石原都知事が大手銀行を対象とした外形標準課税構想を打ち上げ、世は上へ下への大騒ぎとなっている。政府は「如何なものか」、金融再生委員会は「政策と逆行」を連発し、 全国銀行協会は「不公平だ」と泣き出さんばかりに訴えている。現在年30数億円の納税額から1100億円増税になるというのだから、第一勧銀の頭取でもある杉田協会会長の発言も尤もである。 どれほどの高金利がつこうとも、差したる影響がない程度の預金しかない私としては、銀行がどうなろうと大した問題ではないが、石原構想に対する国民の反応は概ね賛成が優勢となっているようである。多数意見として挙げられているのは、「公的資金で救済される特別業界」にも関らず「リストラが遅々として進まない」上に「放漫経営に対する責任追及が甘い」こと。 確かにあれだけの公的資金を注入しておきながら、それほど銀行の財務内容や高いと言われている賃金水準などは明らかになってこない。おまけに金融界は「ヴェニスの商人」以来なにかと悪玉になり易い傾向がある。今回の銀行側の泣き言を聞きながら、賛成派の多くが「ザマーミロ」といった感情を持ったのは正直なところではあるまいか。しかし、支持率でいえばこの政策は成功だが、支持する側が「銀行叩き」だけで溜飲を下げてしまうなら尻切れトンボになりかねない。 そもそもバブルのツケで火の車となっているのは銀行だけではない。税を徴収する側の都をはじめ地方自治体・政府等全てが「背に腹は変えられない」状態である。 ではどの程度かといえば、現在政府と地方自治体、各公団等合わせた「公的累積債務」はざっと830兆円。1億2千万人で割ると一人当たり690万円の借金である。 思い出してもらいたい。住専処理をめぐって国民負担6千億円を頭割りで徴収した時は、一人当たり5千円でテンヤワンヤの大騒ぎになったではないか。先日の新聞によれば、破綻した長銀の処理に伴う最終的な国民負担は3兆5千億円あまり。今や銀行一つでこの数字である。 住専処理と違って大騒ぎにならないのは単に負担を先送りにして目立たなくしただけである。おまけに負債の減る見込みは全くない。なにがなんでも税収を増やす方法を考えなければという危機感は当然のことである。 本格的な地方分権を目指すのはまず東京から、という石原知事の姿勢は評価したい。現在、東京のGDPは先進各国と並べてもトップ10に入る規模である。都の運営は事実上国家の運営に等しいものがある。 では、現状打破の道はいくつあるのか。大別して3つ。@収入を増やす。A支出を減らす。B目減りさせる。このうちのBは通貨価値の下落、いわゆるインフレによるものだが、そうしたカタイ話しは<砂原EYE>に任せて、せっかくなのでここではもう少し感情的な意見を吐かせてもらおう。 まず、税収を増やすということだが、新たに税を徴収するという事は確実に景気回復に水を差すことになる。しかし、今回のように悪玉(になり易い相手)に的を絞る方法は割と指示を受け易い事が判明した。であるなら、本当の悪者からもう少し取立ててはどうか。 例えば脱税・滞納者。毎年査察による摘発等で追徴課税を含めた徴収額は2千億円以上にもなる。ここはさらに国税庁に奮起してもらい検挙率を上げ、おまけに重加算税率も何倍にも引き上げれば1兆円位何とかならないものか。また、最終的な未納率は分からないが、国税の滞納額は2兆8千億円にもなり、キッチリ徴収すればこれだけ確実に入るわけだ。後は網の目をくぐる者をどれだけ捕まえられるかだが、キセル乗車の罰金のようにバレたらとても割に合わないくらいの罰金を設定すればいい。 同じ類とは言えないだろうが、違法駐車に関してももう少し何とかならないものか。道路交通法違反の罰金は道路整備等に使われるようだが、道路公団などの赤字穴埋めに一役買ってもらってもいいではないか。 ちなみに、道路公団の累積赤字は20兆円以上。これを違法駐車の罰金で埋めようとすると、20兆円/15000円=13億3千万台あまり…。一体、全ての車が何回切符を切られたらいいことやら。 その他に取り易そうなところは、時折思い出したように増税論が沸き上がるタバコ。私は別にJTに恨みがあるわけではないし、タバコが嫌いなわけではないが、1箱2万円位でも良いのではないかと思う。そして世界的に好評を博している「吸い過ぎは健康を損なう恐れ…」の警告と併せ、「吸い過ぎは家計を圧迫する恐れ有り」と入れておく。代りに「貧乏人吸うべからず」でもいい。それでもなお吸い続けられるなら、1種のステータスとして成り立つので、喫煙者のマナーが少々悪かろうが、高い税金払っているんだと思えば周囲も幾らか寛容になれるというものだ。それに、酒と違ってタバコの販売だけで生計を立てている業者はほとんど無いし、国内生産では独占状態なのだから仮に潰れてもJT1社で済むではないか。 一方、支出の方はというと、建前上税金の使い道に関しては会計監査院が独立機関として存在しチェックを行っているが、不思議な事にここの指摘額は自らの予算と概ね同額(約200億円)である。どうやら、自分らにかかった費用分くらいは無駄遣いを指摘しましょうということのようだ。 私は何にも増して、一番メスを入れるべき使い道は公団への支出だと思っている。前述のように、道路公団などは既に20兆円を超える赤字を抱えており、「第二の国鉄」への道を突っ走っている。毎年債務返済を含めた支出の方が収入を上回っているのだから、借金が減るはずも無い。高速道路の料金を段階的に引き下げ、最終的には無料にするという計画当初の予定はどこへやらで、料金改定は引き上げばかりではないか。 ところが公団の子会社・孫会社はボロ儲けの状態である。これらの役員はほとんど公団からの天下りで、それとともに採算無視のオイシイ仕事が丸投げされてくるからだ。そもそも公団自体も官僚の天下り先のため、2・3年理事など勤めては天下るという事を繰り返せば、退職金だけで莫大な金を手にすることが出来るのである。 住宅公団にしても状況は似たり寄ったりで、民間から好条件の物件が十分供給されている今では、莫大な税金をかけて空き家を増やしているだけである。 一昨年から昨年にかけて公団絡みの汚職摘発が相次いだが、徹底的な見直しまでは至らず中途半端なまま立ち消えになってしまった。今年こそは大鉈が振り下ろされる年だと期待しているのだが。 この手の不満を言わせるとキリがないが、「甘い汁は吸わせない」「悪は許さない」という姿勢を貫いた上での政策であれば、痛みを伴う事でも国民は支持するのではないだろうか。 |