木村朗国際関係論研究室
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No.11 TITLE:<新ガイドラインと鹿児島―地域から平和を考える> DATE:25 May 1999 10:51:25

  昨日、新ガイドライン関連三法案が自民、自由、公明三党の賛成多数で参議院でも採択され正式に成立した。これによって日米安保体制は、集団的自衛権の行使を前提としたNATOと同じ「普通の軍事同盟」化、従来の「防衛型安保」から「攻撃型安保」(自衛隊の「専守防衛」原則の事実上の放棄を含む)への歴史的転換という新たな段階を迎えることになった。

  この新ガイドライン関連三法は、アジア・太平洋地域における地域・民族紛争(「周辺事態」)にアメリカが軍事介入した場合に日本が自衛隊ばかりでなく、民間・自治体も含めて総力を挙げてそれに全面協力することを目的としており、まさに「戦争協力」法であり、日本国憲法第九条の平和原則を全面的に否定するものである。このことは、日本が単に「紛争に巻き込まれる」だけでなく、「後方支援」という名の主体的な「対米協力」を通じて事実上の「参戦国」になることを意味している。

  とりわけ注目すべきことは、「周辺事態」の際、日本政府は米軍への優先的協力を理由に、地方自治体や民間に対して、港湾施設・空港の利用や病院施設の供与、あるいは武器・弾薬や兵員の輸送等の「協力を求めることができる」としている点である。こうした「協力」は、米軍主導の戦争に地方自治体とその住民を自動的に「動員」しようとするもので、罰則規定が無くても「実質的な強制」になることは疑いがない。しかし、こうした地方自治に対する国の優越や民間企業に対する従事命令を主な内容とする「周辺事態法」は、本来住民の安全や人権を守るはずの地方自治法および日本国憲法に明らかに抵触するものであると言わざるをえない。

  新ガイドライン策定(九七年九月)以来、日米共同軍事訓練が活発化するとともに全国各地で米軍機・艦船が民間空港・港湾を「周辺事態」を先取りする形で日常的に利用する事態があいついでいる。ポスト冷戦期の日米安保体制下で軍事拠点の重点は東日本から西日本(特に九州・沖縄)へと移行しつつあり、そうした中で、南九州は、沖縄、佐世保、岩国などの在日米軍基地を結ぶ新たな軍事拠点(「事実上の米軍基地」)になりつつある。ここ鹿児島においては、昨年「霧島演習場」で初めて自衛隊と海兵隊による日米共同訓練が行なわれたばかりでなく、奄美空港や鹿児島港などの米軍機・艦船による軍事利用の回数が全国で有数となっているという現実がある。さらに「非核三原則」の観点からも問題なのは、ここ数年に鹿児島港を訪れた米艦船が、一昨年に寄港した米海軍の強襲揚陸鑑ベローウッドも含めその多くが核積載可能艦船であることである。

  新ガイドライン関連でもう一つの重要な論点は、日本政府と自治体の主体性に関わる問題である。「事前協議制」の虚構性は最近再び表面化した日米間の密約(緊急時や一時通過の核持ち込みや朝鮮有事を協議対象からはずすという内容)によってさらに強まった。この問題がもつ意味合いがいかに重大であるかは、「周辺事態」の認定を誰がいつ行うのか、「非核三原則」の確認をどのように行うのか、といった具体的事例を持ち出すまでもなく明らかであろう。

  日本政府がやるべきことは、米軍の恣意的な軍事介入に追随するのではなく、「米国の正義」を主体的に判断し、「周辺事態」の未然防止のための外交努力に力を入れることである。また自治体にとって、今一番求められているのは、地域住民の生活・安全を守る観点から米軍を最優先する行き過ぎた軍事協力を毅然と拒否する主体性を持つことである。

  この点に関連して最後に触れておきたいのは、地域住民の中から「自分たちの安全は自分たちで守る!」「国家中心の安全保障ではなく、『人間の安全保障』の実現を!」という視点から、既存の組織・団体中心の平和運動を否定せずに、個人参加の市民による平和運動に取り組む動き新たな動きが(ここ鹿児島での「錦江湾の非核化の実現をめざす意見広告の会」や「『STOP!周辺事態法案』を考える鹿児島平和ネットワーク」などの試みも含めて)全国各地で見られることである。「有事立法」などの「戦争マニュアル=ガイドライン」の総仕上げが今後予想されるが、我々の側も「平和のためのガイドライン」の構築をめざしてねばり強く取り組んでいくことが大切だと思われる。

                                   木村 朗
  (1999年5月25日付き『朝日新聞』朝刊に、一部削除のうえ掲載)
 

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