木村朗国際関係論研究室
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No.17 TITLE:「周辺事態法の施行と自治体・民間協力への懸念」(その一) DATE:28 Aug 1999 18:29:05

先の国会で成立した新ガイドライン関連三法の柱である周辺事態安全確保法が、つい先日(25日)施行された。すでに、邦人救出の際に自衛隊の艦船などの出動を可能とするように自衛隊法は改正されており、また周辺有事の際に日米間で物品を融通し合う日米物品役務相互提供協定(ACSA)も九月下旬に発効する予定である。そこで、この周辺事態法の施行がもつ意味を、今日までの状況の変化をおさえながら、自治体・民間協力問題を中心に考えてみたい。
日米安保共同宣言(1996年4月)、新しい日米防衛協力のための指針(1997年9月)に続く、今回の周辺事態法の施行により、北朝鮮核疑惑をめぐる「94年危機」を契機にはじまった冷戦後の日米安保再定義が一応の区切りをつけることになる。この新たな日米安保体制は、日本に対する他国からの直接的な攻撃(「日本有事」)からアジア太平洋地域における地域紛争(「周辺有事」)に重点を移すという形での、対象範囲の拡大と(自衛隊の任務・役割の拡大を含む)日本側の責任分担の強化を本質的特徴としている。
周辺事態法は、日本周辺地域での武力紛争や内戦・内乱などの「周辺事態」に、自衛隊が米軍に対する後方地域支援を行うことを可能とするばかりでなく、地方自治体や民間企業にも対米協力を求めることができるとしている。新ガイドライン関連法の国会通過(5月24日)以来、それ以前からもあった新ガイドラインの先取りともいえるさまざまな事態・動きが全国各地で一層顕著な形でみられるようになっている。例えば、北海道での演習に参加する陸上自衛隊員42名が民間機(日本航空)で仙台初札幌行き定期便に一般客とともに団体搭乗(6月25日)、東京・市ヶ谷駐屯地での隊ゲリラ実戦訓練「対遊撃戦闘」の実施(8月27日)、広島県呉港沖と四国沖の海域で海上自衛隊大型輸送艦「おおすみ」や米海軍揚陸艦「フォ−ト・マッケンリ−」を初めて使った日米共同訓練の実施(7月13日)、海上自衛隊と韓国海軍による民間船舶の遭難を想定した初めての「日韓捜索・救難訓練」の実施(8月5日)、米軍が国内航路用日本船籍の民間貨物船をチャーターして山口県岩国市の岩国港県営埠頭からオーストラリアでの軍事演習で使用する岩国基地の軍事機材・車両を積み込み集積地である沖縄・那覇港に向けて出航(8月22日)などがその典型的事例としてあげられる。また、7月2日には、陸上自衛隊西部方面総監部に「国境の島」を防衛するための「緊急即応部隊」(約400人規模)を新設することも明らかになった。
また、このような動きに関連して注目されるのが、自衛隊の組織改変と装備強化の動きである。防衛庁は、来年度の概算要求の中で、テロ・ゲリラ対策としての海上自衛隊への武装解除などを任務とする「特別警備隊」(計60人、本部は広島県・江田島)の新設、陸上自衛隊への生物兵器対応の新部隊「部隊医学実験隊」の新設、防衛庁情報本部への「緊急・動態部」の設置、航空自衛隊への「作戦情報隊」の新設、陸上自衛隊への「研究本部」の新設、対米後方支援に必要な大型補給鑑(基準排水量13,500トン、建造費総額520億円)や不審船対策としての高速ミサイル艇二隻(310億円)の導入、戦域ミサイル構想の研究費(21億円)、情報収集衛星4基(800億円)の開発などを明らかにした。またこの他にも、今回見送られた空中給油機の導入をはかるための経費を年末追加要求することにしている。           (なお、残りの分は次回に続く)
1999年8月28日
                                 木村 朗
 

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