木村朗国際関係論・平和学研究室
コラム・バックナンバー

Last Update :07/01/03

 

 

No.59

 

 

TITLE:久間防衛相発言と"原爆神話"

 

 

DATE:7 .8. 2007 

 

     

  久間章生初代防衛相が、講演での原爆投下をめぐる発言の波紋が広がる中で、直前に迫った参院選への悪影響を避けたい与党幹部の意向を受ける形で「辞任」した。久間氏は、先月三十日に千葉県の麗沢大で行った講演で、先の大戦での米国の原爆投下について「あれで戦争が終わったんだという頭の整理で今、しょうがないなという風に思っている」「勝ち戦と分かっている時に原爆まで使う必要があったのかどうかという、そういう思いは今でもしているが、国際情勢、戦後の占領状態などからすると、そういうことも選択としてはあり得るということも頭に入れながら考えなければいけないと思った」などと語ったとされる。この発言の真意はどこにあるのであろうか。

 原爆投下によって日本が降伏を決定したのであり、その結果、百万人もの米兵ばかりでなく、多くの日本人の生命も救われたのだという「原爆神話」は、原爆投下を正当化するために、あるいは第二次世界大戦における最大の「戦争犯罪」であることを覆い隠すために戦後になって米国によって作られ、歴代の日本政府から追認された「虚構の論理」である。

 ここで詳述することはできないが、「原爆投下で戦争が早期終結したのではなく、むしろそれを行うために戦争終結が引き延ばされた」「日本の降伏に大きく影響したのは原爆投下よりもソ連参戦であった」「日本の降伏が遅れて多大な犠牲者を出した最大の原因は天皇制擁護のためであった」「原爆投下の目的はソ連へのけん制ばかりでなく、新型兵器の実戦使用という実験的意味合いがあった」というのが基本的事実である。

 早期終戦と人命救済のためだったという論理は、原爆投下を正当化するばかりでなく、将来における核兵器の使用を容認する核抑止論にもつながる考え方である。3日のロバート・ジョゼフ米特使の原爆投下を正当化する発言も、ブッシュ政権の先制核使用戦略と合わせて考える必要がある。

 また、久間発言に見られる、ソ連参戦による日本分割という「悪夢」を避けるためには原爆投下も「やむをえなかった」とする発想も、論理のすり替えであると同時に、原爆投下の非人道性と残虐性を覆い隠すものだといわねばならない。

 久間氏の発言に見られる誤った原爆投下認識は、実は少なからぬ議員(そして、国民も)が共有しているであろうことは、久間氏の「辞任」が自己の発言の誤りを真摯に反省して責任を取ったものではなく、任命権者の安倍首相も発言の誤りの重大性を認識して久間氏を「罷免」したわけでもなかったことや、久間発言に対する強い怒りを表明したのは被爆者を中心とする被爆地の市民の一部に限定されたものだったという事実が示していると思われる。

 先の核武装についての中川昭一・麻生太郎両氏の極めて危うい発言の場合と同じく、国民はその本質を正しく見抜く眼力を持つことが、今日ほど求められているときはないといえよう。       

        (『南日本新聞』2007年7月7日付に掲載)

                        

 

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