考古学のおやつ

王だらけの夏

萬維網考古夜話 第88話 28/Aug/2004

2004年ですよ,2004年。

え,わかってる?わかってないのはオマエだけだ?う〜ん。そうかも。

言い訳で始めるのが習慣のようになってしまいましたが,でも,やっぱり言い訳しないでさっさと先に進みましょう。

この夏は,私などにとっては見逃せない展覧会がありまして,それでも暑いから後回しにしていたら,会期もあとわずか。そこで先週末にまとめて見て回りました。

最終週にしなかったのは,このコラムのためです……ってことは前回と同じか(^^;ゞ。

それも,金曜日の夜9時過ぎになって急に思い立ち,「どうせもう飛行機のチケットもないだろう」などと思いつつ準備を始めたのでした。詳細な計画は一切なし。誰とも相談しないで翌朝出発しました。


秘められた黄金の世紀展−百済武寧王と倭の王たち−

まずは福岡市博物館。

実は,最初のあたりの福岡市博物館所蔵の陶質土器がけっこう気になったのですが,そのあたりの話は飛ばして(この話までしているときりがない),まずは武寧王陵をはじめとする百済の作品。

益山笠店里古墳の土器や装身具がさりげなく展示されているあたりは見逃しがちかもしれません。海南月松里造山古墳の剣菱形杏葉が間近で見られたり,光州明花洞古墳の蓋と円筒形土器(埴輪?)咸平新徳古墳の馬具,扶安竹幕洞遺跡の土器など……。

などと思いつつ見ていたのは愚かでした。

この展覧会の構成を知らなかった私は,この後がすごいことになっていることもまた,予想できませんでした

このあと,大量の馬具が登場するのです

埼玉稲荷山古墳の鈴杏葉とか,塚堂古墳の杏葉とか,綿貫観音山古墳の馬具一式とか,……いくらなんでも,「武寧王」と銘打っておいて,これだけ馬具が出てくるとは。見事にウラをかかれてしまいました。よく集めたものです。

武寧王陵では,なぜか馬具がでていないんですよね。これは謎だ。

それから,これは武寧王陵との絡みでは当然ですが,日本各地の大刀と装身具(耳飾など)も各地から集めてました。ほんの数時間でこれをすべて見られるのは,貴重な機会です。古墳時代(特に後期)の金工品を勉強している人には必見でしょう。

残念なのは,カタログや会場パネルの歴史地図に妙な部分があること,せっかく日本全国から集めたのに遺跡名だけで県名が表示されていないこと(カタログには書かれてますが)でしょうか。


黄金の国・新羅−王陵の至宝−

さて,翌朝新幹線で京都,京都からは,近鉄の経営改善に協力しようと言うわけではないですが,近鉄線で奈良まで行きました。

奈良国立博物館では7月に特別展を10分だけ眺めたので,今回はたっぷり時間をかけて見学することにしました。

冒頭は慶州天馬塚の主要作品です。冠や帯金具などの装身具はもちろん。大刀や馬具,土器などもありました。奇しくも天馬塚は,上でお話した武寧王陵とかなり近い時期の古墳です(と言っても,天馬塚をもっと古くみる研究者も多いのですが)

さらに,5世紀の新羅王陵である皇南大塚金冠塚瑞鳳塚などの遺物も,興味深いものを選んで展示されていました。このほか鶏林路1号墳の宝剣や月城路カ-13号墳の轡,さらには,出土(2002年)からあまり間がない徳川里1号墳(「徳泉里」の誤りではないだろうか)の騎馬人物像が出品されるなど,奇跡のような品揃え。韓国の国立慶州博物館の古墳館から主要作品をまとめて借りてきたのですから,たいしたものです。

この展覧会にあわせて,同じ期間で特別陳列 金飾の古墳時代−副葬品にみる日韓交流の足跡−というのも開催しています。これは,その名のとおりで,韓国からの出品作品と国内各地の作品を対比しようという試みで,これまたかなり精力的に作品を集め,簡単なカタログも制作されています。

ただ,韓国からの出品作品が,天馬塚は6世紀前半ごろであるものの,大半は5世紀半ば〜後半であるのに対して,「金飾の古墳時代」では,重点が6世紀の方にあるように見えます。それでも,カタログはできるだけ5世紀を強調しているかのようですが。

金・金銅製品が韓国の影響で日本でも流行ったと言っても,実は,年代の中心がややずれていて,むしろ韓国では金・金銅で華麗さを競う風習が廃れ始めたころに,日本で盛んに金・金銅を使って何でも飾るようになるようで,単純な影響関係だけではなく,それぞれの社会的な状況も絡むのでしょう。そのあたりも見比べると面白いかもしれません。

と,こんなような話を先日どこかでしたなぁ。

今回はじっくり,と思ったものの,結局はばたばたと見て回って,日曜日のうちに帰宅したのでした。

広開土王碑

百済,新羅とくれば,やはり高句麗でしょう。

東京では広開土王碑の拓本が見られます。特に,昭和の初めごろに採拓された,碑面の石灰がかなり剥げた状態の拓本は,石灰の残る部分(罫線がなく,文字がはっきりしている)と,石灰の剥げて本来の碑面が露出した部分(罫線があり,文字が読みづらい部分)を見比べられる上,紙の凹凸から碑面の荒れた状態がよくわかります。

これに比べれば,文字をなぞって拓本らしくした,いわゆる酒匂本や,石灰を塗って文字を彫り込んでしまった石灰拓本がどの程度の史料的価値をもつのか考えさせられます。このあたりに,碑文の改竄説や解釈をめぐって論争が起こった原因があります。


そんなわけで,この夏はそこらじゅうに王様がいるようです。夏休みの宿題もそろそろ本腰を入れるころだし(おいおい(^^;),特にこの週末で終わってしまう展覧会もあるので,今のうちに見ておきましょう。

(^o^)/ 秘められた黄金の世紀展−百済武寧王と倭の王たち−
2004年7月17日(土)〜8月29日(日):福岡市博物館特別展示室A・B/福岡市早良区(10/Apr/2004)
(^o^)/ 特別展 黄金の国・新羅−王陵の至宝−
2004年7月10日(土)〜8月29日(日):奈良国立博物館/奈良県奈良市(24/Apr/2004)
(^o^)/ 特集陳列 広開土王碑
2004年8月3日(火)〜10月3日(日):東京国立博物館東洋館第8室/東京都台東区(17/Jul/2004)

あれ,このサイトは宿題とか協力しないはずだったのに,以前より甘くなったのかな?



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