たった九年の命の証に・・・
  タイトル
                                                                            戸川 孝仁
                                                                            戸川二美子         

    森にかえったしな乃

       あの、暑い夏の日、
       わたしたちの前から突如いなくなってしまった、しな乃。
       君はいったい、どこへいってしまったのか。
       わずかばかりの思い出だけを残して、
       君はどこへ、いってしまったのか。

       そんなある日、
       風が君の消息をつたえてくれた。
       やっぱり、しな乃は森へかえっていったと。
       明るく、豊かな奥多摩や道志の山々。
       あたたかい腐葉土と苔におおわれた、奥秩父や蓼科の山。
       毎日が、君のためにある森で、
       春は朝寝ぼうの花を起こしてまわり、
       夏は高い木の枝で唄い、
       秋には来年のために、どんぐりの種を埋めてあるく。
       しな乃は大好きな森に遊び、
       大好きな森をつくっているんだと、
       風は、そう教えてくれた。

       いつか君がいたころのように、
       山歩きを再会する日が訪れたら、
       森のほの暗いやぶ陰に咲く、蓮華升麻のうす紫に、
       そんなしな乃の姿を、見ることができそうな、
       予感がします。

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