中原の医療

1997年9月12日






1 きっかけ
最初のきっかけは、「黒蓮」でした。これをどう発音するか、が話題になっ たのですが、「こくれん」と読む方が多いようだ、ということに落ち着きま した。そして、一見正反対の作用をもつこの薬が現在のアヘンではないか、 という説が受け入れられると、では仮死状態を作り出すというティオベの秘 薬は何だろう、という話になりました。これについての結論はまだ出ていま せん。ただ、仮死状態といっても、少しでもこれについての知識を持つ医師 であれば、それを疑うだろうし、そのための検査もするのでは?という疑問 が沸き起こってきます。

それでは、当時の医学では一体どんな検査ができたのでしょう?「パロのワ ルツ」の中でスカールがパロに逗留することになり、若いながら名医のほま れも高いメースらによる診察を受けているときに、スカールの耳タブから少 量の血液を銀の容器に針を使って取っています。さらに、ヴラド大公が脳溢 血を起こしたときには、医師をかねる魔道士がすぐにそれを診断し、対処の 方法も知られているようでした。すると、ある程度解剖の知識もあったので はないか、と思われます。



2 医療史略
我々の歴史から医療がどのように発展してきたかをふりかえってみましょう。

紀元前400頃 ギリシアの医師ヒポクラテスが「病気」という概念を生み だした。それまでの、迷信や神話に左右されたり、対症療 法中心の医療、いうなれば「魔法」にも似た医療が、症状 の組み合わせ、その進行状況などから「病気」を健康な状 態からの逸脱としてとらえる概念が生まれたのである。
1612年 イタリア人医師サンクトリウスによる体温計の発明。これ により、「さわって熱く感じる」熱でなく、客観的に温度 を知ることができるようになる。
17世紀 解剖学が発達し始める。
1660年 オランダ人学者が光学顕微鏡を用いて微生物を発見。ただ し、もっと医学の面で実用的な高倍率の顕微鏡は19世紀 までできなかった。
1810年 聴診器の発明。
1850〜1900年 フランスの医師パスツールとドイツの微生物学者コッホに よる研究。病気が微生物の働きで起こるのではないか、と の仮説が発表される。
1895年 レントゲン博士によるX線の発見。
1901年 血液型の発見。
1906年 心電図の発明。
1928年 ペニシリンの発見。実用化は12年後。


この歴史をふりかえって見ますと、血液検査を行っているグインの時代の中 原は、おそらくわれわれの世界の20世紀に入ってからだ、と推定されます。



3 血液検査
ところが、中原には顕微鏡の記述も望遠鏡の記述も出てこないようです。ガラ スの記述はステンドグラスの形ででてくるにすぎず、レンズや望遠鏡、まして 顕微鏡などについては、示唆一つありません。ですから、今のところ、顕微鏡 はないものとみなすことになります。では、スカールから取った血液でどんな 検査をしたのでしょう。血液検査がパロだけのものでないことは、スカールが あまりに量の少ないことに驚いているのであって、血をとることにでないこと からもわかります。

仮説としてあげられたのは、


1) 試薬がいくつか存在する。これについては情報不足であるが、砂糖水で できる血液検査も現代にはある。
2) 血沈検査
3) 色や、粘度などからわかる。
4) 専門の血液判定士が「なめて」判断する。
5) 魔道師が魔道パワーによって、取れてきた血の生命力(免疫力)を測る。 それによって将来その病人が治るかどうか調べる。
6) 魔道パワーでクローニング。量が少なくてもこれでOK。
7) 秘伝の薬草を血液に混ぜ、9齢のトカゲに飲ませ、脱皮を待つ。脱皮後、 背中の模様を調べると病名が判る。
8) 巫女の額とおへそに血を塗り付け、医療の神カシスに捧げる踊りを踊り 続ける。カシスの神託が降りるまで踊り続けること。


グインの世界では魔道が単なる呪術をはるかに超えたレベルにまで発展して いるために、魔道による医学への貢献も有り得るのではないか、また「神か らの啓示」もしくは「神からの使者による指導」の貢献も大きかったのでは ないか、との意見が出ています。すると、特に科学による根拠がなくても、 診断の方法が確立されているという可能性もあるわけです。科学が中心と なった我々の世界とは異なり、ある意味で精神力による「科学」が発達して いるグインの世界では、我々の世界と同じ尺度は使えないのかもしれません。



なお、黒蓮、ティオベの毒、ガラスについての出典は次のとおり。

黒蓮:     第7巻「望郷の聖双生児」p.78、第14巻「復讐の女神」p.188、 第46巻「闇の中の怨霊」p.121など。
ティオベ: 第10巻「死の婚礼」p.209など。
ガラス: 第57巻「ヤーンの星の下に」p.276。


また、わたしどもの世界の医療史につきましては、次の文献を参考にしております。

The American Medical Association Home Medical Encyclopedia. Medical Editor: Charles B. Clayman, M.D. Random House, Inc. New York, 1989.





以上の文章は、
[nut-brown]のDickさん、やまだ@さんのぜさん、たくみさん、 ささき@秋田さん、うえたにさん、本田さん、菊地@NTTさん、いがらしさん、 八巻さん、のきさん、Maxma@平塚さん、来住さん、中岩さん、ふささん、 グイン2代さん、ひらまつ@神戸大さん、リンクさん、ゆがんだ月さん、 CUDJO@京都さん、およびKAZUO007によるメールをもとにしております。