SIEM REAP
7日目真っ赤な土埃にまみれて

 朝5:00前起床。夜マジで暑い。ほんっとに暑い。蚊帳が暑さを篭らせているようにさえ思える。オマケに裏のカラオケの音がバク音。そういえば歌謡曲みたいなのに混じってエアロスミスなんかも歌ってたなあ。しかし、その音よりも強烈なのが「泣きトカゲ」。初日の夜からどうも外で人の声がするなあ、いったい何言ってるんだ?と思っていた。その実体はこうである。「オゲーッ、オゲーッ、オゲーッ!」。朝になって人にきいてみると、どうやら「泣きトカゲ」の鳴き声だというのだ。この鳴き声は強烈だ。旅行の中で聴いた一番奇怪な音である。
 5:30にバイタク野郎2人の待つ玄関へ。待っているはず・・・いない。一人しか。T原さん専属兄ちゃんしかいないやんけ、ヴィチェットがこない。スッポカシか!?しばらく待ってもこないしサンライズに間に合わないので、3人乗りでアンコールワットに向かう。原チャリなのに大丈夫か?と思うかも知れないけれど、アジアでは至って普通。4人乗りだっているのだ。私は真ん中に挟まれ、まさにサンドイッチ状態。しかしこれはキツイ。

 遺跡見学3日間の最終日。アンコールワットは人もまばら、今日はホントに人がいない。W辺くんは三脚をもってポイントを探し歩いている。ワタシタチもそれぞれ思うままにサンライズポイントを探す。アンコールの後ろからだんだん光が漏れ、眩しいくらいに黄金の・・・とまでは行かなかったけれど光輝く太陽が昇ってきた。言葉がない、ただただ眺める。
 今日はちょっと遠出して少し離れた遺跡「バンテアイスレイ」を見に行くため、サンライズの後すぐにワットを出る。ヴィチェットがいた。バツが悪そうにニヤッと笑っている。「What's your job?」と皮肉を言うと「I'm driver.」とちょっと怒ったように言った。おいおい、お前が遅れたんだろうに。「昨日ナイトクラブに行ってとても遅かったんだ。」あんぐり。やってくれるぜ青春野郎ヴィチェット。それでいい子は見つかったのか?

 バンテアイスレイはバイタクで一時間弱の所にある。昔は旅行者が行くのは禁止されていたし、ちょっと前はポリスを雇っわないと行けない場所だったそうだ。今はもう解禁になったけれど、それでもまだなんとなく恐い気もする。「バンテアイスレイに行くときは覚悟した方がいいですよ、全身真っ赤っかになりますから」と前日W辺くんに言われた意味が解ってきた。道はひたすら赤く、バイタクは土埃をまともにかぶるのだ。車とすれ違う日にはもう逃れようがない。かなりダスティ。クローマを顔にぐるぐる巻いて、帽子、サングラスの完全防備。
 しばらく走ると景色は完全に郊外、何もない田舎だ。時折通る村もシェムリアップとは及びも着かないほど小さく貧しい感じだ。でも気持ちがいい。ふと見ると私はこんなに完全防備なのに、ヴィチェットと来たら帽子すらかぶっていない。よく目を開けてられるね、と訊ねると「ストロング・アイズを持っているのさ!」。スゴスギ。道みちGUNをぶら下げた兵士が歩いている。ビビっていると「大丈夫。俺が責任もって送り迎えしてやる!」偉いぞヴィチェット、かっこいいぞヴィチェット(でもホントか?)。

 楽しいドライブも終えて到着。身体をはたくと誇り、いや埃が。バフバフである。すぐさま食堂に入って腹ごしらえ。お腹スキスキである。ここに来るともう英語も通じない。厨房に近づいてT原さんと「アレとアレ」と指で指してオーダー。先に出してくれたスープ、これが無茶ウマ!期待できる!と出てきたのは白飯の上にトマトのスライスとフライドチキンがのったものだった。とてもおいしく頂いた。周囲の人がワタシタチに注目している、ちょっと恥ずかしい。昨日もそうだがホリデーだからジモティが多いのだ。
 ここバンテアイスレイは素焼きのような赤っぽい遺跡で、所々色が緑だったり黄色だったりピンクだったり色相が多彩ですばらしく、かつてフランス人のナントカという著名人が惚れて盗んで捕まったという女神の彫刻も素晴らしい。けれど何せ人が多い。芋の子状態なのだ。遺跡に上がって「ハイポーズ」しているクメールの方々が沢山いる。そのせいか情緒があまり感じられず・・・プレループや東メボンをまわって午前の部終了。

 エクスチェンジをして隣のタケオGHへ。S木さんとW辺くんがいる。いつもビールしか頼まないのでお姉ちゃんが私の顔を見るとすぐに「BEER?」とニッコリする。今日は「ココナッツシェーク」にしてみる。南国だけ合ってシェークの種類も多い。「スペシャル」と名が付く怪しいシェークがあって、W辺くんがお代わりのときにそれを頼んでくれた。飲ませてもらった。「×●△■」うーん、スペシャルなだけ合って味もフクザツ。4人でバンテアイスレイの報告や今までの旅の話などして和む。S木さんはどうやら1年弱旅を続けていてヨーロッパから東へ移動してきているという事だ。「飽きてこない?」とみんなに聞いている。彼はもう飽きてしまったのだろうか。それにしても1年弱旅しているようには見えないこざっぱりした人だなあ、絶対珍しい。しかもH似てるし。

 午後の部再開。プリア・カンへ。T原さんのバイクが見えない。どうしたんだ?先に着いて待ってたけれども全然来る気配がないので先に遺跡へ入る。ここはまさに埋もれた遺跡。人間の手が入っておらず、風化して自然が浸食したそのまんまの状態で放置してあるのですごい迫力だ。カッコイイ。が、鬱蒼としていて静かで、自分が世界に忘れられそうな気がしてちょっと恐かった。芋の子のバンテアイスレイに比べると100倍も雰囲気がある神秘の遺跡。歴史を口にするのは胡散臭いが、ここには確実に時の流れが、とてつもなく長い年月が石にしみこんでいる様に感じた。一通りみて出口に出ると、ばあちゃん二人が果物(グスベリみたいな緑色の鈴なりの果実)を売っている。手招きで来い来いといわれ、つい近寄って見てみる。一体どんな味なのだろうか?果物とにらめっこしていたら、ばあちゃんが「くえ」と実を差し出してくれる。「すっぱい」。すると一人の青年に声をかけられた。「チャイニーズ?」「ベトナミーズ?」私は日本人に見えないのだろうか?聞くとその子はバッタンバンからホリデーで来ているらしい。笑顔が眩しい、いや、好奇心が眩しい。その子がおばあちゃんから果実を買うと、私に一房差し出した「あげる。」うう、こっちに来てからクメールに人にものをもらってばかりだ。国境の女の子からお花、アンコールの男の子から指輪。前みた遺跡で女の子から果物、そしてここでまた果物をもらった。

 ホクホクしながらヴィチェットの待つカフェへ。するとT原さんの姿が!どうやらバイクのタイヤが重量に耐えられずにパンクして、その修理に時間がかかってたらしい。入れ違いで私はカフェでお茶を濁す。ヴィチェットの友達が私にあるクメール後を話させたいらしく、賢明に「●×△■、ヴィチェット!」と言え、という。話す。ヴィチェットの顔つきが変わる。もう一回言う。どうやら「○ァック・ユー」らしきとてもお下劣で失礼な言葉だったらしい。あんまりヴィチェットが怒るのでしかたなく謝った。何故私が。ヴィチェット今日は最終日なんだぜ。さっきあったバッタンバンの男の子が手を振っている。トラックの荷台にヤマほど人が乗っている。多分親戚や近隣の人一同で来たのだろう、大所帯だ。彼は笑顔がステキだった、本当に目がキラキラしていたなあ。
 ゲストハウスまで送ってもらって観光終了。ヴィチェット、朝寝坊したが結構いいヤツだったのでチップを上乗せしてあげちゃった。最後に記念写真をとるが、みんな決め決めのポーズをするのが面白い。3日間ありがとう。でもちゃっかりしてるよなあ、まったく(笑)。それもそうか、彼らはこれの繰り返しなんだからさ。

 W辺くん、S木さん、T原さんとシェムリアップ最後の晩餐、いつもの屋台へ。そこで同席になったお兄ちゃんがいた。職業はポリスらしく色々話しかけてくる。手帳も見せてくれた。でもクメール語なので何を言っているのかサッパリ解らない。ここでS木さんの才能とも言えるコミュニケーション術が始まった。普段はツラッとしているS木さんがノートを取りだし、何だかものすごく難しい漢字熟語を書いてこの通りに書いてみて、とかやっている。「憂鬱」だったかな?ポリスは一生懸命書いている。かなり近い!盛り上がる!S木さんは全て日本語でこのポリスとコミュニケーションを交わすどころか、かなり盛り上げてしまった。うん、すごい。日本語しか話せなくても何とかなるというお手本を見せられた気がした。
 タケオGHでその後ちょっと飲み、私は明日が早いので退散。みんなもプノンペンへ向かうというのでどうせまた向こうで会えるだろう。それにしても面白い人たちばかりだなあ。

 シャワーを浴びたら茶色い水が流れていくのが見えた。シャツもズボンもカバンも靴も真っ赤っか。
 明日はいよいよプノンペン。ちょっとコワイけど、カンボジアの首都へ、いざ!

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