木村朗国際関係論研究室
コラム・バックナンバー

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No.33

 

TITLE:「国連サミットが残したもの−大国・先進国のエゴと国家主権の壁」 DATE:21Sep. 2000 

    

    

今月8日(日本時間9日)に閉幕した国連ミレミアム・サミットには、189加盟国のうち150人以上の元首・首脳を含む世界のトップ191人が参加した。最終日に採択された「ミレミアム宣言」は、「平和、安全保障、軍縮」「開発および貧困撲滅」「環境保護」「国連強化」「紛争予防」など8分野、32項目からなる行動指針を提示している。そこで、今回のサミットを振り返り、その意義と残された課題について考えてみたい。

 

  今回のサミットは、5年前の国連50周年サミットを上回る史上最大規模の会合となり、戦勝国を中心とする51ヵ国で第二次大戦後(1945年)に出発をした国連が、今や世界で唯一の普遍的な国際機構になったことを改めて示した。また、国連公式文書となったミレミアム宣言は、新世紀に国連が担うべき役割の大筋を提示したものであり、「第二の国連憲章」とも言うべき重みと内容を持つものであったと評価できる。今後は、このミレミアム宣言に盛り込まれた目標を単なるスローガンに終わらせず、「総論賛成、各論反対」という各国のエゴを克服していかに具体化していくかが最大の課題となるであろう。その意味で、来年秋までに開催が予定されている「国連ミレミアム総会」が大きな鍵を握っていると言えよう。

 

しかし、上記のような国連サミットの「総括」はあまりにも表面的なものに思われる。今回のサミットで真に取り上げるべき(あるいは取り上げられなかった)課題と目標は何であったのか、また国連の最大の弱点・欠陥と国際社会の最も緊急かつ重要な課題とは何なのか、を別の視点から考えてみたい。それは、第一に、大国主義との決別、第二に、国家主権の相対化と国連の民主化、第三に、グローバル化の負の側面の克服、第四に、人間疎外と人権抑圧からの早期解放、第五に、核廃絶と全面軍縮の実現などであった。こうした視点から見ると、今回の国連サミットは非常に不十分な問題の多いものであったことがわかる。

 

少し具体的に述べれば、まず指摘しておく必要があるのは、国連における大国支配の傾向の増大に歯止めがかけられなかったことである。コソボ紛争でのNATO空爆は国連憲章と国連安保理を無視する形で強行された。NATOの行為は明らかな「違法」であったにもかかわらず、NATO加盟国(特に安保理常任理事国である米、英、仏)は自らの行動を何ら反省することなく、今後も自分達が必要と考えれば「人道的介入」を行うことを示唆した(クリントン米大統領の演説)。これに対しては、中国(江沢民国家主席)とキューバ(カストロ議長)が米国の「覇権主義」と「一極支配」を間接的に批判し、国連憲章の目的と原則を尊重する必要性を強調したのみであった。また、これとの関連で、北朝鮮代表団一行が入国直前に米国の航空会社の不適切な対応によって欠席する「事件」があったが、これも本来ならば米国の主権の及ばない「国際的な領域」である国連への「出席」を単なる自国への「入国」と同様に扱う米国の「思い上がり」が背景にあると言えよう。その結果、せっかくの朝鮮半島問題での緊張緩和の促進の機会も奪われることになった。

 

次に、経済のグローバル化のなかで拡大するばかりの経済的格差と深刻化する貧困・飢餓をどのようにして解決していくのか、という問題では有効な具体策ばかりでなく、根本的解決の方向性さえ示すことができなかった。現在、世界人口の22%の12億人が1日1ドル未満の生活を強いられ、安全な水を飲めない人が人類の80%も占めている。確かに、ミレミアム宣言では、2015年までにこうした人々を「半減」するという「努力目標」が掲げられたが、「現在の国際的な政治・経済秩序が先進国による富の独占と政治的経済的支配を許している」(キューバのカストロ議長)という、この問題の根本原因にまで目を向けない限り真の解決は到底不可能であろう(先進国エゴの抑制と企業主権の制限による絶対的貧困の解決と環境破壊の防止が、その解決の第一歩であることは明らかであろう)。

 

最後に触れておきたいのは、「平和と安全保障、軍縮」「国連強化」「紛争予防」 に関わる問題である。今回の国連サミットでは、大国・小国の差別なく一人の発言時間が5分という国連ならではの「国家主権の平等」を活かす形で多くの国々(ニュージーランド、スウェーデン、ウクライナ、カザフスタン、スリナムなど)が「核廃絶」を説得的に訴え、ミレミアム宣言には、ようやく「核の危険を除去する」国際会議の開催を検討することが盛り込まれた。新アジェンダ連合の国々などのこうした努力は評価に値するものの、米国が推進する宇宙空間での核軍拡路線(米本土ミサイル防衛NMDや戦域ミサイル防衛TMD)は野放しにされたままであった。また、西ティモールでの国連職員銃撃事件(3人死亡)の衝撃を受けて、国連PKOの機能や実効性の強化がミレミアム宣言に盛り込まれることになった。しかし、これは国連が8月に発表したPKO報告書の一部(例えば、PKO事務局の機能強化)を支持したものに過ぎず、PKO即応部隊の創設など報告書の核心部分を歓迎したものでもなく、ましてや「選択的介入の基準」や「指揮権の統一」といった最も重要な問題に回答を与えるものではなかった。さらに、安保理改革・拡大の問題では、日本の森首相が国連分担金問題を背景に日本の常任理事国昇格を含めた安保理拡大を提起したものの、加盟各国の考え方の相違は大きく、この問題でさしたる進展は見られなかった(日本および森首相の影の薄さばかりが目立った)。

 

以上見てきたように、今回の国連ミレミアム・サミットは、南北問題(人口・開発問題を含む)・環境問題(エネルギー・資源問題を含む)・平和問題・人権問題など人類的課題について「整理」を多少行ったとは評価できても、どの問題についても満足な回答を提示できたとは言いがたいものであった。21世紀の国連像や世界のあり方については、先に行われた国連NGOミレミアム・フォーラム(より建設的な提言があった−寛子さんの報告を参照)や今回の国連サミットの成果を踏まえて、次の国連ミレミアム総会でより根本的な討論がなされることを切に望みたい。

 

  2000年9月21日

                           木村 朗

 

 

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