METビユーイング  ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」
             
                                            メトロポリタン歌劇場上演日:2009年2月7日

  
  ルチア      アンナ・ネトレプコ
  エドガルド    ローランド・ヴィリャソン (体調不良のためピョートル・ペチャワが代役)
  エンリーコ    マリューシュ・クヴィエチェン
  ライモンド    イルダール・アブドラザコフ
  アリッサ     ミカエラ・マルテヌス
  アルトゥーロ   コリン・リー
  ノルマンノ    マイケル・マイヤース

  指揮       マルコ・アルミリアート
  演出       メアリー・ジマーマン
  美術       ダニエル・オストリング
  衣装デザイン  マーラ・ブルーメンフェルド
  照明       T.J.ガーケンズ
  振付       ダニエル・ペルジク

  メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団


ランメルモールのルチアと言えば誰でも「狂乱の場」を想いうかべると思いますが、それ以外にも真に迫った多くの場面と聴きどころ満載のオペラなのです。
ランメルモール地方の領主の実兄のエンリーコは妹ルチアをアルトゥーロ卿と政略結婚させようとします。 ところがルチアは政敵であるエドガルドに想いを寄せているのです。 ルチアとエドガルドの二重唱は許されぬ恋ですので、余計に切なく、愛の力は強くなります。エンリーコはルチアに政略結婚を迫り、強靭な面相と声でルチアを苦しめるのです。
エンリーコ役のマリューシュ・クヴィエチェンは演技、声ともにとてもすばらしかったです。エドガルドとエンリーコの「嵐の場」の二重唱はお互いに激しい言葉をぶつけ合って歌うため、省略されたり、すこしカットされたりして演奏されることが多いそうですが今回はノーカットで演奏されました。 歌手がそれだけ素晴らしい歌い手だからですね。
さてルチアはエドガルドとの手紙も全て取り上げられて、心変わりを示す偽りの手紙を読ませられ、強引に結婚が進められていきます。 愛するエドガルドと結ばれる幻想と厳しい現実の世界に精神を狂わせられて純白の花嫁衣裳を真っ赤に血で染めて現われます。 長大なアリア「狂乱の場」です。 コロラトゥーラの高度なテクニックを要します。しかし精神をおかしくしている訳ですから、歌うことに必死であってはならないのです。
ネトレプコは歌うことと演じることがピッタリと自然で音楽と共に流れていきます。余りの哀れさに私の目から涙を止めることはできませんでした。 ドラマの中にすっかり惹きこまれていました。
ルチアは自害し、真実を知ってエドガルドも死に至るわけです。
エドガルドのピョートル・ペチャワは代役にもかかわらず、張りのある情感のこもった声でよく歌っていましたが、最後のアリアでは所々疲れが見え、声がかすれる時もありました。 2日前にチャイコフスキーの「エフゲニ・オネーギン」の本番を歌い、急遽代役で主役を歌っているので、仕方ないでしょうね。
このほかにルチアの家庭教師ライモンドも出番は少なかったけれど品のある良い声で印象深く心に残りました。
幕間の休憩には去年ルチアを歌ったナタリー・デセイがインタビューします。 ネトレプコは男児出産後の舞台だそうです。 身体の戻りなどちょっと不安もあったそうです。 そういえばちょっとふっくらとした様に見えました。彼女の演奏はオーケストラが流暢に進んでいっても、急がずにとても丁寧にパッセージを歌っていました。 そのすこしのズレが狂ってしまったルチアを意図的に表現していたようにも感じました。
演出家のメアリー・ジマーマンはトニー賞を受賞しています。 今回もスコットランドに行き、モデルになっている実在の城を見てきて研究したそうです。幽霊が出てくる場面なども、実際行ったことによってイメージが膨らんだようです。 城や教会には独特の空気が漂っていますからね。
舞台装置も大掛かりでしたし、歌手もネトレプコは勿論のこと、男声陣もすばらしく、粒が揃っていて聴き応えのある作品に仕上がっていました。
NYでは1月26日、29日、2月3日、7日の4回この演目が上演されました。 約3時間半のオペラですから、どんなにかコンディションやモチベーションを保つのが大変かがわかりますね。 でもこの経験が作品へと生かされて、成長し、より磨かれたものを生み出していくのでしょう。


次回   第8作  プッチーニ《蝶々夫人》     MET上演 2009年3月7日
                         日本上演日2009年3月28日〜4月3日