木村朗国際関係論・平和学研究室
コラム・バックナンバー

Last Update :07/01/03

 

 

No.57

 

 

TITLE:

「暗転する時代状況を反転させるために何をすべきか」

 

DATE:3.1. 2007

 

     

 

防衛庁の「省」昇格と自衛隊の海外活動を「本来任務」に格上げする関連四法が昨年12月15日に成立し、「防衛省」が今年の1月9日に誕生することになった。また同日、国家に忠実な従属的国民の育成を狙いとする教育基本法「改悪」法案も強行採決され、日本は「平和憲法」の下で事実上の「戦争国家」「軍事国家」への道を本格的に踏み出すことになった。なぜ日本は、このような「倒錯した異常な事態」を迎えるにいたったのであろうか。2007年の念頭に、こうした事態をまねくことになった根本原因と今日の危機的状況から抜け出す道を考えてみたいと思う。

1989年から1991年にかけてソ連・東欧圏の崩壊という形で冷戦が終了するのと合わせて、新たな世界秩序と社会秩序が模索され始めた。本来ならば、「ソ連」「共産主義」という強大な敵・脅威がなくなった冷戦終結時において、ワルシャワ条約機構のみならずNATOも日米安保条約も消滅するはずであった。しかし、実際には、解体の危機に瀕した世界的規模の軍産複合体による死にもの狂いの巻き返しが行われた結果、湾岸戦争とバルカン戦争などの地域・民族紛争が相次いで引き起こされ、NATO新戦略と日米安保再定義など通じて軍事同盟が冷戦終了後も生き残ることになった。こうした傾向は、2001年に米国中枢で生じた9・11事件によって加速され、内外の公的秩序(国際法秩序・憲法秩序)と「法の支配」が徐々に破壊されつつあるといえよう。すなわち、9・11事件を契機に、米国のコントロールに服さない「ならず者国家」と並んで「テロ(支援)国家」「テロリスト」が新たな敵・脅威として策定され、「新たな戦争」「(終わりのない)対テロ戦争」が発動され、「安全」のためには「人権」の制限もやむを得ないとする「監視社会化」が急速に進むことになったからである。

日本では、冷戦が終結した90年代初めに、米国からの圧力を背景に、内なる「政治改革」と外となる「国際貢献」が模索され始め、小選挙区制を柱とする選挙区制度が導入され、軍事的国際貢献としての自衛隊の海外派遣(=国連PKOへの参加)が実施されることになった。また、グローバリゼーション(=米国流資本主義の世界化)に合わせて新自由主義的経済政策、すなわち「規制緩和」「小さな政府」をスローガンとする「構造改革」が推進される格差社会の拡大をもたらすに至っている。さらに、9・11事件以降、米国の「対テロ戦争」を全面的に支持して戦後初めて自衛隊を戦地に派兵すると同時に、米軍の軍事革命を背景とする世界的再編に合わせた日米軍事同盟の強化・拡大、すなわち米軍と自衛隊の一体化を推し進めようとしている。そして、米国の「ミサイル防衛」戦略への積極的参加は、「対テロ戦争」戦力への全面的協力とともに、平和憲法が禁止する集団的自衛権の行使に事実上つながる道であり、武器輸出禁止原則の緩和や非核三原則の見直しは日本においても軍産複合体の誕生を告げようとするものであるといえよう。

 

このような「戦争国家」「監視社会」への道を阻むためには何が必要であろうか。そこで、現時点で暗転しつつある時代状況を反転させるために何をするべきかについて重要と思われる課題を列挙するとすれば、以下の通りである。

1.       非民主的な小選挙区制度の撤廃と比例代表制を中心とする民主的選挙制度の導入

2.       日米安保条約の段階的廃棄と米軍基地の漸次的撤去、それに代わる日米友好条約の調印とアジアにおける多国間安全保障機構の構築(東アジア共同の家の実現を含む)

3.       自衛隊・基地の縮小・再編(=非軍事・民生の国際協力組織への改編を含む)と防衛費の大幅削減

4.  朝鮮半島の非核化を含む東北アジアの非核化の実現(非核三原則の法制化と核兵器全面廃絶に向けてのリーダーシップの発揮)

5.  権力とメディアによる情報操作に対する市民の批判的精神・独立した思考の涵養、独立した市民メディアの育成

6.  権力(国家・政府)と資本(大企業・大銀行)に対する市民の監視の強化→軍産複合体の縮小・解体(=戦争経済から平和経済への転換)

7.  国内外の市民による連帯・交流の強化(特に、日韓、日米の市民間のネットワークの形成と拡大)

8.  憲法九条の具体化としてのさまざまな国際協力活動の推進

9.  国連の全面的民主化と根本的変革への着手(脱国家化と脱大国支配の実現)

10.大国主義からの脱却と小日本主義への転換(軍事大国への志向の放棄、平和・人道・福祉大国への選択)

 

 「戦後レジームからの離脱」を志向する安倍政権は、「美しい国」をめざすと言いながら、共謀罪創設法案・国民投票手続き法を早期成立を求めているばかりでなく、最終的には平和憲法を改悪して海外で侵略行為を繰り返すような「戦争の出来る国」に日本を改造しようとしています。

時代状況は(特に日本において)ますます悪化しつつあると言わざるを得ませんが、今年は何とかこうした流れを阻み、それを反転させて明るい展望につなげることができるように、身近な仲間・家族や志・思いを同じくする日本全国や世界(特にアジア)の皆さんと手をつないで前向きに取り組んでいきたいと心から願っています。

2007年1月3日

         木村 朗(鹿児島大学教員、平和学専攻)

                         

 

 

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