2005九州ノート



2005年2月24日(木)



東京(1656)―小倉(736) 1 寝台特急富士 東京→大分


 東京駅はカメラを構えた人々で混雑していた。あと4日で伝統の寝台特急「さくら」と「あさかぜ」が廃止になってしまうのだから、ファンが集まるのも当然だろう。僕が乗るのは廃止されない「富士」だが、カメラテストなのか、ついでに撮影なのか、実はこちらがお目当てなのか、皆熱心にカメラを構え、デジカムを回している。何の気ナシにぱちぱち撮影している僕が一番不真面目だ。

寝台特急「富士」の正面。(翌朝の下関駅で撮影)。


寝台特急は荷物の運搬もします。下関行きの週刊新聞が目立ちました。東京駅にて。


 今年の九州旅行で九州内のJR全線に乗車する――去年から描いていたシナリオである。そして九州までは寝台特急「富士」の個室利用なのだから、気分が高揚しないわけがない。ところが僕は東京駅を出発すると同時にさっそくビールを傾けているにもかかわらず、旅なんかしていいんだろうかという自問自答を繰り返していた。それもこれも、出発10日前にインフルエンザにかかって丸一週間ほど寝込んでしまい、やるべきことをまったくできなかったのが原因である。本来なら用事をやりたおしてストレスを溜めるだけ溜め、この旅で一挙に発散させるはずだったのだが、何もやってない(=寝込んでいたから)クセに旅行なんてという自責の念が、どうしても消えなかったのだ。通過する駅ごとにホームに見える会社員を見るだけで、遊んでいていいのかという強迫観念が襲ってくる。検札に来た車掌に聞いたところ、今日は個室こそほぼ満室(2両)だが、開放B寝台(8両)はガラガラなのだそうだ。世間様は遊んでいないのだ!ぼんやりとした圧迫感と戦っていたためか、なんだかちっとも酔わない気がする。だが飲み足そうにも車内販売はないし、自販機にもアルコール類が置いていない。シャワー室や食堂車といった気分転換になる設備もない「富士」の車内で、僕は悶々としていた。

個室のきっぷはこんな感じ。僕が乗ったのはB個室「ソロ」。


一両丸ごとくつろぎ空間のロビーカー。乗客そのものが少ないので閑散。



 布団に入ってもちっとも寝付けないままだった。ただでさえ沈鬱な気分な上、布団にくるまって寝るにはまったく小さな掛け布団である。こんなんでどうやって寝るんだよ、風邪引くんじゃねぇの?と怒りの気分さえ起こってくる。午前0時を過ぎて三ノ宮を出発して、ようやくウトウトとした。

 「富士」がガックンと停車する直前に目が覚めた。もう朝かと思ったら、時計の針は90分ほどしか進んでいない。我ながら神経質で小心者な性格がイヤになる。停車している揺れないスキに眠るというような、器用なことは絶対にできない。なかなか列車も発車しないので、僕は窓のブラインドを上げてみた。線路は国道の脇を通っているようで、道路はひっきりなしに大型トラックが行き交っている。こちらは……駅でも信号所でもないところに停車している。不思議なところで運転停車をするものだ。どれくらい止まったかわからないが、出発すると上りの「富士」とすれ違った。それを見た途端になんだか安心した気分になり、僕は再び眠りについた。




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