水沫流人,幽,怪談文学賞,長編部門優秀賞,小説,七面坂心中,ダ・ヴィンチ,ダヴィンチ,ダ・ビンチ,ダビンチ,みなわりゅうと,審査員,岩井志麻子,木原浩勝,京極夏彦,高橋葉介,東雅夫


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水沫流人の水散歩(2) 〜東久留米〜


 西武池袋線の東久留米へ。
 まずは湧水地として知られた竹林公園をめざす。
 駅前は南側へ延びる道路ぞいにマンションなど立ちならび、思った以上に都会的な印象。が、東側へそれてゆくにつれ道は狭くなり、閑静な住宅街のなかを蛇行しはじめる。以前は農道だったのだろう。
「そうそう、これでなくちゃ」。気まぐれな散歩者にとって、無機的な都会風の街なみよりも、ローカル色の濃い風景のほうが、はるかに心躍る。
 とはいえ、今のところなんの変哲もない住宅地。オドロオドロしげな地霊も現れなければ、水にまつわる過去の記憶が噴出するきざしもない。そうしたモロモロを渉猟する旅と称して始めたこのコラムだが、ほんとうに大丈夫なのだろうか? まあ、足まかせ、風まかせ、水まかせで、のんびりやりましょう。

 竹林公園は約4000平米の敷地内に2000本ほどの孟宗竹が生えている。高さ10mくらいの崖が敷地を階段のように分かち、崖下の部分から水が湧きだしている。
 こうした地形をハケという。武蔵野の台地が低地部分へと突きだし、ライン状になった崖のこと。そこから清水が湧き、昔は貴重な生活用水として利用され、今でも地元の名水地として残されている。
 見れば、まさにそんな「ハケ」から泉がこんこんと湧き、おあつらえむきにベンチまで置いてある。そこへ坐り、駅前のコンビニで購入したパンと缶コーヒーをとりだした。食べようとしてふと見れば、すぐ眼の前に石の祠が。
 なんとなく森厳な感じがして、食べる前に手を合わせた。昔、ある人からエタイのしれないものに対して気安く拝むものではない、下手すりゃタタられるゾと忠告されたことがある。しかし「水風景」を探す旅の始まりでもあるし、いちおう敬意を払っておくことにした。さて、吉と出ますか兇と出ますか。
 と、後ろのほうでドスドスドスと奇妙な音。あっ、さては早くも土地神様のお出ましかと思いきや、60年配のオッサンがジョギングをしているのだった。
 もの好きにもアップダウンの激しい狭い園内を何度も周回している様子。竹ヤブの中よりも外の広い空間で走ったほうが気持ちよさそうなのに。コーヒーを飲もうとしたとき、むこうと目が合った。あちらも、こっちを変な奴だと思っているに違いない。さっき僕が拝んでいたのを見ているはずだ。
 ベンチに坐っている間、オッサンはドスドスドスと3周する。いっぽう僕のほうはパンを食うより先に、体の3カ所を蚊に食われていた。


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水沫流人(みなわ・りゅうと)
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