〜サンデーサイレンスについての考察〜

Sunday Silence 
[父Halo・母Wishing Well] 1986年〜2004年 青鹿毛 米国産
3〜5歳時米国で走り、14戦9勝
ケンタッキーダービー(G1)、プリークネスS(G1)、BCクラシック(G1)、スーパーダービー(G1)、サンタアニタダービー(G1)、カリフォルニアンS(G1)

代表産駒
バブルガムフェロー(天皇賞・秋)、タヤスツヨシ(ダービー)、ジェニュイン(皐月賞)、ダンスインザダーク(菊花賞)、マーベラスサンデー(宝塚記念)、ダンスパートナー(オークス)、フジキセキ(朝日杯3歳S)、他G1馬多数

 種牡馬として数々の大記録を打ち立て、死後なおもその影響力の強いSS。あのノーザンテーストをも上回る種牡馬成績で近年の日本競馬界を席巻、2003年にはスティルインラブがメジロラモーヌ以来の牝馬三冠を達成した。

 血統を見る限り、決して一流馬の累代とは言えない。なのにあれだけの活躍産駒を輩出し、その子達も繁殖として一応の成功を収めている馬が多い。その秘密はどこにあるのか。その点を今後の競馬界を占う上で考察してみた。

 まず特筆すべき点は、近代競馬でスピードの源と言われるナスルーラ(Nasrullah)の血を持たないこと。その代わりを果たしているのが豊富に含まれるマムタズマハル(Mumtaz Mahal)とザ・テトラーク(The Tetrarch)と思われる。
 また、SS自身はマームード(Mahmoud)の4×5クロスを持つものの異系交配の形態のため、繁殖牝馬をランダムに配合しても不必要なクロスができにくい。
 さらに血統5代以前の比較的近い位置にハイペリオン(Hyperion)やネアルコ(Nearco)を持つので、これらがクロスしやすく近親交配になりにくい。

 以上のことから、基本的にスピード優位で日本的な馬場適性を持ち且つ仕上がりの早い産駒の出る確率が高いものと思われる。繁殖牝馬によってスプリンターからクラシックディスタンスをこなす馬まで多様な産駒を出せるものと思われる。
 実際、SS産駒はクラシックレースにもっぱら強く、中距離レースでのパフォーマンスが高い産駒が多い。2003年にはデュランダルが短距離G1を席巻したが、デュランダルはSSがオールラウンドな種牡馬である事を証明した1頭だと言える。

 ランダムに繁殖牝馬を配合した場合、母の父系にはノーザンダンサー(Northern Dancer)を含むことが多い。バブルガムフェロー、ダンスインザダーク、ジェニュイン、デュランダル、これらは母の父にノーザンダンサーを持ち、その累代であるアルマームード(Almahmoud)がSS側とクロスするためにその影響力を強くしている点で共通した産駒だと言える。
 かといってSSにノーザンダンサー系牝馬が最適なわけではなく、アルマームードがクロスした形態であってもその他の有効なクロスがなければ産駒の高い能力形成には至らないと思われる。新馬・未勝利・条件戦を勝ちあがる産駒は多くても、オープン級となると限られてくるし、ましてG1級ともなれば一流馬でなければ戦うことは難しいだろう。

 今までのところSS産駒の傑作名馬と言えるのはサイレンススズカだと思う。デビューが遅く、気性難であり、当初は順調なローテでレースを使えなかった点で同期のSS産駒には劣る。しかし旧4歳時に出走した天皇賞や暮れの香港国際Cで見せたスピードには従来のSS産駒にない非凡なものを感じた。その後の快進撃、そして悲劇の天皇賞まで、その圧倒的で華麗な逃げ切りに魅了されたファンは多いはずだ。その分、競走中止・予後不良となった時の悲しみも大きかった。是非種牡馬として活躍してもらいたかった。
 サイレンススズカの配合上の特徴は、アルマームードがクロスせず代わりにターントゥ(Turn-to)が4×5クロス、SS5代目にあるファラモンド(Pharamond)が母の7代目8代目で合計5頭クロスしていること。ファラモンドはスピード能力形成に加味されるだけでなく、父ファラリス(Phalaris)を通じてネアルコ(Nearco)とハイペリオンも同時にクロスするようになっている。加えて母が持つミスタープロスペクター(Mr. Prospector)、ネヴァーベンド(Never Bend)、テューダーミンストレル(Tudor Minstrel)などのスピード勢力も、ネアルコやハイペリオンを通じてターントゥのクロスに集まるような感じになっている。スタミナも、バックパサー(Buckpasser)の累代、マンノウォー(Man o'War)などがSSのHaloの累代に結びついている。
 こうしてみると、従来のSS産駒にないスピードとスタミナが組み込まれた血統がサイレンススズカのスピードの要素なのだろう。母の父がミスワキ(Miswaki)ということで多少の距離延長OKという見方もあるだろうが、実際はミスワキ自身の累代で強いクロスはないので、サイレンススズカ自身はマイル〜中距離を得意とする馬だったといえるし、実際の戦績からも明らかだ。

 大種牡馬サンデーサイレンスも世を去り、その後継として現在種牡馬入りしているSS直子がどこまで血統の枝葉を伸ばしていけるかに注目が移る。既に重賞勝ち馬を輩出した後継種牡馬もおり、活躍が期待されるが、残念ながら父を超えるほどの種牡馬成績を出せる子はいなさそうだ。というのは、大多数が母の父系にノーザンダンサーを含んでいるために、再びノーザンダンサー牝馬と配合すると無駄なクロス(=機能しないクロス)を持つ産駒が出てしまい、仕上がりが遅かったり日本的なスピードに欠けたり距離の融通性がなかったり、でダートの下級条件で頭打ちになるだろう可能性が高いからだ。従ってノーザンダンサーを含まない牝馬との配合を選択するのが第一と言える。後継種牡馬の中でもノーザンダンサー牝馬と配合してもそこそこの産駒を出せそうな種牡馬はいるので、リストアップしてみた。(ノーザンダンサーを含まないものに限定)

フジキセキ
→マンノウォーの血が多い反面、スピードの血が足りない。ハイペリオンやザ・テトラークの血を含む牝馬が望ましい

タヤスツヨシ
→マンノウォー、サーギャラハッド(Sir Gallahad)の血が多い。やはりスピードの血が不足しているのでブルーラークスパー(Blue Larkspur)やザ・テトラーク、テトラテマ(Tetratema)で補う形で

サンデーウェル
→競走成績はイマイチだったが、主要なスピードの血を含む牝馬であれば一発大物可能かも

エックスコンコルド
→スピードの血を比較的多く含むので、これを上手くクロスさせれば父の産駒に似たような産駒も十分可能

イシノサンデー
→スピードスタミナ兼備といえるが今一歩足りないので、スピードの血を強化する配合が望ましい

サクラケイザンオー
→スタミナの血が多い。ランダムに配合するとスピードに欠ける産駒が出る可能性が高いので、ハイペリオンやザ・テトラークで補給

メジロディザイヤー
→スピード色が強いが、カーレッド(Khaled)6×4を持つので気性難の産駒が出る可能性が。他はバランスよく血を含む

アドマイヤベガ
→母の母にノーザンダンサーを含むが、母の父トニービンでハイペリオンとナスルーラがクロスしているので、ハイペリオンやテディ(Teddy)を持つ牝馬を配合すればよりスピード色が強くなる。ただボールドルーラー(Bold Ruler)クロスを作ると同時にナスルーラがクロスするので避けた方がよいと思われる

キングオブダイヤ
→圧倒的にスピードの血が足りないので、当馬が持つブルーラークスパー、ハイペリオンは勿論、当馬にないターントゥの血が欲しい

ダイタクサージャン
→ハイペリオン、ザ・テトラーク、テディ、テトラテマのクロスを持つのでこれらを有効にクロスさせればスピード優位の産駒も

ビッグサンデー
→ゲインズボロー(Gainsborough)が優位のSS産駒としては珍しい形態。主要なスピードの血の他にターントゥクロスを作れば

フジサンデーズサン
→名牝ソシアルバターフライの系統。主要な血が世代後退しており、マームード、ブルーラークスパー、ハイペリオンをクロスさせることが課題。加えてターントゥ、ジェベル(Djebel)を含む牝馬なら

マキシムトライ
→ターントゥの力が強い形態。ザ・テトラークとテトラテマが8代目にあるためターントゥとハイペリオンクロスさせたいところ。ナスルーラクロスを作ると気性難の産駒の可能性が

 こうしてみると、SSの代表的な産駒はフジキセキなど僅かに限られる。ということは他の活躍産駒にはノーザンダンサー系牝馬が配合されていて、相手を非常に選んでしまう種牡馬が多いと言える。
 リストにない中でダンスインザダークはSS後継種牡馬でも成功している部類にはいるが、アルマームードの影響力をブルーラークスパーとマームードでぼかしている感じで、色々な有効クロスが前面にあることが要因の一つと思われる。ただどの影響が一番なのか不明瞭なので、産駒は勝ち味に遅く、気性難を抱え、ムラっ気のある産駒になりがちと思われる。ただ比較的距離の融通性があるためザッツザプレンティのような産駒が出たり、牝馬次第ではダートで活躍する産駒も多そうだ。

 リストアップした種牡馬にはノーザンダンサー系牝馬を配合してもそこそこ走るだろうが、父同様に大物を出せるとは思えない。母の父として選ぶならグロースタークやダンディルートが良いだろう。
 しかしながら、グロースターク自身、産次が進んでしまって最近の繁殖牝馬でも89年生まれのブルークリークレディ。全兄弟のヒズマジェスティ(His Majesty)でも良いが繁殖に上がった牝馬が少ないようだ。ダンディルートの場合81年生まれの繁殖が最後。今も繋養されている繁殖牝馬数はかなり少ないか、既に引退している可能性がある。
 ならばその系統を引く子たち、ダンディルート系ならトウショウペガサス、ビゼンニシキを父に持ち且つノーザンダンサーを含まない牝馬が良い。グロースターク系では、調べた限りでは2代後退するがジムフレンチの子バンブーアトラスが最適か。

 いずれにしろ父サンデーサイレンス自身がマイナーな異系交配だったように、成功を収めるには例えマイナーな血であっても、極端なクロスを作らずに次代に繋げる意味で最適な配合相手を選ばなければいずれSS系も衰退してしまう。

 SSが大成功した背景には、ノーザンダンサー系牝馬との配合数に恵まれていた背景があったことを忘れてはいけないだろう。そして真に優秀な配合は非ノーザンダンサー系牝馬との配合で、それが次代に繋がるものであるということも。

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