考古学のおやつ

ウェブにみる新潟中越地震と文化財・文化施設

萬維網考古夜話 第89話 3/Nov/2004

10月23日に発生した新潟中越地震は,中越地域に大きな爪痕を残しました。前代未聞の新幹線脱線や,山古志村の壊滅,全村避難,さらには水没の危機など,目を疑いたくなるような事態が起こっています。

地震発生直後,詳しい被害報道がもたらされるまでしばらく間があったとき,あまりの事態でなかなか情報が入らなかった阪神・淡路大震災を思い出して不安を覚えたものでしたが,残念ながら悪い想定の通り,その時を上回る威力を持つ地震によって,多くの方が死傷し,社会基盤が無残に破壊されてしまいました。

こうした中,インターネットの発達によって,自治体からの情報発信の手段を確保するとともに,阪神・淡路大震災の教訓に基づき,被災者支援のための重要な装置となっています。被災地ではインターネットへの接続もままならないのではありましょうが,口コミや報道(それぞれに長所と短所がありますが)ではカバーしきれない部分について,自治体ウェブの活躍は評価すべきでしょう。

住民生活に密着した行政を担う市町村のサイトを見ると,被災者の生活に関わるさまざまな取り組みが見られます。いくつかの自治体では,「入浴情報」を設けて,お風呂に困る被災者が入浴できる施設を列挙しています。また,幼児を保育所に臨時入園させる場合(もといた保育園に通えなくなったり,親が被災して子供を一時預けざるを得なくなった場合など)に,入園料を免除する案内が出ているところもあります。不幸にして亡くなった方がいても,被災地では火葬場が機能しておらず,自治体同士で連絡を取り合って,火葬業務を引き受けている例も見られました。ふだん大して気にしなかったことが,災害という状況下で,いつも以上に重要なものとなっていることがわかります。

災害ボランティアの募集や,必要な仕事の内容の発信などが行われている例も目に付きます。


このページでは,地元のウェブに現れた,新潟中越地震の被害状況を,主に文化財・文化施設に関してまとめてみました。今のところ,文化財や文化施設に対する被害報道はきわめて限られています。文化を生み出す主役である人間自身の生存が危機に瀕しているので,これは当然のことでしょう。公立の施設では,ひとまず施設を閉鎖し,職員を災害復興に当たらせているところもあります。そのような中で垣間見られる文化財・文化施設をめぐる被害状況は,全体のごく一部であろうとは思いますし,同様の試みはすでにあるだろうとも思いますが,目に付いた限りで挙げてみます。

展示施設のサイトを見ると,

のような例があります。最初の2つは,被害状況が推察できますが,後の2つは,偶然更新が止まっているだけなのか,それとも,あまりの被害で更新どころでない,ということなのか,判断がつきません。ここでは,被害状況が明記されているもの中心にを取り上げます。


長岡市

長岡市
科学博物館について,「復元土器が壊れるなど、展示物を中心に大きい被害を受けたほか、収蔵施設、研究室にも被害があり、展示施設の復旧、開館は当分難しい。
郷土資料館について「展示ケースが倒れ、寄託されている資料(兜や軸物)に大きな被害が出ている。」の記述があります。
長岡市立科学博物館/新潟県長岡市
トップページに地震後の状況が記されています。これは更新が再開した11月1日に登場した記述のようです。大災害の後の対応の例としても参考になります。
これによると,長岡市立科学博物館・長岡市郷土史料館・藤橋歴史の広場の3施設で展示資料に大きな被害が発生し,いずれも当分の間休館するということです。
博物館では本震の被害を受けた上に10月27日の余震で被害が拡大し,よく10月28日には博物館を閉鎖(単なる休館ではなく閉鎖)とし,博物館の事務機能は長岡市教育委員会の会議室に移されました。これに関連した内容は,財団法人山形県埋蔵文化財センターのサイトに設置された弁天掲示板で小林貴宏氏が報告されています。
新潟県立歴史博物館/新潟県長岡市
地震の後,10月30日に予定していたシンポジウムを中止,10月16日(土)から11月30日(火)までを予定していた秋季企画展「越後佐渡の古代ロマン−行き交う人々の姿を求めて−」も無期限で休止中です。
新潟県立近代美術館/新潟県長岡市
地震の後の経過が詳しく記述されているので,地震に負けず仕事を続けているさまがわかります。
10月9日(土)から11月23日(火)までの予定で「蕗谷虹児展−少女達の夢と憧れ−」を開催中でした。幸い作品・施設に地震の影響はなかったようですが11月5日(金)まで臨時休館しています。三和村福祉センター(三和村は2005年1月1日から上越市)で11月5日(金)から14日(日)まで予定していた巡回ミュージアムは中止し,11月2日(火)から7日(日)までの予定だった「美しいアルファベット カリグラフィーの世界」は来年3月8日から13日に変更になりました。
長岡造形大学/新潟県長岡市
産業デザイン・視覚デザイン・環境デザインの3学科と,大学院を設置している大学です。
トップページに記されたメッセージによると,大学には被害がなく,11月1日から授業も再開されているそうです。
11月2日(火)付の情報によると,11月21日(日)に予定されている入試(推薦,編入,外国人など)についても予定通り行われますが,願書の提出期間の延長を認めたり,群馬県高崎市・小野池學院を試験会場として新設したり,12月にも入試を行うことにしたり,という措置が公表されています。被災者は受験料が免除されます。
11月5日(金)から11日(木)までの日程で予定されていた「長岡造形大学教員作品展」は延期されました。

見附市

見附市教育委員会
震災被害による閉館施設」として,スポーツ施設のほかに見附市民俗文化資料館が挙げられています。
今井美術館/新潟県見附市
この度の中越地震の為 当館は当分の間 休館いたします。」の記述があります。

栃尾市(2006年1月1日から長岡市)

栃尾市美術館(2006年1月1日から長岡市栃尾美術館)/新潟県栃尾市
※美術館は、「平成16年(2004年)新潟県中越地震」のため一時休館します。」の記述があります。10月16日(土)から11月28日(日)までの予定で開催中だった「韓国現代陶磁展」も休止中です。

三島郡

与板町(2006年1月1日から長岡市)
与板町歴史民俗資料館で10月26日(火)から11月7日(火)の予定だった特別展が,「当分の間延期」になっています。

小千谷市

小千谷市
11月1日から保育園の臨時開園が始まっていますが,スポーツ施設は当面使用休止のままです。
なお,11月1日の朝日新聞東京版によると,被災した小千谷市の農家を支援するため,イトーヨーカドーは小千谷市産のユリ7千本を緊急輸送し首都圏の店舗で販売したそうです(プレスリリース)。
小千谷市立図書館
11月1日付けで,「新潟中越地震による災害のため、当分のあいだ休館いたします。開館の目処が立ち次第、告知いたしますので、もうしばらくお待ちください。」の告知が出ています。

十日町市

十日町市
11月2日付けの「災害情報」の中で,11月3日の「十日町市市政施行50周年記念式典」と,その後の「十日町市博物館名誉館長 梅原猛氏による講演会」が中止になったことが触れられています。
十日町市博物館/新潟県十日町市
2004年10月29日付けで「誠に恐れ入りますが、中越地震の被害による施設及び展示物のメンテナンスのため、当分の間、休館いたします。」の記述が載りました。報道によると,笹山遺跡(ささやまいせき)で出土した国宝の縄文土器が破損したそうです。
ミティラー美術館/新潟県十日町市
このサイトは衝撃的です。地震の被害とその経過が,写真入りで詳しく紹介されています。美術館の壁が崩れ,事務室なども壊滅状態です。「ボランティアと資金援助を募集中」の記述も見られます。
星と森の詩美術館/新潟県十日町市
展示に大きな被害は目に付かないようですが,屋外彫刻などに多少のずれが生じたり,石垣が崩れているそうです。当初は11月3日(水)に再開する予定でしたが,復旧までは無期限で臨時休館。10月8日(金)から11月29日(月)まで予定していた特別展「版画コレクターの視線展−銅版画を中心に−」も中止されています。

中魚沼郡

ドーム中里き☆ら・ら/新潟県中魚沼郡中里村(2005年4月1日から十日町市)
ショッピングセンター「Uモール」の中にあるプラネタリウム。
新潟県中越地震のため、11月の投影は中止いたします
なお、投影再開については、現時点では未定です
ご迷惑をおかけし、申し訳ありません
の記述があります
津南町
被害状況の一覧表を見ると,農と縄文の体験実習館なじょもんで土器25点程度,津南町歴史民俗資料館で土器27点が破損したことが書かれています。
農と縄文の体験実習館なじょもん/新潟県中魚沼郡津南町
10月31日から11月17日まで,小学生の「総合学習」の成果を披露する「子ども縄文研究展」が予定通り行われています。しかし,参加予定だった三島町・長岡市・十日町市・中里村の小学校が参加を見合わせたため,残念ながら津南小学校のみの成果発表になっています。
11月16日と17日に予定されていた「縄文子どもフォーラム 2004 in 津南」も,一時は中止の決定が下されましたが,11月2日付で新情報が追加され,十日町市の小学校が参加して11月16日(火)10時から津南町文化センターで開始されそうです。
なじょもんを応援するサイトである津南まるごと博物館の掲示板では,整理室の土器が破損したこと,「子ども縄文研究展」の準備の進行などが書き込まれています。

西蒲原郡(下越地域)

信濃川大河津資料館/新潟県西蒲原郡分水町(2006年3月20日から燕市)
下越地域でも,中越地域に接した地域です。資料館は通常どおり開館しているそうです。10月9日(土)から11月28日(日)の予定で秋季企画展「川のものがたり 信濃川水系の大きな川・小さな川」を開催中のはず。ただ,「おしらせ」によると,企画展・講座の予定を一部変更するそうで,詳しくはウェブではなく直接資料館に問い合わせる必要があるそうです。

上越市(上越地域)

上越市
震源からやや離れているため,被災情報は少ないようです。「旧師団長官舎」だけは10月28日から臨時休館していたようですが,安全確認ができたので,余震に備えて避難誘導員を配置し,11月3日から開館します。11月23日終了予定だった「なつかしの高田瞽女写真展」は12月5日まで延長開催になりました。

魚沼市

魚沼市
11月1日(月)に,北魚沼郡の6町村が合併した市ですが,すでに報道もされているとおり,市役所業務は11月15日(月)まで旧町村の体制で継続されていて,元の町長たちも臨時の非常勤職員として災害対応に当たっています。そのため,魚沼市のウェブサイトの内容は現実とはかなり異なるものになっています。災害情報のリンク集はありますが,魚沼市がウェブで発信している災害情報ほ,残念ながらとんどありません。
旧6町村のウェブは,11月1日からの閉鎖を予告していたものも含めて,かなりの数がそのまま消滅せずに残っていますが,災害情報は10月までで停止しています。震災直後の合併で,思うに任せないところが多いようです。

古志郡

山古志村(2005年4月1日から長岡市)
村が壊滅してしまい,全村民が長岡市に避難することになった山古志村ですが,今回調べた自治体の中で,唯一サーバが落ちていてアクセスできませんでした。しかし,被災者を援助するために「ながおか生活情報交流ねっとが山古志村災害対策本部からの情報を元に作成」した山古志村緊急BLOGが10月25日に設置されて以来,必要な物資やボランティア,義捐金などについて情報を載せています。


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