そむにうむ・3DCGつらつら草

第18話:君は聞こえるか?「ほしのこえ」成功の理由(わけ)

〜CG映像新ビジネスモデルの台頭と今後の考察〜

 

●「前回までのあらすじ」という名のアブストラクト:

かくして2002年は馬の如く駆け足で走り去りました。
まさに干支通りの年でありました。(汗)
しかし、この1年間の3DCG業界や、
3DCGを取り巻くファン達の動静はどうであったでしょうか?

いや、3DCGについては、それほど大きな動静はなかったようです。(汗)
そのかわり、CGアニメーション方面に一つの大きな話題作が出現しました。
個人制作フルCGアニメーション作品「ほしのこえ」です。

この作品は同人ショップでDVDが販売が開始されたのですが、火がつくよう
な勢いでベストセラーとなり、およそ2万本販売されたそうです。
この数字はインディーズ映像作品はもとより、商業アニメDVD業界にとって
も破格の大ヒットであると言えるでしょう。

今回は、この一大ムーブメントとなった「ほしのこえ」と、
それに伴う業界・流通・消費者等の動きを中心に、
CGアニメ映像の現在と将来について考察していきます。

 

 


1.「ほしのこえ」は何故売れたのか?:

従来、”CGアニメ”という作品はごく一部のマニア層にしか注目されない物でした。

しかし、CGアニメであることを売り物にした「ほしのこえ」は、
そのジンクスを打ち破ってOVA作品関係者も驚くほどのセールスを記録したのです。

もちろん、「ほしのこえ」の作品自体が従前のCGアニメとは一線を画する程の
優秀な内容と品質を備えており、いわゆるCGアニメファン層を飛び越えて
一般のアニメファンまでDVDを購買するという行動に出させるだけの魅力を備えて
いたことは言うまでもないでしょう。

作品のテーマも、「メカと美少女」という古のDAICONFILM(現ガイナックス)が作りし
王道パターンを踏まえつつ、携帯電話を絡めた長距離恋愛物に仕立てたところが
男女を問わずファン層を広げることに貢献したことは間違いありません。

加えて、新海氏独特の映像演出が、言葉ではなく映像で直接観客の情感に訴える
巧妙なテクニックを駆使して見る者に深い感動を与えた点も、
この作品をヒットに導いた要因の一つになっていると言えます。

しかし、こうした映像演出やテクニック、
あるいは全編CG制作で制作期間の短縮とクオリティの向上が云々という話は
あっちこっちで語り尽くされており、あえてこの「つらつら草」で取り上げる必要はありません。

それよりも筆者は、世間的にはまったくどマイナーかつ広告業界も全く知らなかったこの作品が、
宣伝を打って一般店舗で販売しているアニメDVDの売り上げを上回ることが出来たのか、
そのへんのカラクリを解き明かすことに興味を抱いています。

ということで、次章に進みましょう。

 

 


2.流通業界が知らない「オタク流通系」の現状:

「ほしのこえ」は、確かにバカ売れする為に一般広告代理店を使った宣伝は全く行なってきませんでした。

しかし、彼等(=「ほしのこえ」の作者、ならびにその関係者)は全く宣伝をしなかったわけでは有りません。
彼等は実に効果的にピンポイントな宣伝活動を、代理店に一銭も払わずに行なっていたのです。

「広告活動その1」は、上映会の活用です。

大都市圏では、今でもアマチュアやインディーズの上映会が盛んに行なわれています。
また、こうした上映会は世間一般にはあまり知られていないため、上映会に来る人間は
必然的にアニメファンの中でもさらに「濃い」
(=すなわち先導的な役目を持ったファンの中のファン、という意味。英語で言う「コアファン」)
人間が集まります。

この濃いファン層の人間に深い印象を与えるには、上映会にターゲットを絞ってパイロットフィルムを上映する
という手段が一番効きます。
しかし、そのためには当然作り手の技量が他のアニメ作家のそれを凌駕していなければ全く意味がありません。

 「ほしのこえ」の作者である新海氏は、確実にその技量を持ち、
なおかつ上映会の観客を唸らせる自信ならびに自負を持っていたと思われます。

こうして、彼は上映会におけるデモンストレーションを次々に成功させ、
さらには総仕上げとして完成版をインディーズ専門の映画館で期間限定上映を行ないました。
これが”口コミ効果”を最大限に引き起こし、先ずはコアなファンの間で渇望的にDVDを購入させる
きっかけを作ったのです。

「広告活動その2」は、秋葉原&日本橋の同人誌ショップのフル活用です。

上記の「その1」で、コアなファン層の興味を最大限にそそった彼等は、
この作品を一般流通には乗せず、秋葉原や日本橋に多く存在する「同人誌ショップ」に
DVDパッケージを販売させることにしました。

その理由はなんといっても「仲介業者が要らない」ことにつきます。

同人誌ショップでは、仲介業者たるバイヤーはショップの店員が兼任します。
元々同人誌は、漫画家や作家のファンが作品をリスペクト(あるいは2次創作)した内容の本なので、
著作権的にはグレーゾーンとなるため一般流通では販売できません。

ところが、近年この同人誌が即売会などで数千?一万冊単位で売れるようになったため、
店員が独自に本を目利きし、店頭売りする店が出てきたのです。

※ なぜ店員が目利きするのかというと、
  元々商品という性格ではないもののため、専門の販売業者が手出し出来なか
  った(というか存在すら知らなかった)ためです。

※ 最初は同人誌の売れる冊数は大した数ではありませんでした。
  それが、即売会(=コミケ)の拡大により、集まる人数と売れる本の冊数が
  飛躍的に増大し、今や1回の即売会で出版業界が目を剥くほどの冊数が売ら
  れるに至ったのです。
  この事実に小売り業者が目ざとく気づき、設立されたのが「同人誌ショップ」
  なのです。 現在では即売会で売られる数の数倍の作品を同人誌ショップが
  独自に売り上げるようになり、販売力をめきめきとつけてきました。
  今では東京秋葉原や大阪日本橋から地方都市に進出し、店舗を拡大して、
  それまで電器やパソコンが中心だった街を大きく変えようとしているのです。

これらのショップがここ最近目覚しく売り上げを伸ばし、それまで拠点だった東京・秋葉原や
大阪・日本橋以外の大都市圏にも支店を出すようになってきたのです。

彼等はこの不況の中にあっても同人誌市場とともにひたすら成長しつづける存在となっており、
さらに売上げを伸ばすべく優良な作品を常に探しているのです。

そんな同人誌ショップが、完全オリジナル作品である「ほしのこえ」を放っておく訳がありません。
さっそく彼等は店頭デモも含めてDVD販売の数をさばく作戦に打って出ます。


その結果は上で書いた通りです。

・・・・・

このように、「ほしのこえ」は作者達の努力と、”オタク流通系”たる同人誌ショップのタイアップによって、
フタを開けてみれば一般流通以上の売り上げを記録したのです。

当然、こうした新流通の存在と成功例については一般マスコミが知るところではありません。
しかし、もしもこんな流通が公になってしまったら、これまでの流通ルートや広告代理店が黙っている
訳はないと思います。

このあたり、もう少しだけ掘り下げてみましょう。

 

 


3.実はもう始まっている?「オタク市場争奪戦」:

実は、「ほしのこえ」とその関係者も残念ながら完全に独立した存在とは言えません。
販売面については株式会社コミックスウェーブが、
さらにその背後には伊藤忠商事からの出向者が付いているという話があります。
彼等は新海氏の創作活動に力を貸しつつ、その創作物を利益に変換するための錬金術について
従来にないアプローチを模索しているのかも知れません。
(ひょっとしたら、そうでなかったりするかも知れませんが。(^^;))

しかし、この事実はある意味広告代理店にとっては脅威と映るかも知れません。

何故ならば、万が一彼等(すなわち伊藤忠商事を中心としたコンテンツ創作集団)が、
従来の映像流通を外したビジネスモデルで成功したとすれば、
それは今までにない第2の映像流通ビジネスモデルが立ち上がることを意味します。
こうした事態を世界第一位の広告代理店のD社や、それを追いかけるH社が指を加えたまま
看過するとは筆者には思えません。

一方、「ほしのこえ」陣営はアニメ&出版業界を巻き込み、
文化庁を通じて「新しいアニメ文化の開花」という線でこの作品を世間に認知させる方針を貫き、
新海氏の華々しいデビューを成功させています。

これに対して、従来の流通業界はどんな手に出るのか?
守勢に回るよりも、新勢力を積極的に取り入れて反転攻勢に出ることを期待したいところです。



4.あなたにもチャンスはある?:

この文章を見ている方へ。
あなた方にもチャンスはあります。

今までならば、アニメの制作には膨大な人間を動かさなければならないという、
「人的な制約」が付きまといました。
または、アニメ業界の関係者か出版社、アニメの卸売業者に対し、自分の作品を持ち込み、
これを店頭に置いてもらうようにお願いするしかなかったのです。
そうしなければ、「アニメ作品を売って食べていく」というビジネスモデルは成立しませんでした。

しかし、「ほしのこえ」はそれらの流通を通さない、全く新しいビジネスモデルを提示したのです。

しかもそのビジネスモデルは、同人誌即売会や上映会などで認められれば、
同人誌ショップを通じて直接利益を得る事が出来る仕組みになっています。

これは、こうしたCGアニメの作者や同人ソフトの開発者にとって、
直ちに利用出来る美味しい流通モデルであると言えます。

が、

世の中そんなに甘くありません。
誰もが新海氏のように成功する訳ではないのです。

残念ながら、それでもアニメの制作には膨大な時間と人手がかかるのです。
新海氏は、自らのアイデアと並々ならぬ努力によって、
人手をかけずにDVD作品に相応しいクオリティを実現するに至りましたが、
常人に簡単に真似できる手法とはとても言えません。

逆に、ことCGアニメに関しては、作品を出すと必ず新海氏と比較されることになりますから、
今後アニメ作品を作って世間に認められるまでになるためには、
新海氏よりも更なる努力とアイデアの結集が必要になることでしょう。

それに、CGアニメで凄い人はなにも新海氏だけではありません。

現在「URDA」を制作しているロマのフ比嘉さんを筆頭に、
新海氏と対等に渡りあえる腕を持つ人はまだまだいらっしゃいます。
新海氏自身も、ラッキーヒットであった「ほしのこえ」と次回作で戦わなければなりません。

個人制作CGアニメで大成するためには、
まず「ほしのこえ」を超えるアニメを作れるだけの”自信”が作り手に必要になるのです。
ある意味それはCGアニメ制作に憧れる人にとって、残酷な現実であるかも知れません。

しかし、逆に考えると「正攻法」を外した戦法を練りなおすのにいい機会かも知れません。
別にヒットさせる作品がCGアニメ以外でもOKな訳ですから、
ゲーム方面で新しいアイデアを練るのも一つの手だと思います。(^^)

(2003年1月17日AM0:13脱稿)