしつつ、あそこまで自由に演出して大変見ごたえのある舞台でした。
《次回の上映》 埼玉、千葉のMOVIX、東京の東劇、新宿ピアカデリーなど
平成21年5月30日(土)〜6月5日(金) ロッシーニ作曲 歌劇『ラ・チェネレントラ』
出 演 : E.ガランチャ、 L.ブラウンリーほか