木村朗国際関係論研究室
コラム・バックナンバー

Last Update :04/05/16

 

 

 

No.53

 

 

TITLE:「イラク人 捕虜”虐待”事件の本質とは何か」

 

DATE:05.16. 2004

     

 

イラクでのアブグレイブ捕虜収容所における米軍によるイラク人収容者・捕虜に対するおぞましい数々の「虐待」事件が最近になってようやく明らかになったが、このイラク人捕虜「虐待」事件の本質とは何かを考えてみたい。

 

1.       米軍によるイラク人への人権侵害は、イラクへの「侵略」開始以来、圧倒的武力を背景とした一方的攻撃・殺戮(特に、ファルージャやナジャフで)や道路における検問や夜間における強制的な家宅捜索などという形で、今日にいたるまで収容所の中ばかりでなくその外で毎日のように繰り返されていること。

 

2.       捕虜収容所でのイラク人「虐待」は、米英軍などによるイラク侵攻直後のかなり以前から生じており、現在表面化している「虐待」の事例は「氷山の一角」であり、アブグレイブ以外の収容所においても、また米軍以外の英軍などによっても日常茶飯事的に行われていたこと。

 

3.       収容所でのイラク人捕虜に対する最も深刻な人権侵害は、現在表面化して注目を集めている「虐待」の事例ではなく、自白を強要するために行った、それ以上の過酷な暴力、すなわち「拷問」・「虐殺」であること。

 

4.       こうした捕虜・収容者に対する「虐待」・「拷問」・「虐殺」は、イラク国内の収容所ばかりでなく、アフガニスタンやキューバのグアンタナモ基地などでもより徹底した形で行われてきたこと(特に、グアンタナモ基地では「テロリスト」をジュネーヴ条約で認められている「捕虜」としての権利を一切認めない「適性戦闘員」として扱っている!)。

 

5.       今回の事件は「単なる一部の米兵による例外的な蛮行」などではなく、国防総省作成の尋問指針に基づいた行為であり、軍や政府の諜報機関(軍所属のDIAやCIAなど)が直接関与した組織的な「戦争犯罪」(意図的なジュネーヴ条約違反)であること。

 

6.       また、特に注目されるのが、キューバのグアンタナモ基地にある収容施設管理責任者のミラー少将が昨年9月にイラクを専門家チームと現地調査した上でまとめた勧告書を受けて、イラク人「虐待」の舞台となったアブグレイブ収容所の施設管理権を軍情報機関に委ねる命令をイラク駐留米軍のサンチェス司令官が下していたという事実!

 

7.       こうした事実・情報をラムズフェルド国防長官や米政府首脳はかなり早くから(少なくとも今年1月から)知っていたにもかかわらず、早期に有効な対策を取らなかったばかりでなく、その事実をできる限り隠蔽しようとしたこと。また、この事実が公表された後も事態の深刻さ・重大性を認識できずに弁解に終始し、根本的な改善策を採ろうとはしていないこと(ラムズフェルド国防長官などは、辞任するどころか、イラク現地に行って駐留米軍を前に自らの正当性を主張するなど、明らかに居直っている!)。

 

以上のことから、イラク人捕虜「虐待」事件が米軍の軍事裁判所に訴追された少数の米兵(「上官の命令で仕方なくやった!」との女性米兵の弁明は、あの写真の嬉々とした表情を見る限りそのまま受け入れることはできないが…)以上に、ラムズフェルド国防長官やブッシュ大統領など(この中には、制服組トップのマイヤーズ統合参謀本部議長、イラク駐留米軍のサンチェス司令官、グアンタナモ基地にある収容施設管理責任者のミラー少将、アブグレイブ捕虜収容所の責任者だったカーピンスキー准将、米英暫定占領当局のブレマー代表、イギリスのブレア首相も当然含まれる!)により大きな責任があることは明白である。今回の出来事によって、米軍は「戦争の大義」に続いて「占領の大義」も完全に喪失した。イラク人ばかりでなく世界中の人々からの信頼を失ったといえよう。米国がいまなすべきことは、事件の徹底した真相究明と責任者処罰、被害者への全面的謝罪・補償の即時実施であり、イラク戦争・イラク占領統治の根本的過ちを認めてイラクから完全に撤退することであろう。また、日本政府の自衛隊派遣を含む対米・対イラク政策の全面的転換が必要なことは言うまでもない。

2004年5月16日

                      木村 朗

 

※ この原稿の一部(下記を参照)を「まちづくり県民会議ニュース」に寄稿しています。

 

「イラク人捕虜“虐待”事件の本質とは何か」

 

今回のイラク人捕虜「虐待」事件は米軍の軍事裁判所に訴追された少数の米兵によって引き起こされた「偶発的な出来事」などでは決してない(「上官の命令で仕方なくやった!」との女性米兵の弁明は、あの写真の嬉々とした表情を見る限りそのまま受け入れることはできないが…)。事件の経緯から、軍や政府の情報機関が組織的に関与していることがすでに明らかになっており、ラムズフェルド国防長官やブッシュ大統領などにより大きな責任があることは明白である。今回の出来事によって、米軍は「戦争の大義」に続いて「占領の大義」も完全に喪失した。イラク人ばかりでなく世界中の人々からの信頼を失ったといえよう。米国がいまなすべきことは、事件の徹底した真相究明と責任者処罰、被害者への全面的謝罪・補償の即時実施であり、イラク戦争・イラク占領統治の根本的過ちを認めてイラクから完全に撤退することであろう。日本政府も直ちに再考すべき時である。

2004年5月16日

     木村 朗 (「みんなで平和をつくる会」メンバ−)                                        

                        

 

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