木村朗国際関係論研究室
コラム・バックナンバー

Last Update :00/04/29 16:06

 

No.26

 

TITLE:「いまなぜ住民投票なのか―地方主権と住民参加を問う!―」(その2) DATE:13 Feb 2000 18:39:47

    

    間接民主制を基本とする現行法体系の中で、住民投票制度については、賛成・反対の双方の立場から様々な論議が現在も行われている。そこで、ここでは、住民投票に対する賛否両論を取り上げて、それぞれの主張・内容の特徴と問題点を考えてみたい。

   では、なぜ議会・議員や自治体・首長(あるいは政府・官僚や国会・議員)にはこれほど抵抗感・アレルギーが強いのであろうか。それは、第一に「議会制が形骸化する」「議会の権限が侵される」という理由である。この代表的事例は、「議員が必要でなくなってしまう」(森・自民党幹事長)、あるいは「民主主義の誤作動である」(中山建設大臣)などの発言である。しかし、間接民主制を基本とする現行法体系の中で、その弱点を補強する直
接民主制の一つ形態としての(あるいは議会制民主主義の「補完装置」としての)住民投票制度という視点からみれば、この主張はあまり説得力がないと思われる。なぜなら、住民の側は、住民投票制度は地域に関わる具体的問題で住民の意思表明の唯一・最後の手段と位置づけてはいるものの、あくまでも最終的な決定権が議会や行政側にあることを否定していないからである。第二は、専門的な知識や科学的判断が必要とされる事業の是非を「住民の情緒的な判断にゆだねることは望ましくない」という主張である。この主張は、「専門的知識を要するテーマを住民投票の対象とするのがいいのか」(故福島・熊本県知事)という発言に典型的にみられる。確かにこの主張は、住民側の運動が地域エゴに基づいた感情的対応に流される場合がなくはないことを考えれば一定の根拠を持っているといえよう。そして、迷惑(嫌悪)施設建設や公共事業計画の実施に際して、十分な「環境影響評価(アセスメント)」や必要な情報公開を関係する地域住民に対して事前に徹底して行われていればかなりの説得力を持ち得たであろう。しかし、現実にはそうしたことがなおざりにされ、国や企業の利益と地域の公益が対立するとともに、住民側が立てた専門家の判断と行政側のそれとが矛盾する場合がほとんどである。問題は、こうした議会・行政側と住民側の意見・判断が食い違うときに、それをどのように調整することがベストなのかを事業計画の再検討を含めて冷静に話し合うことにあった。しかし、実際には多くの議会・行政側は住民側から出されたさまざまな「直接請求」に対して根本的な審議・検討を無視し続けてきたのである。

  特に、徳島市に於いて行われた住民帳票は、以下に述べるように画期的な特徴ともっていたことが指摘できよう。第一に、それまでの原発や産廃、基地などのいわゆる迷惑(嫌悪)施設建設の是非ではなく、国が地方と共同して行う公共事業の是非が初めて問われた点である。第二に、条例に基づいて初めて行われた県庁所在地での住民投票であったことである。過去に住民投票を実施した8市町の有権者数が約5,000人から約4万人であったことを思えば、21万の人口を要する徳島市での試みがいかに意義深いかがわかるであろう。第三に指摘しておかなければならないのは、徳島市議会が住民投票を実施するに際して設けた「(得票率)50%条項」である。これは得票率が50%を越えない場合は住民投票は無効となり、投票用紙は開封されずにそのまま破棄されるというものである。このような対応は、これに基づいて住民投票を棄権するように呼びかける運動が
なされたこととも合わせ、まさに「民主主義の汚点」(富野揮一郎・龍谷大享受)を残す結果を招いたと言わざるを得ない。幸いにも、徳島市民は住民帳票に批判的な人々の参加を得てこの「(得票率)50%条項」を堂々と乗り越えたことは、民主主義が守られたという点で非常に画期的なことであったと思われる。

  今我々に求められていることは、徳島市の事例にみられるような市民の主体性、自己決定を重視し、それを育む有力な手段としての住民投票の制度化(法律化=法的拘束力の有無や対象となる問題の具体化、外国籍を含めた地域住民の参加の是非などを含めてできる限り柔軟な姿勢で)を議会・主張と住民が協力しながら行っていくことである。そのことこそが、近年の国民の政治離れや議会制民主主義の形骸化を克服して政治や社会そのものを活性化する最大の近道であることは確かであろう。

2000年2月13日
                                   木村 朗

 

インデックス(平和コラム・バックナンバー)へ木村朗国際関係論研究室平和問題ゼミナール

CopyRight(C)1999, Akira Kimura. All rights reserved.
Composed by Katsuyoshi Kawano ( heiwa@ops.dti.ne.jp )