昨日の衆院本会議でイラク特措法案が与党賛成多数で可決され、今国会成立が確実視されている。政府は早ければ10月にも自衛隊を派遣する構えで、今後は活動地域、内容を規定した基本計画の具体化を急ぐという。イラク攻撃から3ヵ月半たった今も、現地では生活関連の施設整備が遅れ、米英「占領軍」に対する激しい抵抗が続いている。
このような不安定な状況の中で、小泉政権が是が非でも自衛隊を派遣しようとする理由は何であろうか。ブッシュ米政権は、9・11事件以後、対テロ戦争を掲げ、アフガニスタンに続いて、イラクに対しても一方的攻撃を国際世論や国連・国際法を無視して強行した。日本は、その米国の「正義」に追随し対アフガン戦争に第二次大戦後初めての参戦をしたばかりでなく、イージス艦派遣や燃料補給等を通じて対イラク戦争への側面支援を行った。また、朝鮮有事を想定する形で、有事法制の整備やミサイル防衛構想への全面的参加を推進している。
こうした流れから、政府・与党がイラク新法成立を急ぐのは、ブッシュ政権への変わらぬ忠誠を示すとともに、自衛隊の海外派兵を恒常化し、事実上の「軍隊」として内外に認知を求める狙いがあると思われる。しかし、今日まで大量破壊兵器が発見されず、それに関する事前情報操作問題で
イラク戦争の正当性に強い疑問が出されている現在、米英等による「占領行政」に協力することは日本国憲法に矛盾するのは言うに及ばず、日本の国益になるとは到底考えられない。ましてや、「イラク全土が戦闘地域」といわれる中で自衛隊を派遣して武器・弾薬の輸送活動のまで従事させることは、自衛隊員を死の危険にさらすだけではなく、逆に自衛隊員がイラクの人々を殺すことにもなりかねない危険な賭けであると言わざるを得ない。
このことは、県内に多くの自衛隊基地とその隊員・家族を抱える鹿児島にとっても非常に身近な問題であり、政府・与党に根本からの再考を強く求めたい。
2003年7月15日
木村 朗
(「派遣は国益にならず」という表題で、『南日本新
聞』2003年7月5日朝刊付に掲載)
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