「ヤーンの目」についての一考察

1997年9月12日






1 「ヤーンの目」とは何か
グインの世界に「ヤーンの目」と呼ばれる星があるのをご存じでしょうか。 この「ヤーンの目」、太陽が地平に沈むと、真っ先に東の空に輝きはじめ、 別名「暁の星」「東の明星」「東の道標」とも呼ばれて旅人の道標となって います(「サイロンの豹頭将軍」p.203など)。

我々の世界で「一番星」といえば、「宵の明星」である金星です。しかしな がら、もし「ヤーンの目」が金星のような、地球の内側の軌道で太陽のまわ りを公転する「内惑星」であったとしたら、「ヤーンの目」は太陽が沈むと 同時に「西の空」に輝きはじめなくてはなりません。また、金星が東の空に 輝く場合、それは明け方に限られます(明けの明星)。したがって、「日没 と同時に東の空に輝きはじめる」グインの世界の一番星である「ヤーンの目」 は我々の世界の一番星とは明らかに異なります。

また、「東の明星」「東の道標」との異名のとおり、「ヤーンの目」は時間 に関係なく、常に東の空に輝いています(「ヤーンの日」p.5など)。 もし、「ヤーンの目」が恒星、もしくは火星や木星のような、地球の外側の 軌道で太陽のまわりを公転する「外惑星」であったとしたら、地球(もしく はグインの世界の存在する星)の自転とともに東から西へ運行しなくてはな りません。

したがって、「ヤーンの目」は恒星でも惑星でもない、ということになりま す。

では一体、「ヤーンの目」とは何でしょうか?

「ラゴンの虜囚」p.131で、ラゴンを求めてノスフェラスを東へむかうグイ ンが、砂嵐に巻き込まれて気を失い、狗頭山で再び目覚めたときに、自分の いる場所を探すべく「ヤーンの目」を探します。

ここでグインは、「ヤーンの目」の位置、おそらくはその高度から、自分の いる場所がかなり東であることを悟っています。すなわち、「ヤーンの目」 は東へいけばいくほど、特徴的にその位置を変える星である、ということに なります。

このようなことから、「ヤーンの目の正体について考えてみましょう。「ヤ ーンの目」が中原から見て常に東にあるためには、「ヤーンの目」は中原の 東の上空にあって、しかも地球の自転周期と同じ周期で地球のまわりを公転 していなくてはなりません。すなわち、「ヤーンの目」とは、我々の世界で も気象衛星や通信衛星として利用されている、おそらくは人工の静止衛星の 一種であろう、と推測されます。

ただし、静止衛星は赤道上空になくてはなりません。したがって、赤道上か らであれば、観測地点から東にある静止衛星は真東に見えますが、それ以外 の場所からは少しずれます。中原は気候的に見て、北半球の中緯度地域にあ ると推定されますから、仮に北緯45度に位置すると考えてみましょう。

グインの惑星が我々の地球と同じものであって、同じ自転速度をもっている とすると、静止衛星軌道半径は約35800kmになります。地球の半径は 約6400kmですから、静止衛星「ヤーンの目」は地表半径で約8900 kmの広い範囲から見えることになります。仮に中原(北緯45度)がこの 範囲の西の端に位置するとすると、「ヤーンの目」は地平線ぎりぎりの、真 東よりおよそ8度南にずれた位置に見えることになります。したがって、充 分に「東の道標」としての役に立つ、ということになります。

しかも、この静止衛星「ヤーンの目」は、中原から東へいくほど、その高度 を増していきます。したがって、その高度を見れば、自分がどれほど東にい るのかも知ることができます。

また、星座を熟知している人間であれば、「ヤーンの目」の高度と、それが どの星座にいるかによって、自分がどれほど南、もしくは北にいるかをしる ことも可能です。特に、船乗りにとってはこの技術は必須のものであったと 思われます。「紅蓮の島」p.221で、イシュトヴァーンが《ヤーンの目》の 位置から、自分たちがかなり南にいることを察しています。いかにも海で育 った彼らしいエピソードであるといえるでしょう。



2 「ヤーンの目」は何のために存在するのか
さて、もし「ヤーンの目」が人工の静止衛星であるとすると、日没後まっさ きに輝きはじめるということから、かなりの明るさで輝いていることになり ます。もし、太陽光を反射して輝いているのだとすれば、それは宇宙ステー ションなみに巨大なものである可能性が大きい、ということになります。ま た、季節によっては、静止衛星「ヤーンの目」は夜の数時間、太陽がまった くあたらないことになります。これは記述がないのではっきりしませんが、 もし、「ヤーンの目」がそのような時間であっても輝いているのだとすれば、 「ヤーンの目」は自力で発光していることになります。いずれにしても、こ の「ヤーンの目」を作ったものは、かなり高度な科学技術を持っていたもの であることは間違いないでしょう。

では、いったい、何者が何の目的で、この「ヤーンの目」を作ったのでしょ うか。

これはまったく想像するしかありませんが、グインの世界の超科学、といえ ば、かのグル=ヌーに横たわる《星船》が思い当たります。その《星船》を 作った超科学種族、彼らこそが「ヤーンの目」を作った種族ではないでしょ うか。あるいは《星船》の種族に敵対する種族がつくった、という考え方も できるかもしれません。

また、あるいは「ヤーンの目」とは、地球に移民してきた彼らの、役割を終 えた移民船だったのかもしれません。あるいは、この「ヤーンの目」という 名前は、神にも匹敵する何らかの存在が、もしかしたら「運命神ヤーン」そ の人が、地球を監視するために打ち上げた衛星である、ということを物語っ ているのかも知れません。

また、「ランドックの女神」として知られるアウラは、中原では「暁の女神 アウラ」として知られています。そして、「暁の女神アウラ」は「東の朝焼 けの中に住む」という神話があります。「東の朝焼けの中に住む暁の女神ア ウラ」と「東の空に輝く《暁の星》ヤーンの目」、それは、もしかしたら 「アウラ」と「ヤーンの目」、ひいてはグインのやってきた世界、「アウラ」 のしろしめすランドックと「ヤーンの目」との関係を暗示しているのかも知 れません。





《以上は、ゆがんだ月さん、いがらしさん、KAZUO007さん、CUDJOさん、 きくちさん、総門さん、八巻のメールを参考にしています。(文責:八巻)》