エスニック

誕生の瞬間


  17時間の格闘の末、ゆうたは生まれた。私も立ち会いたいから土日に出て来いと言い続けていたら本当に土曜日に出てきた。悪阻はほとんどなく、医者も安産だったと言っていたのでのっけから実に親孝行な息子である。
 立ち会った感想は?とよく聞かれるが、正直なところ感動はほとんどなかった。とにかくちゅまの苦しみが終わったんだなあ、もう痛い思いはしないでいいんだなあ、というのが第一の感想である。

 実際に立ち会ってみて、それまで思い描いていた出産と言うもののイメージとは大分違っていることに気づいた。一つ目は誕生の瞬間に感動しなかったこと。二つ目は本格的に陣痛が始まってから分娩台に上がるまでドえらい時間がかかること(1・2時間程度だと思ってた)。出産直後の赤ん坊は全然可愛くないこと、である。もちろんこれは個人的感想であるし、出産の形も千差万別だろう。
 しかし、なにしろ出産は痛そうである。ちゅまの形相は苦しみのあまり顔がゆがみ、顔色は青ざめ、うなり声とも悲鳴ともつかない声を上げ続けるのである。それにイキミ方が悪かったのか、顔に血が上りすぎて毛細血管が内出血を起こしソバカスの様に無数のアザが浮かんでいたのだ。
 この状態を目の当たりにして感動も何もあったものではなかった。まずはちゅまに「いやあーお疲れさんでした」である。私がようやく我が子を得た実感を受けたのは、新生児室に移される前に1分ほど自分の腕に子どもを抱かせてもらった時である。

 こうして初めて名実ともに家族が一人増えたのであった。


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