考古学のおやつ

考古学者,応答せよ−偏在する考古学情報

萬維網考古夜話 第15話 3/Mar/1999

第45回埋蔵文化財研究集会(九阪研究会)に行って来ました。
各地の考古学者に閲覧者がいらっしゃることがわかりました。弥生の宝石たぬぼり展覧会)にコメントをくださった溝口孝司さん,考古学徒のためのe漢字を誉めてくださった河野一隆さん,2月のほえづらコラムに触れていただいた吉田広さん,韓国考古学文献目録を利用してくださっている寺井誠さん,このほか多くの閲覧者のみなさん,ありがとうございますm(_ _)m。いや〜,特に福岡県内にはたくさん閲覧者がいらっしゃったんですねぇ(^^。
あ,「考古学のおやつの閲覧者として名前が出たら困る」と言う人は,速攻で連絡してくださいね。

韓国考古学文献目録を見てる人がいたとわかったのは嬉しかったですね。今まで全然反応なかったもので。

もっと上の世代の人はcoming outされませんでしたが,電化されてないんでしょうかね(おいおい)。警戒されてたのかも。

九阪がらみの軽い話を,と思ったのですが,ゼロから文章を書き起こす余裕がないので今後に譲り,以前から準備していた話で1回分とします。


きまぐれNEWSLINKをご覧になった方なら,すぐ気づかれると思うんですが,記事に地域的な偏りがありますよね。別に地域差別してるわけじゃないんですが,私のところに届く情報の量が,あまりに違いすぎるんです。

(4/Jul/1999補足)きまぐれNEWSLINKの記事の1999年5月までの地域別集計もご参照ください。
(30/Dec/2002補足)地域別集計は,データが古すぎるので廃止しました。

これらの記事は,私のところに独自のルートで集まってくるニュース……というのは全然ないので,ネット上に流れている情報を拾い集めています。1日に一度,ネットをかけずり回っているわけです。中央と地方の新聞社,埋文センター,大学,そして各地で活躍している個人のサイトをめぐります。できるだけ複数のネタもとで確認し,関連サイトも検索しますので,かなりの大仕事です。と言っても,見落としが多いし要約がうまくいかなかったり,お恥ずかしいのではありますが。

これをやってて気づいたのは,考古学情報の多寡は,どうも地域によって決まっているような気がする,ということです。

これ以上踏み込んで話すと差し障りもありますので,中でも極端な例を伏せ字トークでお話しします。念のために申し上げますが,アルファベットは便宜上のもので,イニシャルではありません

P県の遺跡で重要遺物発見,というニュースを見つけました。全国紙のサイトには見当たらず,X新聞のサイトで見つけたのです。X新聞は,本社をQ県に置く地方新聞ですが,広域の取材網と販路を持っていまして,Q県の隣りのP県のニュースまで,X新聞がフォローしていたというわけです。ブロック紙ってヤツですね。

このニュースについて,より詳しい情報を得ようと,私は地元P県のP新聞社のサイトを検索して探し出し,アクセスしました。ところが,P新聞社のサイトのどこにも,今回見つかった遺跡のニュースが見つからなかったのです。

載っている記事といえば,何とか株式会社が地元進出だの,地元選出のなんとか代議士(こんな人いたの?って感じの,何してるかわからない人物でした)の動向だの,どこどこの大売り出しだの,……なんか,地元財界のニューズレターみたいでした。

地方新聞は,どこもそういう性格はあると思いますが,時々,ほんとそればっかりの地方新聞があって,閉口させられますね。観光とかに行った先でそういう新聞を目にすると,「ここは金と権力だけか」と興ざめ。

気を取り直して,一から出直し。地元の埋文センターとかのサイトを探しました。埋文センターで,発掘最新情報を載せているところはあまりないので,期待してませんでしたが,こういう予想は当たっちゃうんですね(埋文センターのサイトさえないところもありますからね)。

ならば,P県で個人運営の考古学サイトがあるんじゃないかと,またもや検索の旅を始めました。でも,これまたむなしい結果joj。発掘情報を発信するどころか,P県に個人の考古学サイトが見つからないのです。

P県は自力で考古学情報を発信してないの?

いえ,冷静に考えれば,そんなことはないのです。だって,隣りのQ県でX新聞が記事にしてるんですから,P県のどこかの自治体が記者発表したはずなのです。

業界の人には当たり前のことでしょうが,国内の発掘関係の報道の大半は,教育委員会や埋文センターの記者発表に端を発するもので,記事の文面も,程度の差はあれ,プレスリリースのまる写しや要約なのです。記者が独自の視点で迫ってくださることは,まずありません。せいぜい偉い先生のコメントを取るぐらいでしょうか。これのいい加減さについては第1話でお話ししましたが,それどころか発見の意味を呑み込めてなくて別の記事に成り下がったりしますからね。

それに,個人の考古学サイトも,ただ見つからなかっただけかも知れません。隣県の新聞を通じてでも,かろうじて情報が入ってきただけ,マシなのです。

というのも,L県V県(なんか,方格規矩鏡みたいになってきました(^^;ゞ)では,P県のような,「隣県のニュースでかろうじて情報が得られる」ことさえないからです。これらの県にも,当然ながら,県をはじめ多くの市町村に文化財担当者(私の友人も)が配置され,多くの発掘が行われており,学史に名高い重要遺跡がいくつもある(それらを紹介するサイトもある)というのに,発掘情報がマスコミに流れることも,埋文センターや個人のサイトで公開されることもないのです。

また,一見情報が多く見える県でも,特定の機関(県のセンターとか,ある市の文化課とか)のからむ情報しか外に漏れてこないこともあります。

マスコミは考古学者の言うことを報道するのが(たとえ不正確ではあっても一応は)基本ですから,結局のところ,どれもこれも発信源はすべて地元の考古学者なのです(これほど単純でもありませんが(^^;)。
その中で,もっともいろいろなフィルターがかかりやすいマスコミの遺跡報道でしょう。
また,役所である教育委員会や埋文センターでの情報発信はなかなか困難もあるでしょうし,役所の中で埋文の立場が弱いという悲しい事実があるのかも知れません。
しかし,そうした発信が少ない地域では,よりナマの情報に近いはずの,考古学者個人が発信する遺跡情報も乏しい,という傾向があるような気がしてならないのです。

もちろん,調査はしてるはずだし発信する気はあるはずです(性善説)。地域の事情もあるでしょう。発掘件数自体少ないとか,新聞に載って目立つのを嫌う風土とか,特定の武将や城・遺跡を軸にした形でなきゃ歴史も文化財も語れない(語っても相手にされない)雰囲気とか,市内料金でかけられるアクセスポイントがない(これは実際切実らしい)とか,東京や大阪よりパソコンやソフトの値段が高いとか,周囲に助言や協力をしてくれる人がいないとか。でも,それだけでこれほど偏るのでしょうか。だいたい,P県もL県もV県も,そこまで田舎じゃないですよ(けっこう田舎だけど)。

記者発表したりサイトを立ち上げなくても,報告書はちゃんと出しているから大丈夫(これも性善説)なのかも知れません。ただ,いくらかの行動的な人を別にすれば,地域で働く多くの考古学者の行動範囲は担当する市町村か,その周囲くらいに限定されていて,報告書だけでは読みとりに苦労することもあります。もう少し地元の遺跡の宣伝(いやらしいのは閉口するけど)に努められてもよいのでは?

私のような者への情報提供のためだけでなく−偽善者的な物言いになりますが−,地域の人たちに情報開示するためにも。人のお金(税金や受託費)を使って,時には人の生活に影響を及ぼす仕事をしてるんですから。

いや,正直な話をしますとね,今のままのきまぐれNEWSLINKでは,ひょっとしてとんでもない偏向に手を貸してるんじゃないか,という不安が拭えないんですよね(個人サイトですから,私自身の偏向がそのまま表現されてるだけなら,それなりの意義はあるんでしょうけど)。

今回は表面的なことだけお話ししましたが,考古学情報の偏在については,繰り返し,いろんな事例で考えたいと思っています。

(6/Apr/1999)第20話 公正なる仲買人

そうこう言ってる間に,3月3日は妻木晩田遺跡群(むきばんだいせきぐん)の4者協議の日。どうなることやら。


今回のメインの話題は,第10話として1月末に用意していたものですが,これまでお蔵入りになっていました。と言うのも,内容自体は私の考えの通りなのですが,その「言い方」が,自分のことに触れずに不特定の第三者がするかも知れない行動ばかり論じていて,「いくらなんでも,こういう言い方はないよな」と思い,公開を控えていたのです。が,これまでも同様な発言を公開した場合が何度かありますし,この話も私の考えから出てきたのは事実なので,このような迷いも併記して公開します。


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