セッティングと一言でいっても、操作系、ステップ位置、サス、空気圧、キャブ、ディメンションと山ほどある。
しかもその組み合わせは無限大。闇雲にやると最後には良し悪しの判断がつかなくなってドロドロの泥沼に落ちこむ。
キャブにしろサスにしろ、セッティングの鉄則は「一度に動かすのは一箇所だけ!」
これを踏まえて簡単なところからやって経験値を増やして行こう。

多くのライダーがバイクのセッティングに関して一番誤解していることは普遍的な「ベストセッティング」があると考えていること。毎回おなじところをグルグル回るだけのレースにおいても各選手のコーナリング方法やスロットルの開け方、体重などでセッティングは変るというのに、条件のバリエーションが各段に大きい公道走行で「万人にとってベストのセッティング」なんてものがあるわけがない。おまけにレースならばラップタイムという絶対的な判断基準があるが、公道では「気持ち良い」が唯一の判断基準。本来セッティングというのは「乗り手にとって最良の妥協点を見出す」行為だということを忘れないようにしよう。他人と同じセッティングにしたからといって、自分がその人と同じ感触が得られるとは限らない。


セッティングの原則

1.機能部品は完璧であること。

サスが抜けてるのにサスセッティングは出来ない。キャブの通路が詰まってるのにジェットを変えても無駄。エアクリーナーやチャンバーが詰まってたり、排気バルブワイヤーやキャブの同調が狂っているのは論外。セッティングは「調整」なので、すべての部品がきちんと作動していなければ無意味。

2.一回にいじるのは一箇所だけ

セッティングは原因と結果を結び付けていく行為。科学の実験と一緒。ということは一度に二つの物を変えると、どっちが原因だかわからなくなってしまう。2,3箇所を一度にいじって、たまたまその時に良い結果がえられても、次回問題が起こった時にどうしたら良いかの判断がつかない。


3.わからないときは大きく動かす

セッティングに慣れていない人だと小さな差がわかりづらい。大きく振ってやれば良くなったか悪くなったかの判断くらいはできる。どっちかわからない状況で変更するときには、キャブなら濃い目、空気圧なら高め、サスなら硬めが原則というように、まず安全な方向にふってやる。
まぁ、下手な絵で申し訳無いが、黄色いところがベストであるとすれば、そこへたどり着くまでの道のりはこんな感じだ。
1から大きく2に振ってやる。それでも具合が悪ければ、1と2の間に戻す。3にしたら少し良い感じになっり、4にしたら更に良くなった。そこで、同じ方向にさらに変更を加えると悪くなったので、さっきの4がベストだとわかる。

4.常に記録を残す。

記録で最も大事なのは「どう感じたか」ということ。モチロンなにをどう変えたか、そのときの状況(どのような道で、気温何度といった基本的なこと)を記録するのは当然だが、次に不具合が出たときに、もっとも役に立つのは、その時の自分の感触。これを蓄積していくと、「リヤサスが硬いと操縦性はこうなる」「メインジェットが濃いと、回転はど〜なる」といった感覚を身についてくる。


各論1:キャブセッティング

ジェット類をいじることから、「ジェッティング」とも呼ばれる。キャブレターの役割はガソリンと空気の混合であり、その混合比率(空燃比)を適切に保つために燃料流量を決定するのが各ジェットおよびニードル。空燃比が適切でないとエンジンの回転がもたついたり、異常燃焼によりエンジンにダメージを与えることとなる。チャンバーを換えたり、吸気系をいじった時には空気の流量が変るのでキャブのセッティングを変更する必要がある。
ガンマの場合にはスガヤのチャンバーを装着し、エアクリーナーエレメントの芯とエアダクト内の金網を抜くというのが吸排気系変更の定番のようだ。このあたりまでなら気温や湿度の差でジェットが大きくずれることはないが、エアクリーナーエレメントを取ったり、直キャブにした場合には季節の変化によりリセッティング必要になるなど、よりシビアになる。
キャブセッティングをする前に、
・エアクリーナーエレメントやチャンバーに詰まりがないこと
・排気バルブが正常に作動していること
・キャブ自体に異常がなく、キャブの同調やワイヤーの遊びの調整がなされていること
を確認する。
ジェッティングが薄くても濃くても同様の症状が現れることがあり、経験が少ない場合には判別が困難なことも多いので、エンジンにダメージを与えないためにも、まずは濃く振ってみて症状の変動を見るのが基本。

症状診断
フィーリングによる診断
基本的に濃いときはトルク感はあるが回転の上がりが遅く、薄い時にはトルク感が無いが回転上昇が速い。低いギアでは判別しづらいが、エンジン負荷の高い高いギアでより顕著な症状が出やすい。症状の出方はスロットルの開け方でも変り、ゆっくり開けた時と一気に開けた時での感触の差を見る必要がある。

燃焼状況による診断
基本的にキャブセッティングの濃い薄いはピストンヘッドを観察して決定する。エンジンを最高回転まで回した状態でキルスイッチによりエンジンカットし(プラグチョップ)、その状態でのヘッドを観察する。ヘッドの状態は濃い順から
・全体に黒く、表面が湿っている
・中心部分だけが乾いている
・中心と排気ポート側が乾いている
・表面全体が乾き、キツネ色になっている
・吸気側の表面にブツブツができている(デトネーション)
・吸気側から排気側までのピストン円周部にデトネーションがみられる

となる。もちろん全体に乾いてキツネ色になっているのが最適状態。
ピストンヘッドはシリンダーヘッドを外さなくてもプラグ穴からペンライトで照らし、排気ポートから観察することができるが、ピストンヘッドの焼けをみるためにはピストンヘッドを常に清浄しておかねばならないので、一般車輌で行うのは困難。
代わりの手段としてプラグの焼けを見ることがあるが、ピストンヘッドの状態に比べると得られる情報量は少ない。
使い古したプラグでは焼けの判断は出来ないので新品プラグを用い、中心電極だけではなく中心電極基部の陶器部分の状態も観察する。白く乾いていれば薄く、黒く湿っていれば濃いというのはヘッドの場合と同様である。
エンジンが好調の時にプラグチョップ後の状態をチェックしておけば、後の判断の基準となる。


ジェットの変更
各スロットル開度におけるジェットの影響効果は以下のとおり。

スロットル開度
0  1/8  1/4  3/8  1/2  5/8  3/4  7/8  全開
エアスクリュ ■■■■
パイロットジェット ■■■■■
ジェットニードル
ニードルジェット
    
メインジェット                    

ニードルジェットとジェットニードルは影響範囲が近いので、両方同時に変更すると効果判定が困難になる。また、ジェットニードルのクリップ段数変更は一段がニードルジェット2番以上の変更に相当するほどの影響がある。ガンマの場合、キャブパーツとして入手可能なのはパイロットジェット(PJ)とメインジェット(MJ)、ジェットニードル(JN)とニードルジェット(NJ)だが、JNとNJは400用と500用の2種類しかなく、実際にはエアスクリュー(AS)、PJ、MJによるセッティングとなる。
現実にはこの図のようにきちんと効果範囲がわかれているわけではなく、実際は各ジェット間での相互の影響がある。
つぎにエンジンフィーリングとジェットの関係を書くが、あくまでも基本的な例であって、実際には単純な判断は出来ないことが多い。時に薄くても濃くても同様の症状があらわれることがある。また、PJやMJを大きく外している場合には相互に影響を与えることもある。
フィーリングからの判断は経験と慎重さが必要となる。

メインジェット
メインジェットはアクセル開度3/4から全開でのガソリン流量を規定しているので、その状態を高いギアで把握するのは高速での判断となるので、十分な安全とパトカーの確認が必要。
スロットルを3/4から一気に開けた時に頭打ちのような症状がでるが、ゆっくり開けるとバラツキながらも回転が上昇する場合にはガソリン量が足りていない(薄すぎる)ことが多い。この場合はガス欠に似た回転のバラツキが感じられる。
回転上昇は早いが、昇り坂や向かい風のような高負荷時のみに回転の上昇がもたつく(トルク感が無い)場合にも薄いことが多い。
逆に、回転上昇は遅いがトルク感がある場合でトップエンドでの頭打ちが若干早い場合には濃い。
濃すぎる時と薄すぎる時には同様の症状が出る場合があるので、プラグやピストンヘッドの状態も観察し、まず濃いほうから試してみる。

パイロットジェット
まずエアスクリューを規定値(1 3/4回転戻し)に合わせ、スロットルを若干(タコメーターの針が動かない程度)開けた状態で固定し、エアスクリューを上下させて回転の変化を見る。基本的には締めこんで回転数が上がる様であれば薄く、緩めていって回転数が上がるようであれば濃い。MJと異なりPJの場合はエアスクリューとPJの番数で空燃費が規定されるので、濃いか薄いかはエアスクリューの位置を規定値から1/2回転程度前後させて変化の状態を見ることで傾向を把握することができる。1/2回転程度の調整で好調にならない際にはPJの交換が必要となる。PJを交換した際には、再度ASの調整が必要となる。
PJおよびASの調整が必要となる症状は、発進から中間回転域でのエンジン特性。発進時にトルクが薄い、ドンつきが出る、中間域での回転の上がりが遅い、バラツクなど。

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