刑事裁判のしくみ

  交通事故では、ほとんどの場合、一方または双方に何らかの法律違反があったとされます。すなわち
  道路交通法に違反さえしなければ、大多数の事故は起こり得なかったという解釈です。
  その法律違反が元になって起きた事故の責任は「刑法」という法律で裁かれますが、罪状は「業務上
  過失」という、かなり軽い罪と見なされています。
  刑法211条では、業務上過失致死の場合、5年以下の懲役もしくは禁固、または50万円以下の罰
  金となっています。

  いま国の政策では、年間100万件を越える事故の加害者すべてを「前科者」にできないということ
  で、大幅な緩(寛)刑化が押し進められています。
  すなわち、加害者を刑法で処分しないという免罪制度が取られているのです。
  その結果、全交通事故加害者の起訴率は、たったの14%位まで低下しています。逆の見方をすれば、 
  検察庁から「起訴」された事故の加害者は、重大な過失があったと認定されたことになります。
  刑事裁判は自分の経歴が汚れるため、多くの加害者は保身に汲々として、なんとか罪を免れようとし
  ます。

  とくに目撃者のいない事故で、被害者が死亡したような場合は、加害者の証言などの主張ばかりが取
  り上げられ、被害者の名誉と損害を著しく貶めるケースが見られます。
  それでなくても、刑事裁判は被害者を蚊帳の外に置いて行われているのです。すなわち刑事事件は国
  (検事)が原告であり、被害者やその家族は裁判の日程すら(こちらから尋ねないないかぎり)知ら
  されることはありません。
  当然ながら、加害者が最終的にどういう処分を受けたのかも、知ることができないのです。

  私たち遺族が何より望むことは、事故の真相が知りたいということと、加害者にたいして適正な処罰
  が下されることです。
  そのためには刑事裁判の仕組みを理解することと、その裁判を注意深く見守ることが大切です。
  昨今、交通事故も犯罪と同列に捉えられるようになってきて、被害者の権利もかなり改善されてきて
  います。しかしその中で、もっとも立ち後れているのが刑事裁判です。以下に刑事裁判の仕組みと、
  遺族の関わり合いを説明します。




        刑事処分の流れ







     1、警察の捜査と手続き


警察での捜査
遺族の対策

事故の発生
現場検証
目撃者探し
現場の撮影
加害者の取り調べ
遺族調書
告訴状の提出
検察庁への送致
加害者送致の確認

  イ、現場検証

   事故の発生直後、警察官による現場検証が行われます。担当は各警察署の交通捜査係が当たります。
   ただし彼らの業務は、加害者の犯罪性のある証拠の確保と、スムーズな道路運行の回復が主要業務で 
   す。すなわち、被害者の立場で検証は行われないと承知しておきましょう。
 
   また交通捜査係とはいっても、科学的捜査技術を身につけた専門捜査官は、非常に大きな警察署に一
   人いるか居ないか程度です。こうした警察官の捜査によって、実況検分調書が作成されますが、目撃
   者がいないようなケースでは、加害者の言いなりの調書が書かれているので、注意が必要です。

  【 被害者側の対策 】

     ・事故直後の辛い時機ではありますが、警察には真剣な捜査を求めましょう。
     ・事故の原因と思われることなどは、早期に警察官の耳に入れておきたいものです。
     ・信頼できる目撃者を探します。立て看板や、場合によっては周辺への聞き込みも大切です。
     ・事故の痕跡や、道路状況など、あらゆる角度からの写真撮影をします。
     ・精密な地図を作製します。できれば測量事務所などに依頼するのがベストです。
     ・車両や衣服などや落下物など、証拠品を確保し保管します。


  ロ、遺族調書

   被害者が死亡した時には、遺族調書が取られます。事故後2週間後くらいに、警察から呼び出されます。
   被害者の事故当時の行動目的や・日頃の行動様式などが聞き取られます。
   この遺族調書は書類を整えるためにあるのです。いわばギブアンドテイクとして担当者からは、正確な事
   故の状況を聞き出すチャンスです。

  【 被害者側の対策 】

    ・被害者の心情を理解しない警察官も沢山います。あまりひどい場合は聴取をうち切って、別の機会
     にしてもらいます。
     この場合、いかなる書類にも、サインや捺印をしないことが大切です。
    ・警察は「加害者に対して寛大な処罰を期待する」という内容の調書を取ろうとします。そのように
     思わない場合は、きっぱりと「厳罰を望みます」と書き取ってもらいます。
    ・調書の読み聞かせのあと、署名捺印する場合は、調書の文末にピッタリと隙間を空けないように書
     きます。理由は、警察官に余分な文章を書き加えられないようにするためです。
    ・「捨て印」を求められることがありますが、拒否しましょう。理由は警察官の改竄を防ぐためです。 
     訂正がある場合は、改めて出直せば用が足ります。
    ・できればこのチャンスに所轄の警察署長宛に「告訴状」を提出します。告訴状を出しておけば、警
     察での調書の握りつぶしなどが防止できます。
     また、起訴・不起訴や、処分の結果を知ることができます。


         《 告訴状の雛形 》
.     .
         縦型(B−5)が標準          横型(A−4)が標準
                             



     2、検察での捜査と手続き


検察での捜査
遺族の対策

検察送致
検事面会
担当検事決定
告訴状の提出
上申書の提出
加害者取り調べ
検面調書
起訴・不起訴の決定
告訴状の提出


  イ、検察庁送致

   警察がいつ書類を検察庁に送ったかは、非常に重要なことです。(遺族調書をとってから、おおむね1
   ヶ月くらいで送検するのが普通です)
   弁護士に確認してもらうか、毎週くらい直接警察に電話して確認しましょう。警察では、送致日・事件
   番号・担当検事名などが確認できます。

  【 被害者側の対策 】

    ・加害者に対する警察の取り調べは、かなり杜撰(ずさん)なものであると認識しておくこと。
    ・事故の真相を導き出し、加害者を厳罰に追い込むには、送致直後の早い時期に検事に働きかけるのが
      効果的です。送致のタイミングを外さないことが大切です。

  ロ、検察庁に対する行動

   加害者に処罰を求めるかどうかの判断は、すべて検事に一任されています。すなわち検事のさじ加減ひ
   とつで、加害者は天と地ほどの違いが生じるわけです。
   交通事故は起訴率が極めて低いのが特徴です。不起訴(起訴猶予)になれば、実質的に加害者は無罪放
   免です。当然行政処分や損害賠償にも影響します。
   まずは加害者を起訴させることに傾注しましょう。できれば、検事による加害者の取り調べ前に、行動
   を起こしたいものです。

  【 被害者側の対策 】

    ・予めアポイントを取って、担当検事に面会を申し込みましょう。良い返事がもらえない場合は、弁護
      士に依頼するのもひとつの方法です。
      やむを得ない場合は直接乗り込みますが、朝一番が実現の可能性として高いと思います。
    ・検事には、被害者の正確や人となり・遺族のダメージの大きさ・加害者の過失の重大性と誠意の無さ・ 
      処分についての希望などを要望します。
   ・事故の目撃証言や物的証拠などは、積極的に提出します。
   ・「事故はこういう原因で起きた」的な発言は控え、検事が判断するに足る情報の提供を心がけます。
   ・面会当日は、これらの内容を「上申書」という文書にまとめて提出します。これが採用されれば、証
    拠として裁判書類に加えられることになります。

      上申書とは、検事や裁判官にたいする私信(手紙)のことです。書式や内容に決まりや制限は
       ありません。しかし忙しい担当者に出すわけですから、簡単明瞭にして、極力個人的な感情は
       避けた方がベターです。

         検察審査会

            加害者を起訴するか、不起訴にするかの決定権はすべて検察官に握られています。検事は研修などで起訴基準
            の標準化を図っているようですが、どうしても検事個人によるバラツキがでます。
            とくに最近は起訴率の平均化も検察庁毎に図っている様子で、とくに年度末近くなると、それまでの基準が脇
            に置かれ、帳尻合わせのようなことが行われるという噂があります。
            事件が不起訴になった場合、遺族のできる最後の手段は「検察審査会」へ申し立てるしかありません。
            検察審査会は、一般の民間人11人による検察審査委員が、起訴・不起訴の適否を再検討する制度です。
            起訴基準が民意と乖離していないかどうかを見極める制度で、一見公正性があるように見えます。現実は、検
            察審査会で「不起訴不当」の判断は千三つと言われるくらい、稀なケースです。またこの判断が出ても、検察
            庁が逆転起訴するケースは更に稀になります。検察審査会は、各地方の裁判所と支部のある場所にあります。





        3、裁判所での審理


裁判所での進行
遺族の対策

第1回公判
裁判の傍聴
上申書の提出
求刑公判
裁判の傍聴
上申書の提出
判決
検面調書
裁判の傍聴


 イ、裁判所での審理

  略式起訴の場合は、ほとんど検事の求刑通りの判決(50万円以下の罰金)がでます。一枚の紙に何人
  もの求刑が書かれた書類を、裁判官がざっと目を通すだけですので、やむを得ないでしょう。
  しかし、罰金刑とは言いながら、これも立派な刑事罰で、加害者は前科一犯ということになります。

  「公判請求」された事件は、事故が起きた地区の地方裁判所で審理(公判)されます。裁判の日程は裁
  判所に確認せざるを得ないのが実状です。公判は普通3回程度、時間は約一ヶ月で終わります。

 【 被害者側の対策 】

  ・被害者は「傍聴」以外、裁判に係わることはありません。しかし検事によっては、遺族の証人尋問が 
   認められることがありますので、事故の真相解明に遺族の証言が重要であることを、弁護士を通じて
   執拗に働きかけることです。
  ・公判は必ず傍聴します。またできるだけ多くの人にも傍聴してもらいましょう。
   裁判官の事故に対する認識を誤らせない効果があると思います。
  ・加害者の焼香・墓参など慰謝の姿勢や、示談の有無は判決にも影響します。加害者があまりにも誠意
   がない場合は、事実関係を列挙した上申書を検事宛提出しておきます。
  ・加害者の証人尋問に不自然なことがあったり、明らかに嘘をついている場合は、即日検事に対してそ
   の旨を上申書に書いて提出しましょう。





       4、判決とその後

  刑事事件の判決は、有罪となれば懲役刑が科せられて、いわゆる交通刑務所に即日収監されます。
  残念ながら大多数の加害者には執行猶予という「期限付き無罪」が言い渡されます。懲役は最高5年で
  すが、多くはその6割くらいの時機を過ぎた当たりで仮釈放されます。
  判決に対し不服がある場合は、上級審(高等裁判所)に控訴することになりますが、原告側が控訴する
  ことはほとんどないでしょう。
  逆に加害者に実刑が科せられた場合は、ほとんどのケースで控訴されます。

 【 被害者側の対策 】

   ・判決後、検察庁で裁判記録の閲覧ができるようになります(およそ10日後から)。理由を聞かれま
     すから、「民事裁判用」と答えましょう。または、弁護士に頼めば入手できます。
     記録は有料で謄写(コピー)もできます。
   ・判決に納得がいかない場合は、即刻検事宛に上申書を提出しましょう。ただし、それによって検事が
     控訴することは期待できません。控訴期限は判決後2週間以内です。
   ・執行猶予や保釈は、加害者が犯罪を犯したり、著しく公序を乱したときに取り消されます。行政処分
   中の無免許運転など、犯罪行為を目にしたときは、告訴状を警察に提出しましょう。立ち小便や唾の 
   吐き捨てなども立派な犯罪です。
  ・加害者が釈放・保釈されたときに報復行為を行う可能性があるときは、警察署に申し入れておけば、
     釈放日などを連絡してもらえます。

         一理不再審

            一理不再審とは、「刑事事件においては、同一の事件で再び裁かれることが無い」という制度です。
            これは本来、弱い立場にある刑事事件の被告を保護するための制度です。しかし被害者が死亡してしまった交
            通事故の場合、証拠や証人などすべてが揃った状態で審理されることが少ないため、多くの遺族が裁判や判決
            の内容に不満をもっています。
            残念ながら、この「一理不再審」制度によって加害者の罪状は確定してしまいます。