睡眠時無呼吸症候群と交通事故
事件を伝える新聞記事
平成の2・26事件

 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の名を一躍有名にしたのは、2003年2月26日のJR山陽新幹線の居眠り騒動でした。
 この新幹線の運転士は、前日に8時間以上の睡眠を取っていたにもかかわらず、運転中に約8分間居眠りをしてしまい、停止ラインの100m手前で列車が停車してしまいました(居眠り中に列車が走行した距離は実に26kmといわれています)。この運転士は後に重症の睡眠時無呼吸症候群(SAS)であることが分かり、SASが日中の強い眠気の原因となり、未治療のSAS患者さんがその眠気のために重大事故を起こしうる可能性があることを広く世の中に知らしめる結果になりました。26という数字がいくつも登場することから、睡眠医療の関係者の間では、この事件は『平成の2・26事件』として知られています。
米国での認識

 米国では1980年代には睡眠不足や睡眠の病気が日中の眠気や集中力の低下を招き、個人だけでなく社会全体に大きな損失を与えているという認識が生まれていました。スペースシャトルの打ち上げ失敗事故・大型タンカーの座礁事故など、複数の重大事故が、作業員の睡眠不足と眠気が直接の原因となっていることがわかり、スタンフォード大学のデメント教授が中心となって、”Wake up America(目覚めよアメリカ)”というキャンペーンが全米で繰り広げられました。これは本来「睡眠時間を削って作業時間を稼ごうとすることは結局個人にとっても社会にとっても重大な損失を招く」ことを強調することが目的であり、SASだけを治療のターゲットにしたものではありませんでした(この点から言えば、睡眠不足に十分な注意を払わずにSASだけを見つけ出そうとする現在のわが国の流れはややいびつなものと言わざるを得ません)。このキャンペーン活動の中で、SASと事故についての研究調査も盛んに行われるようになりました。
SASドライバーは交通事故を起こす危険性が高い

 海外ではSASと交通事故の危険性に対しては、1988〜89年以降大変多くの報告がなされています。これによると、SAS患者さんのが交通事故を起こす確率は、SASがない方の約7倍、一般ドライバーの約3倍であり、しかもSASが重症になればなるほどその確率は高くなることが分かっています。わが国でも同様の研究がなされており、特に重症度の高いSASの方で居眠り事故の危険性が3倍に増大することが報告されています。
SAS患者の事故率  重症度ごとの事故率
SASドライバーの交通事故は予防できる

 SASの眠気の原因は、無呼吸から回復するために睡眠中に頻繁に目を覚ましてしまうこと(呼吸関連覚醒)によって生じます。このため、SASを適切に治療することによって、理論的には眠気を軽減させることが可能です。実際に、SASのドライバーに1年間ネーザルCPAP療法を受けていただくことによって、事故全体を5分の1に、居眠り事故を10分の1に減らせたという報告もあります。重大な事故から患者さん自身と社会を守るために、SASを含めた眠気の原因疾患・睡眠不足を解消する国家的取り組みが急務と言えるでしょう。
 1つ注意しておかなければならないのは、日中の眠気の原因はSASだけではないという点です。特に勤勉で睡眠時間を削って働くことを美徳と考えがちな日本人にとっては、単に睡眠時間が短いことが眠気の大きな原因となっている場合も多いことを知っておかなければなりません。時には睡眠と覚醒を含めた生活リズムの乱れが眠気の原因となっている場合もあります。ナルコレプシー・周期性四肢運動異常症などの特殊な睡眠の病気にかかっておられる方も決して稀ではありません。
 眠気の診断・治療は大変専門性が高く、睡眠医療専門医にご相談されることを強くお勧めします。
CPAPの事故抑制効果
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