・・・6畳ほどスタジオの中は白い天幕と照明器材で埋め尽くされ、それらを縫うようにしてカメラマンの前にポツンと置いてある椅子に向かう。ここに私の出番はない。ちゅまが膝の上にゆうたを抱き、カメラマンがせっせと笑わせにかかるのを後ろでジッと見守るだけである。 手を変え品を変えして笑わせるのだが、1歳にならずして笑い皺が刻まれているゆうたを笑わせるなど実に簡単なことだ。笑わせようとおもちゃを手に取っただけでニヤニヤしてるのだから。 「いいですよー・・はあーい(カシャッ)そーですねー・・イイ子だねー(カシャッ)」と大人のモデルと同じようなことをのたまふ。 「はーい・・そー(カシャッ)笑うと目がなくなるのねぇー・・いいんですよー(カシャッ)・・はーい歯が下に2本ねぇー・・いいんですよー(カシャッ)」 ん?… それってホントにいいのか?「いいですよ」でなく「いいんですよ」ってのが引っかかるな。前に含まれる意味としては(そこが)「いいんですよ」というよりは(気にしなくても)「いいんですよ」という感じがするな。単に特長を口にしただけ?それとも不合格の伏線を今から打たれたか? 当日こそちゅまと「なんか意味があったのかねぇ?」といろいろ勘ぐってはみたが、最終的には「ま、いっかどっちでも」に落ち着いた。 さてさて、合否は後日発表となったが、結果は…「合格!」 しかし、ここで油断してはならない。いよいよ登録という際に、今後の仕事や見通しについて様々な説明がなされるのだが、まずパンフレット用写真の撮影料や掲載料、事務所の登録料など(細かな名目は忘れたが)その他諸々の諸費用は締めて約15万円也! やはり、という気がしなくも無かったが、躊躇するには十分な額だ・・・。 仕事はというと、さすが名の通った事務所だけにオファーは割とあるようだ。仕事の内容は様々で、企業CMなどで唯一人デーンと採用してもらえれば、ギャラは何十万円にもなる場合もあるし、子供向けTV番組などでワラワラと採用されたら1日1万円くらいが相場のようだ。 しかし、共働きの我が家にとって最大の問題は、仕事はほとんどが平日であるということだ。仮にご指名を頂いても、ウチの都合でわざわざ撮影を土日にしてくれるほど相手はモデルに苦労はしていない。代わりはいくらでもいるのだ。だからといって、親が仕事を休んでまで子どものモデル稼業につきあえるほどヒマではないし、高額な登録料を払ってもペイできるほどゆうたが売れっ子モデルになるという保証もなければ、その自信も無い・・・。 「やーめた」。 はてさて、当のゆうたが何の理解も成し得ないまま、我が家で盛り上がったモデル願望はこうして急速に冷え込んでいき、いつもの生活が戻ってきたのである。 |
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