睡眠時無呼吸症候群に対するネーザルCPAP療法

CPAP療法の歴史

 1981年にサリバンらによって経鼻陽圧気道換気療法(ネーザルCPAP療法)が開発されたことで、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は大きく変わりました。CPAP療法の開発以前は、SASに対して確実に改善が期待できるといえる治療はのどを切って気管に直接穴を開ける気管切開しか存在せず、これは患者さんにとって大変負担の大きい治療法であったため、ほとんど行われることはありませんでした。CPAP療法は1986年頃から世界的に普及し始め、わが国でも2000年前後から急速に普及が進んでいます。現在では、CPAP療法はSASに対しての最も確実な治療法と考えられるようになっています。
CPAP療法の原理

 開発当初から、サリバンらはCPAP療法の原理として、睡眠中につぶれてこようとするのどに風圧をかけることによって、のどの部分に空気でできた補強材を入れて支える(pneumatic splint)というとらえ方をしていました。CPAPにはその他にも肺の容積を増やす作用・肺のセンサーに作用してのどを広げる筋肉を刺激する作用・心臓の働きを助けてのどのむくみを軽減する作用などがありますが、最も大事な働きはサリバンらの提唱した空気の補強材としての役割であると考えて間違いないことが分かっています。
CPAPの原理
CPAP療法の保険適応・保険診療のルール

 1998年からわが国でもSASに対するCPAP療法が健康保険の適応となっています。信頼性の高い診断方法を用いて1時間あたりの無呼吸(完全な呼吸の停止)と低呼吸(止まりかけと理解してください)の合計が20回以上あることが確認されていることと、無呼吸によって睡眠の構造が大きく障害されていることが健康保険の適応される条件です。
 また、CPAP治療に使用する機器は在宅医療管理会社からのレンタル品であり、毎月1回レンタル料が発生しますが、このレンタル料は毎月の受診の際に支払っていただく通院医療費から支払われています。このため、継続してCPAP療法を受けるためには、必ず月一度医療機関を受診していただく必要があります。
CPAP治療機器の構造

 CPAP治療機器は、圧力をかけるための空気の流れを発生する本体である送風機と、空気の流れを患者さんに送るための送風回路(エアチューブ)およびマスクからなっています。本体の送風機で作られた空気の流れによって、回路・マスク・患者さんの気道に一定の圧力がかかるようになっています。
CPAPの構造
必要な風圧について

 CPAP機器を装着していても起きている間は風が来なくてよいように考えがちですが、これは間違いです。まったく風が送られてこないと、送風回路(エアチューブ)の中に患者さんご本人の吐いた息(呼気)がたまってしまい、この呼気を何度も吸い込んでしまいます。呼気中には酸素が少なく二酸化炭素が沢山含まれていますので、呼気を吸うことを繰り返していると苦しくなってきます。これを避けるため、起きているときや無呼吸が起こっていないときでも本体の送風機は4cmH2O(センチメートル水柱)程度の弱い風を送り続けるようになっています。マスクには呼気を逃がすための排気口(呼気ポート)がついています。
 無呼吸を抑えるために必要な風圧は患者さんによって大きく異なりますので、通常はSASの診断がついてCPAP療法を始める際には診断とは別にもう1泊入院していただき、睡眠検査をしながら適正な風の強さを設定します。これをCPAPタイトレーションと言います。CPAPタイトレーションで無呼吸・酸欠・いびき・呼吸が不安定になることによって眼を覚ますといった現象が発生しなくなった風圧が、個々の患者さんのためのCPAP療法処方圧ということになります。
オートCPAP

 最近では、患者さんの呼吸の状態を監視して、無呼吸が起こりそうになると風圧を強め、呼吸が安定していると風圧を弱める自動圧設定機能を持った装置(オートCPAP)が登場しました。以前に比べて無呼吸を検出する能力はかなり向上し、ある程度機械任せでも効果が得られる場合が増えていますが、オートCPAPを使用する場合でもやはりずっと機械任せにするのではなく、定期的にCPAPタイトレーションを行って機械が適正な圧を供給しているかどうかを確認して行く必要があります。
CPAPの新技術・小型化

 CPAPに用いる機器は、原理そのものは単純で、小型化が進んでいます。かつては数キログラムの重量があって持ち運びには不向きな機器が多かったのですが、2000年以降は小型軽量の機器が多数登場しています。現在、最も軽い機種は送風機本体の重量1kg以下になり、サイズも枕よりも小さくなっています。ただし、エアチューブやマスクは一定の大きさが必要になるため、本体の小型化競争は現在ではさほど大きな意味を持たなくなりつつあります。
小型のCPAP
CPAPの新技術・カードによる管理
ICカード
 外来通院の際には、CPAPをどの程度の頻度で使用し、機械がどういった動作をしていたかを入念にチェックします。最近の機器の多くは本体内部に使用状況や風圧の変動を記録する機能を持っており、機器を医療機関のコンピュータに接続してこれらの情報を取り出して印刷することが可能です。受診のたびに本体を医療機関に持ち込むのが手間である場合には、ICカードを使ってデータだけを医療機関に持ち込み、情報を得ることもできるようになっています。また、ICカードの情報を修正して、自宅でCPAP機器に差し込むだけで風圧のかかり方などの設定を変更できる機種もあります。
CPAPの新技術・より快適な装着感のためにCflex機能つきCPAP

 機器の小型化競争は一段落して、最近ではより装着感を自然にするための技術が開発されています。その一つとして、息を吐くときと吸うときで風のかかり方を変化させる機能が登場しています。
 この機能を使うことで、息を吸うときには無呼吸を抑えるのに十分な風圧をかけ、吐くときには風圧が邪魔にならないように低い圧に落としてより違和感なく使用できるようになる場合があります。

マスクの開発

 直接患者さんの顔に触れるマスクの良し悪しは、CPAP療法を快適に続けるための鍵になります。すでに多数の種類のマスクが登場し、患者さんのニーズにかなり細かく対応できるようになっています。今後は、CPAP装着中にどうしても口を開けてしまう方や、鼻詰まりのため鼻マスクを装着できない方により適したマスクの開発が進むと考えられます。
呼吸器科に戻る