【神話プロジェクト】


制作:栗本薫メーリングリスト(nutbrown) グイン・サーガ雑議団




発表をご覧になる際の注意事項
作成にあたっては、グイン・サーガ本伝1〜63巻、及び外伝1〜15巻を参考にした。ただし、本伝1〜20巻については愛蔵版の記述も参考にしている。




無許可での転載および一切の改変を禁ずる。



--検索項目--



中原の神話
北方、タルーアンの神話
ランドックの神々
キタイの神話
草原の神話
南方の神話
ミロク教
中原の伝説
北方、タルーアンの伝説
キタイの伝説
カナンにまつわる伝説
ノスフェラスにまつわる伝説
パロにまつわる伝説
暦にまつわる伝説
ことわざ
我々の世界と共通の諺
アレクサンドロスの言葉
オルフェオ
オフィウス
その他の成句




【中原の神話】
アイ
 
(神)星々をちりばめた巨大な天空の精。毎朝、その身をつつむカーテンを開く。
アイオーン
 
(神)太陽神ルアーの駆る炎の天馬。
アイノ
 
(神)大気の乙女。空気の精。イラナに従い、風をおこす。火の接吻をし、星の光や霧を食べ、風を飲む。人が死んでヤヌスの神の座へのぼってゆくとき、人を抱きとめ、接吻し、クモの糸と朝露で編んだ布をひろげてくれる。
アイノ
 
(神)真白な雪の精。
アウラ
 
(神)青ざめた顔をした暁の魔女。暁の女神。東の朝焼けの中に住むニムフ。あかね色の夜明けの色の目、紫の瞳を持ち、紅の裳裾をひいている。見はてぬ夢を収穫する。
アガルパの島
 
(神)魔女サイレンがすむといわれる。
アクタイオン
 
(神)海からやってきて、海へ帰っていく、えたいのしれないやつ。
アムネリアの花の精
 
(神)あでやかで、華やかで、美しい。
アムルゴス
 
(神)犬頭蛇神の怪物。
アリーナー
 
(神)死の娘。人を抱擁して、死にいざなう。
アルガンガス
 
(神)地獄の犬ガルムと闇の妖蛇クロウラーとの間に生まれた不浄の子。犬頭蛇身。剣で切ると切っただけ増えるが、素手で引き裂くと消滅する。
アルトゥール
 
(神)翼ある蛇神。巨大な翼をひろげた人面の蛇。旧ゴーラ帝国の象徴。新ゴーラ王国の象徴としても採用された。
イグレック
 
(神)闇に生きる土の神。地の神。富有の神。貪欲の神。モグラの神。土霊の王。馬鹿と盲目の支配者。食魔。土食らい。大食らい。臭くて真黒いしっぽをもち、舌が長い。盲目だが、長耳で耳がよい。台座の上にいつもうずくまって動かない。意地が悪く、愚かで、百の災厄を背負っている。汚泥に住み、薄汚い糞虫を飼っている。五万タッドの金袋をもっている。
イシュタール(イシュタル)
 
(神)乳のように白い胸と銀の尻尾をもつ。
イラナ
 
(神)狩の女神。戦の守護女神。幸運の女神。裁きの女神。勝利の女神。戦いと意志をつかさどる。純潔で、美しく、気迫があり、兜の下から背中のマントの上に流れる長い光の髪と七つの尾を持ち、常に甲冑をつけ、角笛をもち、蛇がまきついた曲がりくねった杖、幸運の杖、戦術を教える生きた杖、ツタをからませた聖なる槍、聖なる楯を手にし、勝利の剣をかざして風の白馬にのっている。敏捷な若鹿を飼っている。ルアー、サリア、イリスとは兄弟姉妹の関係にある。サリアとともにルアーの青ざめた姉妹と呼ばれ、ルアーの最愛の妻にしてその右で戦い、ルアーを守る。息子に狩の名人インガス、娘にオオカミに変えられたナナがいる。その裸身を一目見ただけで、人は石になってしまうと云われる。マリオンに恋をして、嫉妬に苦しみ、呪いをかけてマリオンを鹿に変えてしまったように、怒りにかられると呪いをかけ、人間の姿を他のものに変えてしまう、といわれる。かかあ天下であるといわれる。剣をかざす姿は勝利の象徴としてよく描かれる。
イリス
 
(神)月と夜の女神。炎と光と熱とからつくられた青白い聖天使。平和をつかさどる。ヤヌスから夜と月と死とをわかち与えられて生まれた。たおやかで、さびしげで、恥ずかしがりで、美しく、慈悲深く、聰明で、青白い微笑みを浮かべ、額に明星を飾り、青白い光に包まれ、月光と日の光とで織り上げた髪を持ち、白い霞のうすものを着て、月光をこぼす青いつぼを持つ。心配症であり、不実な一面も持つ。地上のおろかしいたたかいなどには何の心もかけることもない。銀の鈴をふるって音をかなで、青白い馬車(チャリオット)にのり天空をかけている。ルアー、サリア、イラナとは兄弟姉妹の関係にある。一説にはルアーの双子の弟だったともいわれ、ことにケイロニアでは、女神ではなく、ルアーの弟の美少年だ、という説をとるものが多い。朝ごとに兄ルアーに求愛される。ある夜、ルアーはイリスを追いかけ、いつものように山の端に没しようとしたところ、イリスのウマがイリスをふりおとしたため、ルアーはイリスを捕まえ、妹イリスを姦淫し、イリスは生でも死でもない黄昏の生物『イリスの石』を生みおとした。『イリスの石』を生みおとしたイリスはわが身の罪深さにおののき、炎の中に身を投げたとき、彼女の抱いていた不具の子供『イリスの石』は、いくつもの部分にわかれて地上にちらばり、それなりになったという。他に、ルアーとのあいだに、五感のすべてを封じられて、永遠の闇の中にとじこめられた、禁じられた赤子ラーを生んだ。ルアーに強姦された後のイリスは異様な血のような色をしていたといわれ、《嘆きのイリス》《狂った月(イリス)》とよばれて不吉の象徴とされる。怒りで伝説の詩人マリウスを変身させた。星々のことを「イリスの宝石」と呼ぶ。「イリスの刻」とは真夜中のこと。
イレーン
 
(伝)心優しい魔女。
インガス
 
(神)《狩人》のイラナの息子。名高い狩の名人として知られ、森で森の主である豹と戦い、知略をもってそれを捕え檻におしこめた。
ヴァルキューレ(ヴァルキューリ)
 
(神)男を切り刻んで興奮するという魔女。死者の列を導く。
ウィレンの雪の精霊
 
(神)美しい。
ウェスタ
 
(神)永遠に清らかな女神。ウェスタの神殿の女祭司長になるには純潔が要求される。
エオリア
 
(神)光につつまれたあでやかな神都。
エコー
 
(神)木霊精。
エリアル
 
(神)地霊。忠実な乙女。
エリエル
 
(神)足にからみついて邪魔をする。
エリス
 
(神)不和、不信、疑惑の妖女神。災厄の神。醜く、疑り深く、人の心に疑惑を吹き込み、執念深く、人を追う。炎の息を吐く。ヤーンの娘で、ゾルード、ティアとの憎悪と不和と死と嫉妬と陰謀の三姉妹の一人。
エルダゴン
 
(神)山の神。ダゴン三兄弟の末弟。ウィレン山脈のティルレン山に住むといわれ、ウィレン山脈でエルタゴンへの供物を怠ったり、悪口を言ったり他の神の名を唱えると山が吹雪くという。
エーリア
 
(神)空気の精。
オルセーニの川
 
(神)人が死ぬとき、わたると云われる昏き河。骸骨の舟守りカロンに守られている。
カシス
 
(神)医学、医薬の神。自由と平等を重んずる学問の神。知恵の神。
ガルム
 
(神)ドールに飼われている、地獄の入り口を守る、血に飢えた3つの頭(一説には双頭)の地獄の魔の犬。全身にごわごわと光る針のような毛が密生した、たくましい胴体をしていおり、胴の両側に、太い先のひらたい足が三対はえており、先の方で三つ又に分かれている尾には毛はまったく生えておらず、三本の細長い、しかしがっしりとした、蛇のような首が生えており、とがった牙がずらっと並び、炎の舌をもつ恐ろしい頭がのっている。死肉を食う。黄金と鋼鉄のくびきにつながれている。娘にシラがいる。闇の妖蛇クロウラーとの間に不浄の子アルガンガスをなした。ドールの地獄でガルムの硫黄の火によって罪人を裁く。深い穴の中から死の糸をあやつる。人の寝床に毒蛇を送り込み、人を暗殺する。地獄の扉をたたくガルムの鐘がある。
カルラア
 
(神)詩と芸能と音楽の神。歌舞の神。詩歌の女神。楽神。巨大な水色の翼と鳥の顔、そして乳房と男性器をそなえた両性具有のからだをもつ。歌舞の精たちがつかえている。カルラアの神殿ではさまざまな芸が奉納される。詩人はカルラアの使徒と呼ばれる。
ガルーダ
 
(神)ドールの遣わしめ。死者の魂を黄泉へ運ぶ。人が死者をいたむとき、酒を数滴床にこぼして、ガルーダへの供物とする。
カレニアの山の神
 
(神)パロ、カレニア地方の山の神。ほこらに祭られている。
カロン
 
(神)《三途の河》オルセーニの川を守る、骸骨の舟守り。
カローンの川
 
(神)ドールの領土である黄泉と、この世とをへだてる、ナタール河からそのままつづくとされる川。
カンランの蜘蛛の糸
 
(神)決して切れないという、細くてしっかりとした長い不思議な蜘蛛の糸。
カーイル
 
(神)酒をかもし、歌を歌う陽気な神。
ギア
 
(神)疑いの尻尾をもつ。
クジャク貝の精
 
(神)ひらひらしたピンクの貝殻がある。
グラックの黒い馬
 
(神)黄泉の国、ノルンの闇を棲家とし、そこから呼びだされるとも、ゾシークから来たともいわれる、地獄からあらわれた暗黒の生命。千の牙、ひづめをもつ八本以上の脚と、おそらくは手までもそなえている、目に見えない姿を持つ地獄の馬。雷雲とともに空をかける。ドールの髪であんだ鎖によってかろうじてつなぎとめられており、乗りこなすのは難しく、一度解き放たれたら、空を非常な早さで疾駆し、地上にあるすべてのものを踏み潰し、そこを焦土としてしまうまでは、ドールその人にさえとめられないのだという。
クラミニア
 
(神)ドールと醜い雌牛ランドーのあいだに生まれてきたいも虫。
グロキュス
 
(神)夢魔。
クロウラー
 
(神)直径が一タール半近くもありそうな闇の大妖蛆、地獄の蛇。丸い頭をもち、胴は二タールごとぐらいに輪になっており、青白い肌は魚の腹よりに似ているがそれよりもっとぬめりとして、体内の器官がおぼろげにすけて見える。丸い頭には目はないが、緩慢に開いたりとじたりする、平たい盃状の口のようなものがついている。輪のくびれのところは黒くなって、ざわざわとうごめく短い触手のようなものが細かく密生している。口から強烈な酸をとばして攻撃する。地獄の犬ガルムとの間に不浄の子アルガンガスをなした。
ゲウセナ
 
(神)ゼルヴィナと並び称される神々の園。
ケンタウロス
 
(神)馬頭人身。グラッグスに住む。
ゴネリル
 
(神)犬頭蛇神の怪物。
ゴーゴン
 
(神)姉妹の魔女。真黒な尻の毛をはやしている。
ゴーレム
 
(神)巨大な怪物。
サイレン(セイレーン、サイレーン)
 
(神)海に浮かんで、漂っている魔女、妖婦、妖女。アガルパの島にすむといわれ、恐ろしいくらい甘美な悩ましく美しい声で歌い、男をたぶらかし、誘い、四肢にからみついて自由を奪い、破滅にいざなう。旅人をまったく別の世界へ誘いこんでしまい、もうもとの国に帰れない方向へみちびくという、伝説の海の魔女。魔界ゾルーディアでは、空気の中にいて目に見えない妖女、空気の魔女。
ササイドン
 
(神)小悪魔たちを従えた半獣半神。悪魔神。はるかな太古に地獄への通路であったというササイドン城にその姿を現したという。
サビーヌ
 
(神)大悪魔。
サリア
 
(神)美と愛と幸運と快楽の女神。友情の女神。愛の裁定者。美の化身。愛と婚姻とをつかさどるヤヌスの使い。光につつまれ、うずまく髪と翼をもっている。幸運をもたらす首飾りをかけ、金の帯をつけ、千枚の衣装をもっている。聖なる樹をもち、聖なる牝牛を飼っており、鳩をその象徴とする。ヤヌスの子だが、ヤヌスと結婚した。ルアー、イリス、イラナとは兄弟姉妹の関係にある。イラナとともにルアーの青ざめた姉妹と呼ばれ、トートとトートスの双子の兄弟の母。サリアの魔法がかかると、人は恋におち、サリアの息が目にかかると、最初に見た人を二度と忘れられなくなるという。カラム酒はサリアの水といわれる。「サリアの小箱」とは女性器の俗称。中原では、結婚はサリアの聖なるきずなのもとに行われ、サリアとヤヌスの名のもとに三世を誓う。パロの王族の結婚の儀式の際の、サリアの塔のおこもりでは花嫁に一指もふれてはならず、また、サリアの塔のおこもりが終わった際に結婚を拒否できる機会がある。サリア神殿には女性しかいない。サリア神殿には小さなトート廟があるのが普通。義兄弟の誓いの儀式では、お互いの両側の頬に唇をかるくかわるがわるふれ、指先で相手の額にサリアの印を切る。

サリアの名において−−ここにこの二名の者を結びあわせるなり。いかなる意味においても、この両名の者の婚姻による結びつきに異議申し立つるべき理由を持つと信ずる者、現在この場においてその由を明らかにすべし。サリアのみ名を唱えよ、サリアの絆は永遠にして唯一絶対なるべし。うつし世のひとのさだめは短けれど、サリアの聖なる婚姻の絆こそ、未来永劫変るべからざるものなり。
(サリアの朗唱)

晴れた日には晴れた日の如く、嵐の日には嵐の如く、われ君と生きん。共に手をとりあいて隣にある時、遠く波涛に隔てられし時、われ変ることなく君と生きん。こはサリアのさだめなりせば、避けがたき死が二人をわかつその時にも、われは君が妻、君はわが夫なり。死が二人を分かつとも、黄泉のはてにて再び逢うべし、これサリアの誓言なり。
(サリアの誓いより)

汝はこの女を妻とし、この女が病めるときもすこやかなときも、汝が貧しいときも富めるときもつねにこの女を子の母として尊敬し、その幸福を守りいとしみはぐくむことをサリアの前に誓いますか。汝はこの男を夫とし、この男の子の母となり、この男の家を守り、この男の家の墓に入り、ともに眠るまで貞節をつくすことをサリアの前に誓いますか。この誓いは唯一にして永遠のものです。この誓いをたて、それからそれにそむくものはサリアの罰をうけるでしょう。なんぴとか、この結婚に成立せざる正当な理由を知るものは、たったいまサリアの前に手をあげてそれを申し述べなさい。
(サリアの婚礼の誓詞から)
シメラ
 
(神)炎の髪と三つの頭の怪物。ゴーラ王家の象徴。
シラ
 
(神)ガルムの娘。砂漠の狼王ロボとのあいだにウーラをなした。
シラキュース
 
(神)ヤーンの娘。
水晶の精
 
(神)銀色に輝く。
ゼア
 
(神)純潔と真実の女神。信頼と友情の神。貞淑の女神。清らかで、愛の誓いを裏切ったものを怒りの炎で焼くという。不道徳なものには雷を落とす。ゼアの神殿につかえた尼僧は一生を沈黙のうちに過ごし、生きながら葬られる。
ゼウス
 
(神)ルアーにつきしたがう戦いの精。ルブリスとともにたたかいの、カンファドリスの太鼓、ヤノプスの笛をうちならす。
セト
 
(神)からみつく髪の毛をもつ。
セトー
 
(神)太古王国ハイナムで崇められている、とげのあるうろこをもつ、人面蛇身の咬竜、蛇神、悪魔神。酒に強く、いくら飲んでも酔わない。その呪いにかかると、目をそらそうと思ってもそらすことができなくなる。彼自らの尻尾を飲み込んだ、といわれる。ドールの黄泉の近くにセトーの森があり、ウーラに守られている。
ゼルヴィナ
 
(神)ゲウセナと並び称される神々の園。
ゾルーガ
 
(神)女神。死の女神に従う死の使い。
ゾルード
 
(神)死の女神。復讐の女神。絶望と闇をしろしめす。不浄で、きびしい性格で、冷酷で、執念深く、人を追い、人を死の誘惑に誘う。憎しみの氷の指を持ち、不吉なはばたきの音をたてる。ヤーンの娘で、エリス、ティアとの憎悪と不和と死と嫉妬と陰謀の三姉妹の一人。正義と法とに関わる四人の神(ヤヌス、ヤーン、ティア、ゾルード)の一人。人を血まみれの手に抱きとり、死に至らしめ、人の子をその馬車にさらって黄泉ふかくかけ去る。死が近づくと、人はゾルードのきぬずれを聞き、ゾルードのくちづけを受け、ゾルードの迎え火を見る、という。死者のうめき声に満ちたゾルードの宴をひらく。
ゾード
 
(神)黄泉の国の大蛇で、魔神ドールの息子。その盲目で狂おしいどす黒い憤怒にまかせ、その長大な体のふれるものすべてへのやみくもな破壊への欲望にあふられて、火と硫黄の息を吐き出しながら荒れ狂い、もがきくねる。
大地の精霊
 
(神)茶色。
大天使のラッパ
 
(神)高らかに勝利を告げるラッパ。
ダゴン
 
(神)風の神。風と雷と雨(もしくは水)をつかさどる、うろこをもつ醜い三兄弟の神。ヤヌスに許されて気象をつかさどる。この世のすべての風がそこで作りだされるのだという、恐るべき《風の谷》に住む。風のように速い愛馬を飼っている。末弟はエルダゴン。サイロンのタリッド界隈の路地の角々には、ダゴンの小さなほこらがあって、供物が供えられている。サイロン、風ヶ丘裏手の谷は《ダゴンの谷》と呼ばれ、そこから強い風が吹くという。
ダルブール
 
(神)ドールの死の槍。
地獄の大蛇
 
(神)地獄に住む大蛇。グインに殺されたクロウラーのかわりにクリームヒルドがよびだした。
ティア
 
(神)宿命の女神。嫉妬の女神。憎悪の女神。復讐の女神。厄介事の神。記憶と悔悟をつかさどり、真実を守る。トラブルの種をまき、疑り深く、嫉妬深く、意地悪く、醜く、執念深く、人を追う。生きた蛇の髪をもち、尻尾をもつ。ヤーンの娘で、エリス、ゾルードとの憎悪と不和と死と嫉妬と陰謀の三姉妹の一人。正義と法とに関わる四人の神(ヤヌス、ヤーン、ティア、ゾルード)の一人。ティアの尼僧院がある。
ディード
 
(神)カナンの時代から生き残っている、三千歳の寿命をもつ老女神、巫女神。
デスデモスの鬼
 
(神)ヤーンの鬼子。天井のどこかにかくれひそみ、ヤーンの織りなす運命模様の皮肉さに打ち興じる。
デュオニス
 
(神)酔いしれて花の精を追い回した。
ドライドン(トライトン)
 
(神)沿海州、ドライドン教の主神。海神。ヤヌスに許されて大洋をつかさどる。沿海州の父。船乗りの守り神。妻はニンフ。頭に冠をつけ、青い宝玉をもち、長くうずまく白い髪と青い(または緑の)ひげ、竜の尾、うろこに覆われた体をもつ、七つの海をしろしめす、海と海賊の神なる聖竜、竜王。貫禄にあふれた大兵肥満。水中を息もせずに泳ぐ。聖なる輪をもつ。女が船に乗っていると、ほしがって海を荒らす。タルーアンのヴァイキングの北の炎とレントの海の生命の光と、コーセアの泡立つ息吹とをまぜあわせて海の妖精をつくった。海の怪物ルヴィアタンと戦った。沿海州の船乗りは、死ぬと、死者の思いが海をあらすことないように、永遠のおくつきでやすらかであるように、海の同胞たちをみちびく光となって、海をゆく船々の航海の無事と安全とのために守り神となってくれるように、ドライドンの詠唱とともに海に流され、ドライドンの神殿に迎えられる。ダリア島では、新婚の夫婦はドライドン神殿のドライドンとニンフの像に愛を誓う。子分に鮫人、鯛人などがいる。ドライドン祭は各地で開催され、ケイロニアでは夏、ダリア島では夏、ヴァラキアでは春の名物となっている。

ドライドンがそなたを抱きとるように、海の娘よ。そなたの魂が海をわざわいから守り、その怒りが海を荒らすことなきことを、その光もて海行く友をみちびきたまえ。そのみ魂もてドライドンの心をとわにやすんじたまえ。ニンフよ、そのみもとにいざおんみの妹をひきとりたまえ。
(ニギディア葬送の際のドライドンの詠唱)
ドラックス
 
(神)あひるの姿をした愚か者。
トーキン
 
(神)目に見えぬ鼓手。ヤーンのたたかいの太鼓を叩く。
トート
 
(神)性愛と恋心の神。愛の神。熱病(恋)と愛を運ぶ。いたずらで、泣き虫。サリアの息子。双子の弟にトートスがいる。友情の木の実をもつ。トートの愛の矢が心臓に触れると恋に落ち、嫉妬の矢が触れると嫉妬にかられる、という。女妖精と交わった。「トートの矢」とは男性器の俗称であると同時に男らしさの象徴でもあり、男らしくない男はトートの矢がくさってぬけおちる、などという。トートの呪いがかかると、男らしさにかける男になる。サリア神殿には小さなトート廟があるのが普通で、そこで小さな白い矢を買って、トートの像の前の、盛り土の山に突き刺してお祈りをする。
トートス
 
(神)サリアの息子。トートの双子の弟。水がこんこんとあふれるつぼをかかえている。夫婦にサリアの実を結ばせる(子供を授ける)。
トートス
 
(神)不敵に天に向かって戦いを挑み、空に向かって矢を放った。
ドーリア
 
(神)策略の女神。死の女神。地獄の女王。ドールの妻(一説にはドールの姉妹。また一説にはドールの子)。不吉。
ドール
 
(神)悪魔。悪魔神。大魔神。魔神。暗黒神。悪魔中の大悪魔。悪魔の王。策略の神。ドール教の主神。黄泉の王。地獄の王。死の王。いつわりと裏切りの王。怒りと復讐にみちた殺人鬼。無限地獄、火炎地獄、硫黄地獄など七つの地獄と永劫の闇なる地底の黄泉の王者にして、死と眠りをつかさどり、寒さ、夜をしろしめす、悪の根源で、七つの姿を持つ、全ての罪と背徳の支配者。地獄の生物の頭目。ゾルーディアの主神。ノスフェラスの唯一の神といわれる。なべて世の闇と死とを支配する。

二枚舌の嘘つきで、性格が悪く、腹黒い。不吉。長い炎の舌をもち、目は黒く、長いまがりくねった16本の角(一説には三本の角)をつけ、牛の角、馬の耳、蛇の舌、黒豚の足、黒い羽根、火の尻尾を持ち、長くうねるウロコだらけの八つ又の黒い尾をもち、硫黄の匂いのする毛皮とぬるぬるとしたうろこを持ち、黒く、なまめかしい姿をして、硫黄の炎の息を吐き、死の槍ダルブールを持ち、黒い馬の引く馬車に乗る。ひとたび、その瞳に見入られると、破滅の運命からまぬかれる道はないといわれる。

ヤヌスの息子であるが、父なるヤヌスが自らだけをみにくく生んだとして怒り、憎んで父に背き、黄泉に下って悪の王となった。神々の大戦争を通して、ヤヌスと決定的に対立した。ドーリアと、人の寿命をつかさどる魔女ルディアを妻としている。息子に黄泉の国の大蛇ゾードがおり、醜い雌牛ランドーのあいだに生まれてきたいも虫クラミニアがおり、十三人の醜い娘がいる。姉妹(一説には子)にドーリアがいる。

暗黒魔界、地獄をそのすみかとし、ユーレリアの花をめで、双頭の犬ガルム、蛆虫、蛇、蛞蝓、気狂いウマや、汚らわしい臭い泥に住む火を吹く黒豚、死と破壊と流血と地獄という四頭の猟犬を飼っている。ドールの地獄の底の底にはうじ虫の壷がある。闇からわきだすドールの軍勢をもつ。彼の飼う黒豚の糞の中から三婆姉妹が生まれた。ヤヌスと世界を賭け、六角のサイで遊んだといわれる。目覚めと眠りの周期がある、という。ヤーンに対抗し、すべての人の運命をおのがものにしようと企んでいる。

あやしい宿命の文字で書かれたドールの神託を下す。炎の獣の皮におのれの血でもって《暗黒の書》を書きしるしたという。人はドールと地獄の契約を交わすとき、自らの血で署名をする。

地中深くの暗黒の底は、ぬば玉の闇のドールの黄泉につらなっていくといわれ、死者はドールの黄泉への案内銭をもち、ドールの河をわたり、ドールの領土への暗い黄泉の坂道を辿り、地獄へおもむき、ドールの天秤で罪をはかられ、ドールの手下となる。そのさまよえる魂は地獄でドールの炎の槍によって追い立てられる。死が近づくと、ドールのはばたきが聞こえる、という。ドールの鬼火はさびしく、冷たい。

ドールの呪詛は、よくあくたいをつくときに使われるが、大声でドールの名を口にするとその呪いをまねきよせるといわれる。北東は<ドールの方位>と呼ばれる。ノスフェラスの熱い砂地を吹いて、人々を砂塵まみれにする風を「ドールの風」と呼ぶ。

サイロンの闇ヶ丘にはドールの神殿があり、ドール神殿には、まがりくねった迷路地獄がある。ゾルーディアの年に二回の『ドールの祭』では、伝統ある「ドールの黒蜘蛛の踊り」が演じられる。

光は闇の王にして闇は光の母ならん。照らす光の真中こそ最も深き闇ぞかし。 いまこそてらせ底闇を。 いまこそてらせぬば玉に。
(ドール詠唱歌)

汝、人間なるもの、淫らに生を弄ぶ事勿れ。そは人間の触るるべき所に非ずなればなり。汝、人間なるもの、徒らに死を恐る事勿れ。そは全ての人間の免れざるところなればなり。
(《ドール祭祀書》巻之一より)
ナイアド
 
(神)水妖精。
ナナ
 
(神)イラナの娘。オオカミに変えられた。
ニニシュ
 
(神)にせの人家の灯と人の声で旅人をだます森の精霊。
ニムフ
 
(神)夜、そっと身をおこして、愛の手管を弄する。
ニンフ
 
(神)美しい豊満な海の女神。沿海州の母。ドライドンの妻。海の泡から生まれた。すばらしい均斉のとれた体で、すきとおる布地の服をきて、緑色の長い髪の毛(一説には金色の髪)にマグノリアの花かんむりをつけている。ヴァシャの樹に変身した。ドライドンを波止場へは見送りにいくことはなかったという。その伝説に従い、船乗りの女は配偶者や恋人を波止場へ見送ってはいけない、といわれる。沿海州の船乗りに崇拝されている。
バス
 
(神)飽食と肥満の神。強欲の神。商業神。ヤヌスから許されて大地をつかさどる。意地汚く、けちで、貪欲で、大法螺吹きで、欲求不満で、豚の頭と布袋腹の醜く汚らしい小男。地を這い、酔っ払って、いつも寝ている。商業都市ライゴールの主神。
《白骨大王》
 
(神)黄泉の大王。クムでは、キタイの風習にならい、黄泉の大王はドールではなく《白骨大王》という愉快な巨人が死者の国をおさめている、という民間信仰が一般的である。クムでは、死者の魂を、いかにその死者が生前愛されていたかを死者に知らせて慰藉するために、また死者が慕われ、愛され、惜しまれていた、ということを、《白骨大王》に証明して成仏できるようにするために、亡骸の前で盛大に泣き声をあげ、その死をいたんで悲しみの叫びをあげ、その声を天に届かせようとする風習がある。また、そのために『泣き女』『泣き男』という、専門的に泣き声をあげながら葬式にくっついて歩く職業のものさえたくさん存在しており、天にも届けと大声で泣きわめきながら棺の前で取り乱してみせるという風習がある。
パドゥラ
 
(神)暗い夜に出現して運命を告げるという大天使。
パーン
 
(神)ヤーンの部下の山羊。笑いすぎて地上に落下した。
ヒプノス
 
(神)夢魔の頭領。睡魔。眠りについた人は、ヒプノスの夢の回廊を開き、ヒプノスはその回廊を通って夢をはこび、手にもった篭より、さまざまな夢をひとの眠りの中にまいて歩く。人の眠りを守るが、ヒプノスの呪いがかかると、人は眠れなくなる。
ファイラスの魔神
 
(神)時を見はるかす魔神。
ファブリス
 
(神)長い舌を持つ。饒舌で、弁舌にすぐれている。
フィステ
 
(神)炎の女神。
ブラス
 
(神)富の神。商業の守り神。ヤヌスのもうひとつの姿。
ヘル
 
(神)盲目と頑固の神。
マウリアの花の精
 
(神)赤いすきとおるトーガを着て、頭にマウリアの花をつけている。
ミゲル
 
(神)闇と火の神。ミゲル教の主神。ドールの長子。硫黄の息を吐き、その舌でなめられたものは燃えてしまう。ゾルーディアで信仰される。
ムーサ
 
(神)楽音の女神。踊りの神。
メース
 
(神)ドールの黄泉で、人の罪を記録している大王。
森の神
 
(神)ランゴバルドでは、鹿は森の神の使いであるとされ、殺されない。ランゴバルドの夏祭りの鹿狩りでは、矢の先にそれぞれに色を決めた染粉を入れた袋をくくりつけて鹿にはなち、鹿をどのくらいおのれの色で染めたかによって勝負を決める。
モーグ
 
(神)盗人と商業の神。
ヤヌス
 
(神)ヤヌス教の主神。天国をつかさどる大神。この世の究極の真理をつかさどる最高にして最後の神。正義の双頭を持つ双面神。正義の神。豊穣と生命の神。加護の神。光の神。真実の神。真実の守り神。生の守護者。最も神聖にして偉大なる神。万物の創り主。宇宙創造の主神。つねに闇を、光でおしわけ、すみずみまでも照らしだす、全ての生命と愛の支配者。この世の万物は、相反し相補う二つのものより成り立っている、という究極のことわり、大宇宙の黄金律そのものを具現する神。この世のすべての摂理――その摂理にしたがって万物は生成し、流転し、変転する――を支配し、知り給う最後の智者。ヤーンのように直接の運命ではなく、もっと深く大きい運命、宇宙のありかたそのものを知り、管理する力をもつ、唯一の偉大な存在。青年と老人、過去と未来、(精神の)光と闇、昨日と明日、幸福と不幸、生と死、朝と夜、男と女、誕生と滅亡、天と地とをつかさどる双頭をもつ。禿頭の老人の顔は知恵と慈悲、過去、闇をあらわし、青年の顔は生命、知恵、行動、未来、光をあらわす。右の頭は真実をつかさどる。慈愛、正義、真実と慈悲、知恵と力をつかさどる。朝をしろしめし、中原一帯をしろしめす。この世とこの世でない場所と、双方のすべてをしろしめす。天上をしろしめす。この世の全てを創り、この世のありとあらゆる奇跡をつかさどる。地上最古の神であり、それゆえ最高の神である、といわれる。正義と法とに関わる四人の神(ヤヌス、ヤーン、ティア、ゾルード)の一人。

全知全能で、慈悲深く、怒りを天変地異であらわし、雷で天罰を下す。人の心を見透かし、うつつを越え、真実を見る聖なる目をもつ。目に見えぬ巨大な斧、真実の杖、英知の蛇の尾と正義の鎌を持ち、十二対の使徒を従えている。

兄ルアーに太陽と昼と生を、妹イリスに夜と月と死とを、それぞれ自らの双面からわかち与えて二人を産み出した。ドールの父でもあり、我が子サリアと結婚した。神々の大戦争を通して、ドールと決定的に対立した。

ヤヌスは、自らヤヌスの御心にかなおうと戦うもののみを救うという。人はすべてヤヌスの子であり、死ぬと、ヤヌスの神の座、天上のヤヌスの神殿へのぼってゆくといわれる。人はヤーンのとりこであり、ヤヌスのしもべにすぎない。ドールと世界を賭け、六角のサイで遊んだといわれる。

ヤヌスの創世神話では、六日間大雨が降り続き、七日目の朝にようやく上がった、といわれる。双子というものはヤヌスの申し子で、光と闇なのだ、といわれる。森のことを《ヤヌスの海》ともいう。真夜中のことを《ヤヌスの刻》という。

ヤヌスのまじないの聖句、《ヤヌスの護符》は一般的なお守りである。ヤヌスの印によって死者をいたみ、悪霊を払う。ガラテア(黒蓮)の小枝はヤヌスのしるし。

赤い街道はヤヌスの祝福をうけて切り開かれている。パロ聖王家はヤヌスの祭祀として聖なる血を受けたとされ、その王と王妃はヤヌスによって定められる。かつてはパロ聖王がヤヌス祭司長をかねていた。ケイロニア皇帝の権力、権威もまた、ヤヌスにあたえられたといわれる。ヤヌスの巫女の第一の資格は純潔である。パロのジェニュア大神殿は、ヤヌスの世界最大の神殿であり、中原のヤヌス神信仰の本拠地にして聖地であり、パロ王家からさえも独立した独自の権勢と力をほこっている、いわば小独立国となっている。ジェニュア大神殿の意向には、全中原のヤヌス神殿、ヤヌス神殿系のすべての寺社が従う。

ヤヌスその如く云いたまうは――わがゆくところにゆき、わがなすが如くせよ。さらば汝はわが民となり、わが光汝が上に及ばん。しからずんば汝は永遠に暗き淵にわだかまり、出ることあたわざらん。アンドロス応えていわく、わが神、わが光、われ君のゆくところにおもむき、君のなすをまねぶなりと
(「ヤヌス十二条法文」より)
ヤヌス十二神
 
(神)諸説がある。一説には、ヤヌス、ヤーン、ルアー、イラナ、イリス、サリア、トート、カシス、ドライドン、ミゲル、ダゴン、イグレックの12神。ミゲルとイグレックのかわりに、ゼアとバスを十二神に含める説もある。ヤヌスによって生み出され、それぞれが地上の役割を分担してこの世を作り上げた。この宇宙にヤヌスの黄金律を与えたといわれる。もともとカナンより発祥した神々で、大災厄時代の前後に地上におりたち、中原をその支配とした、という。ヤヌス十二神が実在したという証拠も数多く伝わっているという。グラチウスによれば、グインはこの大宇宙でたったひとつ、ヤヌスの黄金律に適合しない存在で、大宇宙の変遷のカギを握っている、という。

「ヤーンよ――ヤヌスよ――イリスよ――神聖なパロの十二の神々たちよ。君の忠実なるしもべを守らせたまえ――おぞましきドールの呪いより逃れさせたまえ。恐ろしき運命より、君の巫女の血をひく聖王家の王子を守りたまえ…… (マリウスの祈り)」
ヤーン
 
(神)現世をつかさどる運命の神。知恵の神。神々の祖父。ヤーンの至高の黄金律、時と正義をつかさどる。すべてをしろしめす聰明にして偉大なる全能の神。すべての運命の支配者にしてすべての模様を織る者。正義と法とに関わる四人の神(ヤヌス、ヤーン、ティア、ゾルード)の一人。

地獄耳で千里眼で、百の現し身を持つといわれる。天にいて、禿頭に三角の頭巾をかむり、曲がりくねった長い真実の杖を持ち、すべてのささやきをきくという長い百の耳、長い二枚舌、長いうずまく白髭とウマのひづめ、誰よりも早い山羊の下半身と脚、ひづめ、先が運命をさししめす矢になっている三巻き半の蛇の尻尾と、全世界を一目で見渡し、壁を通してでもすべてを見、時の終わりまでを見通す「百の目」を持つ、緑色の冷たく底知れぬ一つ目を持つ老人。その身体にはいつわりという名の苔がはえている。

シラキュースという年よりの娘がおり、ゾルード、ティア、エリスを娘にもつ。《希望》という不具の子がいる。ヤーンの鬼子といわれる、デスデモスの鬼がいる。部下に山羊パーンがいる。

人の寿命、星々の運行を定め、非情に時を駆る。「運命のサイ」をふり、ヤヌスの機織りとして、運命を定め、役割を果たすべき人々を選び、かれらを道具とし、運命と生死、愛憎という糸の先端にして、たゆみなくまわりつづける《運命》という名の糸車をあやつり、《偶然》という名のおさを手にして、入り組んだ運命模様、皮肉で錯綜したこの世の摂理という巨大なこみいったタペストリを織り上げる。人間はそのヤーンの糸車にあやつられているただひとつの模様に過ぎず、そのあやつる糸によって紡がれる運命には、何者も、ルアーでさえも逆らえず、ヤヌス大神でさえ長老ヤーンにはその力を及ぼすことができないといわれる。ヤーンに選ばれた人物の額には、目にみえぬヤーンの紋章が刻まれているという。ヤーンの赤い糸で結ばれたもの同士は、運命的に強いきずなをもつという。すべての恩讐よりもヤーンの意思はつよく選び、織り、導く。

運命を告げる炎の文字を中空に描き、炎の文字で書かれた「ヤーンの書(ヤーンの覚書)」に運命は記されている。亡者の迷える魂を導き、この世とあの世とのはざま、無明の境界で、死者の生と魂の価値をヤーンの秤によって計っては追い立てる。人は死ぬとヤーンの領土からドールの黄泉へとうつる。すべての神の中で、ヤーンのみが何が正しく、何が正しくないかをしり、すべての物語を見ているといわれる。自分の命をもてあそぶようなことは、ヤヌスが許しても、ヤーンが見逃さない、という。人はヤーンのとりこであり、ヤヌスのしもべにすぎない。

満月の晩に、森の中のひとけのない泉のほとりでひそんで待っているとヤーンがあらわれて未来を告げてくれるという伝説がある。一はヤーンの数。《ヤーンの一つ目》または《ヤーンの目》と呼ばれる星がある。

ケイロニアではヤーンのほうが、ヤヌスよりもあつく信仰される傾向がある。ヤーンの神殿では、ひざまづき、三回額を台座に押しあて、小銭を箱にいれてろうそくに火を着けてから祈る。キタイにおいても信仰されている。ペテン師、詐欺師、博奕打ちが守り神にしている。グインだけが、ヤーンのさだめた星辰における、いまださだまさざる星、可変の因子である、ともいう。あるいはこの世をつかさどっているのはヤヌスではなく、ヤーンであって、ヤヌスは目くらましの役割を果たしているのに過ぎない(?)。

ヤーンよ、われとともにあれ
(ヤーンの聖句)
ユーフェミア
 
(神)ドールの地獄に咲いているという花。花が咲くまでに非常な世話が必要であるが、そのかわりにおそろしく美しい花が咲く、とされる。
ヨルム
 
(神)美しい天の光の鳥。
ラモス
 
(神)知の神。
ランドー
 
(神)醜い雌牛。ドールとのあいだにいも虫クラミニアをなした。
ラー
 
(神)獣神。
ラー
 
(神)五感のすべてを封じられて、永遠の闇の中にとじこめられた、ルアーとイリスの禁じられた赤子。
ラーラ
 
(神)霜の精。霜の乙女。ルアーの円盤に迂闊にものりこみ、ルアーの火にとけてしまった。
ルアー
 
(神)軍神。戦いの神。太陽神。正義、音楽、武運、幸運をつかさどる。ヤヌスから太陽と昼と生とをわかち与えられて生まれた。

無慈悲で、誇り高く、気まぐれで、うつり気で、勇ましい。剣、馬、弓矢の名手で、たぐいまれな戦士。炎と光と黄金につつまれ、たくましい腕を持った青い目の若々しい美青年。銀の盾と弓矢、火の矛、炎の剣、破邪の剣、黄金の剣をもち、荒々しい天馬アイオーンを駆り、黄金色の炎のチャリオットで天空をかけ、鮮やかな黄金とくれないの夜明けのマントをまとって東の地平より現れ、朝ごとに誕生を繰り返す。

ヤヌスの長子。イラナの夫。ルアー、サリア、イラナとは兄弟姉妹の関係にある。炎の軍勢を率いており、二人の戦いの精、ルブリスとゼウスがつきしたがっている。

火と歌を人間界につかわした。朝ごとにイリスに求愛する。ある夜、ルアーはイリスを追いかけ、いつものように山の端に没しようとしたところ、イリスのウマがイリスをふりおとしたため、ルアーはイリスを捕まえ、妹イリスを姦淫し、イリスは生でも死でもない黄昏の生物『イリスの石』を生みおとした。他に、イリスとのあいだに、五感のすべてを封じられて永遠の闇の中にとじこめられた禁じられた赤子ラーをなした。美少年レオンを愛した。誇らしく、高らかにルアーの神託を告げる。空は《ルアーの海》と呼ばれる。レンティアの海はルアーの目の色、といわれる。パロでは4年ごとに《ルアーの祭典》が開催され、カラムの冠をかけて戦われる。種目は剣技、弓術、詩、キタラ、笛など。
ルヴィアタン
 
(神)海の怪物。ドライドンと戦った。
ルディア
 
(神)人の寿命をつかさどる魔女。ドールの妻。
ルブリス
 
(神)ルアーにつきしたがう戦いの精。ゼウスとともにたたかいの、カンファドリスの太鼓、ヤノプスの笛をうちならす。うそをつくほら貝をもっている。
ルーコス
 
(神)風の神の使い。情報を世界中に吹き散らして歩く。
レイラ
 
(神)炎の女神。




【北方、タルーアンの神話】
イグラジル
 
(神)「イグラジルの歌」という、タルーアンに伝わる歌がある。
イミール
 
(神)北方の主神。氷神。ヴァルハラの神話では、十三人の娘がおり、長女はフリッグ。タルーアンの神話では、氷雪の世界の造物主であり、この世界は彼の体であり、雪と嵐は彼の吐き出す白い息であって、三人の息子と一人の美しい娘がある。美女タヴィアを溺愛して、氷の中に閉じ込めたという。
運命の乙女たち
 
(神)「運命の乙女たちのサーガ」という、タルーアンに伝わる歌がある。
オーディン
 
(神)タルーアンの神。オーディンへの誓いはタルーアンにとって神聖なものである。
トルッペン=ホイッペン
 
(神)タルーアンの神話に登場する、きわめて邪悪で、地獄のように醜い黒小人。
ノルンの姉妹
 
(神)運命をあやつる。
ハーチ
 
(神)復讐と憎悪をつかさどる狼。
ファーナハイムの神々
 
(神)タルーアンの信ずる神々。ヴァンハイムの彼方、虹の橋をわたった神の国に住んでおり、人間もその橋さえわたれば、神々に会い、言葉をかわし、神々のかたわらで暮らすこともできるという。
フェンリル
 
(神)北方の神。
フリュム
 
(神)霜の巨人。
ヘル
 
(神)吐息は冷たい風となる。
ヨルムンガンドル
 
(神)怪物。
ローキ
 
(神)黒い巨人。氷の巨人。神々と人との間に生まれた悪の巨人で、大地から不思議な闇の生命を授かっている。腰に巨大な蛮刀をさげ、背に弓矢を背負っている。やっつけてもやっつけても、大地に触れるともっとつよくなってよみがえる。グインよりも頭一つ大きい。




【ランドックの神々】
アウラ
 
(神)暁の大神。
アウラ・カー
 
(神)暁の五人姉妹の女神の一人。グインの妻だった?
アウラ・リーガ
 
(神)ランドックの至高の女神。暁の五人姉妹の女神の一人?グインの妻だった?
アウラ・シャー
 
(神)暁の五人姉妹の女神の末の妹。美しい純白の猫の頭と緑いろの瞳、背中に世にも美しい虹色のきらめきをたたえた真っ白な羽根が一対生えている、人間でも妖魔でもない、世にも美しい女神。白い長いトーガに身をつつみ、手首と足首にシャラシャラと軽く鳴るすきとおったかざりものをつけている。ランドシアに降臨して地上の女神となる。
オーランディア
 
(神)ランドックの王剣の宝石、もしくは王錫の飾り石たる碧玉の化身。ユーライカの姉姫。オーランディア、ミラルカ、ユーライカの《ルーエの三姉妹》を揃って手にしたとき、はじめてランドックの王としての資格を認められ、星の海を渡る力を手にいれることができる。
ミラルカ
 
(神)ランドックの王剣の宝石、もしくは王錫の飾り石たる琥珀の化身。ユーライカの姉姫。オーランディア、ミラルカ、ユーライカの《ルーエの三姉妹》を揃って手にしたとき、はじめてランドックの王としての資格を認められ、星の海を渡る力を手にいれることができる。
ユーライカ
 
(神)ランドックの熾王冠の正面に輝く、鳩の卵ほどのもある巨大な美しい複雑な五彩のきらめきを内につつみこんだ、不滅の瑠璃の化身。オーランディア、ミラルカの妹。足首までとどく青白い長いゆたかな髪の毛をもち、ほっそりとしなやかな華奢なからだつきで、からだにふわりと白いなかばすきとおった布のようなものをからみつかせている以外、何も身に付けていない。小さくきざみこまれたような綺麗な顔をしているが、唇も、まぶたも、大きく見開かれた大きな紅彩のないひとみもすべてが青白い。しなやかな腕のさきは、ひれのように二つにわかれており、手のようなものはない。胸には乳房はなく、ただなめらかにもりあがっている。腰から下はひとつにくっついたままひろがっている。オーランディア、ミラルカ、ユーライカの《ルーエの三姉妹》を揃って手にしたとき、はじめてランドックの王としての資格を認められ、星の海を渡る力を手にいれることができる。




【キタイの神話】
アウラ・シャー
 
(神)キタイに古くから伝わる光と純潔の女神。暁をつかさどる清浄な女神。フェラーラの西近くに位置するランドシアの土地神。情け深く、きわめて穢れを忌避し、心優しく正しい。美しい純白の猫頭で、緑いろの瞳、背中に白く美しい虹色のきらめきをたたえた鳥のような翼、女性の体と猫の尻尾を持ち、猫神さま、ともいわれる。清く正しい行ないと、自ら律して信ずるところをなす清らかな心の信仰のみを求める。フェラーラの成立以前の約四千年前、星々の海の彼方から巨大な星船にのって来て、カナンの土地ランドシアに降り立ち、火を保つ知恵、粉を精製する知恵、薬草の知恵などを人間に与え、ランドシアをおさめて人間とともにともに暮らし、土地の人々と妖魔族とのきわめてあつい信仰をあつめていたという。フェラーラにランドシアが併合された際、魔王ゼーダによってたてられた神殿にまつられるようになった。千年前に人々と交わるのを拒み、神殿にこもった。アウラ・シャーの神殿地下の奥殿、本堂のなかの本堂には、アウラ女神の本体がいまなお眠っているといわれる。純潔を失った乙女は、アウラ・シャー神の精神の統一を乱すとされ、アウラ・シャーの神殿では、純潔な乙女のみがアウラ女神に仕える資格をえ、巫女長となるには、古代帝国カナンの血を純粋に伝える、非常にきびしい資格が求められる。土地の信徒たちによって、月に一回、神殿の本堂の扉をひらき、中のおきよめの奉仕がおこなわれる。
アクメット
 
(神)フェラーラでまつられる人獣神。フェラーラをつかさどる守り神。はるかな星々の海の彼方から下ってきた、アウラ・シャーとも関わりのある種族の末裔。もともとはこの地に住んで平常に人間どもと交通していたあやしの者であったが、自らの代理としてアーナーダをフェラーラに残し、自らはフェラーラを去った。
アーナーダ
 
(神)アクメットの使い姫たる人蛇。フェラーラの守護神。きわめておそるべき力をもつアクメットのよこしまな子。燃えるような目、白い長い髪の毛のようなものがはえた巨大な人の頭、その下につづく白いミミズのような胴体をもち、そのつなぎ目のあたりに二対の白い触手をもつ。背中には絨毛のようなたてがみが二列にびっしりとはえている。動いたあとには銀色のぬらぬらとした痕跡を残す。人をくらい、命を吸い取って、千年の長寿を誇る。千年前にアクメットによりフェラーラの初代の王、ゼーダ魔王に貸し与えられ、ゼーダ魔王の魔力により蛇穴に封じ込められる。フェラーラの新月祭の夜に現れ、十人の生贄の中から吉凶を占う獲物を選ぶ。
イタカ
 
(神)鬼面の塔の第二層、花の国シッタータの花の女王。《古き者ども》の姉妹で位の高い女神。ライ=オンの西面の弟の妻。ジャナの花の館のあるじ。グインの腰ほどまでしかなく、小さな手のひらにのりそうに、子供のように小さいけれども、作り物の人形めいて美しくあやしい成熟した女性。足もとまで豊かに流れ落ちる、かがやかしい黄色の髪の毛、小さな胸についたゆたかなおもたげな乳房、バラ色のほほ、サンゴ色のくちびる、サンゴ色のひとみ、雪花石膏のような肌。ヴェールにし、ながながとすそをひいた何枚かの白いうすものを素裸の全身にまといつけ、髪には白いかおりたかい大きな花を編みこんだ花冠がのせられている。正体はひとの肉をくらう食人植物の精で、人間の血や漿液を吸って生きており、そのときには目は黄金色に燃え、全身から黄色い髪の毛のようなひげ根のようなものを伸ばして、それを人間にからみつけて血や漿液を吸い上げる。その時、人間はとてつもない悦楽のなかにあるという。髪の毛が弱点。
イリナ
 
(神)リームの姉妹の一人。
ウル
 
(神)鬼面の塔の内部に住む白骨の化け物。殺されたばかりのように見える、髪の毛をざんばらにふりみだしし、かっと恨めしげに目を見開き口から血を流している生々しい男の生首がてっぺんに突き刺さった、さきがさすまたのようになった長い棒をささげもち、元気よくすたすたと歩く。ウル自身は盲目であり、手にもったさすまたに突き刺された生首が目のかわりをつとめている。
エリナ
 
(神)リームの姉妹の一人。
オーレンディアのヒスイ
 
(神)ライ=オンの体内にあるといわれる伝説の碧玉。
ガズィーラ
 
(神)スィークに住む巨大なヒトデ。妙にあざやかな青地に赤で星型の斑点を散らした五本の固そうな触手と胴体だけの化け物で、下の二本の足でたちあがる。胴体のまんなかに、ぎゅっとおしかためたように、凶々しいひとつ目とかっと開いた口があり、そのまわりに気味悪い絨毛が生えている。立ち上がるとグインの背丈と同じくらい。普段は砂の中にひそみ、真っ赤な血まみれの内臓のすじのように触手を口のまんなかから伸ばして魚をとって食べる。
ガドゥー
 
(神)ライ=オンの中に住むサイクロプスの生き残り。首から下が地面に埋まっており、グインの胸ほどまでもあるこっけいなほど巨大なつるつるに光った坊主頭、巨大な顔、まゆげがなく、巨大なひとつだけの、周囲に気味のわるい血管がうねうねと無数に走っており、青と赤がまじりあっている茶色っぽい大きな眼球、グインののばした片手くらいもあるかなり大きく横にさけた不細工に大きなひらべったい唇を持つ。血の色は青。もともとホータンの土地の妖魔、土地神で、《古き者ども》とこの地の覇権をかけてサイクロプスがあらそって破れたときにライ=オンに飲み込まれた。直接脳に働きかける催眠の術、精神を呪縛するヒュプノの術をつかうが、この術は基本的には人間にしか通じない。
ガネーシャ
 
(神)ゼド教の西面神、万古神将。
カリナ
 
(神)リームの姉妹の一人。
ガリューダ
 
(神)ゼド教の北面大神、森羅神将。
ク・スルフ
 
(神)ク・スルフの大神。《古き者たち》の頭領。スィークの主ということになっている者。蛸のような姿をして、巨大な赤い目、吸盤のある触手をもち、クラーケンに少し似ているが、それよりもはるかに巨大で、しかもややこしいかたちをしている。かつては《古き神々(グレイト・オールド・ワンズ)》をしたがえ、たばね、《古き者ども》に君臨しており、その配下にはイタカやサイクロプスも所属していたという。この世の誰よりも古くから、この世を眺めてきたという。スィークでははてしない大宇宙に通じているらしい蛸壺のようなものに住んでいた。
ゲルゾー
 
(神)鬼面の塔の第一層に巣くう大蜘蛛。真っ黒なおぞましい毛むくじゃらの八本の脚、凶々しい赤い燃えるような八つの目、牙のはえた、角のようにつきでた口、やや小さい円形とそのうしろにつながっているかなり大きめの円形からなる、まるまるとしたからだ。胴体の下半分は毛がはえておらず、すりきれてしまったかのように青光りするぶきみな裸のままで、そこにきみのわるい血管のようなものがはいまわっている。丸いふたつの胴体は、フッフッフッフッという音にあわせてふくらんだり、しぼまったりしている。うしろの大きいほうの円形の胴はいちばん高いところがグインの背丈くらいもある。黒い剛毛の密生した足は二つに割れており、先端はふたつに割れたグインの大剣に匹敵するほどの長さとするどさがある凶々しい爪になっている。その爪のさきは青く光っていておそろしくとがっている。胴体を切り裂くとオレンジ色と茶色がかった汁とはらわたのようなものがどろどろとはみだしてくる。規則正しく腹を減らし、腹を減らすと脳に直接はたらきかける、脳あるものはさからえないある種の超音波を出して、その層にいるものを巣にひきよせて食べる。ライ=オンの中に閉じ込められた死人を餌としている。死んでもまた一晩で復活する。
サイクロプス
 
(神)太古の時代に大陸に繁栄を誇った一つ目の巨人一族。《古き者ども》と土地の覇権をかけてあらそって敗れ、わずかな生き残りを残して絶滅した。ひとつ目がたったひとつの弱点。直接脳に働きかける催眠の術、精神を呪縛するヒュプノの術が最大の武器。
サリナ
 
(神)リームの姉妹の一人。
シッタータ
 
(神)鬼面の塔の第二層。リームの姉妹や花の女王イタカの住む花の国。
ジャナの花の館
 
(神)シッタータにある花の館。水晶でできたイタカの宮殿。正体は白い無数のひげ根が組み上げた、宮殿のようなかたちのオブジェ。
スィーク
 
(神)はるかな宇宙のはてにあり、ライ=オンの鬼面の塔の第三層から次元回廊でつながる水の星、海の惑星。そこにある古代都市の廃虚には、古代ルーン文字で『カナン第一の植民地スィーク』と書かれており、巨大な上に、華麗で、そしてきわめて洗練された都市、世界の中心ともいうべき大都市であっただろうことがうかがわれる。
ゼド教
 
(神)キタイで一般的な宗派。ゼド神とその眷族を信仰する。髑髏は聖なる魂の宿り場とされ、死後は現世のむなしさと永遠について考えさせるために壁に塗りこめられる。信者は死ぬと、ゼド神のもとへ召されるという。幽霊が出ると、護摩をたいて祈る。十四がもっとも不吉な数とされる。ゼド教徒が出家して僧侶になるときには、必ず魔道師の訓練も受ける。還俗はできない。ゼド教徒は、病気になっても、寺院から出て治療を受けることは許されず、いっぺん寺に入ったら、死ぬまでもう僧籍を離れることはできない。参詣者は一輪の白い花とそれに添えた竹の枝を奉納して願い事をする。

たくさんの寺院をもっている。ホータンには、ホータンを聖都として守るべく、四面神の廟が各方位にたてられ、それぞれにまた塔がたてられていた。塔は東西南北の方位の延長に、そして廟は東南、北東、南西、西北、この四ヶ所にたてられていた。
ゼド神
 
(神)ホータンを拓いたといわれる土地神。ホータンを守ることにかけてはもっとも力があるといわれている。キタイでは土地神というのは、完全に実在したことが証明されている存在なのだという。
ゾード
 
(神)ゼド教の南面神、雷雲神将。目が額にも輝いて全部で三つの目を持った、腕が四本づつあってそのどれもが半月刀を振りかざしている青銅の鎧を付けた、グインの倍、五タールほどもある巨大な髭むくじゃらの凶悪な人相の大男。緑色の蛇のようなものがのたくっている髪の毛、まがまがしい赤い光を放つ石の目、石の耳、上むきの牙をはやし、耳までさけた青銅の口、石の首、石づくりの腕、太いたくましい鉄の足を持ち、背中には雷雲を背負い、家来の戦士をしたがえている。体重はきわめて重く、推定千スコーン。頭や視力はあまりよくなく、動きも鈍いが、太刀筋は鋭い。ホータンの南面廟の雷雲神将の石像はまっすぐ東の塔(鬼面の塔)を向いており、東の塔のてっぺんについている鬼面神ライ=オン像が、南面廟の方角を向くとちょうど正面から睨み合う、ようになるという。ライ=オンは友。
タオ
 
(神)軍神。伝説の闘神。
天の道神
 
(神)天使をつかわす。
土地神と物神
 
(神)土地神は土地から生まれ、その土地そのものの象徴として生をうけるもの。物神は、その土地から生まれるが、きわめて大きな力を内包した特定の物が生命を得て神となったもの。
《古き神々》
 
(神)もともとこの世界を支配していた神々。《グレイト・オールド・ワンズ》。《大混沌時代》よりはるか昔のそのまたもうひとつ昔の世界で知られていたとおり、《古き者ども》とのあいだにたたかいがあった。
《古き者ども》
 
(神)どこからともなく、天からやってきたとも云われる神々。キタイの地にはるか以前住んでいる土地神ども、土地の妖魔どもと争い、これを支配した。《古き神々》のあとにやってきて、《大混沌時代》よりはるか昔のそのまたもうひとつ昔のこの世界で知られていたとおり、《古き神々》と戦った。その後、同化して土地神になるもの、土地神とたたかって君臨するもの、土地神と婚姻のきずな、共生のきずなを結び、平和を守るものなど、さまざまな者がいた。頭領はク・スルフ。
望星教
 
(神)三百年前に成立した宗教にして暗殺教団。キタイ魔道教ともいう。もともとカナンに発し、星をこえてやってきた神々の戦いによってカナンの都がほろんだ前後、三千四百年前から存在するのだという。何千年という年月を独自の慣習をたもちながら生き延びてきた集団で、現在では、一族、ひとつの民族であったといってもよい状態になっている。しかしながら、そのさまざまな必要性から出た奇妙な独自な習慣があまりにも世間一般とことなるものであったがために、世間から非難をうけるのをおそれ、どんどん孤立するようになり、世間一般に背をむけるようになったという。中原ではキタイ暗殺ギルドとして知られる。決してどことも手を組まず、独自の組織であることを長年の信条としてきた。現在の教主は第三十代教主ヤン・ゲラール、教母はゾエで、両派は対立している。ホータンの南の山の上や竜宮城の内部など、いくつか本拠地があるが、本当の本拠地は《永遠の都》とよばれ、ホータンからちょっとはなれた、ある山のなかにあり、そこで彼らなりの平和な生活を送っているという。

キタイの暗殺教団は金で依頼をうけ、暗殺や誘拐、保護や拉致、あるいは破壊工作をおこなう。暗殺教団に暗殺を依頼されたものは、どのような遠いところであっても、おそるべき毒とすべての武器の使い手であり、その依頼された対象の生命をたつまでは決して戻れないといわれる暗殺者に狙われ、これまで無事生き延びたものはただのひとりもないと伝えられる。実際、失敗例は何例もないという。暗殺教団の標的となったものには、最初に必ず「お前は暗殺教団の標的となった」というしらせの手紙が送られてくる。その場合、標的となったほうが、暗殺教団と接触でき、そしてより高い金を払うことさえできれば、今度は暗殺教団はその標的であったものの依頼によって、彼を暗殺しようとした当の依頼主を暗殺してくれることもあるし、あるいはただ見逃してくれることあるという。すなわち、暗殺教団は金によってのみ動き、それ以外のいかなる説得も対抗手段も効果はないという。暗殺教団の派遣する暗殺者は決してひとにすがたを見られ、顔を知られてはならぬことを最大の信条にしており、もし万一すがたを見られたらその場で死なねばならないという戒律がある。

望星教団では、教団の命令系統はひとつでなければならないとされ、たとえ教団の上のほうの者の命令によるものであっても、教団の命令によらず個人的な動きをするものはすべてきびしい処断を受けなくてはならない。いまだかつて、教団の教主が命じたものでない暗殺がこころみられたことはなく、あったとしてもすべて教団の派遣した暗殺者によって阻止され、その暴走したものそのものがもっとも激烈な処刑にあったという。

暗殺教団で教団の子らとして育てられたもの、暗殺のために生をうけ、教団の命じるままに暗殺をなりわいとして生きてゆくものは、表向き名前をもたず、半ば普通の人の子ではなく、全身すべて暗殺のためにだけ作られた暗殺人形なのだ、といわれる。教団に生まれたものは、教団のなかだけで教育され、教団の食べ物と飲み物によって育てられ、教団で与えられたものを食べているうちに普通の体ではなくなり、毒を食べ、毒をのみ、毒で出来た毒人形のようになり、血は黒くどろりとした硫黄のような匂いがし、体はとけくずれ、うろこ状の青黒いかさぶたにおおわれ、外気にふれることさえ苦痛な体になっていく。したがって、望星教団の人間は、他の人間、教団外の人間とふれあうことはできない。そして、教主の与える儀式《ミー・ア・リーンの融合》と、一定の間隔で摂取しなければ生きていけない、しかし教団の子ではないものがのめば確実に死ぬ薬《炎の水》がなければ生きていることができない。顔を見られたもの、いったん敵の捕虜になったものは、もう二度と教団に戻ることはできない。教団の者は教団からはなれたら孤独になり、一生心をわかちあうあいても身をゆだねるあいても見出せないだけではなく、教団をはなれては生きてゆくことができない。メンバー同士は原始的なテレパシーのようなもので、互いの動向が判るらしい。

教団に所属するものは《ミー・ア・リーンの融合》を通して、最終的な『成就』をめざす。《ミー・ア・リーンの融合》はきわめて繊細なものであり、うまくゆかなければ逆に激烈に毒としてはたらくため、教団員は他の教団員の思念を集めてもらい、融合のときに大きな支援を得るために、必死になって正しい存在、教団にとって重要な存在であろうとする。そうすれば『成就』した人間は体全体があざやかななかばすきとおるような青緑色のかたい水晶のような色あいに石化し、切っても出血せず、いっさいの痛みを感じない状態になり、決して死ぬことのない不死の状態を得ることができる。『成就』して石化した人間のことをアルゴンという。アルゴン化をおえ、永遠の生命を獲得した望星教団の上級信徒は、《達成者》《ボーディナー》と呼ばれ、《本当の地》におもむき、永遠の生命によって約束の星によみがえる『約束の時』を《永遠の都》の地下やホータン本部の地下などで永遠に待つという。ボーディナーに到達できるものはそう多くはなく、悪業を行ったや、つんだ徳の足りないものは、運命(ガルマ)にしたがって、肉体がそれに抵抗し、とけくずれたようになってしまうものもあれば、うろこ状になってしまうものもある。
モーヘッド
 
(神)スィークに住む巨人。身のたけ二十タールはあるだろうあの魚竜でさえ、まったく小さく思えるほどに巨大で、数十タール以上の高さがある。下からは鋼鉄がさびて茶色っぽい灰色をおびたような色あいの、グインくらいの体格の男が数人がかりで手をつないでも全周にまわしきれないのではないかというくらいものすごく太い二本の柱のような脚しか見えない。目も口もないが、青く光る《第三の目》をもち、そこでエネルギーを感じる。なんともえたいのしれぬ叫びとも、超音波ともつかぬもので、人の脳を直撃する。もともとは、とある島で神像の役割をしていた石づくりの人形で、ク・スルフによってスィークに連れてこられ、命を吹き込まれた。頭はあまりよくない。短気で執念深いが、忘れてしまえば何も覚えてない。ノスフェラスや紅蓮の島などで目撃された灰色の影の実体。
ライ=オン
 
(神)ゼド教の鬼神。誇りある土地神の末裔。額から巨大な二本の角、もしくは額のまんなかから一本の太い角をはやし、額のまんなかには第三のあざやかな青の《神々の目》をもち、うずまく金髪、つりあがったハタンキョウ型の紅彩のない金色目、耳までさけた口、上下に牙をのばし、巨大な牙が上に向いている。ホータンの鬼面の塔のライ=オン像は、ホータンの東の森にあり、夕暮れになるとそのはめこまれたさしわたしおよそ四タールほどもある巨大な鬼の顔のむきをかえ、じっと赤い光る目でホータンの市街をあきらかに意志と意識をもって見下ろし、夜になると南面廟を向き、雷雲神将ゾードとともに、ホータン市中に睨みを聞かせているのだという。『さいごに残りし南面神が動きだすとき、呪われた塔は最後のときを迎える』という言い伝えがある。

ライ=オンとは実はホータンの鬼面の塔そのものであり、塔が生命になったのでも、生命が塔になったのでもなく、はじめからそのような姿をもって生まれてきた物神である、という。人間は彼らを塔としてみているが、それは彼らが人間にそれを許しているからにほかならない。塔の四面に四つのそれぞれ兄弟の巨大な顔を持ち、この四人があわさったとき鬼面神となるという。第三の目から万物を焼き尽くす明るい緑色のするどい細い光線を放つ。

北面の末弟は鬼面の塔の第一層の闇と夜の世界をつかさどり、サイクロプスのガドゥーを命のよりしろとしている。西面の三男は鬼面の塔の第二層の花の国をつかさどり、イタカを妻とし、《古きものども》とライ=オンとのきずなとなっている。鬼面の塔の第三層は海の層であり、水の星、海の惑星スィークにつながっている。南面の次兄は鬼面の塔の第四層をつかさどり、額に《第三の目》をもつ恐しく巨大な鬼の首と巨大な芋虫のようなからだをもつ、白い血の怪物。東面の長兄には自ら戦う力はなく、三人の弟にささえられており、緑色の血もしくは涙をもっている。四兄弟の他に、あとからひきよせられてライ=オンに飲み込まれた無数の小さな顔が塔に生えている。それらの小さな顔はかつてはホータンのれっきとした住民としてホータンで生きていた連中であり、鬼面神から独立した生命でもなく、といって鬼面神の本当の一部でもなく、いわば鬼面神に寄生しているかのように、鬼面神のエネルギーによってのみ生かされているぶきみな存在である。ライ=オンが罰をあたえ飲みこんだり、好奇心からライ=オンのなかに入ろうとして出られなくなった人間あるいは人間でないものたちが、鬼面の塔のなかにおそるべき怪物や奇妙な化け物として巣くっている。ライ=オンの体内にあっては、時はとまっており、ライ=オンのなかに入ったものは、現世の時からも切り離され、ものはくさらず、くちはてず、死んだものも土にかえらないが、しだいにおのれの本性にかえらされていく。かれらは鬼面の塔が崩壊したときにのみ、かりそめの生から解放されるという。ライ=オンはもとから四兄弟であったわけではなく、顔だらけであったわけでもなく、まだ二兄弟であったくらい若いころは昔は自由に動きまわることもできたかわりに、魔力もそれほど年へていなかったので、飲みこんだものがすぐに顔となって生え出してくるということもなかった。ゾードは友。
リームの花の姉妹
 
(神)鬼面の塔の第二層、花の国シッタータに住む姉妹。すらりとして、ひどくほっそりとした、とても美しい真っ白な肌の女たちで、なめらかな白いすべすべしたからだ、やわらかそうなあまり大きくない乳房、けむるような金色の体毛、なめらかで美しい細腰、サンゴ色の唇、サンゴ色の目。それぞれにうす緑だの、あわい桃色だの、水色だの、そしてやわらかな藤色だのといったやわらかな色あいの奇妙な美しい色髪を長くたらしている。からだの線がすべてすけてしまううすものを一枚それぞれにまといつけており、奇妙な色の髪に、てんでに花をあんだ花かんむりをのせ、手首にも、首のところにも、花の輪がまきつけられているのが、唯一の装飾。淫魔インキュバスのようにみだら。正体はひとの肉をくらう食人植物の精で、人間の血や漿液を吸って生きており、そのときには全身からそれぞれの髪の毛の色と同じ、髪の毛のようなのようなひげ根のようなものを伸ばして、それを人間にからみつけて血や漿液を吸い上げる。その時、人間はとてつもない悦楽のなかにあるという。
ルー・エン
 
(神)ホータンの土地の女神。かつてホータンの東の森にあり、ホータンから遥か離れたティン・ボー・ムの東渓湖と姉妹関係にあった西渓湖の支配者。もともとは蛇の女神で、うろこをもち、三対の腕の外側にひれのようなものをもつ。目玉がぎょろりと飛び出した魚のような顔、ぐるぐると編んで王冠のように頭にまきつけられた髪の毛をもち、耳まで裂けた口にぶきみな細い剣のようなものをくわえている。額の真ん中には第三の目《神々の目》をもっている。一対の手は槍と鎖鎌をふりかざし、もう一対は生首の髪の毛をつかんでからげ、最後の一対は呪い棒のようなものと分厚い本をつかんでいる。体にはトーガをまとい、全身に海藻のようなものがまとわりついている。《神々の目》によって神性をあたえられており、急所でもある。《神々の目》から光線を出し、ものを床にぬいとめる。キタイでは土地神というのは、完全に実在したことが証明されている存在なのだという。
ルード
 
(神)ゼド教の東面神、朝日神将。




【草原の神話】
モス
 
(神)草原の神、大神。万物の父、大地の母。万物の創造主。天空をつかさどる神、というよりも天空それ自体であり、朝な夕な、常に人々を静かに見下ろしている大いなる存在。天空と大地の神で、本来は大気の神であった。アルラーの子にしてヘデイヴの末裔。白いやぎひげをもつ。太陽は「モスの円盤」と呼ばれる。草原では、日の出時と日没時に、単調な、アーアーアーアー、という叫びに似た「モスの詠唱」が歌われる。日没時の詠唱は、日の端が地平に触れてから没しきるまで、太陽にむかって行われる。「モスの詠唱」には、哀しみをうったえるもの、平穏な一日のおわりを感謝するもの、死者をとむらうためのなどさまざまな意味、種類がある。きっすいの騎馬民族たちは、都市できくモスの詠唱など、モスの大神は認められぬ、とさえ、信じている。定期的にモス大祭が開かれる。

沿海州では、海の守護神ドライドンに対して陸の守護神とされ、沿海州の船乗りが下船するときには、一夜を船中にあって身を清め、感謝の儀式と、モスの祝福を受けてから、服を着替えてでないと下船できない。
モスよ 万物の父 大地の母なるモスよ 御身は光もて御身の海を育み給う モスよ アルラーの子 ヘデイウの 末裔なるモスよ 御身の海に漁るものは これみな御身の子 御身の小舟なり(モスの詠唱第十七節 アルディウ・ガウ訳編)
天馬祭
 
(神)草原のマオ・グル族の祭り。一年に一回、月が天馬の泉の真ん中に映る日、選ばれたもっとも優れた白馬の首を切ってその血を盃に受けて飲み、その馬を天に帰すことによって、来年もよい子馬に恵まれるよう祈願する。

神話は次のように伝える。草原で平和に暮らす部族のもとにある日、銀色の男女と銀色の馬があらわれた。部族は客を大切にもてなした。すると、その後、馬はたくさんの子を生み、乳はかれず、草はいつもみずみずしくなった。次第に豊かになった一族のあいだに醜い争いがおこり、悪い族長の弟が銀色の馬をひそかにキタイに売り払ってしまった。それを知って、銀色の男女―月から来た―は哀しみながら月へかえってしまう。そのあと、わるいはやり病により馬が次々に死に、草は枯れ、子供も死んでいった。災厄にあって、やっと心をあらためた人々は、月人が自分の馬を失って哀しんでいるに違いないと、銀の馬によく似た、全身真っ白の名馬を天に捧げ、満月の夜に生贄にしたところ、月人の怒りはとけたのか、それからまた草は緑に燃え、泉はこんこんと湧き、すこやかな子馬も生まれるようになった。




【ノスフェラスの神話】
アクラ
 
(神)ラゴンの崇める場所。人が生きてアクラに足を踏み入れることは出来ず、アクラにおもてを向ければ、その場で立ったまま死に絶える。アクラの周囲は、何百タールにもわたってくまなく人と獣との白い骨に覆いつくされ、足を踏み入れようにも足の下でその骨は砕け、人はその骨の灰に、ずぶずぶと足がめり込んでゆくのだという。アクラのその不思議な力が何であるのかは分からないが、ただ、その白い骨は、ことごとく、ある一転に向かって、円をなして倒れており、その円の中心、アクラそのものは、日があたろうとあたるまいと、つねに怪しい銀色に光り輝き、時に奇怪な、この世のものとも思われる音や声を、ただ一人で発し続けているといわれる。ラゴンの最初の賢者カーからの言い伝えによれば、アクラはある夜、天より白き光として降り来たり、ノスフェラスのすべての人に災いと死とをもたらしたという。アクラのやってくる前、ラゴンとセムとは等しく、より大きくもなくより小さくもない民であったが、アクラ降臨の時、ラゴンの祖とセムの外はいったん滅び、その後再びラゴンとセムとして現れた、という。すなわち、ラゴンをつくりしものこそアクラにして、ラゴンはアクラに使え、その命にしたがうべく、死の中から拾い上げられた民であり、いつの日か再びアクラが降臨したとき、ラゴンは立ってアクラを迎え、アクラのおそるべき力によってラゴンを除くほかのすべての民は死に絶えて骨となる。しかし、アクラに使える民なるラゴンだけは、アクラに許され、ついにアクラの瘴気に誅されることがないであろう、という。アクラはときおり使者をラゴンにつかわす。アクラの使者は偶然手にいれた、アクラのみしるしをもっている。アクラの使者はラゴンを導き、栄えある約束の地へと連れていく。ラゴンはまだ約束の地を見いだしてないので、これまでに移り住んだどの土地もラゴンにとっては、かりそめの土地にしか過ぎない。

アクラはラゴンをつくり、アクラはラゴンを守った。アクラは万物の始まり。地に神々は満てり。されどラゴンを作るものはアクラひとつ。アクラはラゴンだけのもの
(ラゴンの詠唱)
アルフェットゥ
 
(神)セム族の神。戦さの神。砂漠の神。砂蛙の姿をしている。




【南方の神話】
ク・ス=ルーの神々
 
(神)古きものたち。古き神々。悪しき神々。南方の神で、蛙や魚の顔をした邪神。とおい昔、どこか別な世界から、この世界へたどりついたと云われる。あまりにも古い神々であるので、いまや誰一人としてその偶像を崇めるものはいないが、その眠りからさめ、再び地上に現れるときには、世界は鳴動するといわれる。
ラン=テゴス
 
(神)ヤヌス神よりも古いといわれる太古の神で、ランダーギア、フリアンティアの神。人間がいまだ姿さえもみせていない、地球がどろどろと煮えたぎる溶岩のかたまりにしかすぎなかったころから地球に飛来し君臨した、太古のク・ス=ルーの神々の一人にしてその最も力あるもので、巨大なカエルの面を持つク・ス=ルーの生き残り。邪悪だが、普段は新しい神々の前にその力をひそめている。




【ミロク教】
ミロク
 
(神)最後の審判に関する予言をした予言者。ミロク教の祖。三国戦争前後から、ゴーラを中心に勢力を増大させている新しい神。唯一神を名乗り、人々の救済を称する。偉大なる智の尊者と呼ばれ、全能にしてすべてを知ろしめす偉大な人といわれる。唯一絶対の主。何回となく、輪廻転生して地上にあらわれているといわれ、最後の審判の日に降臨するといわれ、ミロクが最後の転生をなしたとき、この世は人々がすべて平等で、正しく、倫理に従って清らかに生きる、光の世界、真世界とかわるという。

ミロクの教えはこの世を救い、光の国をもたらすという。平和をたっとび、人間に身分のへだてはない、と説き、第一に殺生を禁じ、飲酒、食肉、多淫、姦通、虚言、殺人、博奕を禁ずる。純潔、無欲、無産、無暴力、無言を五徳にかかげている。飲酒、阿片の禁止、食肉の禁止、殺人、傷害の禁止、未婚の男女、同性との姦淫の禁止、人身売買の禁止、教えによって《光》を受けていない異教徒への許心の禁止、他の宗教の神、王を崇めることの禁止、以上を<ミロクの七戒>という。生きものはみな、神の前に平等であり、できるだけ少なく殺し、生命をいつくしみながら食べなくてはならない、と教える。<怯儒になってはいけない><怠惰になってはいけない><真実を愛し求めよ>と教える。神のために人は純潔を守らねばならぬ、罪を犯したものは地獄へおちる、といわれ、ミロク教徒は純潔を守るために自殺することすらある。また、世界の平和を願い、祈りは人を動かすと信じ、何者をも恐れず、いかなる誘惑も受け付けない。ミロクの子(ミロク信者)であるかぎり、自分の貴賤、骨肉への執着があってはいけない。亡くなったものはミロクのもと、ミロクの天国へ召されるが、残されたものの亡くなったものへの執着が強すぎると、亡くなった人はあの世で暮らせず、転生がかなわないという。人を愛し、大切にするのはよいが、人に思いをかけるのは逆にその人を縛ることになる、と教える。

人間の魂は不滅であり、肉体ははかない容器にすぎず、死んだ人は、白蓮の花のガクで再生、転生を待つという。

信者は十歳以上で洗礼を受けて信者となるが、ミロクの信者の家に生まれた子は、生まれたときからミロクの子(ミロクの信者)であるという。ミロクの信者は、黄色い服を着て、楕円形の下に十文字の下がっているミロク十字架のペンダントをつけており、毎日没前に勤行を行なう。ミロク教の僧侶、教徒はすっぽりとフードをかぶり、長いマントをつけている。ミロク教の道士の家には三つの銅の玉がつるしてある。一生に一回は聖地ヤガへの巡礼を行ない、さもなくば後生が救われないという。ミロクの尼僧は絶対に純潔でなくてはならない。ミロクの巡礼は人に見られるのを戒律で嫌い、剣をすて、富をすて、祈り三昧で粗末な生活をし、中には『無言の誓い』をおこない、無言を通すものもいる。

ミロク教徒の町ヤガでは、すべての富は全員平等にわかちあう、という。
――全能にしてすべてを知ろしめす偉大な人よ。姉ルキアの魂をみもとにみちびきたまえ。はてしない時ののち、あなたの降りたまうさいごの日まで、私たちが彼女をわすれることなく、また私たちが彼女と出会って、その転生をそれと見わけることがかなうよう、あなたのプラーマをわれわれにわかち与えたまえ。彼女から、すべてのなやみ苦しみがさり、白蓮の花のうてなに再生をまつときに、うつし身に心をのこす私を許したまえ。――ルジャロースタナ・シャメイン(ルジャロースタナ・シャメイン=偉大なる智の尊者よ、われをみちびきたまえ)
(姉ルキアの死去を聞いたヨナの祈り)

たたえまつれ ミロクの恵みを 人は愛し合うために生まれてきた 武器を捨てよ 殺すな 貞節に生きよ 地の塩として いのちある動物をくらう身を恥じよ 木も草もいのちを持つ仲間なれば
(ミロクの詠唱より)

天にまします神よ、死者のみ魂をみもとのお引取り下さい。……死者よ、やすらかに憩いたまえ。永遠のやすらぎをいまこそその身に受け、神のみ恵みのもとにすべてのこの世の苦しみと悩みいまここに終わらんことを祝福したまえ。
(オー・ラン死去時のリーロの祈り)




【中原の伝説】
アウグスチヌス
 
(伝)兵術の祖。
アエネウス
 
(伝)怪物を空中で絞め殺した。
悪人、罪人のミイラ
 
(伝)悪人、罪人のミイラはそのままにしておくとよみがえってたたりをなしたり、悪の瘴気をふりまくといわれる。
悪魔との契約
 
(伝)悪魔に魂を売る契約をするとき、血をインクにし、指を炎のペンとして署名をする。
アグリッパ
 
(伝)大導師。キタイが成立するはるか昔に生まれたキタイ人であったといわれる。《古き神々》に術を学んでその奥義をきわめたがゆえに、ヤヌスの神の体系にはおのづから相反する存在であるといわれる。あまりに長くを生きた(千年以上〜二万年)ゆえにすでに善悪の観念を超えており、ヤヌスにもドールにも帰依していない、といわれる。世界一つを暗黒にしつくし、また一国に雪を降らせるほどの力を持つといわれる。いまも世界のどこかで神秘の錬金術をいとなんでいると云われる。アグリッパのみならず、太古には、かなりふしぎな力ある大魔道師がおり、その時代は、魔道師がはぶりをきかせる暗黒の神話時代といわれる。
悪霊祓い
 
(伝)心身が疲弊しているときには悪霊が取り付きやすく、それを防ぐには勇士をそばに起き、その武勇、その念強きをもって払うがもっとも良いと古書にある。
アダモス
 
(伝)長老。杖でレントの海を叩き、レントの海の水を二つに分かれさせた。
アラクネーの蜘蛛
 
(伝)まじない小路の魔道師アラクネーが飼っていた生物。全身に黒い剛毛の密生した巨大な円形の生物で、いやらしく丸く膨れ上がった胴のまんなかに赤く光る目と長いくちばしのある、蜘蛛の顔が収まっている。黒い膨れたキチン質の胴の真横から、上へ持ち上がった長い足が、片側に六本ずつ伸びており、そのたくさんの足を素早く動かして移動するときに、カサカサという枯れ葉の擦れ合うような音を立てる。全身の剛毛の先には毒がある。
アルカンドロス
 
(伝)パロの建国王。大王。たくましい剣をふるった。カラムのジェリーがとても好きで毎日食べていた。アルカンドロスのピラミッドでは没薬入りの酒が見つかる。
アルビオナ
 
(伝)ケイロニアの一部族、アンテーヌのドミティウス家の女王。美しいギーラの町をタルーアンのヴァイキングから、単身守り抜いた。タルーアンのヴァイキング王シグルドから、ギーラの町の代として、妾となれと無理難題をふっかけられた彼女は、身を清め、白いドレスと毛皮に身を包み、髪をあでやかにゆいあげて、アイリス城にシグルドを迎える。そして初夜の床で、アルビオナは毛皮に忍ばせた短剣でシグルドを刺し殺した。しかし、殺したあと、アルビオナは自分を奪った男の死体を抱きしめて泣きくずれ、そしてその夜、アルビオナのみごもった子どもは、のちにタルーアンを統一する英雄シグルドとなった。「アイリスのアルビオナ」の物語として有名。
アルフリード
 
(伝)放浪の王。
アルマゲドン
 
(伝)この世の最後。
アルリウス
 
(伝)ドライドンに愛された英雄の中の英雄。
アレクサンドロス
 
(伝)パロの軍師。兵法の祖。大博士。論理学の祖。建築、美術、音楽、軍事、戯曲、科学など、すべてにわたって偉大な、人間ではありえないような才能を発揮したといわれる。「兵法の書」「築城術」「治国の書」の三部作の他、「史書」「知恵の書」などを著し、クリスタル・パレスを設計した謎の超人。クリスタルの七つの塔を建設した。科学によって魔道師達を従え、魔道十二ヶ条を制定して、魔道師たちを魔道師の塔におしこめた。彼の発案と、その不思議な力により、赤い街道が現世と魔界と黄昏の国を結ぶ、一種の次元回廊となる。カラム水をハチミツでわるのが好きで、毎朝目を覚す瞬間にそれがベッドのかたわらに捧げられてないと、枕を小姓に投げつけたという。どこからあらわれたのか謎とされており、一説には空からおりてきた人間ならざるもの、星々の海のはてから来た宇宙人であったとも言われる。吟遊詩人のサーガにいう、『アレクサンドロス大王のうしろにひそんでいた毒蜘蛛』によって、命の危険にさらされた。
《暗黒の書》
 
(伝)ドールが炎の獣の皮におのれの血でもって書きしるしたという書物。この本を手に入れたものは黒魔術の奥義をきわめられるという。闇の司祭グラチウスが弟子に書き写させたものは《イロン写本》と呼ばれる。
アンドロティアヌス
 
(伝)神技といわれた剣の使い手。
アンドリアヌス
 
(伝)天才画家。
イアソン
 
(伝)アレクサンドロスとならび称される知恵者。
イシュトヴァーン
 
(伝)沿海州に名高い、ヴァラキアの統治時代の伝説の偉大な英雄王。ヘカテ女王を救った。
イムホテップ
 
(伝)数千年もの宇宙的規模の眠りから、ようやく目覚めた伝説の王。
イリスの石
 
(伝)生命発生の秘密をときあかす鍵にして、太古より人間すべての求めつづけてきた『賢者の石』。生死のはざまに存在する重大な扉。生命と死とすべてをもたらす、この世にいくつもない本物の魔石。死体の心臓に埋め込まれると疑似生命を与える。生命ある石であり、有機的な無機物、不死の生命、生命なき石でありながら生きてある存在。あやしい光を放ち、不定形の異様な色合いをした石。

ある夜、ルアーはイリスを追いかけ、いつものように山の端に没しようとしたところ、イリスのウマがイリスをふりおとしたため、ルアーはイリスを捕まえ、妹イリスを姦淫し、イリスは生でも死でもない黄昏の生物『イリスの石』を生みおとした。『イリスの石』を生みおとしたイリスはわが身の罪深さにおののき、炎の中に身を投げたとき、彼女の抱いていた不具の子供『イリスの石』は、いくつもの部分にわかれて地上にちらばり、それなりになったという。それは動くことも死ぬこともなく、泥の底や湖の底などで、今に至るまで生と死のはざまの生を生きつづけているといわれる。
イリスの杖
 
(伝)イリスの石がその杖から半径一タッド以内に近づくと青白く輝く。
イロン写本
 
(伝)ドールが炎の獣の皮におのれの血でもって書きしるしたという書物《暗黒の書》を、闇の司祭グラチウスが弟子に書き写させたもの。
かれらは運命の神ヤーンによって動かされていた。しかしかれら自身は自らが運命の糸の上にあることを、未だ知らなかった。
(『イロン写本』より)

――そしてかれらは糸に引かれるようにノスフェラスへの道を歩んだ。かれらの上にはつねに暁の星があり、かれらをあるべき姿へと導いたのであった。
(『イロン写本』より)

いまや中原に黒きいくさののろしが上り、それはすべての国々の空をおおいつくそうとしていた。そしてそれは、それから獅子の年にまで及ぶ、長く大きな夜のはじまりであった。
(『イロン写本』より)

かくて戦いは終わり うら若き王は竜の玉座に上った。人びとはうち群がり 公爵の武勇をたたえて叫んだのであった。
(『イロン写本』より)
インキュバス
 
(伝)淫魔。夢魔。人間よりもずっと古くから棲息していた古代生物の生き残り。全体に、裸のように生白くてねっとりした感じの皮膚をもち、巨大な耳がふたつ頭の両脇からとびだして翼のようにたれさがり、つりあがった大きな金色の虹彩のない目を持ち、長いはだかの肌色の伸び縮みする、男性器を模したかのような尻尾をくねくねさせている、サルともつかぬ奇怪なおぞましい生物。
ヴァラディーナ
 
(伝)気が強い女性。
ヴァルゴスの兵士たち
 
(伝)地にまかれた竜の歯から生えいでたという。
ヴァンホー
 
(伝)森に住むいたずら好きの小人族。
ヴァーラス
 
(伝)湖人、沼人が住むという。どす黒い瘴気をはなつ悪魔の沼や底なし沼、あやしい半人半魚の種族が住んでいるという。
ウィレン山脈
 
(伝)世界一の高峰にして、人跡未到の山脈。天がける大鷲も、ウィレンの山は越えられぬ、一日千里をかける天馬もウィレンの山は越えられぬ、とわらべ唄にはやされる。『神々の座』ティルレン、ミレン、ウォールン、ドーラン、の四大峰の一つとして心優しい人のすみかであるものはなく、怪しい「山人」族のすみかであるとか、あるいは白く毛深い雪狼の群れがすむ、いや、もっと忌まわしい、奇怪なものが巣くい、過ぎ行くもの、あえてこの「神々の座」を侵そうという冒涜を試みるものを口にするも恐ろしい死に追いやる、との言い伝えがある。美しい雪の精霊の伝説がある。
海男
 
(伝)背中に大蛸を背負っている。
海じじい
 
(伝)体中が緑色の海藻に覆われている老人。しがみついてはなれない。
海坊主
 
(伝)海の怪物。
海幽霊
 
(伝)海に現れる幽霊。びしょぬれ。
ウロボロス
 
(伝)古代の怪生物。カナンよりも古い時代、大洪水時代よりもさらにさかのぼる時代の、そのまた太古に棲息していたと伝えられている伝説の蛇。蛇と竜のあいのこのような姿をしている。
ウーラ
 
(伝)砂漠の狼王ロボと地獄の犬ガルムの娘シラとのあいだの子。ロボのあとをついでノスフェラスの狼王となった。ドールの黄泉の近くのセトーの森を守っている。通常は犬の姿をしているが、あらゆるものに変身できる。
 
(伝)グラチウスによれば、十二年に一回、そしてさらに大きなものであれば百二十年に一回、さらには千二百年に一回、すべての惑星が直列し、すべてのしるしが符合する<会>がおとずれるという。その唯一の瞬間まで待ち、そのときグインの記憶をときはなつと、グインの中のすべての超宇宙的なエネルギ−、汎世界的なパワ−が体内よりほとばしり、グラチウスのアンテナと交流し、そのときに世界がかわる、という。そのとき、過去と現在と未来、時空間の黄金律はすべてくつがえされ、それは混沌(カオス)となり、その中からグラチウスのさだめた黄金律によって動くグラチウスのための宇宙空間を創出する、という。

グラチウスによれば、次の巨大な<会>で、世界はいっせいに変貌をとげる、という。中原の地図は知らずして<会>の影響をうけてぬりかえられ、魔界が物質界に近づいたがためにそこかしこにまた科学の世界と信じていたこの世界のほころびがひろがり、あやしく妖魅と魔物が人間たちによりそう幻想の超古代がさいごの暗黒帝国、カナンの再現をもとめて時のはてよりよりつどってくるだろう、という。
エウネケの巫女
 
(伝)詩人オフィウスを引き裂いた。
エッナ
 
(伝)獰猛にしてうるわしく細腰。
エリアルの乙女
 
(伝)忠実。
オデッタ
 
(伝)ドールに愛されてドールの黄泉へ連れ去られた美女。
踊る小娘
 
(伝)歌い踊っているうちに、踊りをやめることができなくなってしまった小娘。
オフィウス
 
(伝)パロ出身の伝説の詩人で美声の代名詞。詩人の王。歌とキタラの名手で、黄泉の王をも感動させたといわれる。名代の女たらしとしても知られる。楽音の女神ムーサの敬虔な信者。亡き妻の霊にみちびかれてドールの闇の版図、地獄をただ一人、死せる魂を求めて旅していったといわれる。ゾルードから妻を取り返そうとして果たせなかった。また、ゾルーディアの王に頼み込み、死んだ恋人のアミアを求めて、死の王ドールに逢うためにゾルーディアの地下道から黄泉へと続く縦穴を、入り口に結び付けた糸をたよりに下りていったきり帰ってこなかったともいわれる。エウネケの巫女に引き裂かれた。
オルフェオ
 
(伝)伝説の詩人。「オルフェオの詩篇」を著した。キタラ、ハープ、歌の名手。美声の持ち主。デュオニの巫女に熱狂的にとりかこまれた。グールが黄泉に引きずり込もうとしたとき、歌い続けてグールを眠らせ、危機を脱した。黄泉でおぞましい限りの冒険をした。真実を告げ、その言葉に怒り狂った民衆にひきさかれて命を終えたという。オルフェオの詩篇の三編めと十四編めのそれぞれの三行目の韻律が一致しているのが偶然か故意かというのが、学会で論争となっている。
海馬人
 
(伝)海に住む怪物。
カウリノスの網
 
(伝)シレノスを捕まえた。
影の話
 
(伝)影が、それ自体の邪悪な意図と生命とを持つに至ったという伝説がある。
神々の石碑
 
(伝)運命が刻まれている。
ガリレウス
 
(伝)「嫉妬にかられ妻を殺害した将軍ガリレウスの悲惨にして哀切なる物語」としてオルフェオに唄われた。
カリンクトゥム
 
(伝)レントもコーセアの海もつきるところにどろどろと流れおちてるとも、レントの海、コーセアの海、ノルンの海がまじわるところにあるともいわれ、世界が終わっているといわれるこの世の果て、地の果て。ものみなすべてがなだれおちるという大滝つぼがあるといわれる。その深淵は炎となって虚無の海へなだれおちている、ともいう。ドールの黄泉への入り口だとも云われる。近くへ行っても次の瞬間ずっと遠くに行っているという虹の壷、竜の玉、炎の珠や大渦巻きがある。眠ることのないという竜神が住んでいる。犬頭蛇、蛇人、人猿、猿亀など、奇妙な生きものが住んでいる。炎の池には、そこにのみ住むという火炎獣が住んでいる。異世界の通路となる扉があり、その扉には、宇宙的な巨大さを持つ、豹頭のシレノスの彫像が刻まれているという。また、その扉の向こうは虚無の果ての虚無、空の空であるという。カリンクトゥムの果ての調査に、これまで何十人もの冒険家がそれをさいごの夢として旅立ったが、誰も帰って来なかった。グラチウスによれば、ノスフェラスの《グル・ヌー》、パロの古代機械、グインと並んで世界のもっとも大きな謎の一つ。
ギガン
 
(伝)伝説の聖騎士。部下はローズ。
キタラ弾きについていってしまった少年たち
 
(伝)キタラ弾きについていってしまった少年たちの伝説。
ギブ
 
(伝)死の世界へ入ってゆくルシウスを呼びとめたといわれる。
キマイラ
 
(伝)巨大な伝説の獣、怪物。サイロン市の門柱に彫像がある。
キャナリス
 
(伝)《不具者の都》。「呪われたフェラーラ」。三重苦皇帝が治めている。
吸血鬼
 
(伝)パロ、サラミス地方に伝わる伝説。
キュクロベ
 
(伝)ふれても、見つめても石になってしまうという魔物、魔女。その場で立ったまま塩の柱と化したという。
玉石
 
(伝)玉石を握って生まれる子供は、今どういう親に生まれていてもいずれえらい王になると、占い書に書いてある。
キロン
 
(伝)青い河。
ククル人
 
(伝)地底の洞窟ふかくたてこもる目の見えぬ種族。
クラロン
 
(伝)オフィウスの叙事詩『コルヴェイエのクラロン』に歌われた人物。清浄なるコルヴェイエと美しき女王を捨てて、悪徳の都カナンで生きるべくあえて戻っていった。
クルド
 
(伝)《皆殺し》クルドと呼ばれる、残虐で有名な大海賊。何百隻の船を沈め、金銀財宝を強奪した。ダリアの町を二度に渡って皆殺しにしようとした。自らの死の前にナント島に宝を隠し、宝を隠した海賊仲間を皆殺しにした。一人で帰ろうとしたところ、神の嵐に船を沈められ、ナントの島で狂い死にしたという。クルドの財宝の場所は、クルドの古いヤヌスの書にかかれているという。
グール
 
(伝)森に住む死霊。食屍鬼。黄泉へ下りそこねた死びとであるといわれる。闘志に燃えている。
ケントゥス
 
(伝)伝説の半人半馬。馬の体に人の上半身を持つ。
黒死病
 
(伝)黒死病から助かるただ一つの方法は、健康な人間の新鮮な肉で体をつつみ、新しい温かい人血に幹部を浸して、そのうえで黒ヒルに悪い血を全部吸い出させることという民間療法がある。
コルヴェイエ
 
(伝)美しき女王におさめられた清浄な土地。オフィウスの叙事詩『コルヴェイエのクラロン』に歌われた。
さいごの「裁きの日」
 
(伝)すべての死者がよみがえり、地上をみたすという。
《さいごの生命の樹》
 
(伝)はるか遠くにあるという。
ザウル・トリステス祭祀書
 
(伝)世界に一冊しかないといわれる原本をキタイの望星教団が所有している。
はるかなる宇宙のはてから、時の弔鐘がきこえてくるとき。赤き星が北の空にあらわれ、ひと月のあいだとどまりつづけるとき。巨大なるホウキ星があらわれ、獅子の星座の流星群が夜空よりあらわれるとき。そのとき、カナンの伝説はくりかえされ、戦慄すべき破滅の伝承はうつつのものとなるであろう。幸運にして災いを逃れるものはあらたな世界に赴き、逃れ得ざる者はドールの黄泉にいこうであろう。そして世界は新しき時代を迎える。
(ザウル・トリステス祭祀書「予言の書」より)
ザザ
 
(伝)大鴉。黄昏の国の女王。ハーピィの血筋をひいており、太古の種族のことにくわしい。黄昏の国に生身のものや死人が入り込んでこないように監視している。漆黒の肌の美女に変身する。
さまよう騎士
 
(伝)永遠に回廊を、野心と残忍なたくらみとを抱いてさまよいつづける騎士。
サルスランの地獄
 
(伝)神の怒りにふれて、全ての住人が突如として逃げる暇もなしに連れていかれたという。
獣面人身の国
 
(伝)海の向こうのどこかに獣面人身の人々の国があり、そこでは王は徳高く、人々は心優しく、全てはうまく納まっている、という。
シグルド
 
(伝)海賊王。海賊というのはれっきとした商売だ、と主張し、それで国を富ませている。
《死人風》
 
(伝)モンゴールの辺境近くなどでしばしば吹く、妙にじんわりとした、まとわりついてくるような重たさをもった、妙に不吉なものを感じさせる風。いぬが、その風をかぐと尾を足の間にまきこんで小屋の奥深くはいこむ、とか、その風が吹くと死にかけていた病人の魂を連れてゆくとか、良くかいで見ると、その風に特有の生臭いような匂いがする、などといわれる。
シムハラ
 
(伝)コーセアの海に浮かぶ、謎にみちた巨大な島国。代々の王は奇怪な宝石をちりばめた獣頭の仮面をかぶって素顔を見せぬというしきたりがあるという。一説にはシムハラを治めるのはかぶりものの牛頭人身、尻尾のある大司祭である、ともいう。宝石をちりばめた獅子の頭のつくりものをかぶって一生をおくる大神官がいる、ともいう。男がスカートをはき、女が足とおしをはいている、という。迷宮があるという。シムハラとは獅子国という意味。
ジョリウス
 
(伝)人形つかい。人形のメルヴィーナに命をふきこみ、自分の妻とした。
シルヴィアン
 
(伝)伝説の王子。
シレノス
 
(伝)伝説の半獣神。たくましい神兵の軍勢をひきつれた英雄にして軍神。豹頭の勇士。ニンフを母として、もしくはルアーと雌豹との間に生まれたといわれる。二枚刃の剣をもつ。いなづまをつかんだといわれ、カウリノスの網に捕まえられたという逸話がある。バルバスとともに放浪と地獄めぐりなどの冒険をし、さいごにタルーアンをこえて北方の氷雪の国へと入ってゆき、北極の何タールもの氷の中でバルバスとともに永遠の眠りについた。別の説では、ウィレン山脈の万年雪の氷河の何タッドもの白い氷のしたに埋もれて、果てしないさすらいと冒険の旅の後に、バルバスとともに永遠に、腐ることもなく安らかな神人の眠りについている、ともいわれる。なすべきことをするまえに、その代償を支払わせようとしたという。シレノスの頭にふれると強くなれるという。ケイロニアのルアー神殿の前には、シレノスの像がたっている。
シレーヌ
 
(伝)魔術で美しく妖しい夢を見せる。
シンハラの女王
 
(伝)あやしい、すがたをみせぬ闇の女王。
聖アリオン
 
(伝)なきがらがくさることのないままに残っているといわれる。
セム
 
(伝)悪魔帝国。ドールの領土であるといわれる。
ゾウ
 
(伝)巨人。死期を悟ると死に場所へ向かうという。
ゾルーディア
 
(伝)『死』を主要産業とする自由都市。その住人はすべて、葬儀屋、墓作り、ミイラづくり、骨拾いをなりわいとしている。高名な王や貴族が死ぬと、どこの国もゾルーディアに使いを出し、ミイラ職人と墓作りを派遣させるか、死体をゾルーディアへ運び、ミイラにしたうえで送り返させる。中には、送り返してもらわず、そのままゾルーディアに安置させるものも多い。

ゾルーディアへなきがらをはこぶ、葬送の列に従ったものは、帰ってくると、身が汚れたといって全身を洗い清め、神殿にこもる。

ゾルーディアの人々はドールを主神とし、ミゲルをあがめ、ヤヌスの名を口にしないといわれる。

ゾルーディアでは毎日すべての祠と墓のまわりで線香がくすべられ、町のまわりにある三つの火葬場は、ひっきりなしに運びこまれる死者を荼毘に付しつづけているために、ゾルーディアには晴れた日がない。水葬、鳥葬、風葬、火葬、土葬、どんな宗教の、どんな葬礼でも希望次第で取り扱う。ゾルーディアにはゾルーディアの支配者しかしらぬどこかに深い地底へおりてゆく縦穴の入り口があり、それをどこまでもどこまでもおりてゆくと、ついにはドールの王国なる黄泉へたどりつくといわれる。

ゾルーディアの右死宮では、そこで、ミイラをよみがえらせ、それをゾルーディアの軍勢とするという、おぞましくおそるべき実験が行われているのだとも、太古のミイラづくり、魔道士、ゾルーディアの最初の王であるアル=ケートルが自分自身をミイラにしたとき、彼の技があまりにも神に近いまでにひいでいたために、自ら死んだことを自覚できず、ついにそのまま死ぬことも生きることもなくさまよいまわるようになってしまったのを、たたりをおそれてゾルーディアの人びとがとじこめてしまった、ともいわれる。右死宮は封宮とされ、それがあけはなたれるときには、ゾルーディアの上に、すべての災いと呪いとがふりかかり、そしてそれは世界そのものにでも及ぶであろう、といういい伝えがある。
ゾーラス
 
(伝)大泥棒。開国王アルカンドロス大王の棺をあけてみようと忍び込み、恐ろしい最期をとげた。
ダイダルス
 
(伝)非情の武将。その将軍ティトウスとともに、中原を踏みにじっていった。
ダイダロス
 
(伝)政治学に関する書を著した。
ダイモス
 
(伝)詩人のミハイロスが書いた傑作『夕べに君はしゃれこうべを洗う』の主人公。見栄えが悪く、人に好かれない。
タヴィア
 
(伝)氷の中で永遠に生きているという、氷雪のクインズランドを治める《氷の女王》《氷雪の女王》。絶世の美女。タルーアンの神話では、氷神イミールに溺愛されて氷の中に閉じ込められた、という。
タウロ
 
(伝)賢者。七つの冒険でしられる。そのうちの一つに、グールに出会った時に肩ごしに生肉を放り投げて、グールがそれをむさぼりくっているうちに走って逃げた、というものがある。
黄昏時
 
(伝)ルアーの昼の支配から、イリスの版図へのうつりかわりの刻。逢魔の時刻。空気には、ふしぎなたゆたいとおののきとがいりまじりはじめ、風は死人の指のつめたさをもちはじめる。昼から夜へ、人間の領域から妖魔の跳梁へ、理性と学問から、錬金術とルーンの秘儀、明るい陽光からあやしく謎を秘めた月光へとすべてがうつろってゆく、淡く、最も不思議と怪異の多くおこるという刻限。
タニア
 
(伝)恐るべき魔女。《死の娘》。ミイラづくりの名人アル=ケートルの手でミイラにされたので、自分が死んだのに気づかず、夜な夜なたくさんの男たちと愛をかわしては彼らを死においやっていたという。その接吻は、人を生きているのでも、死んでいるのでもない、死であって死でなく、生であって生でない、おぞましい、永久に呪われた状態へつれてゆくといわれる。タニアはそのような人の魂を食べて永遠の長寿を保っているという。
ダネインの泥人
 
(伝)湿原にはダネインの泥人と呼ばれる、黄泥まみれの妖怪がすむといわれる。
ダルプミスの悪魔たちの宴
 
(伝)恐ろしい酒宴。
ダルプミスの夜
 
(伝)夜っぴいて寝もやらず人々が歌い踊り、飲み明かす饗宴。
タルーアン
 
(伝)北方の巨人国。
ダー
 
(伝)神話の怪物。
「地の骨」
 
(伝)大地がふたつに割れ、そこからみにくい「地の骨」どもがおどりだす、という伝説がある。
ティトウス
 
(伝)非情の武将ダイダルスの将軍。
テクルゴス
 
(伝)名医。
デュオニの巫女
 
(伝)詩人オルフェオを熱狂的に取り囲んだ。
テーセウス
 
(伝)冒険に満ちた長い旅をした。
ドルス・ドリアヌス
 
(伝)不可能を可能にせよと命じた王。悪魔を呼び覚ました。ドールがそのまま彼らを終わりのない永遠の饗宴に閉じ込めてしまい、時の果てるまでも踊りつづけねばならなくなったという《ドリアヌス王の悪魔の宴》をひらいた。
ドーカス
 
(伝)ドーカスは沿海州の猟師で、ある日海にでてしけで流され、ようやく小さな島に辿り着いた。そこは、果実がたわわに実り、美しい女とおいしい酒、清らかな水が懇々とわき出るすばらしいところだった。ドーカスは、島で帰る道をきき、ほんの隣の島に、ヴァラキア行きの船の出る港があると聞いて、すぐいけばいいものを、しばらくのあいだこの天国のようなところで楽しく過ごそうと思ってしまった。島の女たちも彼を歓待してくれ、いい気になって、毎日毎夜どんちゃんさわぎ。ひと月いて、さすがに、くにの母や女房も心配しているだろうと、気がさしてきたので帰ることにして、女どものとめるのを振り切り、たくさんのみやげをもって隣の島へわたった。そして船を待ち、ヴァラキアへ帰ってみたら、ヴァラキアではもう百年もたっていて、彼の家族もすべて死んでしまっていた。(百年目のドーカス)
トートス
 
(伝)伝説の大画家。アンテーヌのドミティウス家の女王、アルビオナの肖像画で知られる。
《ドールの口》
 
(伝)ランダーギア近くの海にある謎の大渦。
ドールパレス
 
(伝)悪徳の都。
ナタール川
 
(伝)ケイロニアと、北方の国々とをわかつ大河。タルーアン、ノルムをとおり、ノルンの海にそそぐ。地上の川であると同時に、この世とあの世とをへだてる、まぼろしの川であるともされ、ノルンにそそぐところで死者たちを冥界につれていく川になるといわれる。ナタール川の白鳥は死者の魂であるといわれ、死者は大きな白鳥となって永遠の霧と雪と黄昏の中に浮かぶという。恋人を亡くしたものは、まぼろしのナタール川をさがしあて、恋人の化した白鳥がその川をわたってしまう前にとらえれば、もういちど、恋人の魂をこの世に呼び戻すことができるという。
ニオベ
 
(伝)石像になったといわれる。
ネリック
 
(伝)女御ヶ島に迷いこんだといわれる。
ノスフェラス
 
(伝)千の首をもっていて切っても切っても生えてきたという巨人。
ノスフェラトゥ
 
(伝)あやしい怪物、怪生物の総称。不死の怪物を指す場合もある。
ノルンの石
 
(伝)ふれるものを、すべて石にかえてしまうという。
ノーマンズランド
 
(伝)辺境と黄昏の国の境界となる世界。行き場を失った、転生前の魂たちがやどる国。ノーマンズランドの魂たちは転生先が決まると、ノーマンズランドの空へ向かって薔薇色の光をおびて、現世へ向かってのぼっていく。
灰色の巨人
 
(伝)タラムの町で目撃された、深い、そしてそこ知れぬ悲哀と虚無に満ちた灰色と藍との中間のような薄墨色とも言うべき不思議な色合いの巨人。目も鼻も口もなにもなく、手足があるのかどうかもさだかではない。ただ、ひたすら巨大な頭部と象のようにずんぐりとした巨大な背中から胴体をもち、背中の頂上に沿ってとさかのようなものが生えている。おそらく高さだけで百タール近くあるほど巨大で、三十モータッド以上離れたところを歩いていてもずしり、ずしりと重たげな音がひびいてくる。しかし、見たところではただの霧か、濃くなった空気の集まりのようにしか見えず、裾の方にゆくほどに薄くなっており、その下の方からは、かすかに遠くにある岩山のようなものが透けてみえている。その巨大な影をすかして見える月は青白いイリスではなく、赤く巨大な月と小さな虚ろな青い月である。類似のものは紅蓮の島やヨツンヘイム近くでも目撃されている。正体はモーヘッドの影らしい。
ハイナム
 
(伝)カナンの後裔を自称する太古王国。鎖国を守り、かたくなに国を閉ざしているために極めて謎が多く、大帝国カナン時代から続く、パロ以外にはたった一つの国である、ともいう。さまざまな昔の風習を残しているという。
白虹
 
(伝)白い虹は凶兆であるとされる。
白骨だけの馬
 
(伝)気がついたら何百年もたっていて、白骨だけの馬に乗ってたという伝説。
バルギリウス
 
(伝)英雄。超人で、不死の肉体をもつが、ただ一箇所、肩だけがの生身であり、唯一の致命的な弱点であった。
ハルコーン
 
(伝)東と西のどちらでもないところにいるという、白く輝く一本角をもつ聖一角獣。永遠の処女を探し求めている。
ハルマゲドン
 
(伝)この世の終わり。
バルツアルス
 
(伝)小人国にさまよいこんだ放浪者。
バルドル
 
(伝)伝説の残虐王。
バルバス
 
(伝)シレノスをみちびき、シレノスに最後まで忠実につき従って守った大男の蛮人。シレノスとともに放浪と冒険をし、北極の何タールもの氷の中でシレノスとともに永遠の眠りについた、巨人の中の巨人。別の説では、ウィレン山脈の万年雪の氷河の何タッドもの白い氷のしたに埋もれて、果てしないさすらいと冒険の旅の後に、シレノスとともに永遠に、腐ることもなく安らかな神人の眠りについている、とも言われる。大地に叩きつけられるごとにさらに力を得て蘇ったという。きたえぬかれた体をもつが、かいがら骨(肩甲骨)が弱点である。
バンダルゴー
 
(伝)夜にまぎれて徘徊するという、死にきれぬ兵士の幽霊。
パンヨーラ
 
(伝)フェラーラの下水に住んでいるどろどろした怪獣。
ハーピイ
 
(伝)鷲に似た翼ととがった爪、赤く光る目とガルムのようにとがった耳をもつ女。男の生き血をすいながら何百年も生きるという。
ハーム
 
(伝)塵にかえったという石づくりの巨人。
百番目の地獄
 
(伝)ここに落ちると、二度と復活がかなわない。
ヒルどもの地獄の穴
 
(伝)落ちると二度と戻れない。
フェイ
 
(伝)詩人オルフェオの気まぐれな空想と想像力が産み出した伝説の幻の王国。オルフェオがふっと目覚め、まどろむのをやめたせつなにまぼろしがくずれ去り、オルフェオの命が刺客の手で断たれたとたんに王国の何十万もの民すべてが霧となって消えていったといわれる。
フェニックス
 
(伝)すべて燃えて灰になり、その中からよみがえる。
フェラーラ
 
(伝)ルブリウスが神の小姓エリウスに大しておかした鶏姦の罪によって大海に飲み込まれた幻の悲劇の都市。
フェラーラ
 
(伝)暗黒の邪宗国で、神々に見捨てられた『不具者の王国』。三重苦皇帝が治める《不具者の都》キャナリスは呪われたフェラーラと呼ばれる。フェラーラの下水にはどろどろした怪獣パンヨーラが住んでいる。意識を失ってただこんこんと眠りつづけ、声にも一切反応しなくなった《フェラーラの眠り姫》がいる。キタイのフェラーラとの関係は不明。
プラウコス
 
(伝)「歴史」「英雄列伝」を著した。
フリアンティア
 
(伝)南方の暗黒大陸に存在する国。古き神々の一人ラン=テゴスを信奉する。
ブルーテ
 
(伝)戦で負傷した友人ダグラスを敵陣近くまで踏み込んで勇敢にも助けた、神話の登場人物。
フレイ
 
(伝)土の巨人。
フレルニル
 
(伝)霧怪。フルゴルなど霧怪の一族の中でもっとも小さい。
ヘカテ
 
(伝)女王。沿海州の英雄王イシュトヴァーンに救われた。
ヘルム
 
(伝)伝説の大帝。戦士として、男としてすぐれていたといわれる。
北東
 
(伝)世界の鬼門の方向であり、世界の謎を集約したノスフェラスがひろがり、すべての謎めいたものごとがやってくる方向であり、カナン帝国が滅びたときに終末の光があらわれたといわれる方角である。<ドールの方位>と呼ばれる。
炎の指
 
(伝)空にメネ・メネ・テケル・ウパルシンの啓示の文字、運命の文字を描き、宿命の神宣、運命を告げ知らせる。
ボーデルンのいんちき魔道師
 
(伝)ドールに魂を売り渡した、危険なはぐれ者の黒魔道師。
まじない小路
 
(伝)まじない小路で石の扉を開けたら、その向こうに何と北の氷山が見えた、とか、酔っ払いがドールを冒涜してからまじない小路に入っていったら、たった百タールのとおりがどれだけ歩いてもはずれに行き着くことが出来ず、ついにそいつは倒れてかけ疲れた馬のように死んでしまった、といわれる。

まじない小路に一歩足を踏み入れたとき、そのまま天に散りしく星々のまっただなかへと墜ちてしまった男がいるという。

通りの入口で魔道師すべてを侮辱してから、入っていったが、永遠に出てくることのなかった男がおり、その男はいまもなお、死んでいるのでも、生きているのでもない状態のまま、とぼとぼとまじない小路の中を歩きつづけ、助けを求めていて、まじない小路へ入って行くものは、そうとは知らず、必ずこの男の背中をみることになるが、そのものが無事に通り抜けていったあとも、同じ所に、男は狂った目で助けを求めながらたたずんでいる、という。

魔道師の数と同じ数だけまじない小路があり、現実のそれはただの入り口にすぎず、その中にいくつものまじない小路がかさなりあっている、という。
「魔法使いの弟子」の寓話
 
(伝)自分を最高の魔法使いであると信じ込んで好き放題をやらかした、魔法使いの弟子の話。
魔法の舌
 
(伝)魔法の舌が、人の舌にふれると、たちまちどんなことばでもわかるようになる。
マリエ
 
(伝)決して戻ってくるはずのない幻の白帆をずっと待ちつづけている伝説の女。
マリウス
 
(伝)伝説の詩人。神話の英雄。イリスに見とれて朝の光で霧になってしまったという。イリスの怒りで、変身させられた、ともいう。かいがら骨(肩甲骨)が弱点。
マリオン
 
(伝)英雄。騎士。伝説の剣士。絶世の美青年で、美しい妹マリオニアがいる。猟人で、十一匹の猟犬を飼っていた。竜の歯を肩越しに投げて幻の軍勢を生じさせた。森の中のカンディスの泉のほとりにあらわれた女神イラナにみとれ、入浴をぬすみ見て鹿(一説には石)にかえられた。一説には、マリオンに恋をして嫉妬に狂ったイラナに呪いをかけられて鹿(一説には石)に変えられたのだ、ともいわれる。イラナに一生を捧げて仕えたともいう。イラナとの出会いはオルフェオの詩篇にうたわれている。かいがら骨(肩甲骨)が弱点。パロ、カレニアに<マリオンの滝>と呼ばれる巨大な滝がある。
マリオン
 
(伝)十九歳で惨殺された反逆王子。
マリオン
 
(伝)名工の手によって生命をふきこまれて動きだした美しい人形。
マリーナ
 
(伝)聖女王。マリニアの花の名のもととなったが、アムネリアの方が好きで、婚礼の衣装にはアムネリアを飾り、婚礼の道にマリニアを敷き詰めて踏み付けていったという。
マンドラゴラ
 
(伝)人の顔と声を持つ草。スィークの遺跡都市にもかつてカナンの都市スィークの人々の怨念の変化であるというそれが、ウミユリのような姿で群れており、泣き叫んでいたという。
ミハイロス
 
(伝)詩人。傑作『夕べに君はしゃれこうべを洗う』を書いた。
ミラニア
 
(伝)水の女王。嫉妬深く、水の城を訪れた英雄ランディーンをだました。
メシューゼラ
 
(伝)五千年を生きる老人。
森の人
 
(伝)トーラス以南の森林に伝えられる、人でもあり、人でなくもあるような存在。その正体は幻の巨人ラゴンであるとも、猩々、巨大な類人猿であるともいわれる。
モルディウス
 
(伝)笛の音に死者たちの列を従わせて導く。
山人
 
(伝)山に住むといわれる巨人。その正体は幻の巨人ラゴンである、ともいわれる。
ユーレリアの花
 
(伝)ドールの愛でた花。花芯には青ざめた女の顔をもち、夜になると世にも悲しい声で泣き叫んでひとの寿命を告げるという半人半妖の妖花。
ヨウィスの民
 
(伝)山から山、高原をわたりあるき、めったに人里へ姿をあらわさない謎の民族。姿を現すときは、祭りの日や商売で、広場に馬車ごとやってきて舞台をしつらえ、独特の歌とおどり、曲芸をみせ、うらないやまじないをして金をとる。南方の古代民族の生き残りであるといわれ、風俗もことばも独特で、中原の言葉を話さないものも多い。ふつうの人交わりをせず、いつも仲間とともに行動する。ヨウィスの民の男女は、クムの最高級の娼婦なみに性技に優れているといわれる。ヨウィスの子どもたちは十二歳になると独り立ちし、歌や踊りでかせぎはじめるという。
ランダーギア
 
(伝)南方の暗黒大陸に存在する国。炭のように黒い人々が住んでいる。古き神々の一人ラン=テゴスを信奉する。地下帝国があるという。
ランディーン
 
(伝)水の城に出かけた英雄。水の女王ミラニアにだまされ、水の城から戻ってみると、外の世界でははてしない年月が過ぎ去っており、かつて海辺であった彼の国はすべて青々とした大海原にすぎなくなって、国一番の高山であった山のいただきだけが小島として残っていた。
ラー
 
(伝)人頭獣身の怪物。
リラリウム
 
(伝)中原にあって、長年鎖国を続け世界情勢に背をむけている謎めいた小さな森林国家。
リリス
 
(伝)コケティッシュなしぐさで道に迷って行きくれた旅人を誘惑する。
ルカヌス
 
(伝)孤独な冒険者。
ルシウス
 
(伝)死の世界へ入ってゆくときにギブに呼びとめられたといわれる。
ルブリウス
 
(伝)神の小姓エリウスに対して鶏姦の罪を犯し、それによって幻の悲劇の都市フェラーラが大海に飲み込まれた。
ルルーの神託 (伝)
 
羊飼いがいんいんと森や山にこだまする神の声をきいたという。
ルーカス
 
(伝)白髪のルーカスが短い時間のもてなしを受けている間に、外の、現実の世界では数千年がたっていた。
ルーナ
 
(伝)ドライドンに身をささげて津波から国を救った美女。
羚羊
 
(伝)サルデスでは、羚羊は高い山にすみ、もともとは人間だったはずの魂だとされ、神聖なものと扱われていた。
レオン
 
(伝)ルアーに愛された美少年。
レピ
 
(伝)頭に髪の毛のかわりに千の蛇をはやしているという女怪。
六角のサイ
 
(伝)ヤヌスとドールが世界をかけて遊んだといわれる。
ロック島
 
(伝)難攻不落の監獄島。そこから身一つで抜け出した女がいるという。
ワープギルの宴
 
(伝)とつぜん地上に現れ出た、不思議な百魔の宴。夜通し行われる恍惚とした宴。




【北方、タルーアンの伝説】
ヴァンハイム
 
(伝)幻の王国。氷雪の神々につかえる、神々の王国。古来稀なる武勇と剣技の持ち主で、勇者である王英雄バルドルに治められている。
ヴァルハラ
 
(伝)幻の王国。神々に近き地。ミズガルドとともに、ドールの領土への門をもつといわれる。
ヴァルハラの村
 
(伝)女だけの村。その一族には、イミールの娘フリッグの呪いがかかっている。彼女らの遠い先祖にソルミュルという、まるで太陽のように美しい娘がいた。男という男すべてに求婚されたが、その中の一人シグルドと結婚した。ところがシグルドは氷神イミールの十三人の娘の一番上のフリッグの想われ人で、恋人を人間の女にとられたフリッグは怒り、以後ソルミュルの血統からは女しか生まれてこぬように、そして彼女たちのめとる男すべては不慮の事故で若死したり、遠くへ逃げてしまったりして、決して男が居つかぬように、と呪いをかけてしまった。そのため、ソルミュルの一族は女だけの一族となり、ヴァルキューリ(戦場乙女)とよばれるようになった。そして、この呪いが知れ渡ったので、彼女たちははなつかしい生まれ故郷、神々に近き地ヴァルハラをすててさびしい岬のヴァルハラの村にすみつかねばならなくなった。
黄金の国
 
(伝)北極の北、南極の南にあって、そこでは時も流れず、生も死もともに存在しない。
キーム族
 
(伝)はるか北のさいはてにほそぼそと生きのこる超古代の生きのこり。
クインズランド
 
(伝)氷の中で永遠に生きているという、《氷の女王》《氷雪の女王》タヴィアに治められる北方の王国。クラーケンを、人間を作った造物主、神としてあがめ、年に一度の氷雪の祭りでは、何十人もの処女と、女を知らぬ若者がクラーケンに捧げられるという。
クラーケン
 
(伝)北のノルンの海に住むという、巨大な蛸にも似た伝説の怪物。海の主。巨大な黒い丸い頭、悪意と知性とを湛えた赤く光る二つの目、巨大なくちばし、下側に吸盤か白い糸のようなものがびっしりとついたぬめぬめとした触手を持ち、夜の海を二つにわけてあらわれる。おそろしく長い年月を生き、人間が北方に住みつくより古くからノルンの海に住んでいたという。一匹だけではなく、クラーケン族というものがあった、ともいわれる。目をみつめることによって人間を金縛りにし、死者をあやつっておもったとおりに動かすことができる。生きた人間を消すようにして食べる。クインズランドでは、人間を作った造物主、神としてあがめられ、年に一度の氷雪の祭りでは、何十人もの処女と、女を知らぬ若者がクラーケンに捧げられるという。タルーアンの祖先は、クラーケンとの戦いに破れかけたとき、偉大な王であり、魔法使いであったブラギの力により、クラーケンたちを滅ぼす聖なる神の火を得、それによってクラーケンたちを氷雪の彼方に封じ込め、そこから出てこられぬように呪文をほどこして結界をつくった、という。太古に星々の海をわたってくだってきたといわれる。目が唯一の急所であり、そこに聖なる神の火で浄められた銛を打ち込まれると死ぬ。
黒小人の槌
 
(伝)あとからあとから宝物が出てくるという。
グンデル
 
(伝)ミズガルドの巨人。ある日ヨツンヘイムの財宝をとりにきて、クロウラーに殺された。イミールはこの巨人の首をとり、グンデル岩として、ヨツンヘイムへの入り口に宝を取りに来るものへの警告としてすえられた。
スナフキン
 
(伝)かじやスナフキン。北方のさいはて、氷雪の国ヨツンヘイムにのみ住むといわれる小人族で、不思議な三角帽子をかぶり、神々の槌、グングニールの槍やミョルニルの槌、そしてトールがスキルニルにやった剣を鍛えた。《小さな人》《知恵ある人》《先に住んでいた人》と住民に呼ばれ、ミルクや酒をふるまわれる。彼らに月夜の晩に行きあうと、何でも知りたいことを教えてくれるという。神々と人々とがまだよく会ったり、互いに結婚していたりしたほどの遠い昔に、北のそのむこうからやってきた『純金の髪の人たち』から世界一の紅玉「フレイヤの血」などの宝をあずかったともいう。その一族は長耳で、何里も向こうの雪うさぎのはねる音さえ聞こえる。ワナハイムの黒小人モルフキン一族が仇。
スナフキンの剣
 
(伝)黒小人のかじやスナフキンがきたえ、この世のものでない物質でつくりあげ、おのれのいのちの一部をぬりこめた、なみの剣では切れないものを切り、なみの剣では受けられぬものを受ける命ある剣。この世にないはがねで作られているために、この世の物質を切るにはむかず、この世の物質を切ってしまうと、ほかのものが切れなくなってしまう。
スレイプニル(スレイプニール)
 
(伝)伝説の速い天馬。風の白馬。見たものを遠い、二度と帰らぬところへ連れていくという。
ノルム
 
(伝)国境もさだかでない暗黒の王国。
ノルン
 
(伝)世界の北端。地底には闇が広がっている、といわれる。
ノーマンズランド
 
(伝)ノルン山脈の北方。すべての北の国々から見離されている辺境で、ヨツンヘイムの入り口ではあるが、地上の時も、神の手もとどく場所であるという。一年のほぼ半分を夜の薄暮に包まれており、残り半分は夜になっても日の沈まない白夜である。
ビョルンニルダル
 
(伝)氷の下で眠っている北方の巨人。
ファーフニルの黄金
 
(伝)ヨツンヘイムの財宝。
ブラギ
 
(伝)タルーアンの太古の偉大な王にして魔法使い。その力により、クラーケンたちをほろぼす聖なる神の火を得た。
ブルグダルの引き綱
 
(伝)美しい黄金をめっきした引き綱で、これをつけると、雪豹でも伝説の天馬スレイプニルでさえ思うままにあやつれる。
フルゴル
 
(伝)霧怪。生命ある霧。ふつうの霧よりも濃密で、妙にひとかたまりとなっており、明らかなひとまとまりの意志の存在を感じさせて動く。火を嫌う。この霧にとりかこまれると、息ができなくなり、肉がとけて、骨だけになる。ヨツンヘイムの入り口に位置する『死のかげの谷』に住む。
ミズガルド
 
(伝)ノルンの先、北方ではなくほんとの極北、何一つ知られてない地の果てにあるといわれる。世界の財宝すべてのみなもとで、ミズガルドの白い大蛇に守られて、氷の炎のようなダイヤモンド、ルビー、血の色の紅玉、緑玉、碧玉、火石、タンパク石にサンゴ、真珠、海の涙、鳩の血、黄金の玉、銀の玉、めのうなど、よこしまな手によってあつめられた、しかしすばらしい宝が隠されているといわれる。光がそのまま宝石となってどんどんふえるという伝説がある。宝のうち、《かくれみの》、黄金のひきづなやりんごは黒小人にぬすまれた。ヴァルハラとともにドールの領土への門をもつといわれる。
ミズガルンの大蛇
 
(伝)舌が長い。
ヨツンヘイム
 
(伝)地下の王国。世に名高い、神々の手によってあつめられた《ファーフニルの黄金》がある。あるものを封じ込めるため、その上に置かれている。それは「全世界を破滅させる力」をもち、それがときはなたれたとき、この世に終わりが来るといわれる、真に重大な創世の秘密のひとつで、それらのうちのひとつは北に、ひとつは西に、ひとつは海に、そしてさいごのものは地の底にある、と伝説は伝える。『時に忘れられた国』であり、地上よりもはるかにゆっくりと時間が流れ、人々はおどろくほど長命である。
ワナハイムの黒小人
 
(伝)スナフキン一族の仇。巨人ローキの切り落とした髪から生まれてきたといわれ、心の中までその生み主と同様真黒である。すべてをぬすむといわれ、ミズガルドから《かくれみの》、黄金のひきづなやりんごを盗みだした。長耳の術を使う。




【キタイの伝説】
生ける壁
 
(伝)妖怪。壁のように大きく、動く。
イザイ
 
(伝)そのむかしホータンの王がいたく心服していた《神手》と呼ばれた男。偉大な工芸家にして建築家。神の血をひいており、彼のきざんだ像にはことごとく魂があたえられ、物神となったという。ホータンの四面神将像などを作った。
「牛女房」
 
(伝)キタイの民話。醜いが、こまやかで女らしい心づかいを見せて、世話をやきどおしにやいていたという。
オーロール
 
(伝)キタイの化け物。
《顔なし女》
 
(伝)赤ん坊をかかえている。
革命
 
(伝)占いにおいて、ひとつの星が二つのまったく異なる意味をはらむのをもってキタイでは革命と呼ぶ。
キタイの王
 
(伝)キタイの王は金の作りヅメをとりつけ、竜のぬいとりのある大礼服をつけ、代々両足を切り落として自由に歩けないようにされた上で輿にのせられて国をおさめている、という。
球形ピラニア
 
(伝)全長がグインのたなごころほどの大きさのとげだらけの球形の魚。いかにも獰猛そうな大きな口と長いくわっと開いた歯を持ち、すさまじい食欲を持っている。フェラーラのアーナーダの洞窟にある、地底湖に棲息。
魚怪
 
(伝)白っぽく透明な巨大な魚怪。ホ−タンの西渓湖に住む。
魚竜
 
(伝)黒くおそろしく巨大で、奇妙なひれをもち、ゆったりと泳ぐ。ホ−タンの西渓湖に住む。
《首のない兵士》
 
(伝)行進する。
さかさまの塔
 
(伝)暴君ソン・ドン・イーに殺された、塔の施主の大富豪トム・リン・リンと、塔の設計者ディードロスの亡霊が出るという。トム・リン・リンの亡霊はディードロスに恨み言をいいに現れるため、ディードロスの亡霊は必ずトム・リン・リンの亡霊とは違うところにでる。トム・リン・リンの幽霊は、何百年ものあいだ、毎晩毎晩くりかえし、落ちてくる天井に押し潰されているという。
殉死
 
(伝)夫が死ぬとそれに殉ずるのが妻のつとめとされる。
新年
 
(伝)キタイでは不思議な神を信仰しており、新年になるとみんな逆立ちで歩くという。
豹人
 
(伝)フェラーラで予言されていた。
塔の主
 
(伝)ホータンでは、塔のてっぺんには塔の主と呼ばれる妖怪か幽霊が必ず一人はすんでいると言い伝えられている。塔を建て直すときには必ず、塔の主の入る部屋を用意しないと、主のたたりでその塔は人が落ちたり崩れ落ちたり、ろくなことがなくなるという。
白骨の森
 
(伝)ホータンにある、何回植えなおしても木が枯れてしまう森。木が育たないのは、土地がやせてるからではなく、昔の王や、ごろつきどもが殺したやつの死骸を埋めていたために、逆にあんまり肥やしがありすぎるからだという。その埋められた死骸が皆、リンをだして、地面が夜中になると青く燃える。
《火の車》
 
(伝)真夜中、誰もいない通りを、向こうから音もなくやってくる、まわりに炎が燃えさかり、まん中に巨大な人の顔がついてる化け物。《火の車》に出くわしたら「火の車、火の車、ここには誰もいないぞ。あっちのとおりへいってくれ」ととなえなくてはならない。それを忘れ、《火の車》に見つかると、どこまでもどこまでもおいかけてきて、夜があけるまでおいかけまわす。一晩中逃げ回って、無事に逃げ延びても、《火の車》を見た人は必ずそれから一年以内に死ぬという。
《ヒルコ》
 
(伝)キタイの化け物。
魔除け
 
(伝)壁に、赤い紙に金の文字でさまざまな呪文を書いた護符を張り、扉の両側に塩を盛り上げた小さな皿をおき、その両側に奇怪な顔のついたまじない人形を置き、香炉に香をくべ、香炉の前に赤いろうそくをたててあかりをともす。
霧怪
 
(伝)ホータンの夜の霧に住むという。夜遅くに歩いていると後ろから、ひたひた、ひたひたと気配があるが、振り向いても何も見えず、ただ霧がでてきたように見える。しかし、気がつくとその霧のなかにすっかりまきこまれてしまい、道がすっかり判らなくなって、朝までずっと迷っていなくてはならず、運が悪ければ運河に落ちて死んでしまう。大昔に死んだ人の霊魂が霧になって、ホータンを歩き回っているのだという。あまり長いこと霧の中にいると、だんだん生気を吸い取られていくという。とてもたちの悪い霧怪にあうと、窒息して死んでしまうこともあるという。それを追い払うには、茶が一番の薬である。
幽霊通り
 
(伝)白骨の森に埋められた人間が化けてでた幽霊が、幽霊通りのまん中に護符を埋めてあるために通りをわたることができず、真夜中になると、ぞろぞろと幽霊通りを入ったり来たりして、うらみつらみをのべあっている。




【カナンにまつわる伝説】
カナン
 
(伝)太陽王ラーによって開かれたといわれる古代帝国。ノスフェラスの東に黒い筋のようにたなびくカナン山脈にあったという。黄金と水晶で出来ていたといわれる。不夜城があったといわれる。中原が毛むくじゃらの蛮人どもの走り回るジャングルに過ぎなかったほど昔から、中原とキタイ全域、ノスフェラスを全てその栄光ある版図とし、砂漠の中心、砂漠と岩々の間に広大な帝都をうちたてていた史上最大、地上最大にして唯一の大帝国、古代王国で、文明の都であり、いまのパロ、ケイロニアさえものの数ではない栄華をきわめた。岩と砂漠という天然の要害にくわえて、砂の上を自在に走る船を持ち、またその大都市にはことごとく水道が整えられて砂漠のただなかにありながら人々は水に困ることさえもなく、その栄華は中原のどの帝国をさえもしのいだのだという。

カナンの時代には魔道が最大の力であり、魔道師が王であり、神々や悪魔が我々といりまじってこの地上に住んでいたといわれる。

何回となく、傭兵によって暗殺された国王や、傭兵から成上がって新しい王朝のもといをきずいた英雄などがあらわれている。

ヤヌス十二神信仰の発祥の地であり、いまなお古代カナン様式にのっとった建物(バルヴィナ市城など)では、一定の間隔をおいて壁龕におさめられた古風な姿をしたヤヌス十二神の像と、一番奥の壁面にかざられたヤヌスの廟をみることができる。

現在のすべての宗教、すべての国家、すべての神話と伝説のなかにはすべからくカナンの神話があり、まことのカナンと、伝説の、さらに太古のカナンとふたつが別にあるのではないかと学者たちが疑うほどにまで、カナンの伝説神話は入り組んでいて、はばひろく、ありとあらゆる諸説を含んでいる。
カナンの廃都
 
(伝)栄華を極めた帝都カナンは砂に埋もれた、すべての住人に見捨てられた廃都となり、さらにカナン山脈の中のどこかにその所在を没し去った、まぼろしの都となった。カナンの滅び去った背徳の都カナリウムには、石と化した堕落した人々の像があるという。石と化した人々は、伝説の魔女キュクロベをかいま見たために、畏怖と驚愕のあまりの巨大さに、その場で生きながら石と化してしまったのだ、といわれる。疫病に襲われた、ともいわれる。あるいは神の怒りのいかづちにあって石と化した、ともいわれる。石と化したのは饗宴のさなかであり、人々は御馳走を口に運ぼうとしたり、踊りの途中のポーズのまま石と化し、皿のうえの料理は手をつけられぬまま冷え、花々は枯れ、封印された永劫の刻をヤーンのみ手が切りひらくのを待つばかりとなった、ともいわれる。帝都カナンには、ゆげのたつ食事の支度までもそのままにして、誰一人いなくなっていた、という伝説もある。ある大都市は海底に没したといわれる。
カナンの滅亡
 
(伝)カナンが栄華と繁栄の頂点をきわめていたある夜、カナンのすべての鐘が突然、誰もついておらぬのに、おしよせてくる何かの超音波にでも反応しているかのように共鳴し、世にも不思議な音でいっせいに鳴り始め(嘆きの鐘のサーガ)、真っ赤に染った空に炎の指が破滅を告げる運命の文字を描いたという。その翌晩、誰もその原因を知らぬ天よりの不慮の災厄(天から劫罰がくだされたのだとアレクサンドロスの史書は伝える)によって滅び(謎の大隕石禍との説あり)、オレンジ色と金色の火の粉に埋め尽くされて、ほとんど一夜にして第三のカナンの都、帝都カナンは地上から消滅し、廃都となり(《カナンの呪い》)、カナン帝国のいまだにそれをしのぐものはあらわれていないといわれるまでに広大な版図すべてがついえ去っていった。キタイ魔道教(暗殺教団、望星教)の言い伝えでは、星からやってきた神々の戦いによって滅んだのだ、と云う。それにより、カナンの版図は無人の砂漠となり、ノスフェラスの、狗頭山以東、以北のほぼ全域が、生きてそれを踏み越えてくるもののない死の土地と化し、今に至るまで、どのような帝国にも属することはなかった。ロカンドラスの推理によれば、想像を絶するほど巨大な、それ自体ひとつの星、小さい星ほどの大きさをもつ<星船>が、カナンの首都の上におちて爆発したのだ、という。それにより栄華をきわめたカナンは一瞬にして地上から消滅し去り、そのあとは何百モータッドにもわたってえぐられた、という。辛うじてその死の円の周囲にのいたもだけが逃げのびたが、かつてカナンであったところの中心に地中ふかくおちた<星船>の残骸は、日夜すさまじい放射能を放ちつづけ、草木をからし、土を汚染し、ついには広大な地域にわたってノスフェラスをいまあるような死の砂漠としてしまった、という。生きのびた人びとも、その放射能の影響をうけてセムやラゴンのような異形と化し、生物すべてもまた他の地とはまったく似もつかぬ怪物となりはてた、という。セム族、ラゴン族がもとは古代帝国カナンの末裔で、かつて砂漠に住むカナン帝国の善良な普通の人間であり、そこから派生したこれほど違う種族であるという言い伝えがある。カナンの古代帝国のおもかげはいまなおパロやゴーラに残っているが、カナン様式をもっともよく今に伝えているものはキタイ帝国だとされる。
カナンの鐘
 
(伝)帝都カナンには《鐘の都》の異名をとるほどに、多くの尖塔や美しい音をきそうたくさんの鐘があったといわれ、鳴らずの鐘と呼ばれている鐘があるとき鳴ったことについてのサーガ、鐘をこっそり鐘楼に忍び込んで鳴らして愛する人に会おうとしたおろかな少年の物語など、鐘にまつわる数多くの伝説がある。
黄金の財宝
 
(伝)カナン山脈のなかには、廃都カナンの黄金の財宝が今なお眠っているといわれる。
カナンの高官
 
(伝)あるカナンの高官は、自分の分身に会って言葉をかわしたために、三日後に高熱を発して死んだという。
こうもり男爵
 
(伝)カナンには有名な《こうもり男爵》がいた。
ダルダロスの目
 
(伝)カナン滅亡の前日、西の空に突然現れたという赤い星。カナンの滅亡を予言したと云われる。
デルリウス
 
(伝)カナンの救国英雄。十年のあいだ、ほらあなに足枷をつけてつながれていたという。
ドールニア
 
(伝)リザルヌスの寵愛した美姫。ドールニアに「都を滅ぼして」とささやき、リザルヌスとカナン第十一王朝を壊滅させた。
ドールの津波
 
(伝)カナンの大地を二つに割いて走った津波。
嘆きの鐘のサーガ
 
(伝)帝都カナンとカナン帝国の広大な、いまだにそれをしのぐものはあらわれてないといわれるまでに広大な版図すべてが一夜にしてついえ去っていったあの運命の日の前夜、カナンのすべての鐘が突然、誰もついておらぬのにいっせいに鳴り始めた、という。それは通常の鐘の音ではなく、誰かがつくものの音ではありえず、あやしくも、何か目にみえぬ手が鐘をついてたてる音でさえなく、ただ、あたかも鐘そのものが、おしよせてくる何かの超音波にでも反応して叫んでいる、とでもいうかのように、鐘自体が共鳴し、そして世にもふしぎな音をたてていたのだ、という。一晩じゅう、しかもしだいに巨大になってくるその音におびえて犬や猫たちは叫びつづけ、子供たちはおびえ、そして司政者たちも狼狽してこの怪異現象のゆえんを調べようとしたがはたさず、鐘のふしぎな叫びとすすり泣きをとめることもできぬままに運命の朝が訪れ、そして、その夜までに、いずこからともなく、天上からふりそそいできた巨大な破滅によって、カナン全土は廃墟と化し、ノスフェラスの廃墟と化したのだ、という。あの鐘の夜どおしの嘆きこそは、カナンの滅亡を告げる神のしらせであったのだ、と伝えられている。
美女の処刑
 
(伝)カナンの頽廃帝国では美女の罪人を処刑する際に、馥郁というにはあまりにも胸苦しくなるほどに甘く強烈な香りをもつアムネリアの大量の花びらを集め、小部屋にとじこめた罪人のうえから無数のアムネリアを注ぎ掛けて、そのあまりの芳香に窒息死させ優雅にも残酷な処刑方法としたと云われる。
《人狩り》
 
(伝)カナンの昔の暴君が、野蛮な残虐な人狩りを行ったという。
リザルヌス
 
(伝)カナン第十一王朝の英雄王。美姫ドールニアを寵愛し、その求めに応じてカナンの都に火をかけてカナン第十一王朝もろとも滅ぼした。
リザーリヌス
 
(伝)《石窟の皇帝》。三十年の長きを石窟の一番底の地下牢で過ごしたが、希望を失うことなく、最後にはカナンの玉座を取り戻した。
暗黒大陸カナン
 
(伝)古き神々のしろしめす所であり、暗黒の神々の争闘のうちに海中に没し、ほろび去った超古代大陸。




【ノスフェラスにまつわる伝説】
ノスフェラスの誕生
 
(伝)ノスフェラスはかつて中原、草原と同じ、緑の沃野、森林と山々、湖沼と草原の入りまじるごくふつうの土地であり、帝都カナンの領土であった。ある晩、にわかに天の一画が裂けて、死が地に満ちた。その前後、オオカミをはじめとするノスフェラスの生物たちは、その故郷をすてて西へ西へと移動を開始し、ゆえに砂漠は、狂ったように走り続ける獣たちに埋まった。けものたちは、日頃追うものも、追われるものも、全く互いに注意を向けることなくひた走った。カナン帝国を滅ぼした災厄により、無人、無住となったノスフェラスに、見るもおぞましいイドや砂虫のような新しい奇怪な生命たちがどこからかわが物顔に現れ、普通の動物たちの姿は見られなくなった。ロカンドラスの推理によれば、想像を絶するほど巨大な、それ自体ひとつの星、小さい星ほどの大きさをもつ<星船>が、カナンの首都の上におちて爆発したのだ、という。それにより栄華をきわめたカナンは一瞬にして地上から消滅し去り、そのあとは何百モータッドにもわたってえぐられた、という。辛うじてその死の円の周囲にのいたもだけが逃げのびたが、かつてカナンであったところの中心に地中ふかくおちた<星船>の残骸は、日夜すさまじい放射能を放ちつづけ、草木をからし、土を汚染し、ついには広大な地域にわたってノスフェラスをいまあるような死の砂漠としてしまった、という。生きのびた人びとも、その放射能の影響をうけてセムやラゴンのような異形と化し、生物すべてもまた他の地とはまったく似もつかぬ怪物となりはてた、という。
大空白
 
(伝)カナン山脈をこえてから、キタイの国境にいたるあいだを、俗に『大空白』と呼びならわし、その間が何百万モータッドあるものか、はたしてどんな謎がかくれているか、だれも知らない。
放射能汚染
 
(伝)ノスフェラスの放射能汚染は三千年の長きにわたり、ノスフェラスの限られた部分、狗頭山とカナン山脈の北、そして<北砂漠>の南、さしわたし十モータッドほどの部分に限られている。
セムとラゴン
 
(伝)ノスフェラスは人の住むのをさまたげるような毒、瘴気をかくしているといわれ、昔はまさしく砂漠に住んでカナン帝国の善良な住民にほかならなかったという、砂の民たちを、ノーマンズランドに住むうちにいまのような、毛深く矮躯の前人類セムや、巨大な謎の蛮族ラゴンに変容してしまった、といわれる。ラゴンは定住の地をもたぬさすらいの民族であり、カナン山脈中にあって、はるかな超古代に滅び去ったカナンの遺跡を、未来永劫墓盗人が手を触れぬよう守る役割を担っているといわれる。ラゴンは一日に百モータッド走るという。
セム族に伝わる伝説
 
(伝)十日風(ウルディーン)の吹くときは、北東の方へは行ってはならない。あまりひどい風が吹くと、グル=ヌーから死の風が吹いてくる。その風をあびるとセムは死んだり、病気になったり、生まれてくる子どもが、病気で生まれることになる。またグル=ヌーからの風が吹きこんだ水をのむと、血を吐いて死ぬ。いつもは、風は、北東へ向かって吹くため、グル=ヌーの風はこっちに来ないが、ニガヨモギが二度めに枯れるころの大風だけは、グル=ヌーから吹く。しかし、狗頭山のこちらにいれば、山々が、死の風をさえぎってくれるので、そのころには、狗頭山をこえてはいけない。かつて黒い風が生命ある風となってセムの村を全滅させたことがあり、それ以来セムは狗頭山より奥に行かなくなった。グル=ヌーはノスフェラスをつくった。したがって、ノスフェラスはいつかグル=ヌーへかえる。そのとき、ノスフェラスに住むものは、みな死んでしまうが、そのときは、世界中がノスフェラスになっている。グル=ヌーは恐ろしいところで、その三モータッド以内に近づいたものは死ぬ、そのうえを飛ぶ鳥も死ぬ。セムたちは、かつてはイド、砂虫、オオアリジゴクまで、飼い慣らし、言うことを聞かせていたという。人の息は、夜明けと一緒に引き取るという。
ラゴン族に伝わる伝説
 
(伝)狗頭山を越えた砂漠は死者の国であり、セムやイドやヒルどもなどたちの満ちている国でうごめく悪霊である。そうした不浄のものがそこに住んでいることこそ、そこが死者の国にほかならぬあかしである。グル=ヌーは大きなアリ地獄で、少しずつまわりの砂をのみこんでおり、徐々にグル=ヌーは世界を全て飲み込んでしまう。しかし、アクラの使者があらわれてラゴンを約束の地にみちびくとき、グル=ヌーの悪はおわり、それは善、ラゴンの守り神となる。
エンゼル・ヘアー
 
(伝)死んだ人間の口からとびだしたやすらわぬ魂である、といわれる。
グル=ヌー
 
(伝)ロカンドラスやアグリッパの寿命さえこえた大昔から存在した。グル=ヌーはカナンに破滅をもたらした爆心にあたり、そこを中心に十モータッドの円周内にあったものはきれいさっぱり消滅した。その外にあった、建物や木々はすべて歳月の波の内に砕け散って失われ、白骨のみがのこった。この白骨は長いあいだに、またふしぎな目にみえぬ磁力でも働いているかのように、少しずつ移動してゆき、いま、白骨が原は巨大な同心円となって、グル=ヌーを囲んでいる。
ノスフェラスの魔物
 
(伝)切れば切るほど数が増えてゆくと言われる。
狗頭山の狼王
 
(伝)狗頭山の狼王ロボは、狗頭山を守っている守り神であるといわれ、とても長いこと、村のセム全部の手足の指でも数えきれないほど月の満ち欠けを繰り返した昔から生きていたというものもいる。
殺生石
 
(伝)すべてのものを殺してしまう石。
ノスフェラスにまつわるその他の伝説
 
(伝)悪魔の土地であり、神に忘れられて、そこではあらゆる恩寵の機会が失われている、といわれる。ヤヌスとドールが世界をかけて博奕をし、ヤヌスが勝ったにもかかわらず賭けた土地の中にノスフェラスの名を入れておくのを忘れたのでここだけが地上にいまだ残るドールの唯一の版図となってしまった、との伝説がある。カナン帝国の首都がかつてそこにあり、何とも知れぬ神の怒りにふれたために人間の誰も住むことの許されぬ禁域と化したといわれる。この世の秘密がその地下に隠されているといわれる。




【パロにまつわる伝説】
古代機械
 
(伝)アレクサンドロスが星から授かったとか、もっと昔からあったとかいわれれ、少なくとも三千年の昔からクリスタルに存在する古代機械によってパロ王家のいしずえが開かれた。ヤヌスの塔にある、パロの偉大な魔道師たちがつくった結界によって守られた部屋に、古代機械が置かれている。何人かの偉大な魔道師がこれを使ってパロを滅亡の危機から救い出したが、いまだにこれを完璧につかいこなしたものはいない。開国の王アルカンドロス大王がこの古代機械にまつわる神託を得たとき、王はこの機械によって窮地を脱し、その神託が真実であったことを知った。かくて、この地は聖なるパロ王国のいしずえとなり、この機械こそがヤヌスの給うた最大の謎にしてパロ聖王家を守る秘密として聖王家に残された。聖王家の王子、王位継承権者と生まれたものは、しきたりにより聖王家につたわるすべての秘儀、秘密に関する手ほどき、特別教育を十二歳の誕生日からうける。十六歳をすぎると、聖王家の家法により、ジェニュア大司教をはじめとするきわめて多くの人々の資格審査を受け、さまざまな検査を科されてそれに合格したものには、古代機械の秘密の伝授の秘儀がはじめられる。ほんのちょっとでも他国との内通の疑いをうけたら、その資格は失われ、すでに伝授をうけている王子ないし王の場合は、ただちに幽閉されることになる。また、臣下にさがったものや、母方にヨウィスの民の血が入っているなど血統的に純血にかけるものもまた資格を失う。この秘密は決してあかしてはならないが、宰相のみには国王があるていどそれについて話をする。聖王家の家訓によって、古代機械操作の秘密を伝授された王子は、それを次の代の王子に伝えてゆく義務があると同時に、秘密を他国にもらさぬため、パロが滅亡するとき、その王子もともに滅びなくてはならない。ながらく、聖王家の血筋につながるものにとっての最も神聖にして重大な任務とは、この古代機械を守り、その操作を覚え、それを朝夕に礼拝することとなった。
青い血
 
(伝)三千年にわたって続く、聖なる一族はヤヌスの末裔であるといわれ、大災厄時代ののちにヤヌスによって地上に最初に生み出されたのは パロ聖王家であり、パロ聖王家はヤヌスの子孫として地上を治める統治権をたまわったとされている。その青い血はあまりまぜあわせてはならぬ、まぜあわせると一族につたわる霊能力がよわめられてしまうというパロ王家の家訓がある。したがって、聖なるおきてにより、パロの国王たるものは、その王妃として、必ず血縁の姫を迎えなくてはならないが、血縁たるアルゴス王家や沿海州の国々、ケイロニア皇帝家から姫をめとる場合には、おきてにはふれない。《純血》の青はパロ聖王家のシンボルとなっている。青い血を濃く伝える聖王家のものは、種族の遺伝記憶を持っているという。
処女姫リンダ
 
(伝)開国王アルカンドロス大帝の処女姫リンダは、アルカンドロス大王の改革を支えたパロ史上最大の予言者であった。生まれながらの雪のような銀髪をしており、すぐれた霊能者であり、予言者であり、占い師であり、ヤヌスの巫女として神殿に閉じこもり髪を切った。
聖王の戴冠式の3つの試練
 
(伝)1、ヤヌスの塔の試練
聖王となるべきものは、戴冠式の朝、三度目の沐浴をおこない、クリスタル・パレス内のヤヌスの塔に入っていったん俗世とすべての縁を切ったのち、ヤヌスの祭司によって、あらためて王としての生命を与えられる。正しい聖王家の血をうけておらぬ人間が、王座にのぼろうとするとき、あるいは王家の由緒正しい世継ぎであってもそのものが王たるの器と運命を負っていないときには、ヤヌスはその愛するパロの国が、相応しからぬ王によって損なわれることをおそれ、このヤヌスの塔の、聖王の玉座にそのものが王たるべき人間として座った途端に裁きを下し、唯一絶対なる聖王冠がその頭にのせられる前に、傷一つないまま、そのものを葬り去ってしまうのだ、という。これまでにも特に病や傷を負っていないにも関わらず、ジェニュア神殿へ冠をうけるためにおもむく直前、このヤヌスの塔の試練の折りに、命をおとした王子が何人かパロの国史の中に記されている。


2、十二の誓約の試練
ヤヌスの塔の試練を終えた王位継承者は、ジェニュア大神殿において、神々の前にすすみ、ヤヌス十二神に十二の誓約を行う。誓約のあと、神託によって一神でも新王を認めないものがあれば、ヤヌス十二神の総意にかなわぬとして、再び全ての問答をやり直さねばならない。どうしても許しが出ないときには即位式はとりやめられることになる。この試練が終わると、聖王のマント、王錫、パロの太陽王冠などが許され、新しい王が誕生する。


3、アルカンドロス大王の試練
戴冠式の宴の最中、深夜二ザン前のヤヌスの鐘がなると、王は再びヤヌスの塔へおもむき、二人のヤヌスの僧にヤヌスの塔の地下へ導かれる。そして、新王は手燭を手にして、古代機会の置かれた階、代々のパロ王たちの眼球と心臓のおさめられた彫像のおかれた階をも通り過ぎ、謎につつまれた地下へと、どこまでもおりてゆく。すべての塔につながっているとも、代々の王家の死者をまつる葬祭神殿の地下へつながっているともいわれる、この地底の封宮のどこかにパロ聖王国の礎を築いた建国王アルカンドロス大王のなきがらが目をとざすことなく横たわり、パロを見守っているという。アルカンドロス大王は代々の全ての王と対面し、その治世への予言と助言を与えるのだと言われ、新王は、その大王の遺骸と対面しなくてはならない。もし、アルカンドロス大王が、国をあずけるに足らぬ器である、と見做したときには、大王は新王の前に姿を現さない。新王は、大王によって初めて地下の迷宮の正しい帰路をさししめされるため、大王に出会うことの出来なかった新王は永久に暗黒の迷路をさまよい、幽鬼と化すか、狂死して屍をさらすしかない。

ヤヌス、ヤヌス十二神、アルカンドロス大王の三者によって、正当なる王であると承認されて初めて新王は、パロに君臨する資格を得ることになる。
パロの民
 
(伝)パロの民は、ヤヌスをまつり、あがめるためにこそ選ばれたヤヌスの民なのだという。パロの民の第一の神はヤヌス、第二の神はサリア。
ヤヌスの塔
 
(伝)ヤヌスの塔の上層はパロ聖王家歴代の王の遺骸が安置され、下層にゆくに従って、パロの根源的ないくつもの秘密をかくしている。ヤヌスの最高祭司なるパロ王家が主神ヤヌスをまつり、その頂きにはヤヌスその人すら降臨する、とささやかれる神秘の塔である。ヤヌス自らが地を選び、パロ王朝の基をきずかせた場所でもある。王や祭司たちが、ヤヌスの神と悠久の対話を交わすために作られた神おろしの塔。
ルアーの塔
 
(伝)パロの若い王子アリオンが、宝を求めてヨツンヘイムへ行き、ヨツンヘイムの女王クリームヒルドからルアーの目と呼ばれる至宝など、いくつかの宝を北から持ち帰り、失われかけていた古いパロス王国を建て直し、後世にまでその名をたたえられることとなった。それはいまでも、ルアーの塔におさまってパロを守っている。
ランズベール塔
 
(伝)ヤヌスの帝都たるクリスタルの中でたった一箇所、ドールの神像が奉られているところだとも、またその地下ふかく、罪人たちの呻吟するもっとも下の階の地下牢よりさらにふかくには、ダネインの毒蛇、ノスフェラスのイド、そしてランダーギアの大毒蜘蛛がうじゃうじゃと飼われているともいわれる。そのさらに奥深くはドールの王国へ通じており、その入り口ではガルムの犬が番をしているともいわれる。ランズベール塔をたてたのはアルカンドロス大王の名をうけた時の大魔道師ランズベールとアレクサンドロスであったという。この巨大な塔が地下何層であるかはアレクサンドロスだけが知っているといわれ、最地下層アレクサンドロスの逆鱗にふれてとじこめられたまま白骨となった、時に忘れられたうらみをのんだ死体が山のように積み重なっているとささやかれる。

この塔の出来上がった年に、パロには珍しい大雨があり、この塔の周辺全部の家々と、人とを飲み込んだが、この塔だけは何の被害も受けなかった。それにより、それまでラナ川とよばれていた川はそれ以来ランズベール川と呼ばれるようになった。その流れの一部は、ランズベール塔の下を通っているのだといわれる。この塔には、設計者自身にすら知られぬ迷路や陥穽や抜け道があり、ランズベール魔道師の案内がなくては到底無事にぬけ出すことは出来ないといわれる。アルカンドロス大王の晩年、アレクサンドロスとランズベールは不仲になっていたため、この塔を設計した、かの神秘の大臣アレクサンドロスは決してこの塔のなかに入ろうとしなかった。何千年の間に、数知れぬ高層、異端者、暗殺者、地位を追われた貴族、失寵した美妃、反乱を企む王族がこの塔へ幽閉され、拷問され、抹殺された。中には、地下牢の壁を石で塗込められ、食事だけを外から差し入れられて、そのまま忘れ去られてしまったものも多い。その中のあるものは、まだそうして時の流れと切り離されたまま、塔の奥深くで生きているのだとさえいわれる。自らの弟を熱愛し、夫がありながら弟の子供を身篭もったルカヌス王の王妃ルディアはランズベール塔の一室に塗込められ、そこで弟との子供を産み落した。しかし、その赤子を一目見た王妃はそのまま発狂して悶え死んだ、という。その赤子は、目も鼻も口も、手足さえもない芋虫のような怪物だった。その赤子がまだ塔の中に生きていて、うろつき回っている、というものもある。王の寵愛を受けながら反乱軍の首魁となった美男公バローは、捕えられ、ランズベール塔の地下で四肢を切り落とされて死なぬよう手当てをされたうえで飼っておかれた。残虐王の名を取ったブルカスは、そのバロー公のもとを訪れ、その苦悶の様子を見物しながら酒宴を開いた。はるかなキタイからパロへやってきた、寵妃ロー・ランは、王の暗殺を企んだかどで、いきながら壁に焼き付けられた。赤子を抱きしめた女の黒い姿が、いまでもランズベール塔の壁にくっきりと刻印されている。反逆王子アル・サン、大貴族ゴルド公爵、ドールと通じたヤヌスの祭祀長ゼルス−−ランズベール塔の壁は、それらすべての血を吸い、断末魔の、苦悶のうめきを聞いたのだ、という。

夜中にすすり泣きながら愛人の生首をかかげて歩き回る、発狂して死んだ王妃の亡霊、明け方のちょうどいま時分になると城壁の上にあらわれて不吉な予言をして去ると云う、ぶきみな「塔の主」だとされる巨大な蛇、またぞっとするような音をたててよろいをひきずりながら歩き回る、拷問で責め殺された、国王の暗殺者の若い騎士の亡霊が現れる、という。

一千年以上にもわたってランズベール侯がランズベール塔を管理している。
クリスタルパレス
 
(伝)クリスタルパレスの地下にはもうひとつの封宮があり、その中でははるかな昔に時の流れからひろいあげて封じ込められた魔道師や女どもが、パロのアルカンドロス大王の聖なる遺骸をまもっていまなお生きている。パロの玉座につくものは必ず、一度は地底の封宮におりてそのアルカンドロス大王のミイラと対話する試練を経なければならない。

水晶宮から聖王宮にいたるあいだの広いギャラリーには両側に歴代の聖王家の大王の肖像画と彫像が飾られており、真夜中にここにいるべきでない身分の者がさまよいこむと、歴代の王たちが現れておごそかに叱責し、どこまでも追回して死より恐しい恐怖の体験をさせる、といわれる。
その他
 
(伝)パロの王族の死体はふつう七十五日間かけて処置を施し、死の都ゾルーディアでミイラとしてのしあげをおこない。そののちに死の大祭をおこなう。パロの父はヤーン、母はサリアである。パロの聖王家では、ふつう巫女となる女性はプラチナ・ブロンドの髪をし、男たちは私のように夜の色の髪をしている。




【暦にまつわる伝説】
月の十八年
 
(伝)三十六年周期の後半は「月の十八年」とされ、全体として凶であり、いいことよりも悪いことが多く起こりがちであるとされる。これは、太陽のヤヌスから月のヤヌスへとその天空の支配権が移るためであり、その一年一年は、その名を冠せられた動植鉱物の性質を持つといわれる。
蠍の年
 
(伝)三十六年めの「サソリの年」は非常な天変地異、改革、波乱の年であり、サソリの大群が発生し、仲間どうしで殺しあい、その中でサソリの王となったものが試練をへて竜の子となり、竜にかわってゆくといわれる。それによってサソリのわざわいは払われ、太陽のヤヌスの愛児、竜の年が再びはじまり、暦はくりかえすのである。




【ことわざ】
(諺)アムブラの魔道師横町
 
くねくねとまがりくねっていることのたとえ。
(諺)雨が一滴づつあつまって大海となる
 
塵も積もれば山となる(微少なものでも数多く積み重なると高大なものになる)。
(諺)アレクサンドロスの叡知
 
すぐれた叡知。
(諺)アレクサンドロスの機知
 
すぐれた機知。
(諺)アレクサンドロスの頭脳
 
すぐれた頭脳。
(諺)イグレックの汚泥
 
非常に汚らしいこと。
(諺)イグレックの幸運
 
思いもかけぬ幸運。
(諺)イグレックの思案よりもトートの行動
 
案ずるより生むがやすし。
(諺)イグレックの呪い
 
盲目であること。
(諺)イグレックの帽子
 
ちんぷんかんぷん。
(諺)イグレックのように舌が長い
 
嘘つき。
(諺)イグレックのよこしまな恋
 
男の同性愛。
(諺)イグレックの病
 
男色。
(諺)イグレックの罪
 
貪欲。
(諺)イグレックの鼻の幸運
 
思いがけない幸運。
(諺)イグレックよりヤーンが賢い
 
百聞は一見に如かず。
(諺)イラナの気迫
 
非常に気迫があること。
(諺)イラナの純潔
 
きわめて純潔であること。
(諺)イリスの石
 
手に入れられないもの、手に入らなければなおいっそう執着するようなもの。
(諺)イリスの馬車が中空をまわった
 
夜も更けた。
(諺)インキュバスの抱擁
 
呪わしいまでのあやしく甘美な、快楽中枢を直撃し、精を吸いつくすかのような、淫らで邪な、麻薬にも似た異様な快美感。
(諺)海にもぐらないとおたから貝は手に入らない
 
虎穴にいらずんば虎児を得ず。
(諺)ウラニアの女
 
女どうしの恋愛や性愛を好む性癖のこと。
(諺)英雄の弱いかいがら骨は色にある
 
英雄の弱点は女である。
(諺)エリスの三姉妹のように追ってくる
 
どこまでもついてくること。
(諺)エリスの罪
 
疑惑(?)。
(諺)エリスの女神の申し子
 
疑い深いこと。
(諺)陸に上がった魚トト
 
生きがいを奪われること。
(諺)同じ枝から強い女花が咲くと、自然に男花が枯れる
 
女が強い家では男が弱くなる(?)。
(諺)オフィウスの咽喉
 
すばらしい歌声であること。
(諺)オフィウスの弁舌
 
口が達者なこと。
(諺)溺れているものは、どんな木切れでも文句は云わない
 
溺れるものはわらをもつかむ。
(諺)オルフェオの声
 
美声。
(諺)追われるものはおののきやすい、うさぎの魂になる
 
追われているものは臆病になる。
(諺)自分の墓となる糸杉の梢を墓場の風が吹いている
 
いやな予感がすること(?)。
(諺)カナンの石像
 
動かないこと。かたいこと。
(諺)カナンの彫像
 
動かないこと。
(諺)壁にヤーンの耳がある
 
壁に耳あり。
(諺)壁の穴のトルク
 
金勘定ばかりしている人。
(諺)神の孤独
 
誰ひとりとして似た魂を見たことのないものの孤独。誰ひとりとして同じことばを語らないと知るものの絶対的な孤独。
(諺)神は奪いたまい、与え給う。聖なるかな。
 
人間万事塞翁が馬(?)。
(諺)カラムの実を入れたヴァシャ酒にはちみつまでも入れる
 
楽しみが二つかさなること。ぜいたくな楽しみ。
(諺)ガルムでさえ、美しいと思うメスのガルムはいる
 
蓼食う虫も好き好き。
(諺)ガルムの威をかるアルク
 
虎の威をかる狐。
(諺)ガルムの死の踊り
 
断末魔の悶絶(?)。
(諺)ガルムの地獄踊り
 
断末魔の悶絶(?)。
(諺)カルラアの芸術
 
詩、歌、舞踏など。
(諺)カルラアの楽しみ
 
掛合い漫才。
(諺)キタイ人の念仏
 
訳の判らぬことをしゃべること。
(諺)ギリスの木
 
背の高い、まっすぐな気性の持ち主のたとえ。
(諺)熊のうしろをいばって歩くトルク
 
虎の威をかる狐。
(諺)クム女の快楽
 
床上手。
(諺)クムの娼婦と遊び、パロの女を娶り、ケイロニア女に子を生ませる
 
中原における、理想の女性像。
(諺)グラッグの馬
 
暴れて駆け回っていることのたとえ。
(諺)黒蓮の夢のようなとき
 
現実のものとは思えぬようなとき。
(諺)ゴーラはすべてユラニア
 
ゴーラはもともとすべてユラニアのものであった、ということ。(ユラニアのことわざ)
(諺)幸いはヤーンの耳と目のとどかぬところにかくせ
 
よいことは口にださないほうがよい。
(諺)サリアの贈り物
 
他人を引きつける天性の魅力。
(諺)サリアの乙女
 
純潔で汚れを知らない乙女。
(諺)サリアの子
 
美しい子供。
(諺)サリアの小箱に宝石を入れる
 
(女性側からみた)性行為。
(諺)サリアの時代
 
平和な時代。
(諺)サリアの宿縁
 
いかなる障碍を得ようとも、かたく恋し結ばれる縁。
(諺)サリアの実を結ぶ
 
子供を授かる。
(諺)サリアの楽園
 
平和な愛に満ちた世界。
(諺)サリアの罠
 
二人の人に同じつよさ、同じふかさで恋をして、身動きのとれない状態。
(諺)サロイのボッカ(横綱相撲)の国力
 
軍事経済大国。
(諺)死の影の谷を覗く
 
死線をさまよう。
(諺)十分の一モルタルスにもならぬ小虫ザドだって、あつまれば十タールのエルハンだって倒す
 
非力なものでも、力を合わせれば大きなものをも動かすことができる。
(諺)シレノスの栄光
 
非常に輝かしい栄光。
(諺)白い羽のバウバウ鳥
 
臆病者のこと。
(諺)心配していたオオカミより、思いもよらぬトルクのほうがいつでも怖い
 
油断大敵(?)。
(諺)すべての恩讐よりもヤーンの意志はつよく選び、織り、導き給う。
 
運命を逃れることは出来ない。
(諺)すべてはヤーンのみがしろしめたまう
 
神のみぞ知る。
(諺)ゼアのくちづけ
 
ファースト・キス。
(諺)セトーの性
 
酒に強く、いくら飲んでも酔わないこと。
(諺)ゾルードの鐘のひびき
 
不吉なこと。
(諺)ゾルードのきびしさ
 
非常にきびしい性格であること。
(諺)ゾルードをさえも恋した神がいる
 
蓼食う虫も好き好き。
(諺)第三天国まで舞い上がる
 
至上の幸福感。
(諺)太陽の輝きの前には夜を迎えるいたみは忘れ去られる
 
大きな喜びの前では小さな悲しみには注意が払われない。
(諺)ダゴンの耳
 
真っ赤なことのたとえ。
(諺)ダネインの水蛇
 
いやなもの。
(諺)地中でイグレックの馬鹿めが時ならぬ焚火をでもはじめたかのような暑さ
 
とてつもない暑さ。
(諺)地にイグレックの耳、空にヤーンの目
 
壁に耳あり、障子に目あり。
(諺)月が沈めば太陽が昇ってくる
 
世代は交代する。
(諺)ティアとゾルードを額にいただいて生きる
 
憎悪を糧に復讐に生きること。
(諺)ティアの衣をまとう
 
疑わしいこと。
(諺)ティアの罪
 
復讐心(?)。嫉妬心(?)。悔悟(?)。執念(?)。
(諺)ティアの恋
 
復讐心。
(諺)ティアの熱情
 
復讐心。
(諺)ティアの嗔恚
 
復讐心。
(諺)ティアの恋情
 
復讐心。
(諺)天山ウィレンが海底に没する
 
ありえないことのたとえ。
(諺)天使の手にさわられる
 
そっとさわられる。
(諺)天知る、地知る、ヤーンもまた知る
 
隠し事はかならずばれる。
(諺)天の上からヤーンが見ている
 
壁に耳あり。
(諺)ときをつくるめんどりはそのうちとさかが生えてくる
 
男のまねをする女は、体つき、顔つきも男っぽくなってくる。
(諺)とったボッカの王を返す
 
手中にした勝利を放棄すること。
(諺)ドライドンのよい日和
 
航海日和。
(諺)ドライドンの落ちたうろこをあつめて竜をつくる
 
大海の水を柄杓ですくう、大海を貝殻でかえ干す(極めて効果の少ない無益に等しい行為。直面する問題に対してあまりにも無力なこと)。
(諺)ドライドンの神託
 
はっきりしているさま。
(諺)トルクにかじられ、バルト鳥をにがす
 
些細なことに気を取られ、目的をはたせないこと。
(諺)トルクにだって恥ずかしいと思う心はある
 
どんな小人物でも、恥を知っている。
(諺)トルクはトルクの穴を掘り、エルハンはエルハンの穴を掘る
 
器量に応じた仕事しかできない、ということ(?)。蟹は己の甲羅に似せた穴を掘る(?)。
(諺)トルースの忠誠
 
非常に忠誠にあついこと。
(諺)トートの罪
 
好色(?)。
(諺)トートの矢で胸を射ぬかれる
 
恋におちる。
(諺)ト−トの矢の戦士
 
男として恋に突き進むさま(?)。
(諺)ト−トの矢をうつ
 
(男性側から見た)性行為。
(諺)トートのように泣き出す
 
めそめそするさま。
(諺)トーラスの春、カダインの秋
 
すばらしい気候のたとえ。
(諺)ドーリアの策略
 
策略にたけていること。
(諺)ドールが自分の墓穴になる予定の土をのぞいている
 
死の予感がする。
(諺)ドールが煮えたぎった鍋をひっくりかえした
 
とんでもない大騒ぎ。
(諺)ドール神殿の迷路地獄
 
まがりくねって複雑なことのたとえ。
(諺)ドールとゾルードの行進
 
破滅に向かう運命。
(諺)ドールとゾルードの結んだきずな
 
かりそめ、いつわりの縁。
(諺)ドールにはドールを
 
目には目を。
(諺)ドールの硫黄の息を吐き、バスよりもへべれけになっている
 
泥酔している様子。
(諺)ドールの忙しい一日
 
(戦などで)死人がたくさん出る日。
(諺)ドールのうじ虫
 
非常に汚らしいこと。
(諺)ドールの大当り
 
ばかについていること。
(諺)ドールの門出
 
死ぬこと。
(諺)ドールの子
 
裏切り者。
(諺)ドールの拷問
 
意地わるく打ちのめすこと。
(諺)ドールの子ドーリアの尻尾を切り落として、怒ったドールを呼出してしまう
 
小さな災いを逃れようとじたばたして、より大きな圧倒的な災いを自ら招き寄せてしまうこと。
(諺)ドールの才能
 
知らず知らず他人に害をなす才能。
(諺)ドールの尻尾
 
欲得づくで他人に仕えている人。
(諺)ドールの地獄、ゾルードの闇
 
世にも恐ろしい場所(?)。
(諺)ドールの姉妹はドーリア
 
蛙の子は蛙(?)。
(諺)「ドールの十三」に一点賭け
 
大きなかけをすること。いちかばちか。
(諺)ドールの尻から生まれてきた
 
役に立たないこと。
(諺)ドールの忠誠
 
いつわりの忠誠。
(諺)ドールの妻はドーリア
 
類は友を呼ぶ(?)。
(諺)ドールの女房にドーリア
 
類は友を呼ぶ(?)。
(諺)ド−ルの復活
 
生きるとも死ぬともつかないゾンビとなること。
(諺)ドールの炎に飛び込む
 
災難に自ら巻き込まれる。
(諺)ドールの領土
 
黄泉の国。
(諺)ドールの災いヤヌスの福となる
 
災い転じて福となる。
(諺)ナイフでさしたら蜜を塗る、網を切り離したら糸をなげてやる
 
飴と鞭。
(諺)鍋に水を煮立ててから、ウサギをとらえにかかる
 
主役不在で準備をすすめること。泥棒を捕らえて縄を綯う。
(諺)ノスフェラスが草原に引っ越してくる
 
ありえないことのたとえ。
(諺)ノスフェラスにも十年住めばクリスタル・パレスより天国
 
住めば都。
(諺)ノスフェラスの砂漠を横断するのも鳥でなければ飛んではゆけない、一歩一歩ふみしめなくてはわたれない
 
千里の道も一歩から。
(諺)バスの穴にささやくよりも安全
 
秘密を告げても、他人に知られないことのたとえ。
(諺)バスの快楽
 
食欲を満たすこと。
(諺)バスの子
 
けちんぼ。
(諺)バスの罪
 
飽食(?)。
(諺)バスの申し子
 
醜い小男。
(諺)羽を見なければ鳥は買えない
 
話だけでは判断はできない。
(諺)早いがよい
 
思い立ったら吉日。善は急げ。
(諺)バルギリウスの肩
 
唯一の弱点。
(諺)バルギリウスの泣きどころ
 
唯一の弱点。
(諺)バルバスのかいがら骨
 
弱点。
(諺)バルバスの武勇
 
非常にすぐれた武勇。
(諺)晴れた日ならヴァラキアの港からランダーギアの岬が見える
 
目がいいことのたとえ。
(諺)ひとたび燃えた木を、もとの生木にすることはヤヌスにすらできぬ
 
絶対に不可能なこと。
(諺)人はヤーンのとりこであり、ヤヌスのしもべにすぎない
 
人は運命から逃れることはできない。
(諺)火は氷をとかし、歌は心をとかす
 
歌は気持を暖める。
(諺)火の中のケムリソウを拾う
 
火中の栗を拾う。わざわざ危険なことをすること。
(諺)ヒプノスの祝福
 
安眠。
(諺)ヒプノスの呪縛
 
金縛り。
(諺)ヒプノスの眠り
 
熟睡。深い眠り。
(諺)ファブリスの弁舌
 
弁舌にすぐれていること。口が達者であること。
(諺)「王(ボッカ)」の駒がとられる
 
勝負に破れること。
(諺)マリウスの貝殻骨
 
最大の弱点のこと。
(諺)マリオンのかいがら骨
 
最大の弱点のこと。
(諺)水を一杯飲ませてやろうと親切心を起こして、食事を全部食われてしまう
 
軒を貸して母屋を取られる。
(諺)ミロク教徒がくさり鎌をとって向かってくる
 
ありえないことのたとえ(?)。
(諺)めぐるえにしのヤーンの糸
 
運命はめぐる。
(諺)森の中の獅子を見過ぎて、足元の蛇に噛まれる
 
灯台もと暗し(?)。
(諺)モンゴール人のような
 
粗野。野卑。凶暴。
(諺)薮の中からダネインの方向へそれる
 
話が見当違いの方向へそれること。
(諺)ヤヌスにはヤヌスの光を、ドールにはドールの闇を
 
目には目を、歯には歯を。
(神)ヤヌスの意志、ヤーンのみちびき
 
運命。
(諺)ヤヌスの幸運
 
開運。
(諺)ヤヌスの死
 
彼岸でやすらう死。
(諺)ヤヌスの双面
 
明白であるさま。
(諺)ヤヌスの砂のながれ落ちるひびき
 
運命が動くこと(?)。
(諺)ヤヌスの手
 
おおあたり。
(諺)ヤヌスの天命
 
思いがけない出来事。
(諺)ヤヌスの時の時、ヤーンの光はめぐり、ドールの闇を照らす
 
時が至れば真実は明らかになる(?)。
(諺)ヤヌスは守り給い、ヤヌスは与え給う。
 
信ずるものは救われる(?)。
(諺)ヤーンが定め給い、ヤーンが織り給う
 
運命は神だけが知っている。
(諺)ヤーンがすべてを知りたまい、しろしめたまう
 
因果はめぐっていつか必ずかえってくる。
(諺)ヤーンが賭場のおやじをやってる
 
不似合いなさま、役不足。
(諺)ヤーンならぬ身には知るすべもない
 
神のみぞ知る。
(諺)ヤーンならぬ身には誰にもわからない
 
神のみぞ知る。
(諺)ヤーンにはさからうな
 
長いものにはまかれろ。
(諺)ヤーンの赤い糸
 
運命的なきずな。
(諺)ヤーンの悪戯
 
運命のいたずら。
(諺)ヤーンの糸
 
縁、きずなのこと。
(諺)ヤーンの糸加減
 
運命。
(諺)ヤーンの糸で織ったドレス
 
運命。
(諺)ヤーンの器
 
ヤーンに選ばれ、ヤーンにつかわれる人物。
(諺)ヤーンの運命の糸でよじりあわされている
 
運命が複雑に絡み合っていること。
(諺)ヤーンの追い風
 
つきが向いてくること。
(諺)ヤーンのきずな
 
きってもきれない絆。
(諺)ヤーンの子
 
根っからの博奕打ち。
(諺)ヤーンの定め給うた模様
 
運命。
(諺)ヤーンの十字路
 
運命の別れ道。
(諺)ヤーンの摂理
 
世代は交代するべくして交代する。
(諺)ヤーンの寵児
 
人とはかけはなれた運命を背負った人のこと。
(諺)ヤヌスの時の時、ヤーンの光はめぐり、ドールの闇を照らす
 
時が至れば、真実はやがて明らかになる。
(諺)ヤ−ンの情
 
諦めかけていた願いがかなうこと。
(諺)ヤーンの光、ドールの闇を照らしたり
 
真実が明らかになること。
(諺)ヤーンの皮肉なわらい
 
運命の皮肉。
(諺)ヤーンの封印
 
生まれながらのさだめ。
(諺)ヤーンのみがすべてを知り給い、理解し給う
 
運命は神だけが知っている。
(諺)ヤーンの御手
 
運命。
(諺)ヤーンの目
 
運命の動く中心(?)。
(諺)ヤーンの目はどこにでも届く
 
障子に目あり。
(諺)ヤーンの模様
 
運命。
(諺)ヤーンの領土
 
現世。
(諺)ヤーンはすべてを知りたまい、織りたまう
 
運命は神だけが知っている。
(諺)ヤーンは奪いたまい、また与え給う。
 
運命は神だけが知っている。
(諺)ヤーンは与えたまい、ヤーンは奪いたまう……聖なるかな。
 
運命は神だけが知っている。
(諺)ヤーンは結びたまい、また別れさせ給う。
 
運命は神だけが知っている。
(諺)ヤーンは扉をつくり、扉をあけ給う。
 
運命は神だけが知っている。
(諺)ヤーンはみそなわしたり、ヤーンは定められたり、ヤーンは選ばれたり
 
運命は神が決定する。
(諺)世にサリアの子らより恐ろしきものなし
 
女性ほど恐いものはない。
(諺)ヨブ=ハゴスでさえ恐れをなす
 
これ以上ない恐ろしさ。
(諺)泉をラクダに近づけることが無理ならラクダを泉に近づけろ
 
動かせないものを動かすのではなく、動かせるものをうごかせ。
(諺)ランゴ牛の乳
 
まっしろなことのたとえ。
(諺)ラン=テゴスの愛撫
 
このうえない快感のこと(?)。
(諺)リャガの忠誠
 
状況によって仕える相手を変えること。
(諺)竜の炎の息の中までも追いかけてゆく
 
どこまでも追いかけてゆくこと。
(諺)ルアーとイリス
 
美男と美女。
(諺)ルアーとドール
 
正反対である様子。
(諺)ルアーの嵐
 
激しい戦い。
(諺)ルアーの大当たり
 
開運。
(諺)ルアーの幸運
 
武運。
(諺)ルアーの声
 
美声(男)。
(諺)ルアーの時代
 
戦乱の時代。
(諺)ルアーの光と恩寵
 
世界に君臨する力を得ること(?)。
(諺)ルアーの前のイリス
 
影のうすいこと。
(諺)ルアーの恵み
 
(陸上の)旅行日和。
(諺)ルアーのように戦う
 
勇ましく非常に強力に戦うさま。
(諺)ルアーは早起き鳥を祝福する
 
早起きは三文の得。
(諺)ルフィウスの弁舌
 
口が達者なこと。
(諺)ルブリウスの懸想
 
男色の恋。
(諺)ルブリウスの恋
 
男色の恋。
(諺)ルブリウスの趣味
 
男色趣味。
(諺)ルブリウスの罪
 
男色。
(諺)ルブリウスの徒
 
男色を好む男。
(諺)ルブリウスの風習
 
男色の風習。
(諺)ルブリウスの風俗
 
男色の風俗。
(諺)ルブリウスの弁舌
 
口が達者なこと。
(諺)ルブリウスの病
 
男色。
(諺)ルブリウスの病持ち
 
男色家。
(諺)ルブリスのほら貝
 
うそつき。
(諺)レイラはダゴンには破れ、ダゴンはルアーに破れる
 
火は水によって消され、水は太陽によって乾燥される。
(諺)悪い知らせはすべてドールの飼犬ガルムが持ってくる
 
悪い知らせは嫌な奴がもってくる(?)。
(諺)いくさがおわれば軍馬も食われる
 
狡兎死して走狗煮らる。必要なくなったら有用だったものも処分される。




【我々の世界と共通の諺】
(諺)医は仁術。
(諺)美しい花にはトゲがある。
(諺)鬼の女房に鬼神。
(諺)怪力乱神を語らず。
(諺)勝てば官軍。
(諺)壁に耳あり。
(諺)壁に耳ある世のならい。
(諺)河の途中で馬をかえる。
(諺)鬼神もまた三舎を避ける。
(諺)傾国の美女。
(諺)傾国の美姫。
(諺)好事魔多し。
(諺)御馳走はあとにとっておいたほうがいい。
(諺)ことは隠密なるをもってよしとす。
(諺)去るものは、日々にうとし。
(諺)三年たてば三つになる。
(諺)士はおのれを知るもののために死す。
(諺)四面楚歌。
(諺)上手の手から水のもれる道理。
(諺)短気は損気。
(諺)鉄は熱いうちに打て。
(諺)盗っ人にも一分の理。
(諺)背水の陣。
(諺)はかりごとは密なるをもってよしとす。
(諺)腹が減ってはいくさはできぬ。
(諺)ひかれ者の小唄。
(諺)匹夫の勇。
(諺)美童、媚嗔す。
(諺)脾肉の嘆。
(諺)不倶戴天の敵。
(諺)無事これ名馬。
(諺)蛇の道は蛇。
(諺)李下の冠。
(諺)綸言汗の如く、くつがえすを得ず。
(諺)綸言汗の如し。
(諺)渡りに船。




【アレクサンドロスの言葉】
(諺)いくさに必要なものはまず人心がひとつとなることである。

そして糧道の確保、また思わぬ敵を作らぬことだ。掠奪などで土地の者の心を憎悪にこりかたまらせることは、のちのち思わぬ敵によって足元をすくわれる原因となる。

そしてまた大将は敵軍よりもまず自軍をおのが敵と心得、自軍の動きを第一に掌握していなくてはならぬ。自軍の状態を見ることのできぬ大将には敵の状態を見抜くことは不可能だ。

いくさとは生き物である。その生き物を飼い慣らした者がルアーの勝利を得るのだ。

(「アレクサンドロス夜話」より)

(諺)いくさは生きている。

(アレクサンドロス)

(諺)いくさは生き物。

(アレクサンドロス)

(諺)終わりよければすべて良し。

(アレクサンドロスの格言)

(諺)偽装の転進。

(アレクサンドロス)

(諺)攻撃は最大の防御。

(アレクサンドロス)

(諺)さいごの一兵が倒れ伏さぬうちは、戦は終わらぬ。

(アレクサンドロスの兵書)

(諺)事件によって利益を得るものが犯人である。

(アレクサンドロスの兵法)

(諺)小人数で多人数を迎えうつには、せまいところをたてにとるべし。

(アレクサンドロスの格言)

(諺)すべからく近代の戦さに勝つには、敵より少しでも多くの情報を手にいれることだ。

(アレクサンドロスの兵法書)

(諺)世界は永遠に一つの不可知である。

(アレクサンドロス大博士の言葉)

(諺)攻めることこそ最大の守り。

(アレクサンドロス)

(諺)大火は風を呼び、風は雲を呼ぶ。

(アレクサンドロスの書)

(諺)敵の存在を知るには矢を射かけさせてみるのが一番いい。

(アレクサンドロスの兵法書)

(諺)敵をあざむくにはまず味方から。

(アレクサンドロスの兵法書)

(諺)敵をよく知り、おのれの兵をよく知っているものが勝つ。

(アレクサンドロスの兵法の第一)

(諺)毒は適量つかえば薬になる。

(アレクサンドロスの格言)

(諺)白虹、日輪を貫く。これをもって天下に大乱生ずの大凶兆とするなり。

(アレクサンドロス「問答録」)

(諺)兵を動かすには、星を見、時を見、人を見ることが大切である。星はすなわちヤヌスの意志である。時はヤーンを味方に持つことである。そして人は兵を動かす直接の手である。この三つが揃ったとき、いくさは兵を動かすものの勝ちとなり、三つが揃わずに動かすと敗けとなる。これが三見法である。

(《アレクサンドロス兵法》より第一巻の一 三見法)

(諺)三すくみの陣形。

(アレクサンドロスの兵法書)

(諺)目の前のサソリから逃げだそうとして、ウワバミをつつきだす
 
ある危険を避けようとして、別の危険を誘うこと。

(アレクサンドロスの格言)

(諺)燃えてしまった木を生木に戻すことはヤーンにもできぬ。

(アレクサンドロスの箴言)

(諺)矢が射かけられればおのずと射手のありかはわかる
 
敵の所在を知るには、攻撃させればよい。

(アレクサンドロスの兵法書)





【オルフェオ】
(諺)女は魔物だ、ドールの魂を、美しい顔の中にかくしもっている。

(オルフェオ)

(諺)恋はくせもの、夜にまぎれて、流れ矢のように心を射抜く。

(オルフェオの詩篇)

(諺)恋はくせもの、夜にまぎれて人の心を盗んでゆく。

(オルフェオの詩篇)

(諺)酒よ、わが愁いを知るただ一人の友よ――酔生夢死のこの世なれば、そなたとひと夜ともに過さん。飲むほどに、胸に満ちくるわがうれい――世を思うゆえに物思う、恋は短く夜はさらに。いざ歌え、盃あげていざ歌え――昏きこの世に別るとも、墓には花は供えじな。わが墓どころのおくつきに、友よ供えよ一杯の美酒を。

(オルフェオ「酒をことほぐ歌」)

(諺)酔生夢死、これぞ我らの生きざま他になし。

(オルフェオ)

(諺)トートはドールのように公平だ。王の心にも奴隷の心にも、ときならず訪れる。

(オルフェオの詩)

(諺)汝は見たり 汝はヤーンの光を見たり 光は汝が頭上にありて我を灼きぬ 永遠なるもの我を導き 泉によりて汝に行かしむ ああ 汝は光なり 汝はつよき光といなづまの子なり。

(《オルフェオ詩篇第十一》より)





【オフィウス】
(諺)帰途はゆく道にくらべてはかどる。

(オフィウス)

(諺)ちまたではまだそのようなさわぎにうつつを抜かしているのか?はるか群衆をはなれ、かのコルヴェイエにきたりしより、わが心ざわめかすは潮騒のひびきのみ――おろかしきかな野望よ。おろかしきかな生よ。われはすべてのよろこびにすぐる魂の平安を得たり。

(オフィウス叙事詩『コルヴェイエのクラロン』)

(諺)おお、ちまたの恋、ちまたの夢、われもかつてはそこに身をおきしちまたのおろかしき喧騒よ。そを遠くはなれしものにのみ、神はこの世の真実をかいま見ることを許されるなり。なれどちまたに戻りゆく、われをまた嗤うなかれ、友よ――おろかしき夢、おろかしき恋、ちまたの喧騒、ちまたのあわれ、そが我が生きるたったひとつの楽土なれば。

(オフィウス叙事詩『コルヴェイエのクラロン』)

(諺)とくに夜半は過ぎ去りて/月の光もかたぶきぬ/いまはや止めよ恋唄を/伶人たちの楽曲を/恋のふしどの冷めはてて/朝日のいまだ上らざる/はや唄うまじ恋唄を/ただ唄うべし葬いを/恋の終りの挽歌をば

(オフィウスの葬送歌)

(諺)ドールよりさらにすさまじきはティア、エリス、ゾルードの三姉妹。

(オフィウス)

(諺)ひとはその運命の黙示録を読むいくつかの晩をもつ。

(オフィウス)

(諺)人はみなそれぞれの港をいでて、嘆きの船となりぬ。

(オフィウス詩集『アルシャザード』より)

(諺)見よ、三人の女神がやってくる/見よ、エリスの息は炎/ティアの髪は生ける蛇 そしてゾルードの指は憎しみの氷。/見よ、憎悪と不和と死の三姉妹の/ゆくところ、人はたおれ、/凍れる石となりはてて、ただそこには/永遠の荒野があとにひろがるのだ。

(オフィウス《オクタヴィアの歌》より)

(諺)ヤーンの時、われにあり。

(オフィウスの詩句)

(諺)ヤーンは作りたまい、結びつけたまう。

(オフィウス)

(諺)わからぬものこそ男女の仲。

(オフィウス)

(諺)「月の光に照されて、われら廃都をさまよえば、ふるきむかしのいにしえの、王や王妃の亡霊が、忘れられたる物語、今宵おん身に告げんとて、そぞろ歩きのうたびとに、姿を見せん、今宵こそ。/杯をあげよ、舞を舞え――あらわれいでよ、亡霊よ。廃都をいまに呼び戻し、酔い痴れて舞え、つかのまに。今宵の月の消えぬ間に。今宵の月ともろともに。/月の光に照されて、いまこそあげよ、杯を。月の光に照されて。月の光のその下で。月の光の消えぬ間に。月の魔力の失せぬ間に。」 「いまこそうたえ、葬りを。いまこそかえれ、いにしえに。/月の光に照らされて。月の光の消えぬ間に。」

(『オフィウス詩集(歌集)』より『月光のカナン』)





【その他の成句】
(諺)会うは別れのはじめ、別れは会うやも知れぬ日々のはじめ。

(ヤーンの箴言)

(諺)医は仁術。

(テクルゴスの言葉)

(諺)ヴァラキアに生まれて、船に乗らないのは、白いシカと生まれて早がけをいやがり、鳥に生まれて空をとばないようなものだ。

(諺)ヴァラキアの男と生まれて海に出ない奴は、鳥と生まれてとぶのをイヤがり、シカと生まれて早がけを嫌うようなものだ。

(諺)ヴァラキアの男に生まれて船に乗らない奴は、空をとばない鳥、早がけをしないシカだ。

(諺)ヴァラキア女は船乗りにゃ惚れぬ、年に二度しか会えぬゆえ。

(ヴァラキアの戯れ歌)

(諺)男は生涯に三度、泣いてよいときがある。族長の死んだときと、母親の死んだとき、戦いに破れたときである。

(草原の諺)

(諺)さいわいなるかな、おろかなる者よ。黒雲かかれるはまもなく嵐の迫り来るを知らぬゆえ、かくは楽しく野に遊び、そなえも知らず風に吹かれる。

(昔の詩)

(諺)自分のウマの水は自分で確保しろ。

(ロムスの教え)

(諺)チチアで処女の女をさがすにゃ、乳のみ子をさがせ。

(諺)最も大きな秘密は小さな秘密の暴露によって隠せ。

(諺)ヤーンよ、われとともにあれ。

(ヤーンの聖句)





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