日本における高霊地域加耶土器の出土傾向

－日韓古墳編年の並行関係と暦年代－

出典：熊本古墳研究創刊号，熊本古墳研究会，81-102（2003）

暦年代3部作の第2弾

はじめに

韓国慶尚北道高霊地域は，朝鮮三国時代における「大加耶」の本拠地として知られている。高霊を中心とし，大加耶の勢力伸張に伴って分布する特徴的な土器を，本稿では高霊地域加耶土器と呼ぶ。

高霊地域加耶土器は，日本にも少なからずもたらされており，倭と大加耶の関係を示す重要資料として注目され，定森秀夫〔1989〕による集成や考察が公にされている。

一方，韓国諸地域に由来する土器の日本における出土傾向を検討してきた筆者は，由来地・出土地をそれぞれ小地域に細分し，個別事例について所属時期も細かく区分することで，由来地・出土地・年代ごとの興味深い傾向が導き出せること，それが小地域間の複雑な交渉関係とその変化を如実に表しているであろうことを知った〔2000；2001；2002〕。しかるに，高霊地域加耶土器の細別編年や，日本の古墳編年との対比，日本出土高霊地域加耶土器の型式比定などは，必ずしも周知されているとは言いがたい。

そこで本稿では，2つの問題を論ずる。

まず，1章では先学の研究成果を踏まえて，高霊地域加耶土器の編年を行い，新羅土器・百済土器・馬具・須恵器との並行関係を調べ，さらに暦年代を比定する。

次に，2章では日本列島における高霊地域加耶土器の型式比定を通じて出土傾向を読み取り，その背景を考察する。

これによって，筆者の旧稿の不備を補うとともに日本出土高霊地域加耶土器の意義を再確認することとなろう。

1.高霊地域加耶土器の編年

土器編年について，筆者は，供膳器種のような不可欠かつ大量生産される器種の基本成形技法が，生産組織の状況を反映すると考え，供膳器種の成形技法の変化と主要器種の消長によってI・II・IIIのように大別し，これを細部の形態変化や各器種の器形によってA・B・Cのように細別する。個体では細分しにくいが土器群としては器種・属性間の比率・組み合わせに時期差が反映される場合，細別時期をさらに古段階・新段階のように区分する。

器種の名称のうち，有蓋とは口径より径の大きな受部をもつ形態とし，無蓋とは有蓋に対比される細別器種に用いる。スカシの名称のうち，器面を切開する技法によるものを透窓，器面を刺突する技法によるものを透孔と呼び分ける〔趙栄済1988：255〕。

なお，新羅土器・加耶土器の分立以前のいわゆる「古式陶質土器」については，金海・釜山地域を中心にこれを再構成した申敬澈〔2000〕の金官加耶土器編年がもっとも充実しているが，当面問題とする金官加耶VI段階は基本的に宋桂鉉・安在晧〔1986〕の古式陶質土器IIIb段階に対応している。本稿では，広域対比を考慮した後者の段階設定をひとまず利用して「古式IIIb段階」とし，再検討は将来に譲る。新羅土器の編年はかつて概略を提示した〔2000〕が，今後詳述の予定である〔2003c〕。ソウル地域の百済土器については以前提示した編年〔1992〕を，馬具については最近提示した編年〔2003a〕を，それぞれ用いる。

1) 時期区分

大加耶の本拠地とみなされる高霊郡でも，特に池山洞古墳群が王陵群と考えられ，大加耶の古墳編年は池山洞古墳群を基軸としていた。禹枝南〔1987〕，定森秀夫〔1987〕，藤井和夫〔1990〕は，池山洞32・33・34・35号墳を古く，44・45号墳を新しく位置づけ，これがその後の研究の基礎となった。一方，慶尚南道陜川郡は三国時代「多羅」の領域と考えられているが，陜川の古墳は高霊地域の影響を強く受けていたため，早くから定森〔1987〕は池山洞45号墳以降の編年を繋ぐものとして着目し，藤井〔1988〕や高正龍〔1996〕も陜川三嘉古墳群の編年案を提示して池山洞古墳群の編年と対比していた。

陜川玉田古墳群の調査が進展すると，李煕濬〔1994〕は，池山洞32～35号墳と44・45号墳の間にかなり時期差があり，この空白に陜川玉田M3号墳など他地域の古墳が該当すると指摘した。さらに趙栄済〔1996〕が玉田古墳群の編年案を提示し，朴天秀〔1998a〕も李煕濬と同様の観点から，広域編年に有効な高杯形器台・筒形器台・鐙によって編年案を提示し，他地域との並行関係について試案を示した。

これらの研究成果に対し，金斗喆〔2001〕が批判的検討を加えているが，方法論や暦年代論に異を唱えるものの，相対編年においては大筋で一致している。

池山洞古墳群の編年上の空白は，最近の発掘調査によって一部埋められ，編年案も提示された〔慶尚北道文化財研究院2000〕。

以上のような研究成果を参考にしつつ，次に高霊地域加耶土器の編年案を提示する。高霊において良好な標式資料を欠く時期は陜川などの資料で補う場合もあるが，歴史的評価を内蔵した「大加耶」といった表現はひとまず避け，「高霊I期」などと表現する。

高霊地域の供膳器種として特徴的で，かつ変化のわかりやすいものが蓋である。高霊地域の蓋には，ボタン形のつまみの中央が上に突出するものが見られ，これを「高霊A型つまみ」と呼ぶことにする（図1-1,2）。高霊A型つまみをもつ蓋は，天井部と口縁部の境で横に突出する稜をなす。このような蓋が，古式IIIb段階の各地の土器様相から選択され，さらに独自の器種を加えることにより，高霊地域加耶土器が成立したと考えられる。

高霊地域加耶土器の蓋の断面形態は3種あり，成形技法の変化による違いと捉えられる。伴う杯・高杯やほかの器種の形態もある程度対応しており，これによって3期に大別する。

高霊I期は蓋天井部が平坦部と傾斜部からなり，稜が強く突出し，口縁部が直立する。

高霊II期は蓋天井部が全体に曲線的で，稜が突出し，口縁部が外傾する。

高霊III期は蓋天井部が直線的で，稜の代わりに沈線をめぐらす。

各時期は，器形の細部変化やほかの器種の型式変化によって細分できる。

高霊I期（図2）蓋天井部が平坦部と傾斜部からなり，特に傾斜部の器壁が厚い。口縁部は長く直立することが多い。蓋のつまみには高霊A型と倒脚形（図2-10など）がある。高霊A型つまみは頂部がわずかに突出する程度の場合が多い。これに伴う高杯には3段構成2段透窓高杯（図2-11など）・2段構成2段透窓高杯（図2-5）と2段構成1段透窓高杯（図2-25）があり，器高が高く，特に1段透窓高杯の場合は透窓が細い長方形となる。1段透窓高杯は口縁部が外反するものが多い。高霊I期の2段構成1段透窓高杯を，特に「長脚1段透窓高杯」と呼んでおく。

高霊I期は高霊地域加耶土器の特徴的な器種構成が完成する途上にあり，その度合いによって細分できる。古式IIIb段階に共通する部分があり，広口長頸壺（図2-7）は存在するが，内傾口縁をもつ「緊縛頸部」長頸壺（図2-23など）が存在しない高霊IA期，緊縛頸部長頸壺や大型の筒形器台が登場するが供膳器種が出揃っていない高霊IB期，供膳器種も完成する高霊IC期である。これは高杯脚部の形態変化に対応している。すなわち，高霊IA期では定型化せず，脚の最下段まで透窓が設けられる場合もある（図2-5）。3段構成脚部の高杯をみると，高霊IA期は上2段が特に細く，最下段で強く開く。高霊IB期以降，脚部がほぼ定型化するが，高霊IB期の方が細く長く，高霊IC期の方が太く短い。

高霊IA期の典型例は，玉田23号墳（図2-1～8）である。高霊地域の首長墓に適当な例を欠く。供膳器種を除くと高霊地域の独自性はまだ乏しく，緊縛頸部長頸壺は確実には存在しない。玉田23号墳では新羅IB期の高杯（図2-2）を伴う。このほか，高霊快賓洞1号墳は，朴天秀が着目したとおり，玉田23号墳より遡る様相を示すが，供膳器種に乏しく，前後の時期と対比できないので，時期設定を保留する。

高霊IB期の典型例は，池山洞35号墳（図2-12～16），玉田28号墳（図2-9～11,17～24），池山洞28号石槨墓である。この時期に登場する大型の筒形器台は朴天秀の1類である。

高霊IC期の典型例は，池山洞32号墳石室（図2-28～40），33号墳（図2-25～27），1号石槨墓，玉田M2号墳である。池山洞32号墳では新羅IIA期新段階の高杯（図2-29）や横矧板鋲留短甲が出土している。

高霊II類（図3）天井部の平坦部と傾斜部の境界が不明瞭で，天井部全体が丸みを帯び，口縁部は短く外傾する。高杯に伴う蓋の多くは高霊A型つまみとなり，倒脚形つまみは短頸壺の蓋以外にほとんど見られなくなる。高霊A型つまみは頂部が明瞭に突出するようになり，時期が下るほど強く突出する。これとは別に，基部と中ほどでややくびれる円柱形のつまみも登場する。これを「高霊B型つまみ」と仮称する（図1-3）。高霊A型つまみは装飾の多い蓋につけられ，高杯に伴うが，高霊B型つまみは装飾の乏しい蓋に付けられ，伴う杯は脚を持たないことが多い。供膳器種が分化していることが窺われる。高杯は3段構成2段透窓高杯が高霊I期のものを継承し，1段透窓高杯は高霊IC期と同様の長脚1段透窓高杯も残るが，高霊IIC期以降，3段構成2段透窓高杯から1段を省略した形態の2段構成1段透窓高杯（図3-39など）が登場し，以後，増加する。これを特に「短脚1段透窓高杯」と呼ぶ。

高霊II期には長頸壺の体部長が口頸部の長さ程度となり，肩の張りも緩くなる。把手付鉢は平底になり，口縁部に段をなす。大型の筒形器台は朴天秀の2類が伴う。

高霊II期の器形変化は漸移的であるが，器種構成と細部の器形変化で細分する。供膳器種の口径が小さく，蓋の稜や高杯の受部の突出が強く，高杯形器台の脚基部がくびれを失った高霊IIA期，供膳器種の口径が最大となり，高杯形器台の基部が太くなる高霊IIB期，供膳器種の口径が再び縮小し，蓋の稜や高杯の受部の突出が弱く，短脚1段透窓高杯や，短脚の高杯形器台が登場する高霊IIC期である。

高霊IIA期の典型例は玉田72号墳（図3-1～8）である。首長墓に例を欠く。

高霊IIB期は，中頸壺の存否と高杯形器台の無紋化傾向によって，さらに2分される。すなわち，中頸壺が見られず，高杯形器台の無紋化が始まらない高霊IIB期古段階と，中頸壺（図3-25）が登場し，無紋化した高杯形器台を含み始める高霊IIB期新段階である。

高霊IIB期古段階の典型例は玉田M3号墳（図3-9～18），咸陽白川里1-3号墳である。南原月山里M-1号墳はこの段階の古い部分に属すであろう。

高霊IIB期新段階の典型例は池山洞44号墳（図3-22～28），玉田M7号墳（図3-19～21）である。池山洞12号土壙墓では，中型筒形器台に蓋杯を載せたことがわかる。

高霊IIC期の典型例は池山洞45号墳（図3-33,34,36,37,41～47,49），玉田M6号墳（図3-29,30,35,38,39），玉田M4号墳（図3-31,32,40,48）である。高杯や把手付鉢の脚最下段が中ぶくらみになる例がある。高杯形器台は衰退し始め，短脚の高杯形器台（図3-47）が登場するが，旧来の器形も存続している（図3-48）。短脚1段透窓有蓋高杯（図3-39）が登場する。全体に簡略化が始まっている。

高霊III期（図4）蓋の天井部が丸みを失った時期である。高霊A型つまみは頂部の突出が大きい「山高帽状つまみ」（図1-2）〔定森秀夫1987：436〕となり，主に短脚1段透窓有蓋高杯に伴う。2段透窓有蓋高杯は稀となる。一方，高霊B型つまみをもつ蓋も天井部が平坦となり，扁平な杯を伴う。長頸壺は体部が口頸部と同程度か，より小さくなり，なで肩となる。小型の長頸壺（図4-8）は中型の筒形器台（図4-9）に載せられることが多く，やがて一体化して台付長頸壺（図4-22）となる。このほか，多くの器種に小型化と装飾の退化が認められる。大型筒形器台は朴天秀の3類である。

高霊III期は蓋の天井部に傾斜を残す高霊IIIA期と，完全に平坦な高霊IIIB期に細分できる。

高霊IIIA期の典型例は三嘉1号墳A遺構（図4-3～6,10,11），玉田80号墳（図4-1,2,7～9），陜川磻渓堤タA号墳，タB号墳主槨である。池山洞47号墳（旧高霊主山39号墳）もこの時期に位置づけられ，2段透窓高杯・1段透窓高杯が存続していることがわかる。ソウル夢村土城87-2号住居跡で高霊IIIA期の蓋が出土しており，夢村III式と高霊IIIA期の並行関係が想定できる。固城栗垈里2号墳では固城地域加耶土器とともに高霊IIIA期の蓋，新羅IIC期中段階～新段階の高杯が出土しており，高霊IIIA期が新羅IIC期中段階～新段階のある時期と並行することがわかる。

高霊IIIB期の典型例は，陜川苧浦里D地区I-1号墳（図4-16,17,25），玉田78号墳（図4-14,15,18,19），晋州水精峯2号墳（図4-12,13,22），玉峯7号墳（図4-20,21,23,24,26）である。高霊III期にも首長墓で長脚の高杯形器台（図4-26）を用いていたことがわかる。

高霊IIIB期ののち，加耶の各地では新羅の墓制や土器が受け容れられる。

まず，池山洞古墳群で伝統的に用いられた狭長な竪穴式石槨の出土土器を見ると，36号石槨墓からは新羅IIIB期でも新しい様相を示す新羅土器高杯・蓋2組が出土している。47号石槨墓では2度の埋葬が確認され，1次屍床で高霊IIIA期，2次屍床で新羅IIIC期の土器が出土している。大破している56号石槨墓では新羅IIIC期古段階の土器が出土している。67号石槨墓では1次石槨から高霊II期と思われる長頸壺，2次石槨から新羅IIIC期古段階の土器が出土している。72号石槨墓では竪穴式石槨の壁材を一部利用して横口式石室を作っており，竪穴式石槨は高霊III期，横口式石室は新羅IIIC期古段階の土器を出土している。80号石槨墓は新羅IIIC期である。一方，横穴式石室はいずれも新羅IIIC期古段階以降で，新羅IIIC期のものがもっとも多く，以後も少数ながら7世紀後半まで造営される。

三嘉古墳群でも古墳群が継続しつつ新羅土器に転換する〔高正龍1996〕が，新羅土器は，三嘉9号墳A遺構のみ新羅IIIB期で，ほかの新羅土器は新羅IIIC期古段階・新段階である。陜川倉里古墳群では移行期に狭長な竪穴式石槨で高霊地域加耶土器と新羅土器が共伴する場合，倉里A80号墳のように，高霊IIIB期と新羅IIIB期の土器が伴出しており，新羅IIIC期を初葬とする場合は高霊地域加耶土器が出土せず，主体部の構造も横穴式石室である。

さらに，東海湫岩洞B地区古墳群では，新羅土器を出土する古墳群でありながら，新羅IIIB期の遺構は少なく，代わってカ-34号墳，カ-38号墳，カ-44号墳などで高霊IIIB期ごろの高霊地域加耶土器を出す石槨墓が営まれ，さらに，新羅IIIC期以降の新羅土器を用いる追葬が行われる。一時的に加耶土器が出土する事情は別に考察を要するが，編年の手がかりになる。

以上より，高霊IIIB期と新羅IIIB期がほぼ並行し，新羅IIIC期がこれに後続する。

本稿の編年を定森秀夫，朴天秀の編年と対比し，主要な古墳を挙げた（表1）。

2) 須恵器との並行関係

高霊IA期に属する玉田23号墳や玉田68号墳では鐙I期〔白井克也2003a〕を特徴づける短柄の木心鉄板張輪鐙を出土し，玉田68号墳では日本製とみられる三角板革綴短甲と伴出している。これは，日本に古式の鐙が出現する滋賀県栗東市・新開1号墳などの様相に近く，高霊IA期に並行する新羅IB期の釜山福泉洞10・11号墳はこれまでも新開1号墳などに対比されてきた。高霊IA期は須恵器TK73型式に並行するであろう。

高霊IB期の玉田28号墳，高霊IC期の池山洞32号墳では，日本製と思われる横矧板鋲留短甲が出土している。鋲留技法の導入からある程度の期間を経たものである。ここから，高霊IB期・高霊IC期を須恵器TK216型式・TK208型式と並行させることができよう。

また，高霊IC期は加耶の馬具が新羅の馬具秩序から独自性を示す鐙IIIA期に当たり，日本におけるTK208型式期の新たな馬具様相に対応する。高霊IC期の中でも新しい様相を示す陜川鳳渓里20号墳では，TK208～TK23型式に相当する須恵器の高杯が出土している〔酒井清治1993：907〕。後に述べる愛媛県の例（図5-2,3）からも，高霊IC期とTK208型式がある程度重なっていたと考えられる。

高霊IIA期は，f字形鏡板付轡が確認され始める時期であり，鐙IIIB期に当たる。公州宋山里古墳群の出土例〔伊藤秋男1979〕は百済の熊津時代前半と推定され，5世紀後葉ごろと考えられる。馬具の様相からみて，須恵器TK23型式に相当する時期であろう。日本に百済土器が出土するTK23型式期が熊津遷都（475年）直後とみなされることとも整合性がある〔白井克也2000；2001〕。

高霊IIB期には日本の編年と直接対比できる資料は限られているが，埼玉県行田市・埼玉稲荷山古墳のくびれ部で出土したTK47型式の須恵器と礫槨出土の馬具には年代上の齟齬がない〔宮代栄一1996〕。稲荷山古墳の馬具は鐙IIIB期の様相に近く，特に高霊IIB期古段階の玉田M3号墳に対比されている。両墳の馬具の型式学的関係については宮代栄一と金斗喆〔1996；1998〕の論争があるが，さほど遠い時期には置けまい。高霊IIB期とTK47型式期は近い時期であろう。

高霊IIC期には，鐙IIIB期から鐙IV期の馬具が副葬され，池山洞45号墳や玉田M4号墳などでは心葉形杏葉が用いられるようになる。心葉形杏葉は，慶州など新羅に多かったが，鐙IV期に加耶諸地域に登場するものは横楕円形に近く多鋲化が進んだ心葉形4式で，忍冬楕円紋のような新しい紋様を含んでいる〔白井克也2003a〕。この様相は，MT15型式期の日本に登場する心葉形杏葉の内容に一致している〔岡安光彦1988：54；内山敏行1996：43-44〕。後に述べる物見櫓古墳の出土例（図5-8,9）からも高霊IIC期は須恵器MT15型式に並行するであろう。

高霊III期の遺物は慶尚南道西南部で在地の固城地域加耶土器や新羅土器と共伴する。これは，慶尚南道金海市の「金官国」が532年に新羅に投降し，新羅の勢力が南海岸沿いに西進して以後の様相である〔白井克也2000〕。また，高霊IIIA期は百済の夢村III式と一部並行するが，夢村III式の下限は，漢江下流域に新羅が進出する550年ごろであろう。これにより高霊IIIA期はほぼ金官国投降（532年）から新羅のソウル進出（550年）の間と考えられる。この期間に収まる新羅IIIA期の土器は，福岡市西区・金武古墳群吉武L-8号墳や福岡県久留米市・権現塚古墳の出土例から，TK10型式に並行すると考えられ〔白井克也2002〕，これを媒介に，高霊IIIA期も須恵器TK10型式に並行するであろう。

高霊IIIB期は加耶滅亡直前に当たり，下限は562年である。加耶滅亡直後に位置づけられる新羅IIIC期の土器は，日本では福岡市早良区・山崎古墳群C-1号墳の例に見るように須恵器TK43型式以降に伴う。また，須恵器TK209型式期には，山口県豊浦郡豊浦町・心光寺2号墳で新羅IIIC期新段階の土器が，京都市右京区・大覚寺3号墳で新羅VA期の土器が伴っており，ここから新羅IIIC期，特に古段階は須恵器TK43型式に並行すると考えられる。さらに遡る高霊IIIB期はほぼ須恵器MT85型式に並行すると考えられ，後述する鬼の枕古墳の出土例（図5-21,22）も整合する。

以上より，高霊IA期は須恵器TK73型式に，高霊IB期は須恵器TK216型式に，高霊IC期は須恵器TK208型式に，高霊IIA期は須恵器TK23型式に，高霊IIB期は須恵器TK23～TK47型式に，高霊IIC期は須恵器MT15型式に，高霊IIIA期は須恵器TK10型式に，高霊IIIB段階は須恵器MT85型式に，それぞれほぼ並行する。

韓国諸地域の土器編年・馬具編年・暦年代も含めた並行関係を表に示す（表2）。

2.日本における高霊地域加耶土器

1) 型式比定

高霊I期 愛媛県今治市・唐子台No.80古墳の出土遺物のうち高杯（図5-2,3）は，受部に対応する内面がゆったりしていることや，脚部が細いことなどが，高霊IC期の様相を示すが，完全に一致する例はない。同一器形の2点が同一地点で出土した例は希少であり，舶載後に2次移動した可能性は小さい。伴う𤭯は須恵器TK208型式に相当する。高霊IC期とTK208型式の接点を示す例である。

近隣に位置する愛媛県越智郡朝倉村・樹之本古墳の周溝から高霊IB期ごろの長頸壺が出土している（図5-1）。古墳は前方後円墳集成の7期に位置づけられる〔岡田敏彦2001：16〕。

大阪府泉南郡岬町・西小山古墳で出土した長頸壺口頸部（図5-4）は墳頂に置かれていたものと推定されている〔定森秀夫1989：34〕。直線的な頸部は高霊IB期～IC期に該当する。古墳は前方後円墳集成の7期ころに相当するであろう。

さらに，和歌山県和歌山市・六十谷大同寺遺跡で出土した陶質土器5件のうち，台付把手壺・脚付壺は高霊地域加耶土器と思われ（図5-5～7），把手付広口小壺（図6-3）もその可能性がある。年代を決めにくいものばかりであるが，広口小壺の祭祀は古い時期に多いこと，脚付壺の蓋の形態や体部紋様などからみて，高霊I期の範囲で捉えられる。ともに出土した両耳付壺（図6-1,2）が馬韓土器であるなら，これは5世紀後葉までに終了する器種なので，整合性がある〔白井克也2001；朴天秀2001a〕。

なお，西小山古墳が所在する大阪府泉南郡岬町と六十谷大同寺遺跡が所在する和歌山県和歌山市は至近の距離にある。

以上，高霊I期の例は，愛媛県今治平野と和泉・紀伊地域という限られた地域で，しかも前方後円墳集成の7期に相当する限られた時期のものである。いずれも古墳と関わり，墳丘上や周溝における祭祀に利用されたと考えられる点も興味深い。

高霊IIA期・高霊IIB期 この時期の確実な高霊地域加耶土器は日本では出土していない。

高霊IIC期 熊本県八代郡竜北町・物見櫓古墳（MT15型式）では，高霊地域加耶土器の把手付有蓋鉢や無蓋高杯口縁部破片（図5-8,9）と，加耶の金製垂飾付耳飾が出土している。中原幹彦・今田治代は，ここで出土した高霊地域加耶土器のうち無蓋高杯（図5-8）に着目し，高霊IIC期の玉田M6号墳（図3-35）に対比した〔中原幹彦・今田治代2001：123〕。無蓋高杯の杯部と有蓋高杯の蓋は型式学的に並行するので，この無蓋高杯は高霊IIC期に位置づけられ，中原・今田の見解は追認できる。

福岡市早良区・吉武遺跡群第4次調査（飯盛遺跡圃場整備3次調査）石祠内出土の長頸壺口縁部（図5-10）は，緊縛頸部が曲線的で，頸部上端の突出が強いこと，肩が丸いが，頸部との境界で明瞭に折れることから，高霊IIC期を中心とする時期に位置づけられる。

このほか，愛媛県松山市・松山市考古館所蔵（小野小学校旧蔵）の長頸壺（図5-11）は近隣の群集墳・播磨塚古墳群との関係が推定されている〔定森秀夫1989：28-30〕が，別の所伝もあるらしい〔常盤茂1991：70〕。器形からは高霊II期，特に体部が小さくなって平底気味なので高霊IIC期ころであろう。

神戸市東灘区・郡家遺跡城の前地区第24次調査の流路2で出土した杯（図5-12）について，定森は共伴資料によって5世紀後半に位置づけた〔2002：214,248〕。確かに共伴資料として示された土器は古手の印象を受けるものの，近隣の竪穴住居跡SB05がL字形の煙道をもつ竃を備え，須恵器MT15型式に該当することは見逃せない。また，この杯は，丸底であるが受部が退化していることや，口径などから，高霊IIC期の特徴を備えている。6世紀にこの地に居住した渡来人の所用の品と考えられる。

山形県山形市・東金井出土と伝える短脚高杯・蓋（図5-13,14）について，定森は陜川地域に由来する6世紀前葉ごろとした〔1993：48-50〕が，その後，「大加耶滅亡という政治的動向を重視」して6世紀中葉に位置づけた〔2002：218,252〕。しかし，定森が類例として挙げる磻渓堤カ12号墳などでは，いずれも伝東金井出土例より杯・蓋が平坦化しており，対比できない。伝東金井出土例は高杯・蓋とも高霊II期の形態であり，玉田M4号墳の類例（図3-31,32）がよく似ている。玉田M4号墳は高霊IIC期であり，伝東金井出土例も高霊IIC期に位置づけられる。

高霊IIIA期 福岡県宗像市・池浦古墳出土の高杯（図5-15）は，杯底部が平らで受部の突出が弱いので高霊III期の様相である。短脚1段透窓高杯は高霊IIC期以降に多く，また，脚最下段が断面凸レンズ状になるのも新しい傾向である。高霊IIIA期の1段透窓有蓋高杯は好例を欠くが，型式学的に考えると，本例のように脚が屈曲しているものは高霊IIIA期に相当しよう。

愛媛県越智郡朝倉村・城ケ谷古墳で出土したと伝えられる高杯・蓋（図5-17,18）は，蓋の天井部に丸みがないが深みは残し，天井部周縁の稜は上下の沈線によって作り出されている。つまみは完全に「山高帽状」である。高杯は杯部が浅く，脚部が直線的に開く短脚1段透窓高杯である。全体に，高霊IIIA期の特徴を示す。

島根県浜田市・森ケ曽根古墳で円形透窓をもつ小型筒形器台の破片（図5-16）が出土している。この器台自体で時期を比定するのは難しいが，出土した須恵器のいずれかに伴うと考えるならば，初葬時のTK10型式期以外は高霊地域加耶土器の存続年代に重ならない。したがって，須恵器TK10型式に相当するものであり，高霊IIIA期前後であろう。

滋賀県坂田郡米原町・入江内湖遺跡では高霊地域加耶土器の蓋と長頸壺（図5-19,20），さらに固城地域加耶土器の高杯（図6-8）が出土している。蓋は稜が沈線で作り出されるが天井部が傾斜しているので高霊IIIA期に該当し，長頸壺は高霊IIC期からIIIA期にかけて見られるものである。高杯は慶尚南道西南部に分布する固城地域加耶土器で，口縁部が内傾して短く鈍くなっていることや，脚端が外反気味であるが脚全体は曲線的に開くことから，高霊IIIA期に並行するものとみなされる。高霊III期には慶尚南道西南部の晋州市・固城郡などで，在地の固城地域加耶土器に高霊地域加耶土器が共伴する。したがって入江内湖遺跡における共伴例は，高霊IIIA期の慶尚南道西南部の土器様相に対応する。

岐阜県岐阜市・権現山古墳で明治時代に採集された壺（図5-21）は体部が小さく上底になっているが受部が突出するので高霊IIIA期であろう。

高霊IIIB期 福岡市西区・吉武遺跡群で出土した長頸壺〔足立区立郷土博物館（編）2000：16〕は小型のものであるが，特に体部が小さく肩が張らなくなっており，口縁部の屈折部分は鈍くなっている。高霊III期，特に高霊IIIB期の可能性が高い。

福岡県甘木市・鬼の枕古墳はTK10型式期に造営が始まり，MT85型式期以降に埋葬された前方後円墳である。墳丘周辺の祭祀に用いられた高霊IIIB期の高杯・蓋（図5-22,23）が出土している〔白井克也2003b〕。

富山県富山市・伝福居古墳出土の台付長頸壺（図5-24）は，肩が張らないことや，長頸壺と筒形器台が一体化した器形，口縁部が短く内傾することなどから高霊IIIB期に位置づけられる。

そのほかの事例 愛媛県東宇和郡宇和町・伝伊勢山大塚出土の長頸壺口縁部破片は，高霊地域の長頸壺を日本で模倣したものとされているが，年代を細かく限定できない。

また，旧稿で福岡県宗像郡津屋崎町・奴山正園古墳（奴山5号墳）で出土した高杯形器台や，同県小郡市・津古片曽葉1号墳周辺で出土した小壺を高霊地域加耶土器とした〔2000：100〕が，生産地や系譜を確言できないので，本稿では取り上げない。

さらに，定森によって陜川地域に由来すると指摘された短頸壺がいくつかあるが，年代を限定しにくいものが多く，また論旨に影響ないので，ここでは省く。

以上，可能性のあるものも含めて，日本出土の高霊地域加耶土器を時期別に概観した（表3）。

2) 出土傾向とその意義

2つの集中期 細分した編年案に照らすことにより，日本出土の高霊地域加耶土器には高霊IB期～IC期（須恵器TK216～TK208型式に並行）と高霊IIC期～IIIB期（須恵器MT15～MT85型式に並行）という2度の集中期が見出されたので，以下，それぞれ第1集中期・第2集中期と呼ぶことにする。

第1集中期には愛媛県今治地域と泉南・和歌山市域というきわめて限られた地域に出土し，第2集中期には全国に及ぶ。第1集中期では，古墳の祭祀に用いられ，第2集中期では集落の出土例が加わる。また，2度とも愛媛県今治市・越智郡地域（令制における伊予国越智郡）に分布することは興味深い。

首長墓系列 高霊地域加耶土器の出土傾向とともに，今後の検討を要する問題として，地域における首長墓系列との関連性がある。第2集中期における物見櫓古墳，鬼の枕古墳は，いずれも直前の首長墓系列が明確でない。さらに，伝城ケ谷古墳出土例は高霊IIIA期に比定されるが，対応する須恵器TK10型式期，今治地域には前方後円墳の越智郡朝倉村・鹿の子4号墳が営まれる。やはり，直前の首長墓は明確でなく，先の樹之本古墳以来の首長墓とみなされ，興味深い。新たな首長墓系列の登場と，高霊地域との交渉に何らかの関連があったのであろう。特に今治地域の場合，第2集中期のもつ特性に今治地域の個性が交差しており，第1集中期の樹之本古墳もその前後の首長墓系列が明らかでない。

百済土器との対比 朴天秀は須恵器MT15型式期ごろの日本出土朝鮮半島系遺物に高霊系から百済系への転換を指摘している〔1998b：111-113〕。しかし，そこで典型例として挙げられた熊本県玉名郡菊水町・江田船山古墳を除けば，百済系への大規模な転換を認めることはできない。土器資料についていえば，百済土器はむしろTK23型式期を中心とする時期，つまり高霊地域加耶土器の2つの集中期の間の時期に目立つ。佐賀県神埼郡神埼町・野田遺跡大溝SD102や福岡県三井郡大刀洗町・西森田遺跡3号溝で出土した百済土器は，当該集落における渡来者の存在を想定させるが，いずれの地でも直前時期に各由来地の陶質土器が出土しておらず，搬入実績のない由来地の陶質土器が，ほかの由来地の陶質土器を前段階に受け入れた実績のない地域に搬入されるという現象の例とみなすことができる。

馬韓・新羅土器との対比 高霊地域加耶土器の第2集中期には，馬韓土器とみなされる鳥足紋土器が畿内地域でみられなくなり，北部九州の古墳に散見されるようになる〔白井克也2001〕。さらに，それまで対馬・九州地域には少なかった新羅土器が北部九州にみられ，一部が兵庫・京都・和歌山・愛知に及んでいる〔白井克也2000；2002〕。

多沙津貿易 第2集中期の日本における高霊地域・馬韓・新羅土器の分布は，北部九州の糸島・早良地域で重なっている。また，由来地の異なる3者は朝鮮半島においても蟾津江河口地域に接点を持っている。このことから筆者は，蟾津江河口の「多沙津」を交易地とする「多沙津貿易」に糸島・早良地域の首長が関与し，交易品を日本各地に再流通させたと考えた〔2002〕。その際，貿易の相手として能動的であったのは，列島内の首長墓系列の変動に関わりのある高霊地域（大加耶）であったと考えられる。

このように，高霊地域加耶土器の出土傾向の変動とともに，百済・馬韓・新羅土器の出土傾向もそれぞれ独特の変動を示し，さらに出土地の首長墓系列とも何らかの関係が想定できる。

3) 小加耶介在説の検討

朴天秀・定森秀夫説の検討 第2集中期については，最近朴天秀〔2001b〕が指摘し，定森が検討した固城地域加耶土器（泗川・固城タイプ陶質土器，小加耶土器）との関連が注目される。それによると，吉武遺跡群，物見櫓古墳，入江内湖遺跡で高霊地域と固城地域の加耶土器がともに出土しており，定森〔2002〕は慶尚南道西南部での両地域土器の共伴例から，同地に所在した「小加耶」が日韓の地域間交流に果たした役割を推定した。

指摘された例はいずれも本稿の第2集中期（高霊IIC期～IIIB期）に当たり，しかも，入江内湖遺跡の高杯（図6-8）は固城地域加耶土器の編年〔朴升圭1993〕に照らしても矛盾がない。固城地域加耶土器の編年は改めて検討したいが，入江内湖遺跡の共伴例は，慶尚南道西南部において高霊地域加耶土器と固城地域加耶土器が共伴する固城栗垈里2号墳や固城蓮塘里18号墳などの様相に対応する。

しかし，朴天秀らの意見には直ちに首肯し得ない部分も残る。

まず，固城地域加耶土器は，確かに一定の地域性をもつ土器群であるが，「小加耶」土器の器種組成として明快に取り出すことは難しく，小地域差もあり，編年も充分確立されてはいない。朴天秀と定森秀夫の指す「小加耶」土器を比べても，朴天秀は三角形透窓高杯を含ませるが，定森は含ませないなど，内容に齟齬がある。筆者は三角透窓高杯を咸安地域加耶土器として紹介したことがあった〔2000：99〕が，現在は必ずしもそうは考えない。さらに趙栄済は三角透窓高杯を独自の地域型式と捉え「中村里式高杯」として分離するよう主張しており〔2001：115-117〕，この問題はにわかには解決しがたい。

次に，有孔広口小壺を「小加耶」土器に含めることも疑問である。慶尚南道西南部でも有孔広口小壺は出土するが，器種組成の中に安定して存在するとは言い難い。むしろ全羅南道の馬韓土器が隣接地である慶尚南道西南部に搬入されたか，その影響下で製作されたのであろう。河東古梨里ナ-15号墳での出土例は，蟾津江河口地域が各政治集団の積出港として機能していたためと考えることもできる。

さらに，高霊地域加耶土器と固城地域加耶土器の関連を示す例として吉武遺跡群が挙げられているが，同遺跡での両地域土器は同一遺構において共伴しているわけではない。長期にわたって各地由来の陶質土器を多量に出土する同遺跡において，共伴しない例まで対比していては，あらゆる組み合わせに恣意的に意義を見出すことすら可能であろう。むしろ糸島・早良地域の特性の中で理解すべきである。

一方で，定森は伝東金井出土例（図5-13,14）と伴出の可能性がある高杯2点（図6-4,5）について，以前は全羅南道との関連を想定していたはずであった〔1993：48-50〕が，朴天秀の示唆を受けた後にはこの資料との関係に触れなくなり，伝東金井出土例の年代観すら操作している〔2002：218,252〕。歴史的解釈によって土器の位置づけを変更することは，希少な資料に頼らざるをえない日本出土陶質土器の研究においては，慎重を要する。

中原幹彦・今田治代説の検討 筆者は鬼の枕古墳で高霊地域加耶土器が出土していることを報告し，さらに，ともに高霊地域加耶土器を出土した同墳と物見櫓古墳に共通点があることも示した〔2003b〕。ここで改めて注目されるのが，鬼の枕古墳で出土した𤭯（図6-7）である。中原幹彦・今田治代はこの𤭯が須恵器としては異形であると指摘し，物見櫓古墳の𤭯（図6-6）を「小加耶」土器とする朴天秀の意見を意識しつつ，鬼の枕古墳の𤭯が陶質土器である可能性を強く示唆した〔2001：129〕。

しかし，筆者が実物を検討した結果，胎土・焼成などからみて，「小加耶」土器とは考えがたく，北部九州産の須恵器とみなすべきであろう。

小加耶介在説は，興味深い仮説ではあるが，現在の研究状況で考古資料の背後に過度に政治的・社会的実体を想定するのは，時期尚早である。

おわりに

本稿では，高霊地域加耶土器の編年案を示し，これによって日本出土の高霊地域加耶土器に2つの集中期を見出すとともに，各由来地の陶質土器出土傾向や首長墓系列との相関関係も展望した。

その結果，古墳時代における日本と韓国の交渉は，基本的に小地域相互間の交渉であるという従来の筆者の主張をささやかながら裏付けることができた。

しかし，首長墓系列の変動と高霊地域加耶土器の出土に関連があるのなら，その背景の追及が今後の課題となろう。また，愛媛県における特徴的な出土傾向を，同地の古墳文化の特殊性とどのように関連づけるか，という疑問も，新たに生ずる。

さまざまな課題が残るが，その解決のためには，地域史の視点が不可欠であろう。

なお，本稿で取り上げた資料のうち，鬼の枕古墳出土土器は福岡県立朝倉高等学校，甘木市教育委員会，甘木歴史資料館の協力により調査の機会を得たものである。文献検索には吉田広氏，三吉秀充氏の協力を得た。末尾ながら，謝意を表したい。

【図・表の目次】

図1 高霊地域蓋のつまみ形状
図2 高霊地域加耶土器の編年（高霊I期）
図3 高霊地域加耶土器の編年（高霊II期）
図4 高霊地域加耶土器の編年（高霊III期）
図5 日本出土の高霊地域加耶土器
図6 関連資料
表1 編年対照表
表2 日韓古墳編年の並行関係と暦年代
表3 時期ごとの高霊地域加耶土器出土傾向

【本稿で取り上げた遺跡と出典】

ソウル特別市: 夢村土城1987年調査〔金元龍ほか1987〕
全羅北道南原郡: 月山里M-1号墳〔全栄来1983〕
江原道東海市: 湫岩洞B地区古墳群〔辛虎雄・李相洙1994〕
慶尚北道高霊郡: 池山洞32号墳，33号墳，34号墳，35号墳〔金鍾徹1981〕; 池山洞44号墳，45号墳〔高霊郡1979〕; 池山洞47号墳（旧高霊主山39号墳）〔有光教一・藤井和夫2002〕; 池山洞石槨墓・土壙墓・石室墓群〔慶尚北道文化財研究院2000〕; 快賓洞1号墳〔嶺南埋蔵文化財研究院（編）1996〕
釜山広域市: 福泉洞10・11号墳〔釜山大学校博物館1983〕
慶尚南道咸陽郡: 白川里1-3号墳〔釜山大学校博物館1987〕
慶尚南道陜川郡: 玉田M2号墳〔趙栄済ほか1992〕; 玉田M3号墳〔趙栄済・朴升圭1990〕; 玉田M4号墳，M6号墳，M7号墳〔趙栄済ほか1993〕; 玉田23号墳，28号墳〔趙栄済ほか1997〕; 玉田68号墳〔趙栄済ほか1995〕; 玉田72号墳〔趙栄済ほか1992〕; 玉田78号墳，80号墳〔趙栄済ほか1993〕; 鳳渓里古墳群〔東亜大学校博物館1986〕; 倉里古墳群〔沈奉謹1987〕; 三嘉古墳群〔沈奉謹1982〕; 磻渓堤古墳群〔国立晋州博物館1987〕; 苧浦里D古墳群〔尹容鎮1987〕
慶尚南道晋州市: 水精峯2号墳，玉峯7号墳〔定森秀夫ほか1990〕
慶尚南道固城郡: 栗垈里2号墳〔金正完ほか1990〕; 蓮塘里古墳群〔朴淳発・李相吉1994〕
慶尚南道河東郡: 古梨里古墳群〔趙栄済ほか1990〕

山形県山形市: 伝東金井出土遺物〔小野忍1980：9-10；定森秀夫1993：48-50〕
埼玉県行田市: 埼玉稲荷山古墳〔埼玉県立さきたま資料館1980〕
富山県富山市: 伝福居古墳出土遺物〔富山県（編）1972：549,562；生駒勝浩・宇津裕人（編）1994〕
岐阜県岐阜市: 権現山古墳〔定森秀夫1989：33-34〕
滋賀県坂田郡米原町: 入江内湖遺跡〔定森秀夫1989：31-33〕
滋賀県栗東市: 新開1号墳〔西田弘ほか1961；小野山節1966：10〕
京都市右京区: 大覚寺3号墳〔安藤信策1976〕
大阪府泉南郡岬町: 西小山古墳〔梅原末治1932；定森秀夫1989：34〕
神戸市東灘区: 郡家遺跡城の前地区第24次調査〔丸山潔1990〕
和歌山県和歌山市: 六十谷大同寺遺跡〔後藤守一1927；河上邦彦・奥田豊1972〕
島根県浜田市: 森ケ曽根古墳〔川口幸子・向田薫（編）1986；定森秀夫1989：28,31〕
山口県豊浦郡豊浦町: 心光寺2号墳〔山内紀嗣1988〕
愛媛県今治市: 唐子台No.80古墳出土遺物〔正岡睦夫1991：77-78〕
愛媛県越智郡朝倉村: 樹之本古墳〔山内英樹2001〕; 城ケ谷古墳〔豊田正伸1984：52-53；正岡睦夫1991：82-83〕; 鹿の子4号墳〔岡田敏彦1999〕
愛媛県東宇和郡宇和町: 伝伊勢山大塚出土遺物〔十亀幸雄1991：89-90〕
福岡市早良区: 山崎古墳群C-1号墳〔濱石哲也（編）1994〕; 吉武遺跡群第4次調査（飯盛遺跡圃場整備3次調査）〔横山邦継ほか1987：25-26〕
福岡市西区: 金武古墳群吉武L-8号墳〔二宮忠司・渡辺和子（編）1980；白井克也2002〕
福岡県宗像市: 池浦古墳〔小川賢・中村修身1986〕
福岡県宗像郡津屋崎町: 奴山正園古墳（奴山5号墳）〔橋口達也（編）1979：126-127〕
福岡県甘木市: 鬼の枕古墳〔小田和利（編）1987；白井克也2003b〕
福岡県小郡市: 津古片曽葉1号墳〔宮田浩之（編）1992：80,81〕
福岡県久留米市: 権現塚古墳〔立石雅文（編）1995〕
福岡県三井郡大刀洗町: 西森田遺跡〔西村智道（編）2000：48-49〕
佐賀県神埼郡神埼町: 野田遺跡〔森田孝志（編）1985；蒲原宏行ほか1985；白井克也1993：187〕
熊本県玉名郡菊水町: 江田船山古墳〔本村豪章1991〕
熊本県八代郡竜北町: 物見櫓古墳〔考古学研究室（編）1994；今田治代（編）1999〕

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西村智道（編） 2000『西森田遺跡2 大刀洗町文化財調査報告書第19集』，大刀洗，大刀洗町教育委員会
小田和利（編） 1987『鬼の枕古墳甘木市文化財調査報告第19集』，甘木，甘木市教育委員会
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岡安光彦 1988「心葉形鏡板付轡・杏葉の編年」考古学研究第35巻第3号，岡山，考古学研究会，53-68
小野忍 1980「山形県における古式須恵器の様相」庄内考古学第17号，鶴岡，庄内考古学研究会，1-20
小野山節 1966「日本発見の初期の馬具」考古学雑誌第52巻第1号，東京，日本考古学会，1-10
定森秀夫 1987「韓国慶尚北道高霊地域出土陶質土器の検討」『東アジアの考古と歴史上岡崎敬先生退官記念論集』，京都，同朋舎出版，413-463
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定森秀夫 1993「東北地方出土の陶質土器－日本列島における朝鮮半島系遺物の研究－」京都文化博物館研究紀要朱雀第6集，京都，京都府京都文化博物館，43-62
定森秀夫 2002「陶質土器からみた倭と大加耶」『大加耶と周辺諸国』，ソウル，学術文化社，207-275
定森秀夫・吉井秀夫・内田好昭 1990「韓国慶尚南道晋州水精峯2号墳・玉峯7号墳出土遺物－東京大学工学部建築史研究室所蔵資料の紹介－」京都文化博物館研究紀要朱雀第3集，京都，京都府京都文化博物館，71-105
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酒井清治 1993「韓国出土の須恵器類似品」古文化談叢第30集（中），北九州，九州古文化研究会，899-913
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白井克也 2001「百済土器・馬韓土器と倭」『枚方歴史フォーラム（百済寺跡史跡指定60周年記念）検証古代の河内と百済』，枚方，枚方歴史フォーラム実行委員会，76-93
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白井克也 2003a「馬具と短甲による日韓交差編年－日韓古墳編年の並行関係と暦年代－」土曜考古第27号，桶川，土曜考古学研究会，85-114
白井克也 2003b「朝倉高等学校所蔵加耶土器高杯－甘木市・鬼の枕古墳からの出土経緯と出土の意義－」福岡考古第21号掲載予定，福岡，福岡考古談話会
白井克也 2003c「新羅土器の型式・分布変化と年代観－日韓古墳編年の並行関係と暦年代－」朝鮮古代研究第4号掲載予定，彦根，朝鮮古代研究刊行会
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