木村朗国際関係論研究室
コラム・バックナンバー

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No.21

 

TITLE:「西村"核武装発言"の意味するもの」 DATE:26 Oct 1999 14:11:58

    西村政務次官が週刊誌上で「日本の核武装を国会で議論すべきだ」という発言を行い大きな波紋を呼んだが、結局、本人の辞任と小渕首相の臨時国会での陳謝という形で決着がつけられようとしている。この問題は、このような表面的な政治的決着では到底納得できない、ある意味で深刻な性格を持っていると思われる。そこで、今回は、この"核武装発言"の背景とそれが持っている本質的な意味をここで考えてみたいと思う。

   西村氏は、核武装論・軍隊創設を持論とし尖閣列島に日の丸を手に強行上陸をした経歴をもつ人物である。したがって、西村氏自身は、これまでの持論をたまたま記者に問われて述べたに過ぎず、自分の発言がこのような大きな波紋と反発を引き起こすことになるとは予想もしていなかったに違いない。ここで重要なのは、そうした(発言をする可能性もった)人物が、自自公3党による連立内閣の防衛庁政務次官というポストに任命されていたことの意味であり、なぜ西村氏が辞任せざるをえなかったのかという理由であろう。

    西村氏が安全保障問題で最も右寄りである自由党の強い推薦を受けて小渕首相によって問題なく任命されたこと、西村政務次官に対してはその言動を危ぶむ声よりも安全保障政策の強化に向けての役割が周囲(所属する自由党ばかりでなく、自民党や自衛隊・防衛庁の一部なども含む)から期待されていたことは事実である。それは、平和維持軍(PKF)への参加凍結の解除や平和5原則の見直し、有事法制の整備促進や領域警備への対応強化、あるいは多国籍軍への後方支援活動への参加といった課題を前向きに実施あるいは検討するという自自公3党の政権合意から生まれた当然の雰囲気だったわけである。

  核武装論について言えば、辞任した後も持論を変えようとする気は毛頭なさそうな西村氏だけでなく、石原慎太郎氏をはじめ少なからぬ政治家たちの本音(「究極の野望」とでも言えるもの)であることが最大の問題であろう。日本の核武装化の可能性については、日本の高い経済・技術水準を前提に、核兵器に転用可能なプルトニウムの大量保有やH2ロケットの開発なども合わせて、これまでも国際社会から一定の警戒心が持たれてきた。アメリカや周辺のアジア諸国から、日米安保条約に日本封じ込めとしてのもう一つの機能・役割(いわゆる「瓶のフタ」論)を期待する声が聞かれるのも事実である。

  さらに、注目すべき点は、佐藤政権時代に日本が核武装する可能性を実際に検討していたという事実である。1964年に中国の核武装を深刻に受け止めた当時の佐藤首相がライシャワー米大使に「日本が核武装する可能性」に言及してアメリカによる核の傘の保障を得ようとしたこと(毎日新聞、1999年8月6日)、1967年から70年にかけて佐藤内閣が政府の外郭団体に委託する形で秘密報告書をまとめるなどの非公式の研究を行ったことや1969年初めに佐藤元首相自身が当時のアレクシス・ジョンソン米大使に「非核三原則はナンセンス」と発言した事実(朝日新聞、1999年10月25日)がそのことを物語っている。

  最後に、ではなぜ西村政務事務次官は辞任せざるを得なかったのであろうか。上記の「秘密報告書」は、日本の技術水準から核開発は可能であるが、日本がもし核武装すれば、�外交上孤立する、�世論の支持を得られない、�財政負担が巨額になる、などの理由から、核戦力は持てないという結論を導き出してはいる。しかし、核抑止論を否定していないばかりか、核兵器の非人道性を真っ先に指摘することもなかった、この報告書の問題性は明らかである。今回、日本政府が西村氏を辞任させた理由も、核兵器の存在自体を全面否定する立場からではなく(政府の公式見解では、(平和憲法のもとでも)自衛のための必要最小限のものであれば核兵器も保有できるという!)、今の段階で核問題を持ち出すことは周辺諸国と世論の反発を生じさせ連立政権を危機に陥らせることにもなりかねないという、きわめて現実的な目先の判断・利益に基づいたものでしかない。西村氏本人の議員辞職や内閣自体の責任を一切とろうとしない姿勢がそのことを雄弁に物語っている。

  今に日本にとって必要なことは、核抑止論を放棄しアメリカの核の傘から早期に離脱すると同時に、非核三原則を法制化して本気で核軍縮および核廃絶を実現するためのイニシアティブを取ることである。最後に、小渕首相に、今すぐにでも内閣を解散して国民の信を問うべきであることを述べてこのコラムを結ぶことにしたい。

1999年10月25日
                              木村 朗
 

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Composed by Katsuyoshi Kawano ( heiwa@ops.dti.ne.jp )