2005新疆シルクロードノート



はじめに

 のっけから大きな間違いを訂正しなければならない。僕は前回の旅行記で、仏教学を「フィールドワークをやらなくても済む専攻ではあるのだが」と書いた。これに続いて言い訳が続くという不気味な一文ではあったけれど、とにかく間違った記述であった。原文を直すわけにはいかないので、この場でお詫びして撤回したい。

 仏教学にフィールドワークは必要なのである。先人はどのように仏教を築いてきたのだろうか。文献を読むとわずかにたった1行の記述かも知れないけれど、文献が記された現場を見ないと「仏教が生きてきた世界」がわからないのである。仏教がインドから日本に伝わるまで、数百年という時間と数千キロの距離があった。その間、味も素っ気もなく仏教が何かの交通手段によって運ばれてきたわけではない。いつ、どこで、何があったのだろう。それを見たいと思った。

 なんでいまさらこんなことを考え始めたのであろうか。これは、まさに「シルクロードに行かない?」と誘われたことがきっかけに他ならない。シルクロードと言えば、某国営放送でずいぶん昔から放送されていて、僕が物心ついたころにはすでに喜多郎作曲のテーマ曲がすり込まれていた。親が見ているからという理由で、なんとなく僕もずるずると見るようになって、いつしかシルクロードがわかったような気になっていたのである。

 そうじゃないだろ!と思い直すまでずいぶん時間がかかってしまった。暑いとか寒いとか遠いとかなんとか、行ってみないで好き勝手なことがどれだけ言えるのだろうか。お恥ずかしい限りではあるけれど、とにかく自分でシルクロードを体験してみたいという気になったんだからカンベンしてほしい。この「ノート」は僕の「ノート」で、今さらウソを書いたりする場ではない。3年ぶり2回目の中国は、自己反省と「徹底的にフィールドワーク!」が目的である。矢野顕子だって歌っていたじゃないか。「Steppin' into Asia. Don't be afraid.」と。



旅の準備

 例によって『地球の歩き方』を買って予習する。僕がこの本で信用するのは「気候データ」と「人口とか標高とか」という、自力で調べりゃ本を買う必要のないものばかりである。でもめんどくさいから買っちゃう。すると、海からとにかく離れているので大陸性乾燥気候、昼間は暑くて夜は寒い、ということばかりが目立つ。気温を見ると、数字上は日本より若干涼しそうなのだが、どうせ“平均”なんてアテにならないのは百も承知だ。そこでいきなり「昼間は暑い」に賭けることにして、服の枚数を減らしに減らしてみた。寒かったら出発から帰国まで同じ服の覚悟だし、そもそも「寒い夜」に外を歩き回るスケジュールはない。たぶんなんとかなるだろう、という安易さである。というわけでいつもの小型スーツケースに荷物を詰める。さすがに8日間の旅行というと、僕としてはかなり荷物が多かったのだが、案の定ツアーのなかで僕の荷物が最軽量だった。



日程について

 今回の旅行は、諸般の事情から基本的に「行き先不明、予定は未定」というとんでもなさである。事前にいただいた日程表はどうせ役に立たないに決まっているのだ。なんで?とか聞かないでほしい。なんせ僕たちが発注した旅行、フツーのツアーみたいに「旅行社が設定したところに連れて行っていてもらう旅」じゃなくて、「僕たちが見たいところだけしか行かない旅」なのである。ちなみに僕が注文したのは、本来ボツになるはずだった「火焔山」。詳細は第6日をお楽しみに。

第1日(9月29日)
 成田→北京→ウルムチ、基本的に移動日。(ウルムチ泊)
第2日(9月30日)
 ウルムチ→カシュガル、カシュガル市内観光。(カシュガル泊)
第3日(10月1日)
 カシュガル→クチャ、タクラマカン砂漠横断バスの旅。(クチャ泊)
第4日(10月2日)
 クチャ郊外観光。(クチャ泊)
第5日(10月3日)
 クチャ→コルラ、バスの旅後半戦。コルラ郊外観光、深夜トルファンへ(車中泊)
第6日(10月4日)
 トルファン郊外観光、ウルムチへバスの旅3回戦。(ウルムチ泊)
第7日(10月5日)
 ウルムチ市内観光、西安へ。(西安泊)
第8日(10月6日)
 陝西省博物館見学→北京→成田。 (帰国)



この「ノート」のお約束

 例によって、中国語表記が出てきた場合は「カッコでくくって言語に近いカタカナ書き」をする。しかし、そのまま読んだってまず通じないことを絶対に忘れないでほしい。『地球の歩き方』にも旅の中国語がざっと出ているけど、発音が独特なのでどうせ通じないから、筆談するなり本を見せて教えてもらえという乱暴さだ。

 でも、僕はめげずにしゃべることにする。通じなかったところで、勘違いされて現地人の気分を害する以前に「意味不明」扱いで終了というだけだ。それに、もう何年もマジメに中国語を勉強していないのである。通じなくて当然なんだから、逆にどこまで覚えているか、ぶっつけ本番で試すにはいい機会である。目指す方向が根本的に違っていることに気づいたのは、出発後の話。



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