エスニック

精神的不況

 「景気は回復しつつある」。毎月煮え切らない表現で「決して悪くはございません」を強調したい経済企画庁の思惑とは裏腹に、世間の受け止め方は至ってドライな状況が続いています。挙げ句に海外からは、日本の経済指標はあてにならないとまで言われてアタフタする始末です。
 先日もヒストリカルIDから、経済企画庁は景気の底を97年4月を底に99年4月を「景気の谷」と発表しましたが、97年と現在を比べて景気が良くなったと実感する人は一体どれだけいるのでしょう。これはこの前の景気の山・谷となった91年と93年を比較しても同じ事でしょう。
 根本的に政府の景気テコ入れ策は、企業を如何に救うかをベースに考えられており、企業側の業績回復策もリストラを中心としていることから、「景気」の概念が政府と国民レベルでは完全に食い違っていますが、同じ国民の中でも世代間の感覚的格差が広がっているようにも感じます。
 例えば、サラリーマン世帯の可処分所得が一向に増えない状況でも、高級ブランドは好調で10万円以上のバッグもちゃんと売れます。もちろん100円ショップやユニクロのような廉価販売も好調です。若干減少したとはいえ海外旅行者も依然高水準のままです。銀座の高級クラブなどは縁が無いので知りませんが、高層ビルの展望ラウンジやバーなどは、結構なチャージ料を取るにも関らず平日から満席だったりします。
 そこらを踏まえると、全体的な消費性向は弱くても、部分的には決して悪くはなさそうですが、これらの消費者はかなり限定されているとも言えそうです。上記の主役は青年層で、そのほとんどがバブルが弾けた後に社会に出てきた世代です。かくいう私もそうですが、80年代の好景気というものを経験していません。社会に出てきた時には「不景気真っ只中」と言われており、しかもそこからさらに景気は悪化していったのです。ですから、初めから金の使い方が「不景気型」なんですね。つまり、出費を削るところと、思い切ってお金をかけるところがハッキリしているわけです。
 将来の不安を棚に上げれば、今この時点の状況は我々の世代にとって、決して悪い世の中ではないということになります。
 年齢が年齢だけに、金利をあてにしたくなるような資産は元よりありませんから、低金利の痛手はほとんど有りません。また、物価は下落し続けていましたので、給料はベアゼロでも減りさえしなければ実質アップと同じ事になります。特に若者に需要の多い分野、例えばパソコン本体やインターネットのプロバイダー料金、携帯電話とその通話料等、性能やサービスは格段に向上しながら、その料金は凄まじい勢いで下がってきました。海外旅行にしてもツアー料金は下がり続け、為替のレートなどまるで関係ありません。企業側としては、生き残りを賭けて高品質・低価格の実現に血道を上げていますから、選別眼さえ養えば非常にコストパフォーマンスの良いものを手に入れることが出来るわけです。
 こうした世代の対極にいるのがバブルの恩恵を十分享受してきた世代です。彼等の言う「景気がいい」とは、会社の経費でゴルフに行き、接待と称して派手に飲み歩き、私用でもタクシーチケットをばら撒くように使える状態を指していたりします。もちろん、そうは言ってもあの頃の状態が再び訪れると心から信じている訳ではないでしょうが、80年代との落差が余りに大きいために「精神的不況」から脱出できない向きも多いと思います。
 では、現状および先行きの見通しが明るいのかといえば、決してそういう訳ではありません。先の景気の山谷のように指標としては景気の山に有りながら、一向に景気の良さを実感出来ないという状態はかなり続くものと考えてます。
 先に、「将来の不安を棚に上げ」て話しましたが、現実問題としてはとても棚上げして済ませられる状況ではない訳です。現在、年収に占めるの社会保険料は約10%ですが、10年20年先には30−40%になるとも言われています。当然、労使折半での負担なわけですから企業側の負担も同様となります。現在と同水準の給付を受けるためにこれだけ負担が増える上、なおかつ不足分を補うための預貯金も貯えねばならないのですから、今のうちからエライ努力をして金を貯めないと追いつかなくなる可能性は高くなります。
 景気の回復と一口で言っても、上記のように、確実に増えるであろう公的負担をこなしてなお上向きにしなくてはならないのですから大変です。
 確定拠出年金を始め様々な年金改革が進められていますが、残念ながらそれらは全国民のボトムアップ、もしくは救済を視野に入れて考えられているものではありません。積み上げきった国のツケを払うためには、まずは全国民が「自己責任」の名のもとにリスクの場に放り出されるところから始まる訳です。
今の株式市場のように、一般家庭に於いても「勝ち組」と「負け組」の二極化は進み、所得格差も従来とは比べものにならないほど広がるでしょう。
 「勝ち組」に入れば善し、さもなくば現在を振り返り「景気のいい時代だった」と思いかえすことになるかもしれません。
 さ、選挙選挙…。



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