木村朗国際関係論研究室
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No.8 TITLE:<自自連立政権と新ガイドライン関連法案を問う!(その3)―法案衆院通過 参院で「廃案」に!> DATE: 1 May 1999 23:01:09

新ガイドライン関連三法案(周辺事態法案、日米物品役務相互提供協定(ACSA)改定案、自衛隊法改正案)が4月27日に自民党・自由党・公明党などの賛成多数で衆議院を通過した。これによって日米安保体制は、「攻撃型安保」(自衛隊の専守防衛の事実上の放棄を含む)への歴史的転換という新たな段階を迎えることになった。

衆議院での法案審議は、「米国の影・圧力」を背景に、最短距離での粛々とし(!?)審議(わずか1ヶ月・93時間の審議)と小渕首相訪米前の衆議院通過という与党側の狙い通りの日程消化で行われた。それは、特別委員会での建前論のみの質疑と水面下での与野党(および与党間)折衝での修正案作りという、政治的駆け引きと利害・打算―党利党略に基づく不透明な審議のあり方であった。まさに、「国民不在」の非民主的なやり方であり、「憲政の危機」「議会史に禍根」(土井社民党党首)を残すものであったといえよう。

ここでは国会の採択された三法案のうちとくに重要と思われる周辺事態法案をを取り上げて、その特徴と問題点を検討してみることにする。

第一に、国会承認の手続きに関する問題である。当初の政府案は、「迅速な対応が必要」との理由で、自衛隊の活動範囲・内容や自治体・民間協力の内容などを規定する「基本計画」を国会に事後報告すれば十分との立場であった。これが、民主党・公明党などの要求によって、基本計画のうち、自衛隊の「後方支援」「捜索救助活動」に限って、「原則は事前承認、緊急時は事後承認」に修正された。これは、文民統制(シビリアンコントロール)の観点からみて一定の前進ともみえる。しかし、現実には、周辺事態が起きるような場合は常に緊急であり事後報告の期間が明記されていないことを考えれば、実質的には事後報告と同じことであり何らの歯止めになっているとはいえない。また、国会承認の対象が基本計画全体ではないこと、両院の議決が異なる場合の対応や国会不承認の場合の自衛隊の撤退時期が不明確なこと、海上自衛隊による公海における掃海活動などが自衛隊法にある通常の活動任務であるとして除外されていることなどは重大な問題をはらんでいるといわざるをえない(なお、自由党の国連決議不要との主張もあって、今回は結局削除された自衛隊による「船舶検査活動」については、別の機会に論じる)。

第二に、「周辺有事」という概念の定義をめぐる問題である。日本政府は、この「周辺有事」を「わが国の平和および安全に重要な影響を与える事態」で「事態の性質に着目したもので地理的な概念ではない」あるいは「地理的要素は含むが、あらかじめ地域を特定したものではない」と説明してきた。その後、「日本周辺地域で武力紛争が発生がしている場合」など六類型を提示するとともに、「準有事」として位置づけることを主張する自由党に配慮して、「放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至る恐れのある事態等」という例示を入れた。また、「日米安保条約の効果的運用に寄与する」ことを法案の目的に加えた。しかし、こうした修正・追加にもかかわらず、「周辺事態」の地理的範囲は依然として「あいまい」なままである。こうした政府の姿勢の背後には、台湾が含まれることを警戒する中国の立場や抑止力を高める狙いから地域の限定を避けようとする米国の意向への配慮があることがうかがえる。この問題で最も重要なことは、「専守防衛」の原則を越えて自衛隊の活動範囲がなしくずし的に拡大されることであり、またそれが「準有事」という形で「日本有事」との関連で正当化されることである(自衛権の明かな拡大解釈!)。

 第三に、「後方地域支援」と「武器使用」をめぐる問題である。日本政府は、「後方支援活動」は「戦闘地域」とは区別された「後方地域」で行うので「安全」であり、米軍の武力行使との一体化という日本国憲法が禁止する集団的自衛権の行使にはつながらないと一貫して主張してきた。この政府の主張は、憲法と現実を両立させる苦肉の策であるが、近・現代の戦争においては、「戦闘地域」と「後方地域」を区別することはそもそも不可能であり、武器・弾薬や兵員を輸送する日本の自衛隊や民間の船舶・航空機が(米軍との戦争の)相手国から攻撃を受ける可能性があることは国際社会の常識である。また、武器使用に関しては、自衛隊の「捜索救助活動」ばかりでなく、「後方支援活動」の場合にも、「生命や身体を守るため、合理的に必要と判断できる限度で」(「正当防衛目的」で行うことは可能となったため、自衛隊による武力行使の危険性はさらに強まったと指摘できる。

 第四に、自治体・民間協力に関してである。米軍に対する後方支援協力は、自衛隊だけでなく、自治体や民間企業・業者の協力が不可欠である、とされる。政府は、当初、「周辺事態が起きてみないと具体的な協力内容は分からない」との立場に終始した。その後、「どのような協力が求められるのか」という自治体側からの再三の要求を受けて、ようやく港湾・空港の使用や病院の活用など最小限の11項目を提示した。しかし、このぐらいの具体的項目の提示ではあまりにも不十分であるばかりでなく、自治体・民間に貸与を求める施設・物品などの具体例さえも示されていない。また、「国の要請に対する協力は義務かそうではないのか」という問題では、政府は、当初から「義務ではなく強制はしない」としながらも、「一般的な義務としては協力するのが当然」「正当な理由がない限りは断ることはできない」と微妙にニュアンスを変えてきている。その「正当な理由」の基準は示されておらず、じつに「あいまい」である。法案に今のところ罰則規定は盛り込まれてはいないが、巨大な許認可権や補助金供与の権限を政府側が握っていることを考えれば、自治体や企業側が断ることは困難であり「事実上の強制義務」となる可能性は大である。

 以上、周辺事態法案がもつ特徴と問題点を、最小限ではあるが4点にわたって指摘した。

 この周辺事態法案に対しては、すでに国内の多くの自治体・民間から反対・疑問の意思表示が出されているばかりでなく、北朝鮮や中国その他の近隣諸国からも強い反発や懸念の声が上がっている。政府・与党は、先月23日に表面化した「北朝鮮工作船」事件を追い風に、新ガイドライン関連法案の早期成立ばかりでなく、その後の有事・治安立法の導入や憲法「改正」までもスケジュールに組み込んでいるふしがみられる。この周辺事態法の成立を契機に、日本をめぐる状況が一変しそうな形勢である。

 いずれにしても、今の日本が戦後最大の防衛・安全保障上の大転換・岐路に立たされていることだけはたしかである。わたしたちは、今こそ、この周辺事態法案をはじめとする新ガイドライン関連法案を参議院で「廃案」に追い込むためにあらゆる形で声を上げるとともに、それに代わる具体的な平和戦略を提示する必要があると思われる。多大な民間人の犠牲を出しながら、現在もなお「人道的介入」「正義の戦争」という形で行われているNATOによるユーゴ空爆は遠いヨーロッパの出来事で自分たちには関わりのないことでは決してない。

 1999年5月1日(戦後54回目のメーデーの日に)
                                 木村 朗
 

 

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Composed by Katsuyoshi Kawano ( heiwa@ops.dti.ne.jp )