木村朗国際関係論研究室
コラム・バックナンバー

Last Update :99/09/28 16:03

 
No.16 TITLE:「自自公」連立と一連の「危機管理型」重要法案を問う! DATE:12 Aug 1999 14:30:15

公明党が7月24日に開催された党大会で、自民党との閣内連立を正式に決定し、(自民・自由両党の間で衆院定数削減・選挙協力などをめぐって調整が難航しているものの)いわゆる「自自公」連立政権が成立する見通しが大となっている。この「自自公」連立の動きは、すでに今国会での周辺事態法をはじめとした一連の「危機管理型」重要法案(「盗聴(通信傍受)」法を柱とする組織的犯罪対策3法案、「国民総背番号制」の導入を意味する住民基本台帳の改悪、外国人に対する「取り締まり強化」を意図する外国人登録法や出入国管理法の改悪、年対象齢の引き上げと罰則の強化をねらった少年法の改悪、オウムへの復活適用を可能とするための破防法の改悪、5年後の憲法改悪をにらんだ憲法調査会の設置、日の丸・君が代の法制化をもくろむ国旗・国歌法案)をめぐる3党間の協力ですでに明らかとなっていた。

一昨日(1999年8月9日)は、こうした一連の重要法案のなかでも象徴的な位置にあった「国旗・国歌法」が圧倒的多数(166対71)で正式に成立したばかりでなく、国民の監視・統制の強化をねらった「盗聴法案」が参院法務委員会(委員長は公明党)で強行採決されたことによって、日本にとって歴史的転換点ともいえる特別な日となった。また、衆議院での定数削減や選挙協力をめぐる調整がとまどってはいるものの、「自自公」という巨大与党による連立政権が発足するのは、時間の問題と思われる。そこで、「自自公」連立と一連の「危機管理型」重要法案の背景ならびにそれが意味するものを検討することにしたい。

冷戦終結後の日本は、湾岸戦争を契機に、外なる「国際貢献」と内なる「政治・行政改革」を合い言葉に(あるいは「第二の敗戦」と「第三の開国」をスローガンとして)、外圧(アメリカの要求)に応える形で、上から新しい「国づくり」なるものを紆余曲折しながらも強引に進めてきた。それがどんな性格をもっているのかは、国際平和協力法や周辺事態法を通じた軍事的な国際貢献の拡大、産業再生法や介護保険法(案)にみられるような「競争」と「効率」を基本原理とし個人責任を重んじる「小さな政府」への移行、阪神大震災事件・オウム事件や北朝鮮の「工作船」事件・テポドン発射事件を「教訓」とした「国家管理」体制の強化といった一連の動きに明らかに示されている。それは、換言すれば、(「大競争」の時代における生き残りをかけた)内外の危機に迅速に対応できる強いリーダーシップをそなえた「危機管理型」国防・警察国家の構築であり、経済(超)大国から政治・軍事大国への発展であるといえよう。

今国会における周辺事態法をはじめとした一連の「危機管理型」重要法案は、こうした「戦後政治の総決算(すなわち、「逆コース」の完成)」あるいは「20世紀の積み残された課題の一括処理」という既定路線の延長線上にあるものであり、その総仕上げが(安保理常任理事国入りを無事!?に果たした上での)平和憲法の全面改訂となることは確かであろう(現時点で取り沙汰されている教育基本法の改悪や靖国神社法案の再検討といった動きも、こうした流れ(「戦後」ではなく「(新たな)戦前」といった状況)の中に位置づけることができる)。そのときに何が起こるかは想像に難くないと思われる。また、「盗聴法案」の場合に典型的にあらわれたように、十分な審議さえ行わず最後は数を頼みにしてごり押しするというやり方は、巨大与党による「翼賛政治体制」の強権的体質とその危険性を如実に物語っていると言えよう。

今の時点でわたしたちにとって最も重要なことは、戦争協力法ともいえる周辺事態法の発動を許さないためにも、「合意不在」のもとに進む、法制化による「日の丸・君が代」の強制や国民を監視・統制する「盗聴法」といった個々の課題に国民一人ひとりがねばり強く向き合うことである。また、こうした右傾化・保守回帰路線とは異なるもう一つの21世紀に向けた具体的な選択肢、すなわち「平和のためのガイドライン」をはじめとする新たな国家像・世界像を提起し、その実現のために真剣に努力することであろう。それは、ハーグで開かれた市民による国際平和会議で採択された「平和アピール」の中でもその普遍的価値が再確認された平和憲法の精神をさらに発展させる方向にのみ見いだせるものであることだけは確かであると思われる。

1999年8月11日
(参院での「盗聴法案」強行採決を目前にして)
                        木村 朗
 

インデックス(平和コラム・バックナンバー)へ木村朗国際関係論研究室平和問題ゼミナール

CopyRight(C)1999, Akira Kimura. All rights reserved.
Composed by Katsuyoshi Kawano ( heiwa@ops.dti.ne.jp )