木村朗国際関係論研究室
コラム・バックナンバー

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No.25

 

TITLE:「いまなぜ住民投票なのか―地方主権と住民参加を問う!―」(その一) DATE:12 Feb 2000 22:59:19

    

    現在日本の政治は、国民の手に届かないところできわめて重要な問題(例えば、新ガイドライン・周辺事態法、国旗・国歌法、盗聴法、地方分権一括法の制定や憲法調査会の設置など)が次々と決められるという、議会制民主主義の形骸化と戦後民主主義の危機ともいえる状況がある。つい最近まで国会では野党不在のまま与党だけの審議が一方的に行われるという異常な事態であったことを考えれば、そのことはより明確であろう。多くの国民は、最近行われた大阪・京都両府知事選における投票率の低さ(無党派層の政治離れ)をみてもわかるように、こうした中央政界・国会での状況に強い政治不信の目を向けている。

    また一方、今の政治状況に失望しながらも多くの市民が全国各地で様々な問題の解決を求めて自分たち自身の声をあげはじめていることも事実である。そうした中でも、最近特に注目されているのが、全国各地での原発や産廃、基地問題などをめぐっての住民投票の試みである。ここ鹿児島でも、人工島問題をめぐって住民投票(市民投票・県民投票)条例の制定を求める請願署名活動が精力的になされたばかりだ。残念ながらそれぞれ議会で不採択という結果に終わったが、4月に予定されている市議選(あるいは総選挙)の争点の一つに押し上げようとする市民側の積極的な取り組みが今も続けられている。そこで、今回はこの住民投票の問題を取り上げて考えてみたいと思う。

    住民投票は、96年8月4日に新潟県西蒲原郡巻町で「巻町における原子力発電所建設についての住民投票に関する条例」(平成7年7月19日条例23号)に基づく原子力発電所建設計画の是非を問う住民投票が実施され、その結果反対票が過半数を大きく上回り全国的な反響を呼びました。その後、岐阜県御嵩町(産廃処理施設)、沖縄県名護市(米軍ヘリポート基地)、徳島市(吉野川可動堰)など、これまで全国10自治体で住民投票が実施されている。また、市民による署名を添えて首長に住民投票条例の制定を求める「直接請求」がなされた自治体は95年以降だけで54件以上にのぼるが、その多くが地方議会によって拒否(否決あるいは不採択)されている。

   また昨年7月8日に成立した地方分権一括法(7月16日公布)では、国からの機関委任事務の廃止や自治体の条例制定権の拡大など、明治時代以来の国と地方自治体の関係を従来の上下・主従関係から対等・協力の関係とし中央集権型システムから地方分権システムへの転換を図る方向が打ち出されたものの、住民投票をはじめとする住民参加の新たな制度化は今回(地方分権制度調査会で途中まで議論の対象になったが)結局見送られた。

  このように現段階では、中央・地方を問わず議会・行政側では住民投票の制度化にはアレルギーが強く、政治行政の専門家や研究者の間でも慎重論が根強いというのが実情である。では、なぜ議会・行政側は住民投票をはじめとする住民参加を新たに制度化することに反対(あるいは慎重)なのであろうか。

2000年2月12日
                                 木村 朗

 

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