エコミュージアムについて (法政大学教授・NPO夢連理事長 馬 場 憲 一)[2002/03/05]

1.エコミュージアムとは
(1)日本に紹介されている定義→(資料1
人びとが生活する地域全体を博物館と見做し、そこでの自然・歴史・文化・生活など環境そのものを調査・研究対象とし、地域遺産を現地において保存・展示するとともに、住民参加による運営を原則とする「博物館」と定義されている。エコミュージアムは1960年代フランスで誕生したものであったが、日本に紹介され取り組まれるようになったのは、今から10年ぐらい前のことであり、その歴史は浅い。

(2)博物館の定義
→博物館法(
資料2
→国際博物館会議(ICOM)の定款(
資料3
  
2.エコミュージアムの歴史
(1)背景→原型となる考え方は、1960年代のフランスにおいて地方文化の再確認と中央集権制排除という思想の中で誕生した。

・1963年 国土整備地方開発局を設立し、観光施策が講ぜられることによって、地方自然公園の開設が課題となる。

・1967年 アルモリック地方自然公園の設置が始まる。
※公園の開設に先立って、公園内の施設・資料に付加価値を与えるための公園施策について議論→国立民芸民間伝承博物館長のアンリ・リヴィエールは「伝統的民家を保存し、公園内に野外博物館を創設して、人間とその環境の関係を探究する」ということを提起する。
  ↓
この試みの中から環境と人間の関わりを考えていくエコミュージアムの原型とも言うべき考え方が誕生してくる。
  ↓
アルモリック地方自然公園では、伝統的民家が移築ではなくそのままの状態で現地保存が行われた。

・1968年 ウェッサン島エコミュージアムが設立。

・1971年 ICOMの第9回博物館全体会議でフランスの自然環境保護大臣が「エコミュージアム(エコミュゼ)」という用語を使用する。

・1972年 クルーゾ・モンソー・レ・ミーヌ・エコミュージアムが設立。
※自然環境とともに“社会的環境”を意識し、住民参加を中心とする委員会方式で運営→「協同体型エコミュージアム」の出現。

・1972年 ICOM主催のシンポジューム「博物館と環境」が開かれ、エコミュージアムの役割が再確認される。

・1974年 ICOM自然史博物館国際委員会第10回大会で「エコミュージアム」について議論が行われる。

・1974年 ICOM自然史博物館国際委員会第10回大会に出席した鶴田総一郎が「生態博物館または環境博物館」という訳語で日本に初めて紹介される。

・1981年 「エコミュージアムの組織原則」を作成し、文化省の確認を得る。

・1986年 新井重三によってエコミュージアムの研究が本格的に始まる。その後、丹青研究所で機関研究として採用し、フランスへ現地調査を開始。

・1989年 「ふるさと創生事業」を契機に山形県朝日町でエコミュージアム研究会発足。

・1995年 日本エコミュージアム研究会(略称 JECOMS)が発足。
※1993年段階で日本国内の「エコミュージアムおよび類似施設」として69の事例があげられている。また世界各地(日本を除く)で82〜86施設が確認されている。

3.エコミュージアムの概念
(1)1980年の最新定義
リヴィエールの「発展的定義」(
資料4)と呼ばれている。

(2)エコミュージアムの構成要素
アラン・ジューベールの講演概要(
資料5)がある。

4.プレス・ブルゴーニュ・エコミュージアムの概要
(1)位置―パリの東南約350q。畑作地の広がる農村地帯。エコミュージアムの範囲は約1,690ku。ルアンをはじめ115のコミューンがある。人口は約7万人だが、過疎化が進行している。

(2)沿革―1980年、学芸員等による予備調査開始。翌年、準備委員会発足。各コミューンの財産目録作成。1984〜88年、テーマ別のサテライトを開設。1985年、コア施設(ピエール・ド・ブレス城)開設。

(3)組織と運営―アソシエーション(協同体;会員は350名で、個人・コミューン・会社などが参加)による運営。アソシエーションの運営は委員会方式(学術委員会・管理委員会・利用者委員会を設置)で、常勤職員は8名(館長兼学術員1名、研究員2名など)を配置。

(4)テリトリー
・土壌によって、住居や農業・林業など生活文化に共通性が見いだされる文化圏。
・歴史的風土の同一性が求められる範囲。

(5)施設と運営
@コア施設―ピエール・ド・ブレス城

Aサテライト(アンテナ)施設―小麦とパンの館 森と木の館 ブレス農業のサテライト 椅子と藁細工職人のサテライト ブドウ栽培とワイン造りのサテライト 新聞印刷所のサテライト 水車展示施設

B地域文化遺産―ユダヤ人の農家 市立病院 瓦工場跡 鍛冶職人の家

(6)ボランティア活動―森と木の館、ブレス農業のサテライト、椅子と藁細工職人のサテライト、ブドウ栽培とワイン造りのサテライト、新聞印刷所のサテライトで、地域住民が参加したボランティア活動展開。

5.日本におけるエコミュージアムの現状と課題
(1)現状
@行政主導型の“地域おこし”事業として取り組まれてきている。

A開発に対する自然保護的視点から取り組まれてきている。

B博物館としての機能が欠落している。

C地域博物館の活動や文化財保護行政の実績や成果を無視して展開している。

(2)課題
@博物館としての機能・組織を踏まえて、住民参加によって運営を図る。

A総合的な文化施策(文化財保護行政、博物館活動、地域住民参加型の文化活動など)としての視点からアプローチを図る。

6.エコミュージアムづくりの進め方について
(1)エコミュージアムの範囲(テリトリー)を考える。
 歴史的にみて同一の文化圏を設定する。

@境川上流域
町田市(相原・小山)、城山町(川尻)、相模原市(相原・橋本)などの範囲を想定。

A周辺地域とのネットワーク化
多摩丘陵地域(八王子市など)、相模川上流域(城山町、津久井町、相模湖町、藤野町など)も視野に入れた活動の可能性を探る。

(2)計画推進のプロセス
基礎調査→基本構想→基本計画→実施設計

(3)基礎調査の内容? 地域の歴史・文化・自然・産業・生活などを理解し、サテライト候補を探すために実施する。

@NPO夢連の中に「学術調査委員会」を設置し実施する(大学研究者、博物館学芸員などの協力を得ながら共同であたる)

A地域内の歴史・文化・自然・産業などに関わる遺産・資源(資料)の把握
〔事例1〕建築物、彫刻、絵画、工芸品、古文書、民族資料(民具、風俗習慣、民族芸能、工芸技術)、史跡、名勝、動物、植物、地質鉱物、地場産業など

〔事例2〕寺社建築、古民家、橋などの土木構造物、石造物(石仏・石塔・道標)、民具、祭り、伝承(記憶)、昔話、写真、庭園、古道、動植物、地場産業、個人のお宝(コレクション、好きな風景・場所)など

B既設の博物館や類似施設(学校施設など)の把握
〔事例〕八木重吉記念館、東京家政学院大生活文化資料館など

C地域内の研究・活動団体の把握
〔事例〕保善会、JAO会、まちづくり協議会など

(4)基本構想(NPO夢連の中に「基本構想検討委員会」を設置して検討する)
〔検討事項〕
@エコミュージアムの目的・生活(基本理念)

Aコア・サテライト施設の設置場所

B資料の保存、公開・展示、収集、研究・教育、情報などの事業活動の機能

C運営形態

D予算・職員とその機構

(5)基本計画(NPO夢連の中に「基本計画検討委員会」を設置して検討する)
※基本構想の方針をさらに具体化させる。


〔参考文献〕
 丹青研究所編『ECOMUSEUM−エコミュージアムの理念と海外事例報告』(丹青研究所)1993年刊
 新井重三編著『エコミュージアム 理念と活動』(牧野出版)1997年刊
 馬場憲一著『地域文化政策の新視点―文化遺産保護から伝統文化の継承へ―』(雄山閣出版)1998年刊


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