ライン

review



リストマークFact-ional Theater「ベンチ、ベンチ、ベンチ」

(3月22日 シアターZOO)

 
 「ベンチ」を共通のモチーフにして
3人の演出家がそれぞれ違った役者を演出、ストーリーもそれぞれ別個の芝居に仕立て上げた。内容の是非以前に企画として非常に面白く、可能性の広がる実験的な試みと評価したい。
 
 @滝沢修演出チーム「天国に一番近い島と最後の楽園」

 新千歳空港内と思われるベンチに、およそ時代にそぐわない派手な身なりの女性3人が現れる。年齢はみな100歳以上!。海外旅行に行くような大きなな荷物を持ち、3人は思い思いに行き先をどこにするかを話す。しかしそれは結局実現しない話。ひとしきり話に花が咲かせた後、3人はそれぞれ現実の生活に戻っていく。

 彼女たちはみなそれぞれ誰かのために生きてきた、という。そして100歳を超えたた今、初めて自分の時間を持てるようになり、「天国に一番近い島」を探すのだ。そこには夢も希望もある。ペットを捨て、介護していた母親を殺してまでこの場に集ってきたのだ。しかし、そこまでしても彼女たちは最後に現実に戻っていく。しかも「今度はどこのベンチにする?」という相談をしながら。一昔前の井戸端会議よろしく日常の由無しごとから開放される場所が、ベンチであり、「最後の楽園」なのだ。3人は明るく去っていくが、心に閉塞感も感じさせる結末。それは、現代人にはベンチさえ見出せず、ただ生きることの重さだけを感じて生きている人だって少なくないはずだから。

 女優3人とも好演だが、同じようなキャラがそろってしまった印象。3人の個性が今ひとつ浮き彫りになりにくい。地に足のついた演技だけにもったいなさも。

A佐々木里美演出チーム「アーケード」

 狸小路が設定と思われるベンチに、アルバイト先が同じという青年と女性、それにギターを抱えストリートミュージシャンと思われる風貌の40代(?)の男で物語は展開する。漫画の「北斗の剣」の話題で盛り上がったり、女の故郷や、アーケードに登ってしまった猫、金物屋の親父に口説かれる話など、あまりにも日常にべったりと寄り添った会話が続く。

 そこにあるのは、一昔前ならばベンチがおいてある日本中の商店街や路上で繰り広げられた、地域の姿そのものである。青年が男に「(奥さんに)逃げられたの?」とたずねる場面も、この舞台設定ではいきなりプライベートに踏み込む不自然さがあるが、一昔前の地域社会の中であれば、ごく普通に取り交わされた会話だろう。この男はその姿を知っているに違いない。そしてそれが失われていく今に哀しみを覚えているに違いないのだ。だから青年と女性の二人の会話に積極的に絡んでくるし、二人を見つめる目線は、単なる通りすがりの人間のものよりははるかに暖かく、優しい。そして他人とのコミュニケーションをだれよりも望んでいるかのよう。

 生活が流れ続けるこの場所で、ベンチがそれを見続ける。当たり前になっった光景を、この男は、どんな思いでずっと見続けているのだろうか。当たり前の姿が失われいくことを知っているこの男は、本当は人との交わりを渇望している現代人の鏡かもしれない。と、思うのだがどうだろう。残念ながら、演出の佐々木がいう「キーワードは葛藤」という部分を掴むことは私にはできなかったが。

 永利靖、木村洋次ともに声のよさが際立つ。女性役の柏木美子も状況に素直に対応した演技で好感。


B手代木敬史演出チーム「いける」

 病院の休憩室のベンチで入院患者二人と、外出許可をもらったのにもかかわらず家に居場所がなく戻ってきた患者の計3人が、大晦日の夜に繰り広げるおしゃべり。

    まず面白いのは3人の個性が比較的わかりやすく表出   していること。家庭の状況などが仔細に描かれるのは出戻りの患者の城島イケルだけだが、3歳の子持ちの割には妙に若々しくどこが病気なんだとほかの患者にいわれるくらい伸びやかな弦巻啓太、暗さと落ち着きを持ち、かつ微妙な鈍感さをもつ温水元。会話のリズムがみな違い、それでもなんとなくあわせる妙。見知らぬもの同士で会話を始めるときにだれもが経験する空気(もちろん、彼らの場合は3人とも顔見知りであるのだが)が漂う。
 
 私も経験があるが、入院患者というのは社会的に見て実に中途半端な状態である。仕事はしなくていいとされ社会貢献のできない立場にいる。しかし、死んでいるわけではなくて病院に縛られながらもその中で社会生活を営んでいる。一般的な社会から隔離されることによって、自分の内面といやでも向き合うことになる。だからこそ、病院の中で交わされる会話には人間の本質に絡む本音が表れるのかもしれない。

 ではこの三人の会話に、そのような本音が見えるか。微妙なところかもしれない。話として面白いのだが、「面白かった」というだけで素通りしてしまいかねない作品なのだ。つまり、病院での会話のある側面を切りとっただけというか。確かに家に居場所のない城島の話や、「外とは空気、色、匂いが違う」と話す弦巻の台詞には、個々人の本音が見えるのだが、なんとなくそれで終わってしまう感じ。それでいいといえばいいし、そういう舞台でもいいと思う。でも「ん?それで、だから?」という消化不良さが残ったことも事実だ。


 
 
 
 


メール

トップ