木村朗国際関係論研究室
コラム・バックナンバー

Last Update :02/02/12

 

No.39

 

TITLE:米国流の”新しい戦争”を許容してはならない」 DATE:02.12. 2002 

     

  多くの論者が指摘するように、米国に対する「テロ行為」は凶悪な「国際犯罪」ではあるが、それ自体を「戦争行為」と見なすことはできない。無差別テロは「人道に対する罪」として、犯行グル−プに国際社会による厳しい法の裁きを受けさせるのは当然である。しかし、その実行は、あくまでも国際的な警察・司法力の協力によるべきである(むろん、犯行グル−プが確固たる証拠に基づいてあらかじめ特定されていることが前提である)。

 今回、米国はこうした手続きを一切無視して、独自の判断・評価で終始一貫行動した。すなわち、状況証拠だけの早い段階でビンラディン率いる「アルカイダ」を犯行グル−プと断定し、その証拠を何ら提示せずに一方的にビンラディンらの引き渡しなどをアフガニスタンのタリバン政権(国土の9割を実効支配していた)に要求して断られると、「アルカイダ」の壊滅ばかりでなく、それをかくまう「テロ支援国家」とされたタリバン政権の打倒までも目的とした軍事行動を即座に実行に移したのである。

 「テロ」という「犯罪」に「戦争」を宣言して「報復」を行う米国のやり方は、これまでの世界の法秩序を乱暴に踏みにじるものであり、まさに「正義」を盾とした「無法」に他ならない。米国の主張する「自衛権」(国連憲章51条の「個別的又は集団的自衛の固有の権利」)は、そもそも国家を対象として行使されるものである。また、1986年の国際司法裁判所による米国対ニカラグア事件の判決によれば、@武力攻撃の要件(被害国が「現に武力攻撃を受け、又は、受けつつある場合」)、A暫定性の要件(安保理が「国際の平和及び安全の維持」に必要な措置をとる間のみ)、B均衡性の要件(自衛措置は武力攻撃を撃退するために厳格に必要とされる手段に限定される)、という3つの要件を満たすものでなければならない。しかし、今回のテロに対する米国の報復攻撃は、こうした要件を満たしているとは到底いえず、また武力行使を容認する新たな安保理決議も欠いたまま実行されているだけに、まさに自衛権の「濫用」以外の何ものでもないといえよう。

 それでは、国連をはじめ国際社会は、米国の軍事行動をどのように考えたらよいのであろうか(現在、事後的に米国の武力行使を追認する動きがあらわれているだけに、この問題は重大である)。国連憲章では、「戦争の違法化」を前提に、国際紛争に対しては、個別国家による武力行使を禁止して(国連憲章2条4項)、平和的解決を優先させることを義務づけている(同2条3項)。そして、それらの努力を尽くしてもなお解決できない場合にのみ、「例外的措置」として国連による軍事的な強制措置(同42・43条)と自衛権の発動による武力行使(同51条)を認めている。国際紛争の平和的解決を義務づけるこのような考え方は、国連憲章ばかりでなく、1919年の国際連盟規約、1928年の不戦条約や1970年の「友好関係原則宣言」等によっても確認されてきた国際社会の重要な基本原則である。

 しかし近年、「人道的介入」を名目にして行われたNATO空爆のように、米国を中心に、こうした基本原則を否定し既成事実の積み重ねによって新たな国際法を形成しようとする傾向が顕著になっている。戦後の国際社会がこれまで積み上げてきた民主的な法秩序の根幹が今日根底から揺さぶられているといえよう。ブッシュ米政権は、ビンラディンらテロ容疑者が逮捕された場合には自国の特別軍事法廷で裁くことを打ち出している。しかし、このことは、被害国である米国が世界の検事と裁判官をも兼ねることを意味している。世界で唯一の絶対的な「主権国家」として、国際法の解釈・運用をも恣意的に行おうとする米国の「単独行動主義」を国際社会が容認することがあってはならない(このことは、現在、イラクの他に、ソマリア、イエメン、ス−ダンなどが、アフガン後の次の標的として浮上しているだけに、国際釈迦にとって緊急かつ重大な課題である)。

 いま、国際社会が選択すべきは、米国などが批准を拒否している国際刑事裁判所の実現や国連主導のテロ防止関連諸条約の早期発効などによって、国連を中心にこれまで築き上げてきた国際的な平和秩序を強化し、より民主的な国際法秩序を構築していく道である。

<参考文献>

     松井芳郎「米国の武力行使は正当なのか」(『世界』、2001年12月号)

     藤田久一「“報復”と国際秩序−変質する“自衛権”の概念、対テロ“戦争”含めるのか−」(『朝日新聞』2001年10月20日付け)

     西谷修「これは“戦争”ではない−世界新秩序とその果実−」(『世界』、2001年11月号)

     岡本篤尚「テロ対策特別措置法案・自衛隊法改正案の問題点」

(URL: http://www.jca.apc.org/~kenpoweb/houan_QandA.html )

           (『学生新聞』2001年12月8日号に掲載)

  

 

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