木村朗国際関係論研究室
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No.4 TITLE:高知県の非核港湾条例を強く支持する! DATE:25 Feb 1999 09:21:47

高知県の橋本大三郎知事が昨日(2月23日)2月定例県議会に県内港湾の非核化を宣言する県港湾施設管理条例の改正案を提案した。また同時に提出された「綱領」案によって、寄港する外国艦船の「非核証明書」を外務省に求めるとしている。これに対して、政府・外務省は「「自治体の権限の逸脱だ」「国の外交権への明白な侵害だ」と強く反発している。そこで、以下、この問題をこれまでの経緯を踏まえながら考えてみることにしたい。

高知県では、97年12月に県議会で「高知県の港湾における非核平和利用にかんする決議」が全会一致で採択され、その決議にもとづいて昨年3月議会に港湾施設管理条例を提出するはずであった。しかし、外務省が条例化に反対する意向を地元選出の中谷元衆議院議員(自民党前国防部会長)を通じて伝えたため、提案をいったん見合わせている。その後、高知県は昨年5月29日付で外務省に非核港湾条例にかんする質問状を提出。そして、約7月たってようやく外務省は、次のような内容の公式見解を示した。竹内行夫北米局長名で昨年12月28日付で出された外務省見解は、港湾管理者である自治体の権限を「港湾の適正な管理および運営を図る観点のものにとどまる」と制限したうえで、外国艦船の寄港にかんする国の決定に自治体が「関与」または「制約」することは港湾管理者としての権限を「逸脱」するもので「許されない」としている(『高知新聞』1月7付)。しかし、この見解は、「外交や防衛は国の専権事項である」という戦前型の時代遅れの思考を前提としているばかりでなく、「危険物の取扱い」その他の港湾管理の適正な管理・運営を行う権限を自治体に与えた港湾法の規定を完全に無視して、外国艦船(特に米軍艦艇)の入港を絶対化するものである。仮に外国艦船の入港の是非を最終的に判断するのが国の判断(安保特別法である日米地位協定第5条だけでは根拠不十分!)だとしても、非軍事・平和利用の徹底を求める自治体の意思を尊重するのは政府としての当然の責任であると思われる。

 もう一つの重要なポイントは、「非核3原則」と「事前協議制」をめぐる問題である。先の外務省見解に対して県内外から反対・賛成双方の意見が出される中で、橋本知事は、「非核神戸方式」をさらに徹底させた非核港湾条例の制定を押し進めることを年頭に改めて表明。その後、政府・自民党側からの度重なる圧力・妨害を受けて「非核証明書」の提出を相手国から外務省に変えるなどの一定の後退・譲歩を余儀なくされながらも、国是である「非核3原則」の実質化と県議会決議という形(間接民主主義)で示された県民の非核平和の意思の実現を非核港湾条例(および附随する要綱)によってはかることをこの2月定例県議会に提起するにいたったわけである。この高知県の非核港湾条例という形は、国会決議による国是である「非核3原則」を法制化する政治的義務をこれまで怠っていた政府・国に代わって自治体がはたそうとする試みであると同時に、いわゆる「非核神戸方式」(75年に神戸市議会が核兵器積載艦艇の神戸港入港拒否決議を可決し、その決議をもとに入港する外国艦船に「非核証明書」の提出を義務づけたもの)をさらに徹底させる性格をもっているといえよう。
 
それでは、政府・国会が国是としてきた「非核3原則」を実質化させようとする提案に対して、なぜこれほどまでに政府・与党側は強く反発するのであろうか?その理由は、まず第一に、「核兵器の存在を肯定も否定もしない」という軍事戦略を現在も維持している米軍艦艇の入港が「非核神戸方式」の導入によって事実上困難となるためであり、第二は、「非核神戸方式」が神戸市や高知県ばかりでなく函館市など他の自治体にも広がる勢いを見せており、米軍艦艇による民間の港湾施設の利用を新ガイドライン関連法の制定でより実効性のあるものにしようとしている政府にとって「日米安保体制」そのものを麻痺させる可能性を持つ非常に厄介なものと写っているからである(「『非核条例』に潜む反安保の策動」という『読売新聞』の2月22日付社説を参照)。ここで問題となってくるが、核持ち込みについての「事前協議制」である。政府は、「非核3原則」の堅持を掲げる一方で、「核持ち込みの協議があれば、当然断る」「事前協議の申し入れがない以上、核の持ち込みはない」という対応に終始してきた。しかし、これまで米国の元高官たち(ラロック元提督やライシャワー元駐日大使など)から、寄港の際の核持ち込みは事前協議の対象とはならない、という証言が繰り返されてきている。また、有事の際の核持ち込みの密約の存在も明らかになっている。したがって、日米安保体制のもとでの「核の傘」と「非核3原則」の矛盾を覆い隠す装置としての「事前協議制」というレトリック・論理はいまや破綻していると言ってよい。

いずれにしても、高知県の非核港湾条例の行方は目下混沌としている。自民党県議団の強い反対や政府・外務省の介入・けん制で県議会での今後の審議は難航が予想されるが、橋本大三郎知事には信念を曲げずに最後まで諦めずに頑張ってもらいたいと思わずにはいられない。そして、この問題はもちろん橋本知事や高知県だけのものではなく、私たち自身の足元が問われていることを最後に確認しておきたいと思う(「錦江湾の非核化を目指す会」が提出した県内港湾の非核化を求める陳情書が3月の鹿児島県議会で審議される予定)。

1999年2月24日
(橋本知事の奮闘にエールを送りつつ、前期試験を翌日に控えて)
                                 木村 朗     

 

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Composed by Katsuyoshi Kawano ( heiwa@ops.dti.ne.jp )