前々話,前話に続いて,きまぐれNEWSLINKと考古学報道についてお話しします。前々話を資料篇,前話を分析篇とすれば,今回は考察篇と言ったところでしょうか。
がんばれ!!ゲイツ君を真似たこのコラムができたころ,きまぐれNEWSLINKもサル真似から始まりました。もとネタはインターネット業界トラブルニュースでして,考古学にもこんなページがあったらいいなと思ったのが始まりです。記事につけるコメントは,ときどきやじうまWatchみたいになってますけど(^^;。
実は,このコーナーを始めるのは少し気が進まなかったのです。というのも,それまで情報だけのページをできるだけ作らないようにしていたのに加え,マスコミに流れる記事は地域や内容が偏っているだろうし,時には不正確な場合もあると思っていたからでした。
とはいえ,せっかくWeb上に(Web外でも)いろんな情報が流れるのを,見守るだけで,次に会うのは何かの出版物になったとき,というのももったいない気がしたので,コラムのネタ集めも兼ねて,新コーナーを始めました。
間の悪いことに,きまぐれNEWSLINKの初日と同じ昨年11月28日にYahoo! JAPANの「トピックス考古学」が始まり,全国紙の記事だけでは同じものしかできなくなったので,個性を出すのに苦労してます。
それがいつの間にかアクセスも増え,6月からはarc-netからもコーナーに直接リンクしていただいて,当サイト一番人気のコーナーになってしまいました。かつては半年以上不更新の考古学徒のためのe漢字にさえ,1日あたりの閲覧者数で負けてたのに。
しかし,危惧していたことが起こりました。栃木市・向山遺跡の石材採掘坑について,大間違いの25000年前という年代を載せていたのです(前々話)。しかも,この件であたふたしている内に,朝日新聞の「青鉛筆」の件(前話)がありました。これ以外にも大小さまざまな問題はありましたが,これらの件を特に取りあげたのは,考古学報道について頭の中でもやもやと考えてきたことが,このときのやりとりでやっと明確になってきたからです。それに,経緯自体が口数多くてこのコーナー向きだし(^^ゞ。
次に挙げるのは,前々話お話ししたあのさんの最初の書き込みへの答えに付記した内容です。
(前略)
TBSがどうこうというわけではありませんがマスコミによって考古学記事の精粗は大きいようです。
7ヶ月もきまぐれNEWSLINKを続けていると,どの新聞は正確とか,情報が混ぜ返されているとか,考古学を知らないとか,記事をおもしろくするためにちょっと“作る”とか,といったことが大体わかってきました。とはいえ,
「◎◎新聞の記事だから,多分でたらめでしょう」
と書くわけにもいかず,語尾のニュアンスとか,ほかの新聞との対比とかで,「なんか,妙だよ」という雰囲気を出しているつもりです。
そのようなつもりで,ご覧いただけるとよろしいのではないでしょうか。
答えになっていませんが,そんなところで。
ホント,答えになってませんね(^^;。
例えば,S紙は考古学に好意的のようですが,かといって自分が報道している内容をよく理解しているとは言い難いようです。H紙は発掘に対して否定的なニュアンスで報道します。Y紙は報道発表をそのまま書いているようで,記事に面白みがありません。
そして,すでにお話ししてしまったことなので伏せ字を使わずに言いますと,朝日新聞は文中に対立的な構図を設定しており,その構図のために事実の方が動員されているかに見えます(前話)。
問題は,だからといってどれが事実かは必ずしも明確でないということです。
あと,同じ記事でも,地方紙に載るときと全国紙に載るときとでは,年代がズレてたりしますよね。地方紙では「4世紀の古墳」だったのが全国紙では「3世紀の古墳」になったり。古墳時代では,だいたい50年くらいの差があるようです。弥生時代なら100年,縄文時代なら500年,後期旧石器なら,まぁ,2000年は逆サバを読みたいところです。(特定の事例について言っているわけではありません;こういうのはシャレと勢いで言ってるだけですから,気にしないで(^^;)
ただ,どの数字が正しいのかは必ずしも法則性がないってあたりが難しいところです。今どき弥生中期を「紀元後1〜2世紀」にしてたりするもの(^^;。以前の「教科書をヴァージョンアップする発見」はチャラになったのか?バグだらけで使い物にならなかったとか?(←シャレになってない(^^;ゞ)
最もややこしいのは,もとの発表自体がトンデモだったり,担当者が自分の発見をよくわかってなくて,周囲の考古学者(大学の先生など)が騒ぎ出していろいろとアドヴァイスしたせいで,話が混乱している(観察された限りの考古学的事実から逸脱してしまうなど)場合。マスコミに知れる以前に情報が妙だったら,救いようもないですね。今回の話からはそれますけど。
「それじゃぁ,記事が事実かどうか疑ってるクセに,『きまぐれNEWSLINK』を毎日更新してるってこと?」
そ,その通りです(^^;。それを言われると辛い……(--;。
だから,このコーナーを始めるのも気が進まなかったし,いまだに我ながら釈然としない部分が残るし,すでに3月の第15話 考古学者,応答せよ−偏在する考古学情報で「今のままのきまぐれNEWSLINKでは、ひょっとしてとんでもない偏向に手を貸してるんじゃないか、という不安が拭えないんですよね」と表明しているのは,この意味も込められていたのです。
ここでお詫びです。
3回にわたってお話ししてきましたが,実はここからが本題です。
考古学報道について,最近気づいたことをお話ししてきました。かといって,「ことほどさように報道はアテにならぬものである」という単純な(そして,−残念ながら−言うまでもない)結論にするはずのないことは,半年以上もこのコーナーにつきあわれた方なら容易に想像のつくところでしょう。また,第15話の時点では,多くの考古学者が情報発信することを提案していますが,今回は報道の受け止め方という角度から考えてみます。
わが業界を見渡すと,こうした報道に対して無警戒というか,無防備な人が意外に多いことに気づかされます。はっきり間違いとわからなくても,怪しさ満点の記事がありますが,それでも,記事そのものは疑わないで,いきなり登場人物や登場する出来事のことを真に受けて批評してたりして。
そうかと思うと,「真に受けてない」ことを示したいのか,「◎◎新聞にはこう書いてあった」しか言わない人。引いた表現で客観性を装ってるだけですね。
真に受けている人も,言い回しの引用しかしない人も,結局同じなわけです。つまり,目の前に示された記事に対して何も分析しないし,記事から考古学的事実に遡るだけの理論に欠けているということです。いかに相手が(考古学者の苦手とする)文字資料とはいえ,もう少し資料批判というか,それなりの読み方はできないものでしょうか。
え?時間の無駄?そうでしょうか。
一般の人が考古学に触れる最も有力なメディアは,事実上マスコミです。各自治体などが発掘成果を一般に公表するにも,最も影響力のあるメディアとして,マスコミを利用しない訳にいきません。あなたの学生も,現場の作業員さんも,まずはマスコミ報道で考古学をイメージしてるはずです。それどころか,考古学者が,顔も知らないほかの考古学者の発掘成果を知るのも,(意識するとしないとに関わらず)最初はマスコミ報道からであったりします。ならば,考古学報道の是非とともに,その読み方について,考古学者自身がもっと考えなければいけないでしょう。「間違った報道はけしからん」と言ってるだけでは,いけないんじゃないですか。
でも,この話って,すべてきまぐれNEWSLINKに跳ね返って来るんですよね(^^;。実際,記事を分析したり別の情報と照合したりする余裕もないまま記事を入れざるを得ないわけですから。
こんな矛盾をはらみながら,これからもニュースを追加していきますので,話半分にチェックしてくださいm(_ _)m。