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最終日(2月17日・日曜日)

 モーニングコールは8時なのだが、その前に起きてしまった。昨日の夜遊びのせいで若干寝不足気味ではあるが、今日は本当に帰るだけなのだから、余裕である。荷物のパッキングもほとんど終わっているので、朝飯前にホテル付近を散歩してみることにした。

ホテルの部屋(20階!)から広州の町を撮影。

 

 ホテルのすぐ外は、大きな通りだった。車やバスがひっきりなしに行き交い、ネクタイを締めたスーツ姿の人も見受けられた。とはいえ日曜の朝8時だから、平日とは違った雰囲気なのだろう。でも、雲南省からは遠く離れた大都会であることは間違いない。信号が変れば人が歩き出すし、バス停にはお客さんが並んでいる。やってきたバスには多くの人が乗っている。まぎれもない大都会。

 ところが、ホテルの裏手にまわってみると、そこには普通の個人商店が立ち並ぶ気さくな町だった。自動販売機があってジュースを売っている。開店準備をすすめるお店、すでにお客さんが入っている店、シャッターの閉った店。周囲には住宅や高層アパートも立ち並んでいるので、中国人の日常は、きっとこれらの店を中心に回っているのかもしれない。そう思うと、いろいろ覗いてみたくなった。

 まず、おみやげ用にときれいなパッケージのタバコを購入。それが8元7角(今さらですが。中国の通貨は、1元=10角=100分となっていて、元を境に小数点を打って表記する。タバコ代8元7角を例に取ると、値札の表記は8.70となる。以下、これに従います)だった。日本円で146円。次に駄菓子屋さんに入ってチョコを購入、5.00元(=84円。あとで食べてみたらチョコの味がぜんぜんしない、なんかの脂の固まりみたいなシロモノだった)。砂糖菓子は6.50元(=109円。いろんな野菜の形をした正月の風物詩的お菓子。でも単に甘いだけ)。そしてそして、僕の海外旅行恒例となったペプシコーラ(中国語だと“百事可楽”)を購入。見なれた350ml入りの、普通の缶のペプシである。これは2.50元(=42円)なのだが、ペプシってこんな味だっけ?という気がする。それにしても、こんなことは最終日の朝にすることではないような気がするが、着飾っていない素顔の中国をやっと垣間見ることができたのだから、楽しくてしかたがない。そういえば生活必需品を売る店に入ったのは、これが最初だった・・・?ちなみにペプシは自動販売機でも売っているのだが、5元札か10元札しか使えないのでご注意を。

広州の町角の信号機。中央の数字が時計で、あと何秒で変わるかをカウント
ダウンする。“残り数秒”になるとかえって危険なような気が・・・
ちなみに、麗江や昆明でも見かけた。

 

 ホテルでの朝食は、お粥こそあったものの、米線なんてモノはもちろんなかった。味も雲南とはかなり違う。どこがどう違うかと聞かれても困ってしまう(ホテルのバイキングの朝食だもの)が、どれを食べてもハズレがない。ただ、雲南のような個性が見えないというのは言い過ぎだろうが、日本でもそんじょそこらで食べられる味つけのような気がした。ただ、中国で初めてコーヒーをおいしく感じたのはこのときだった。

 もうすぐ10時半というときに、広州・白雲国際空港に着いた。広州では新空港の建設が始まっていてもうすぐ完成するとかで、現在の白雲空港は団地になってしまうという。だから内装もきれいにしないのだろうか、もうすぐお役御免という空港は、見れば見るほど古ぼけていた。

 それにしても、この空港では国内線に乗るだけでも一苦労である。僕たちは香港トランジットで帰国するわけだから、広州から香港までという国内線に登場するのだ。・・・いや、香港では乗り換え扱いだから、ここで出国審査もしているのだろうか?とにかくやたらとパスポートのチェックが厳重なのである。日本のパスポートは精巧な偽造が出回っているので、チェックにこんなに時間がかかるのだとか。それは仕方ないと思う反面、金属探知機も容赦がない。僕は大丈夫だったが、乗客の半数はひっかかっているのではないだろうか。あっちでピンポンこっちでピンポン。

広州・白雲国際空港にて。天井が低いから狭く見えます。

 

 12時に出発のはずが、25分も遅延した。昨日と同じ南方航空である。香港での乗り換えに支障をきたすような遅延ではないのだが、僕はちょっと気に食わない。というのも、広州から香港というのは、直線距離で150kmほどしか離れていないのだ。もし新幹線でもあれば、1時間という距離である。高速列車もポンポン走っているそうなので、定時に運行してくれなきゃ飛行機に乗った意味がないような気がする。では最初から列車で行けばいいとは思うのだが、香港はいまだに外国扱いみたいな部分があり、列車で移動すると入国審査が必要になってしまうとか。さらに大陸と空港間は線路が直通していないので、乗り換える必要もあるとか。その手間を省いての飛行機なのだが、やはり遅延は面白くない。で、やっとこさ乗った中国南方航空303便は、B757という中型機だったが、機内は大混雑だった。飛行時間はわずかに50分とのことだが、あまりの近距離路線だからか、離陸前にドリンクサービスが始まった。そんなバカな!

 香港・チェクラプコック空港は、とんでもなく広い空港だった。成田を基準にしてしまうとどこでも広く感じるのだが、この空港は新しく作られた空港なので、すべてがゆったりしていて、余計に広く感じられる。延々と歩いてトランジットの窓口へ。もう出入国の審査があるわけではないから、気分的には楽なものだ。ところが、現在僕たちがいる“到着フロア”から“出発フロア”に移動するときに、パスポートと航空券を示した上で再び手荷物をX線にかける必要があった。それも、僕が首から下げているボールペンまで!職員もやたらピリピリしていて、あまりの厳戒ぶりはちょっとカンジが悪い。

香港・チェプラクコック国際空港の出発ロビーです。こちらは広い!

 

 まだ成田行きの飛行機の搭乗まで時間があるというので、いったん解散することになった。お店がいっぱいあるので好き勝手に見てよし、ということである。僕はショッピングにからきし興味がないし、そもそも昼めしがまだだったので、とりあえずレストランに入ることにした。ところが、お土産物屋がいくらでもあるのに、食べ物屋がほとんどない。結局、セルフサービスのなんでもレストランに入ることにした。

 メニューは写真入りで、日本語表記もたまにあるのでわかりやすい。セットメニューもいろいろあったのだが、軽くサラっと済ませようと思ったので、ヌードルを食べることにした。それと、ビールを1本飲んじゃえ(あっ、僕の好きなサン・ミゲル発見!)。さてお会計は・・・お会計・・・ここは香港・・・もしかして・・・料金は香港ドル払い!?僕は1セントも香港ドルを持っていない。いや、ここは空港内だから、僕が持っている中国元でも支払いはできるだろう(米ドルも持ってたし)。でも、レートがわからん!ビールが23香港ドル、ポークヌードル(要するにチャーシューメン)が45香港ドル、合わせて68香港ドル。とりあえず100元札を出してみると、係のお姉さんはOKと言ってレジを打ってくれた。換算すると77.28元(=1293円。かなり高いなあ)、とりあえず足りた足りた。しかし、お釣は香港ドル。いったいいくらなの?

 マシなカップ麺程度の味だったラーメンをとっとと食べて、とっとと店を出た。しばらくぶらぶらして、日本では見られない珍しい飛行機(エルアル・イスラエル航空機やオリエント・タイ航空機など)の撮影なんかをして時間を潰す。さらに免税店をも冷やかすが、なかなか時計は進まないものだ。ついついクッキーなんかも購入してしまったが、再びお釣を香港ドルで受け取り困惑。しかも、小銭までついてきた。あれ?さっきはくれなかったのに?ちなみに、帰国後の平成14年3月上旬のレートで、1香港ドル=17.38円でした。

 15:40、ついにJAL734便(B747-400)への搭乗が始まった。中国大陸とのお別れである。またいつかこの土地を踏むことになるだろうけど、また勉強し直してくるよ・・・などと感傷にひたる予定だったのだが、客室乗務員さんに東京の天気を何気なく聞いたら「雨、5度です」と宣告されてしまい、気が萎えてしまった。香港は気温20度以上である。

 往路よりも機内はガラガラだった。こんなに空いている飛行機は、日本国内でもお目にかかったことはなかったほどだ。出発前にとっとと席を移動し、窓際を確保した。のんきに外を眺めていると、客室乗務員さんのサービスは至れり尽せりである。アルコールはワゴンサービスでなく、注文を取った上で持ってきてくれるのだ。そこまでしていただくと、さすがに恐縮してしまう。

 楽しみにしていた機内食はカレーライスだった。配膳されるのを待っている間に香りが立ちこめ、まさに垂涎。カレーの香りに郷愁を感じることはないのだが、そういえばカレー系の香りにごぶさただったことに気づく。味もどうして、機内食らしからぬ美味!舌鼓の乱れ打ちだ。食後は、往路と同じくまたしても落語を聞いてくつろいだのだが、おもしろい(テツ&トモいいね!)のでどんどんアルコールが進んでしまう。ビールを飲み、ワインを飲み、ウィスキーを飲み、“機内ではアルコールを控えましょう”という旅行常識を完全無視。もっとも、絡む相手どころか話し相手さえいないのだが。

 成田に到着したのは、ほぼ定刻の20:27だった。雨のそぼ降る日本は、気温6度とのこと。自分勝手なもので、日本とはずいぶん違う中国の雲南にいるんだな、と思ってからわずかに数日。僕は、雲南とはまったく違う日本という国にいるんだな、という気がしてならなかった。

 

あとがき

 わずか6日で、広大な中国の何が分かったのだろう。これが、現在の率直な感想である。この旅行記でさえ雲南省に限定した内容なのに、我ながら腑に落ちていない。中国がイマイチわからないのだ。この疑問は、旅行中から感じていた。目に見るもの、耳に聞くもの、舌で触れるもの、体で感じるもの・・・どれも、“僕が求めているもの”を感じ取ってはくれなかった。これも違う、あれも違う。それは僕が求めていることじゃないけどさ、というのは理解できていた。

 じゃあ僕は何を求めて中国に行ったのだろう?文化には触れることができた。中国人と中国語で(ちょっとだけど)しゃべった。写真もたくさん撮った。笑った。アセった。雰囲気はわかった。空気は・・・空気?・・・空気だ。そう、僕は“中国のにおい”がわからなかったのだ。

 においを言葉で説明するのは難しいけれど、タイにしろ、ネパールにしろ、ブータンにしろ、どこでも強烈な“その国のにおい”を感じることができた。不思議なもので、どの国にもその国独特のにおいが存在し、そのにおいが僕の中でその国を決定づけていた。このにおいがこの国なんだということに気づけば、僕の中でその国がわかったように思えたのである。ところが、中国ではこれといったにおいを感じることができなかった。まさか、僕がさんざん花粉症に悩まされて出国したから・・・?

 ひょっとしたら、僕の求めるにおいというものが、モトから中国に存在していないのかもしれない。僕がにおいを求めるのは、中国を他のアジアと比較してしまっているからだ。中国は中国であり、他国は他国のはずなのに、どうしても自分の少ない経験を比較させてしまっている。それは本当に無意味な行為だと思うのだが、どうしても“その土地のにおい”を感じたくて、僕は旅に出たいと思うのではなかろうか。こんなことを考えてから旅に出るわけではないのに、帰ってきてからことさらに考えてしまうのが、本当に不思議なものである。

 さて、今回の旅行もいろいろな方にお世話になったが、ここではこうぶん先生とNewさんに代表してお礼を申し上げることにする。感謝しています。

2002/4/07

 

2002雲南ノート・完

 

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