交通事故に遭ったとき、何をしなければならないか。 交通事故に遭うことを予想している人はいません。 当然何の準備もあろうはずがありません。 まして、自身や家族の怪我や死に直面し、ただおろおろとするばかりです。 ところが、事故が起こった直後から、事故の処理は始まっています。 一番辛い最中にその処理をしなければならないのです。 このマニュアルは、交通事故の被害者、または被害者の遺族の立場で書いたものです。 当然加害者や、自爆事故は当てはまりません。
1、事故直後のこころ構え  当事者の立場を認識する 交通事故に遭った場合、軽度の事故や物損事故でない限り、その処理作業から逃れることはできません。 逃げてしまえば、加害者は何らお咎め無いまま、処罰も損害賠償も免れてしまいます。 自分が動かなければ何一つ解決しません。残念ながらこれが現実です。辛いこと、何よりも無気力な状態 にあることは分かりますが、まずこの現実を認識しなければなりません。  すべて記録する習慣をつくる これから始まる長い戦いのため、あらゆることについて、文書化する習慣を身につけましょう。どんなに 頭が良くても、所詮人間のメモリーには限界があります。 事故に関係あることはすべてノートにとり、視的なことは必ず写真にとりましょう。(デジカメは便利で すが、加工ができるということで、証拠としては一段下になります。 できるだけアナログカメラを用いる)録音機も必要です。 できれば隠し取りできるような軽便な物が理想的です。  あらゆる情報をどん欲に得る 人と話をすることも辛い時期です。生活習慣ともなると、おいそれと変更できない事情も分かります。 でもこれを乗り越えない限り、一歩も前に進みません。電話はファックス付きに代えてください。あらゆ る情報入手に必要です。 新聞は必ず定期購入すること、図書館にも通って見つかる範囲で情報の入手を心がけてください。 最近はインターネットがかなりその役割を担ってくれます。将来ワープロも必要になりますので、思い切 ってパソコンを導入しましょう。 2、事故直後にすること  警察署に行く 事故の処理に当たった警察官は、事故後1週間以内くらいで、事故検分調書を作成します。現場の警察官は 事故処理の専門家ではあっても、事故捜査のエキスパートではありません。 検分調書は、加害者の話を中心に組み立てられると思っても過言ではありません。先入観と予断も入ります。 しかしこうして作成された調書は、将来までも重く影響します。早期の段階で担当者に面会し、こちらに有 効な情報を積極的に警察官に流しましょう。  告発状を書く 交通事故の情報は、ほとんどこちらから働きかけなければ流れてきません。事故を担当した警察の署長宛に、 告発状を提出すれば、送検の時機や起訴状況など、最低限の情報を知らせてもらえます。 書式は問いません。署長宛に「加害者○○は道路交通法の○○に違反しているので、厳正な捜査と処罰をを 求めます」と書くだけです。          ○ 行政処分を確認する 加害者の行政処分には関心を持ちましょう。どういう処分がされたかは、今後の刑事処分や損害賠償にも影 響します。行政処分は警察が独自の判断で行える処分です。関心をもって見守りましょう。 行政処分は原則として公開されません。警察官に非公式に聞き出すか、加害者に直接問いただします。  聴聞会に立ち会う 加害者に対し行われる行政処分の聴聞会は、被害者が立ち会うことは法律に定められた権利です。 警察署に行って、聴聞会に立ち会いたいとの意志をはっきりと言いましょう。聴聞会では発言は許されてい ませんが、被害者が同席しているというだけで、加害者に対して強い圧力になることは間違いありません。 3、証拠の保全  事故状況の保全 事故現場を直後に訪れることは辛いことです。しかし事故の証拠(スリップ痕・道路の損傷など)はあっと いう間に消滅してしまいます。できるだけ早く現場に行き、あらゆる証拠の保全を心がけてください。 写真を色々な角度から撮影するとともに、位置関係を測定して地図を作りましょう。  良質の写真を撮る 警察官の写真は下手なうえに、枚数が不十分です。事故時を極力再現して、不要と思われるほど写真を撮っ ておきましょう。 事故時とは、同じ季節・時刻・天気・道路の使用状況(交通量や駐車)のことです。  加害車両の撮影 大きな事故の場合、しばらくの間、車は警察署に保管されています。車の損傷は、将来の争いにとって重要 な証拠です。凹み・傷・塗料や部品の剥落などの証拠を正確に記録します。            写真はできるだけ傷と同じ視点で撮ること。位置関係はメジャーで正確に測って記録します。            警察に保管されない場合は、修理工場に出向いてでも行う必要があります。           被害証拠の保存            被害者の乗り物・着衣や持ち物は、しばらくの期間警察署に保管されます。これらは重要な証拠です。            警察での処分承諾書に決してサインしないことが大切です。           証人の確保            刑事処分ばかりでなく、将来損害賠償などで争う時も事故を直接目撃した証人の役割は大きいのです。            証人がいなければ、検分調書は加害者の言いなりに書かれてしまいます。事故現場の近くで聞き込むとか、 立て看板など立てて探しましょう。その時必要なチェックポイントは、証人が事故を現認した瞬間です。            たいていの場合、事故の音を聞いて気づくことが多いからです。        4、加害者に対して           礼を尽くさせる            実態は、加害者の多くは、被害者のところに形式的に葬儀・通夜に参加する程度です。中にはまったく被害 者の所に来ない不埒な加害者もいます。相手の保険会社や弁護士などにも、礼を尽くすよう要求しましょう。            それでも駄目な場合は、直接本人や家族・勤務先に電話をしても構いません。名誉毀損で逆に訴えられるこ とはありません。           加害者に手を出さない            加害者を被害者と同じ目にあわせたい、という気持ちはよく分かります。しかし相手を殴ってしまったら、 それを相手に利用されます。特に病院にかかるような打撲傷などを与えた場合、現実は業務上過失の罪より 重い罪を問われます。            すなわち刑法で罰せられることになり、将来の交渉の弊害になります。           直接交渉はしない            現在の保険システムは、損害賠償交渉はすべて加害者の保険会社が代行します。つまり加害者には交渉資格 はないのです。追いつめれば加害者も何か条件を出すかも知れませんが、所詮拘束力はありません。            無駄なことは止めて、被害者に対する慰謝につとめさせさせましょう。           恐喝まがいの話はしない            悪意は無いのでしょうが、よく交渉時に「誠意を示せ」という言葉を使います。相手側は、すなわち「金を 出せ」と解釈しますから、悪くすると恐喝のようにとられます。 物やお金は将来の損害賠償の場で正式に行いましょう。           事故状況を聞き取る            加害者も事故直後は、被害者や遺族の前で神妙にしている場合が多いものです。事故についても正直に応え            る可能性が高いのです。            加害者の運転状況や、違反行為などを聞きただしておけば、検分調書とのギャップを埋めることができます。            できれば用紙に記録して、加害者の「認め」を取っておきましょう。したたかそうな加害者には、テープレ            コーダーも威力を発揮します。           加害者の行動記録            今後起こりうる刑事事件の審理では、加害者の慰謝と示談の成立が深く影響します。すなわち被害者に相応            の礼を尽くせば、罰が軽くなるということです。            加害者は、刑事の公判でも平気で嘘をつくことがあります。加害者の訪問や電話など、あらゆるアプローチ            はきちんと記録しておきましょう。        5、被害者調書           被害者調書は急がない            被害者が退院したり、遺族が平静になったと思われるころ、警察から被害者の調書を取りたいと連絡してき            ます。これは急ぐことはないので、身体や精神的に辛い時は延期してもらいましょう。            ただし、遺族調書の場合、1ヶ月を越えた場合は受けておいた方が良いでしょう。なぜならば、遺族調書は            必ずしも必要とされていないため、聴取不可能として割愛されてしまうことがあるからです。           まずは事故状況を聞き出す            警察は事故の状況を話すから、というような口実で被害者を呼び出すことが多いのです。            実態は被害者調書を取ることが目的ですから、事故の状況などは最低限しか聞かせてもらえません。            しかしこの場こそ、事故状況すなわち警察の見方を確認するチャンスです。執拗に説明を求めましょう。           加害者処罰は厳正に求める            調書の中には、加害者の処罰に対する要望が聞き取られます。仏心は加害者に悪用されます。            「強い処罰は望みません」「早く立ち直って欲しい」などの言葉がそれです。検事や裁判官はこの言葉を、            被害者の宥恕(加害者を許してやること)と捉えます。           訂正は目の前で            調書を取っている間、前言を訂正しなければならない場面もあります。「後で直しておくから」という警察            官の言葉は信用できません。印鑑を持っていって、必ず目の前で訂正してもらいましょう。           余白のある調書はサインしない。            検分調書の最後部には、担当警察官の主観を交えた事故の原因についての推論が記載されます。            被害者に読ませたくないという理由で、警察官は最後に余白のある(文末と署名のクリアランス)調書にサ            インを求めることがあります。こうした調書には絶対に署名しないことが大切です。        6、検察庁に対して           書類送検時を把握する            重大事故でおよそ一ヶ月後、警察から書類が検察庁に送られます。何時送られたかは大切なことです。            警察に電話を適宜入れて確認します。軽度な事故や、調書がまとまらなかった複雑な事故の場合、警察に止            められたままになってしまうことがあります。            必ず送検されるようにしないと、行政処分まで見送られてしまい兼ねません。           「被害者通知制度」を利用する            加害者の起訴されたかどうかなどの情報は、被害者が要求した場合には通知される制度があります。            書類が送検された直後に検察庁にいって、通知制度の適用を申し込みましょう。手続きは口頭で結構です。           担当検事に面会する            検察庁に行った時、担当検事にお目にかかりましょう。簡単には許可してくれませんが、何事もネバリ            です。検事がお忙しい時は期日を指定されることもあります。時間的には朝一番(9:30)が確立が高い            ようです。            検事に会ったら事故に対する考えかた、加害者への処罰などを話しますが、加害者の違反が明確ならば、こ            の時に「起訴」を強く求めます。           上申書            検事にお目にかかる時、できれば「上申書」という書式にして提出するのがベターです。            上申書とは、検事に対する「お手紙」という意味です。決まった書式はありませんが、読みやすい文面で、            被害者・遺族名と捺印が必要です。            お手紙ですから無視されるケースもありますが、証拠として採用されれば、事故関連書類の中に綴じ込まれ            て、将来有効になります。          7、自賠責保険の請求           直接請求            自賠責保険は、被害者救済のための制度です。被害者でも直接請求できます。書類は加害者側の保険会社に            連絡すれば送ってきます。一見難しそうな書類ですがさほどでもありません。            できるだけ自分で請求するようにしてください。この事務を弁護士に頼むこともできますが、安くて20万            円から80万円位手数料がかかると思ってください。           請求の時機            時効すなわちタイムリミットまでは、2年ありますので慌てることはありません。また正確な内容の請求に            は時間がかかるものです。心身共に少し落ち着いてからでも充分間に合います。            なお民事訴訟を起こそうと考えている人(経済的に逼迫していない場合)は、自賠責保険は請求せず、民事            訴訟に合算して請求しても結構です。いずれも自賠責は、事故の時点まで遡って金利が請求できます。           請求書の書き方            この書類を審査する自算会という組織は、厖大な件数の事務処理を行っています。定められた用紙に丁寧な            字で、正確に記入することが大事です。            証拠や証言など客観的な裏付けを強調し、感情的な言葉は避けなければなりません。            もしも自信が無い場合は、お金を払う覚悟で弁護士に依頼した方が確実です。        8、保険会社との折衝           示談代行制度            任意保険を契約しようとすると、今ほとんどの保険は示談代行制度付き保険です。すなわち損害賠償の交渉            は、すべて保険会社またはその代理人(弁護士)が行うわけです。            交渉の場に加害者を引き出すことは、残念ながらできません。こちらが素人であるのに対し、あちらは百戦            錬磨のプロであることを、肝に銘じておきましょう。           示談を目的にしない            保険会社がでてくると、何がなんでも決着しなければならないと思いがちです。            保険会社との当事者どうしでの交渉は、時間の節約以外に何もメリットはありません。とにかくこちらの言            いたいことを言うチャンス程度に考えて、加害者への恨み辛みや、保険制度の問題などを語りましょう。           保険会社の示談金提示は安い            保険会社の提示額を100とした場合、この交渉を仲介する「交通事故相談センター」に持ち込むと、11            5から135になります。            自分で探した弁護士に示談交渉を頼むと、およそ130から160くらいになります。            ただし弁護士料がかかることは当然です。            さらに民事訴訟の場に持ち込めば、150から時によっては230くらいまで跳ね上がります。            それぞれ長短がありますので、自分が最終的に委ねる場を決めてください。           損害賠償基準            損害賠償交渉には、必ず基準とする算定式が存在します。どの算定式を取るかによって、有利にも不利にも            なります。まずは本屋さんに行って、関係する本を買ってきて読みましょう。            ただしこうした本は、加害者のために書かれた本が多いことを忘れないことです。加害者のための本を読ん            でおくことも、相手の出方を知るために必要です。まずは自分でしっかりと勉強することが大切です。           示談屋に気をつけよう            示談屋は、実に紳士的に近づいてきます。まったく関係ない人から示談の代行を持ちかけられた時は断りま            しょう。示談屋に引っかかると、およそ3割から5割のピンハネをされます。            知人から、会社の顧問などをしている弁護士を紹介されることもあります。こうした弁護士は加害者専門の            弁護士が多いものです。まず人物の確認が重要です。        9、弁護士探し           基本は弁護士に任せる            相手側が専門家ですから、素人の被害者に太刀打ちできるはずがないと考えましょう。            確実な方法は、こちらも弁護士を立てることです。この方が相手側弁護士からイヤなことを言われずにすみ            ます。ただし弁護士探しには念を入れて取り組みましょう。           大方の弁護士は「加害者側」            現在損害保険会社に登録されている弁護士は、夥しい数に上ります。「私は交通事故に詳しい」などと自慢            する弁護士は、ほとんど保険会社のお抱え弁護士です。こんなのに頼むとひどい目に遭います。            弁護士は正義の味方などという先入観は捨てましょう。            今日本で被害者の弁護しかしない、という被害者弁護士は僅かしかいない現実を忘れないようにしましょう。           良い弁護士探し            確実な方法は、然るべき人から紹介してもらうのが一番です。ただし弁護士法というガードがあって、仕事            の斡旋は出来ないことになっています。            もうひとつの方法は、自分の足で納得いくまで探すことです。各地には弁護士会の相談センターがあります。            5000円の手数料を払えば、可能性のある弁護士を紹介してもらえます。これに何度でも挑戦して、納得            いくまで自分で探しましょう。           良い弁護士とは            良い弁護士とは、その道の専門家であることです。しかし交通事故の、しかも被害者側の弁護士探しは大変            なことです。むしろ被害者の立場で戦ってくれるという条件で探したほうが容易いでしょう。            もうひとつは、依頼者の話を良く聞いてくれる人でなければならないことです。示談や裁判などの交渉には、            弁護士との「息が合う」ことが大切です。