私は散髪が嫌いである。自分の髪の毛を切られる様を見続けているのは退屈だし、鏡の中で髪を切ってるお兄ちゃんと目が合うのも気持ち悪い。美容院なら仰向けのシャンプーが嫌いだし、「カユイとこありませんか」という問いかけも嫌いである。しかも、そう聞かれてカユイ所が言えない自分もついでに嫌いになる。 こんな調子だから、勢い出来栄えよりも早くて安い店を選ぶようになる。当然、腕前もあまり期待出来なくなるが、少々失敗したところでどの道すぐ伸びてくるさと腹を括っている。 以前、散髪に行ったとき、私の担当が新人らしい若いお兄ちゃんに当たった事がある。ハッキリ言って手際が見事に悪く、何かにつけて他のスタッフに質問していた。今日はいつにも増して出来栄えは期待出来ないぞ、と私は覚悟(予知?)した。 案の定、終わってみれば、私には予知能力がある、と自信がつくほどの出来の悪さ。おいおい、自分で切ったってもう少しまともだぞ、どうして「全体的に2・3cm切ってくれ」と言ったら前髪揃えた坊ちゃん刈りみたいになるんだ?来たときにそんな髪型だったか?うーん、日本語は難しい。「まあいいさ、腕前が上がるまでの実験台も必要さ」と寛大ぶってはみたものの、いつもと同じ料金を払うときに、ほんの少し違和感を感じた。そうか、腕前に関わらず料金は同じなんだよな。 家路の道々考えた。「成長は社会が助けているんだ」と。例えばバス、電車、飛行機等の乗り物の運転手はどうか。給料としてはやはりベテランの方が良いのだろうが、客からすれば料金は同じ。 運転が上手いから、事故の確率が低いから料金が高いというわけでなし、下手だけど安いという事もない。選択の余地がないんだね。同じ航空会社でもパイロットの腕前で料金を段階的に設定すれば面白いのに。当然、ワンフライト毎の保険金も変わってくるだろうな。 但し、これが医者の話となると場合によっては深刻な事となる。何らかの事故か何かで救急病院に運ばれた場合、当直の医師が新人か否かで生死が分れたら…。 医者の側からすれば経験を積まない事には成長がないが、患者としてはちょっとねぇ。 98年6月11日 ThinShin |