METライブヴューイング  2009年1月10日〜16日上映

第4作  ジュール・マスネ作曲(1842年〜1912年)『タイス』


1月12日 成人の日 さいたま新都心の「MOVIXさいたま」で映画鑑賞です。
昨年のMETのシーズンはグノー作曲「ロメオとジュリエット」を紹介させていただきました。
今回のシーズンは昨年の9月にMET125周年の記念イベントでスタートしました。
日本で既に上演されたのは第1作目はリヒャルト・シュトラウスの『サロメ』、そしてアダムスの『ドクター・アトミック』、ベルリオーズの『ファウストの劫罰』と続き今回がこの4作目です。

《主なる出演者

 タイス      ルネ・フレミング

 ニシアス     ミヒャエル・シャーデ

 アタナエル    トーマス・ハンプソン

 指揮       ヘスス・ロペス=コポス  

「MOVIXさいたま」の看板の前で

さて今回の新演出の『タイス』は、1978年、ビヴァリー・シルズが主役のタイス役を演じて以来30年ぶりということです。ソプラノ、バリトンともになかなか演ずる歌手がいなかったことが上演されなかった理由のようです。
そして今回は、大晦日の歌舞伎座でのオープニング・ガラでもすばらしい歌を聞かせてくれたフレミングがプリマを務めます。このオペラでもラクロワの衣装を6着も着ます。衣装担当の方へのインタビューではビーズやスパンコールなど縫い付けるのは全部手作業なので一着にかかる時間は120時間だそうです。プロポーションも美しいので妖艶な遊女であるタイスにぴったりです。

タイスの愛人のニシアス役はモーツアルトのオペラのタイトルロールで引っ張りだこのテノール歌手、ミヒャエル・シャーデです。柔らかい音色の美しい声の持ち主です。
アタナエルは先だって「椿姫」で競演のハンプソンです。僧侶らしい味のある声でせまって欲しいと私は思いました。勿論悪くはないのですが、歌い上げるばかりではなくて心の綾をもっと表現して欲しいと。

東洋的な音も随所に散りばめられており、オーケストレーションも雄大で初めて観たオペラでしたが興味深く鑑賞することができました。
タイスとアタナエルの二重唱もとても美しい曲でした。複雑なハーモニーは使われていませんが、柔らかい旋律で、穏やかでやさしく心に響いてきます。

人々を惑わしている遊女のタイスに神の永遠の愛、精神の愛のすばらしさを修道僧のアタナエルが熱心に説くのです。回心を迫るアタナエルが決心がつくまで外で待っているとき幕が降りて、誰でも知っているあの名曲「タイスの瞑想曲」が演奏されます。
単独では中学生の頃、「美しい曲だわ!」とレコードでよく聞いた記憶があります。オペラのどんな場面で演奏されるかも知らずに聴いていましたので、オペラのこの場面で聞くと美しくもせつなく、心を決めかねる想いなど複雑な心理状況が幾重にも交錯して人の生きる道の厳しさも伝わりいっそう胸を打ちます。
メトロポリタン歌劇場のオーケストラのコンサートマスター、デヴィッド・チャンが心を込めて弾きます。感情移入し過ぎてもいやらしくなりますし、品良く聞かせるのは難しいのに、大変良かったです。

タイスは一人になると今の生活の虚しさやこれから先美貌が衰えたらどうなるのかという不安に苛まれ苦しみ悩みます。
リヒャルト・シュトラウスの「バラの騎士」の元帥夫人も自分の老いを不安に想う独白の場面があるように・・・・。
私もそんな気持ちが少しずつ解る歳になってしまいましたものね。

最終幕でもタイスが天に召される前には何回もこの瞑想曲のメロディーが繰り返されます。
30日寝ることもなく修行に打ち込み、命を落とすことになります。
舞台中央で、椅子に座り落着いた面持ちで、歌い命尽きます。

さて今回の案内役はプラシド・ドミンゴでした。彼がメトロポリタン歌劇場にデヴューしたのは今から40年前だそうです。そんなになるのですね。でも今年の公演でも、2月に7回、チレアの「アドリアーナ・ルクヴルール」に出演となっています。今でも現役バリバリです。すごいですね!

次回の公演の演目は、プッチーニの『つばめ』です。
            2009年1月31日〜2月6日 1日1回上映