木村朗国際関係論研究室
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Last Update :01:35 99/01/18

霧島演習場での日米共同訓練の危険性を問う

−国益優先ではなく、住民にとっての真の安全を!

 

木村 朗(鹿児島大学法文学部助教授、国際関係論)

 

昨年9月の「新ガイドライン」(日米防衛協力のための指針)策定以来、米軍機・米艦船による民間空港・港湾の頻繁な利用や日米共同軍事訓練のあいつぐ実施という、新たな事態が全国各地で生じている。

今回決定された霧島演習場での初めての日米共共同軍事訓練は、これに連動したものであり、

今秋の法制化が取り沙汰される「周辺事態法」の先取りであると考えられる。

陸自西部方面総監部の発表によると、11月上旬から下旬にかけての10日間から2週間、陸上自衛隊第八師団(南九州)約千人と米海兵隊第三海兵遠征軍(ハワイ、沖縄)約七百−八百人が参加し、霧島演習場と大矢野原(熊本県矢部町)の二カ所で実施されるという。また霧島では、ヘリ使用と夜間訓練が、大矢野原では、実弾射撃が行われる予定である。

以上の概要から、今回の共同訓練が昨年の滋賀県饗庭野に続くもので、かなりの規模の実戦的な軍事訓練となることは確実である。またその目的も、曖昧にされてはいるが、前回と同様、「周辺有事」、すなわち朝鮮半島での有事への日米共同対処を念頭においたものであることは明らかである。

ここで、この日米共同軍事訓練の性格とその問題点について整理してみよう。まず第一に、強襲上陸作戦を主任務とした「殴り込み部隊」とも言われる米海兵隊と陸上自衛隊との実戦訓練は、単なる「後方支援」を越えた「共同戦闘行為」であり、憲法の禁止する集団的自衛権の行使につながるものである。第二に、「今なぜ霧島なのか」という点では、南九州は、沖縄、佐世保、岩国の在日米軍基地を結ぶ新たな軍事拠点(事実上の米軍基地!?)になりつつある、ということである。鹿児島は、すでに米軍機・米艦船による民間空港・港湾(奄美空港や鹿児島港など)の利用回数で全国有数となっている。宮崎は、今秋の訓練を含めれば、九州で陸海空の日米共同訓練を行う唯一の県である。第三に、新ガイドライン関連法案と自治体との関係である。「周辺事態法」では、米軍が民間施設を利用する際に自治体や民間企業が「協力」することを事実上の「義務」とする条文がすでに盛り込まれている。霧島での共同訓練では、米軍の武器や米兵を鹿児島港や鹿児島空港、高速道路などを使って輸送することが予想される。しかし、地方自治に対する国の優越や民間企業に対する従事命令を主な内容とする「周辺事態法」は、本来住民の安全や人権を守るはずの地方自治法および日本国憲法に明らかに抵触するものである。

この他にも、地元住民や自治体に対する事前の説明不足や、共同訓練が実施された場合の環境や住民生活への悪影響など、多くの問題が山積している。いずれにしても、これまで述べたような新ガイドライン関連法案の先取りとその既成事実化につながる日米共同軍事訓練による自治体・民間のなし崩し的な軍事的「活用」に対して、いかに対応すべきかが、今私たちにも問われていることだけは間違いないであろう。

 

『南日本新聞』(1998年8月7日付)


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