木村朗国際関係論・平和学研究室
コラム・バックナンバー

Last Update :05/06/11

 

 

No.55

 

 

TITLE:

「米戦略に地域組み入れ

広範な連携で反対を」

  ―米軍鹿屋移転  木村朗・鹿大教授(平和学)に聞く―

 

 

DATE:19.11. 2005

 

     

 

10月下旬、日米安全保障協議委員会で在日米軍再編に関する中間報告が発表された。報告によれば、普天間飛行場(沖縄)の空中給油機部隊が海上自衛隊鹿屋基地に移される。再編の狙いは何か。地元の鹿屋市、県はどう対応すればいいのだろうか。鹿児島大で平和学を教える木村朗教授に聞いた。(聞き手・桑原紀彦:『朝日新聞』 20051114日付)

 ――今回の米軍再編案をどう見ますか。

「従来の全方位展開に加え、北朝鮮を意識し、『危険なものは先にたたく』という先制攻撃論を融合させた米国の戦略が見える。旧ソ連といった伝統的脅威から、テロや大量破壊兵器拡散の対処へと、米国の重点がアジアに移されていることをよく物語っている」

「在韓米軍の兵士削減数は12500人と、韓国政府の要望より多かったのに対し、今回の再編案で在沖海兵隊の削減数は7千人と政府要望より小幅にとどまった。日本重視の表れと言える。米陸軍司令部を改編した統合作戦司令部と、陸自の司令部をキャンプ座間(神奈川)に設置することに見られるように、米軍と自衛隊の一体化を進める計画だ」

――今回の計画では、米軍基地が全国に広がります。

「地域住民が米国の戦略に組み入れられてしまうことを意味している。自衛隊との一体化が進むことで、米国にとっての世界中の有事が日本の有事になる。移転先の基地が戦争やテロの標的にされる可能性が高まった。また計画決定の方法も問題だ。先の総選挙では全く争点にならず、国会の論議も経ていない。住民も全く無視した頭越しの交渉だった」

――日本の米軍基地の75%が沖縄に集中しています。負担を分かち合う必要はありませんか。

「沖縄は日本と米国の『二重の植民地』になっている。日本政府は沖縄にいまだ『敗戦占領』が続いていることを認識すべきで、姿勢に問題がある。基地の無条件撤去を求めていくべきだ」

――計画では、鹿屋には普天間飛行場所属の空中給油機12機と海兵隊300人を移転します。

「鹿屋市民の反対は当然だ。鹿屋の海自基地には2千b超の滑走路があり、規模の大きさから選ばれたのだろう。米軍機の奄美空港の年間利用回数は81回(04年)で全国3番目に多く、鹿児島は移されやすい状況にあった」

「今でも自衛隊のヘリコプターの騒音はひどく、米軍が来るとなれば更に被害が広がる。治安の不安も高まる。格納庫や駐機場の整備など、経済的な利益も考えられるが、一時的なもので本当の意味でのプラスにはならない」

――行政や住民はこの問題にどう対応すればいいのでしょうか。

「市は反対姿勢を明確にしているが、県は受け入れについて態度を留保しており、政府から『容認』と見られかねない。受け入れが既成事実化して、将来更に大規模な移転話が持ち上がるかもしれない。いま、意思表示をしなければ」

「知事も、反対を表明している鹿屋市長と足並みをそろえないと、取り返しのつかないことになる。移転先の候補となった他の自治体との連携を密にし、住民のネットワークを強めて反対を訴えていくことが大切ではないか」

 2005年 11月19日               

                  木村 朗(鹿児島大学・平和学)

                                     

 

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