エスニック

風船

 今日のゆうたはどうやら虫の居所が悪かったらしい。ことある毎に難癖をつけては駄々をこね、ケンカを売ってきた。こういう日はなるたけ近づかないのがベストなのだが、親子のなのだから仕方がない。

 夕方、祭りをやっていた駅前に買い物に行くと、風船を配っていたのでゆうたも赤いのを一つ分けてもらった。放したら飛んで行っちゃうからね、と輪っかを通して持たせてやったにも関わらず、結局2分で手を放して号泣。仕方なくもう一つ赤いのをもらったものの、「飛んでいったのがよかったぁぁー」と一向に泣き止む気配がない。
 「おんなじのもらったんだからいいじゃない」と説得しても効果無し。道ゆく人も風船を手に持ちながら「風船が飛んでっちゃったー」と泣き叫ぶ子どもをさぞ怪訝に思った事だろう。

 マンションの近くで「飛んで行っちゃうからパパ持ってて」言うので私が持ったのだが、今度は風に煽られた拍子にマンションの外壁に触れて割れたしまった。恐らくいつまでも「飛んで行っちゃったのがよかった」と自分の存在を否定され続けたことを苦にした自殺と思われる。
 「ほら、ゆうたがいつまでもさっきのがいいなんて言ってるから今度の風船さん、悲しいよぉ、って消えちゃったよ」と諭したが、ゆうたは「パパが割っちゃったー」と私を激しく責め立て始めた。
 今の今まで「前のが〜」なんて言ってたくせに、割れた途端に「ゆうたの好きだった風船がー」に転換しやがって。

 家に入ってもその後もしばらく泣きつづけていたが、泣き止むと今度は「飛んで行った風船はどこに行ったの?」攻撃。
 飛行機にぶつかって割れちゃう、カミナリちゃんが捉まえてくれる、他に飛んできた風船と仲よく遊ぶ、等々説を並べたが果たして納得したかどうか。
 手から離れた風船が段々小さくなって行く光景がよほど心に残ったのか、結局寝入る寸前まで「風船飛んで行っちゃったね」とつぶやいていた。
 やはりここまできたら夢でも風船を追いかけるのだろう。これで憧れのショベルカーを運転するようななんの脈絡も無い夢だったら、「それは違うんじゃないか」とツッコミを入れたい気分である。


夏向きの髪にしたら少年になった


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