はじめまして。清水と申します。大江健三郎の作品は好きで、よく読んでいます。このサイトについても、大江さんの最新の活動を知るうえで大変便利なので、いつも楽しく拝見しております。さて、「文学は人間を根本から励ますものでなくてはならない」という大江さんの発言にかんしてですが、これはおそらく『新しい文学のために』(岩波新書)のなかのものだと思われます。以前、この発言を読んだとき、自分自身がそれこそ強く「根本から励ま」されたような感じがあって、たまたま印象に残っていました。すでに見つけられていたなら、要らぬお節介になりますが、『新しい文学のために』の「14 カーニバルとグロテスク・リアリズム」の最後の段落を引用しておきます。
僕らは広範囲な死の脅威にさらされた、大きい不毛の時代に生きている。その現実にしっかりと立ち、かつそこを乗りこえようとする想像力の働きは、死からの再生を、新しい誕生をめざすものであるにちがいない。それを模索する時、人類が神話から民衆のフォークロワ、祭りにいたる、なじみ深いレヴェルにおいて、つねに破壊と徹底した否定の側から、再生と積極的な肯定の側へと、根本的な心の働きを方向づけつづけてきたことを確かめるのは、端的な自己への励ましである。文学はやはり、根本的に人間への励ましをあたえるものだ。(p.187-188)