チンパンジーの知恵、人間上回る

 京都大学霊長類研究所で飼育されているメスのチンパンジー、アイ(推定23歳)が、人間の成人を上回る知恵を備えていることが、同研究所の斉藤健一教授、森秀樹研究員らの研究で明らかになった。近く英の科学誌『ネイチャー』で研究結果が発表される。
 アイが結婚適齢期に達したとき、斉藤教授がアイと同じ部屋に、ハンサムでスマートだが浮気者のオスと、不格好だが真面目で心の優しいオスを入れたところ、アイは迷いに迷った挙げ句、不格好なほうを選んだという。斉藤教授は「うちの麗香にも同じ知恵があれば……」と、アイの判断能力を高く評価している。

 アイは手先も器用。好物のハムを与えると、上手に外側のビニールをはぎ取ってから口に運ぶ。「このビニールが体にいいと、幼いころから母に言い聞かされてきたのに……」と、森研究員は驚きを隠さない。

 研究室で使うはさみはどれもよく切れる。鈍くなると、アイが知恵を働かせ、アルミ箔を切って鋭利にするためだ。研究員らが住む寮の下駄箱には、アイが黒こげになったパンの耳を活性炭がわりに入れたため、以前のいやな臭いがなくなった。研究員たちがカレーを作る際、アイの「リンゴをすりおろしてから入れたら」とのアドバイスに従ったところ、味が信じられないほどまろやかになったという。一方、大蔵省では、平成12年度の政府予算案を主計局長に見せられたアイが椅子から転げ落ちて大笑いしたとのマスコミ報道を否定するのに必死だ。

 推定1歳のころから研究室で特殊な訓練を受けつづけたアイの進歩は、動物の潜在的な能力の高さを示す証拠として注目を集めている。今後は、1歳のころからタンザニアのジャングルでチンパンジーの里親に英才教育を受けている斉藤教授の長男、キイ君(23歳)が、木から木へと跳び移れるようになるかどうかが研究の焦点となりそうだ。